この世に絶望した天才がギターヒーローに救われるお話 作:うぇるしゃ
「次のライブ?出す気ないけど」
「えっ」
「ですよね」
だってまだ実力を示してないし。ライブとかするなら集客できないと、店は赤字になる。
つまり、実力を見せれば良いわけだ。駆け出しバンドに集客力なんて期待できないから、せめてリピーターが出るくらいの実力があってほしい。
前回のライブは失敗することを前提でやらせたらしい。厳しい現実を見せて、覚悟を決めさせたって感じだろうが。
「星歌さんツンデレなのです」
「うっさい!」
「ぴっ」
わるいスライムじゃないのに怒られた。カリスマガードしながらぷるぷる震える。
「あー店長美琴ちゃん泣かせたー」
「やめろ、悪者みたいだろうが!」
「わーん」
星歌さんも先輩に似て、いじると楽しい。ぬいぐるみ抱いて寝てるとかかわいいと思う。
「先輩どっか行っちゃったのです」
「灘谷さんも一緒に探しに行くわよ!」
「はいなのです」
外に出て耳を澄ます。先輩の足音が聞こえるかと思ったが、遠くに行ったか動いていないか、全然聞こえない。
「……ちちゃん」
かすかに声が聞こえた。これは多分公園だろう。
「こっちなのです」
「えっえっ?」
手を引っ張って歩いていくと、ちょうど帰ってくる先輩と後藤さんに出会った。
わたしより探すのが早いとは思わなかったよ後藤さん。先輩マスターの称号を与えよう。
「オーディションがんばりましょうね」
「うん!」
めでたしめでた……リョウいなくね?
「リョウなら多分こっち」
この後先輩は一発でリョウを見つけた。すげえ、リョウマスターだ。
◇
「つまらんMCはいいので、とっとと演奏始めるのです(台本)」
「ひどいこと言うね。じゃあ一曲目、ギターと孤独と蒼い惑星です!(台本)」
台本しか喋ってねえ。こういうのって大体何喋るか決めて、後はアドリブだと思ってた。
やっぱり観客の反応がないの寂しいな。どうしたらいいのか分からなくなる。あ、曲始まった。
鳴らすベースライン。なーんか違和感、上手い下手というか、いや違和感あるなら下手だけど。
わたしって結構上手い方じゃなかったっけ。曲に合っていないというかあ゛っ不協和音。とりあえず自分のペースに気を配る。曲のBPMに合わせて……もともと合ってるな。上手くてもだめならどうすれば……
『聞いてください。その日入った新人より使えない駄目バイトのエレジー』
そういや後藤さんってソロ弾きは滅茶苦茶上手だった。今はそこまで上手くないけど演奏が曲に合ってる。この違いは、ああそうか。
「これバンドだった」
わたしが前に出すぎてたのか、じゃあ下がろ。自分がどれだけ上手くても、演奏からズレてちゃ意味ないんだね。不協和音を鳴らしたのはわたしだったか。
さんざみんなのこと下手だと言って、あげく自分がこれじゃだめだ。もう二度と言わない。言ったというより思っただけど。
でも下がってるのに未だに合わないのはどうなんだろう。みんなテンポが微妙に速くなってるような気がする。いや確実にそう。
じゃあどうするか。わたしも乗れば良くね?合わせに行った方がいいでしょ。
途端にいい音が鳴り響く。これは楽しい、すごく楽しい。一人で音を作るよりずっと。
バンドで演奏ってこういうことなんだ。曲全体を支えるのがベースの役目。もしみんながわたしに合わせれば、テンポは完璧になるだろう。でもわたしはこう思った。
ギターが主役やって、ボーカルも目立ってる。この状況をわたしがリードしている。わたしが居ないとこうならない──手のひらの上で転がしてる感あって楽しいな。暗躍の意味を理解した。
あ、でも依存はかんべんな!わたしのピアノで麻薬依存症治った人いるけど、依存の相手がわたしのピアノに変わっただけで、ピアノ聞くためにくりぬいた眼球持ってこられたし。流石に怖かった。
……ここのフレーズ前に出たらかっこいいだろうな。そこもいい。誘惑多いなベース。思ったより難しいぞ、下がるの。我慢。我慢して、ヒャア我慢できねえ!
「うえっ!?」「ヒュッ」
ギターとかぶった。後藤さん、考えることは一緒なのね。しょうがない、もうこのままごり押しで終奏まで行っちゃお。
演奏終了。ただのド下手ですな、ほらピアノってソロが基本だし。今までの合わせってかなり気を遣わせてたんだな、まったく気づかなかった。
講評タイム。懐かしくて泣けてくるよ、だいぶ長い間講評する側だったから。
「次、六弦ベース……なんで泣いてんの?」
「悔しくて」
ずるりと落ちた言葉で、自分の感情に気づいた。そうか悔しいのか、今まで悔しいことがなかったからわからなかった。
それよりなんの悔しさだこれ。何が原因で悔しいんだ?
「大丈夫?」
「あい」
「じゃあ言うけど、音を気にしすぎ。クラシックじゃないんだから」
「えっ」
じゃあイヤーマフ着けていいの?じゃあ先輩が電子ドラムにすることないじゃん。やっぱ違和感あったんだよね、電子ドラム。かなり身勝手だな、電子やらせたりアコースティックやらせたり。わたしなら切れて……色んな楽器弾けるようになるから喜ぶかも。普通は切れるってことで。うん、あとでお詫びの品買ってこよう。
「まあ、お前らがどういうバンドかは分かった」
「はい……」
及第点か。赤点じゃないなら合格だな、ヨシ!
なにをもってヨシって言ったのか、これがわからない。もっと指さし確認してもろて……三年も関西にいたのに関西弁がすごい不自然。
「うっし、今度のライブに向けてがんばるのです」
「おう、頑張れよ」
「不合格じゃないの!?」
「誰もそんなこと言ってないのですよ?」
あっ後藤さん後ろに下がってなにを、何をするだァーッ!
「な゛……慣れないことして胃が」
緊張感持ちすぎじゃん、ガッチガチだよ。わたしでもレバノン料理食べて当たったとき以外吐いてないのに。
個人差ってそんなに大きいのかな。まあ、とりあえず──
「合わせる練習したいのです。付き合ってください」
「うん」
「いやもう帰れ。何時だと思ってんだ」
「あっはい」
だめかあ。
灘谷美琴…我慢を覚えた(できてない)。空気を読む能力がない。
後藤ひとり…ここで終わりたくない。だから、ありったけを(なお代償)した。
伊地知虹夏…ぼっちちゃん上手くね?という疑問も奇行の前に吹っ飛んだ。
山田リョウ…相方のベースが情緒不安定みたいな演奏してビビった。今日の被害者。
喜多郁代…山田のベースを基準に演奏してたので、主人公の演奏がブレてもノーダメだった。
伊地知星歌…事あるごとに主人公からかわいいと言われるようになった。内心まんざらでもない。