リュージとオペラオー   作:アシール

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第2話 三強

リュージがオペラオーとタッグを組んでから数日。

この日リュージはオペラオーというウマ娘を見極めようとしていた。

 

「よっしゃ。ほな今日の練習はあと一本ウッドチップコースを軽く走って終わりにしよか。」

「はっはっは!了解だよ!リュージ!」

 

そう言ってウッドチップコースを軽めの駆け足で走り出していくオペラオーを見て、リュージは思う。

 

(オペさんのポテンシャルとしては、確かに同年代のウマ娘と比べると体自体は出来上がっとる。けど他の娘と比べてもずば抜けて飛び抜けてるってわけやない。正直ゆーて、これくらいのウマ娘やったら毎年何人か見かけるレベルやわ。竹山会長は一体オペさんのどこに惚れ込んだんやろか?)

 

リュージは少し訝しみながらも、

 

(まぁ、これからゆっくりオペさんの潜在能力を推し測っていけばええことか。他の先輩トレーナーに聞いたら、最初はパッとせんように見えても、いざレースになったらとんでもないポテンシャルを発揮する娘もおるみたいやしな。)

 

そう思っていると、オペラオーがウッドチップコースでのトレーニングを終えてリュージのところに戻ってきた。

 

「リュージ、ウッドチップのトレーニング終わったよ。」

「おー、お疲れさん。ほな練習自体はこれで終わりにしようと思うんやけど、最後にやってもらいたいことがあんねん。」

「ん?なんだい?」

「芝コースでオペさんの1600mでのタイムを測ろうと思てんねん。今まで軽めのトレーニングばっかりやったから、ちょっとオペさんの本気を見せてもらおうとおもてな。」

 

「……フフフ」

「…オペさん?」

 

「ハーッハッハッハ!任せたまえ!僕の聡明な理髪師よ!君に僕の本当の力を見せてあげよう!」

「…その理髪師がどうたらっちゅうんはようわからんけど、楽しみにしてるわ。」

 

そう言ったやり取りの後、2人は芝コースに向かった。

 

タイムアタックの準備が完了すると、リュージはストップウォッチを構え、オペラオーはリュージの合図を待つ。

 

「ほな始めんで。よーい…スタート!」ダッ!

 

リュージの合図と同時にオペラオーは勢いよく走り出した。

オペラオーはぐんぐんスピードを上げていく。

 

オペラオーが芝コースを駆け抜けていくところをリュージはストップウォッチと見比べながら眺めていた。

そしてオペラオーが1000mを過ぎたあたりで、リュージはふと違和感を覚えた。

 

(ちょい待て。なんかおかしないか?1000mがこのタイム?ジュニアクラスにしては早すぎちゃうか?)

 

リュージは一瞬ストップウォッチの故障を疑ったが、すぐにそんなことはありえないと思い至った。

なぜならそのストップウォッチはオペラオーのトレーナーになるにあたって新調した、今日初めて使うストップウォッチだからである。

 

(他の同年代の娘と比べてもオペさんの方が数秒以上早い。肉体面を見る限りでは突出して優れてるっちゅう要素は全くないのに、なんでこんなタイムで走れてんねん。)

 

リュージが驚愕しているうちに、オペラオーはゴール前の直線に差し掛かっていた。

オペラオーの脚ははまるで1600mを走ってきたとは思えないスピードで直線を駆け抜けてようとしている。

 

(なるほど。竹山会長が惚れ込むワケや。テイエムオペラオー…これはとんでもないウマ娘やな。)

 

そして、オペラオーがゴール板を駆け抜けた。

リュージがストップウォッチを止めた時に記載されたタイムは、同年代のウマ娘が記録するタイムと比較してもずば抜けて早い。

そしてオペラオーがリュージの元に戻ってきた時も、息ひとつ乱していない。

 

「…ふう。リュージ!どうだったかな!ボクの走りは!」

「…どうやら俺はオペさんに謝らなあかんみたいやな。

正直言うて、こんなタイム出せるような実力があるとは思てへんかったわ。俺の見る目もまだまだやったっちゅうこっちゃな。」

「ハッハッハ!ようやくわかったようだね!このテイエムオペラオーの真の実力というものを!」

 

オペラオーが高らかに謳う傍らでリュージは思う。

 

(テイエムオペラオー…多分今まで俺が指導してきたウマ娘の中で最高のポテンシャル持ってる娘やわ。この娘やったら重賞、いやジュニアG1を取ることさえ夢じゃないかもしれん。)

 

そう思いながら、リュージはオペラオーの今後のレースプランを立て始めていた。

 

 

 

 

一方ここは別のトレーニングコース。

リュージの先輩トレーナーであるクニヒコトレーナーが、あるウマ娘のトレーニング風景を眺めていた。

 

そのウマ娘の名は、ナリタトップロード。

 

クニヒコの師匠である沖田トレーナーが率いるチームの期待の新人である。

 

彼女はトレセン学園入学前から才能を高く評価されていたウマ娘の1人であり、トゥインクルシリーズにデビューすることが決まった際も広く話題にあがったことからもその才能の片鱗が窺える。

 

そのトップロードのトレーニングを眺めているクニヒコトレーナーの横に、黄色のパーカーを着たウマ娘がやってきた。

 

「おー、クニヒコ。お疲れー。」

「ディクタさん。お疲れです。」

 

そのウマ娘はディクタストライカ。

「栗毛の弾丸」「弾丸蹴脚」の異名を持ち、

マイルCS制覇の実績と函館記念における不滅のコースレコードを保持する伝説のウマ娘である。

 

現在彼女はトレーナーとは別に、ウマ娘側の目線に立って指導を行うコーチとして名を馳せている。

あのオグリキャップやスーパークリークと鎬を削ってきた彼女の指導は、厳しいながらも評価が高い。

トップロードはまだ幼い頃から彼女の指導を受けていた生徒の1人だ。

 

その彼女がトップロードの走りを見ながら、クニヒコに話しかける。

 

「どーよ?あいつの調子は。」

「上々ですよ。今の時期でここまで走れるんやったら、十分すぎるほどです。」

「そーかよ。なら問題はなさそうだな。」

 

ディクタストライカは愛弟子の練習風景を眺めながらも、師匠らしく厳しい評価を下す。

 

「ただ、トレーニングでは問題なくてもレースとなりゃあ話は別だ。

あいつはなんだかんだお人好しでお節介だからな。レースでは一緒に走ってる奴のことをブチのめすくらいの心意気を持ってねぇと。中途半端な覚悟じゃあ勝てるものも勝てねぇよ。仲良しこよし、お手手繋いでゴールしましょなんて、お遊戯会じゃあるまいし。」

「そうですね。ただそればっかりはレースに出てみぃひんかったらわからへんところもあるんで。」

「そーなんだよな。けど今のあいつをみてる限りじゃあ、その覚悟ってやつを理解してるようには見えねぇんだが。まぁ、それを持てるかどうかが、あいつがトゥインクルシリーズで上に行けるかどうかの鍵になりそうだな。」

 

2人でそのようなことを話している間に、トップロードが戻ってきた。

 

「あれっ!?ディクタさん!お疲れ様です!いつ来られたんですか!?」

「おう。お疲れ。たった今きたところだよ。んで、どうだい?調子は。」

「はい!絶好調ですよ!やっとトレセン学園の環境にも慣れてきましたし。

一言でいうならすごく…すごく絶好調!って感じです!」

 

「…(同じこと言うてへんか?)」

「…まぁ、調子がいいってことはわかったわ。んでクニヒコ。この後の練習は?」

「あ、はい。今日の練習はこれで終わりですね。」

「んじゃあトプロォ、飯でも食いにいくかぁ。クニヒコも一緒にどうだ?」

「ほな、今日の分の報告書仕上げたら、僕も合流します。」

「オーケー。んじゃ先行ってるぜ。トプロォ、色々と話を聞かせてくれよ。」

「わかりました!じゃあクニさん、また後で!」

 

ディクタストライカとトップロードの2人と別れてから、クニヒコは物思いに耽る。

 

(ディクタさんの指導も受けてるトップロードのポテンシャルは、同期の中でもトップクラスや。あとは俺がどれだけあの娘のサポートができるかが肝やな。)

 

そう考えながらクニヒコは今日の分の報告書を書くために、部室に向かって歩いて行った。

 

 

 

ここはあるウマ娘の実家。

そのウマ娘は和室にある仏壇に向けて手を合わせていた。

 

ウマ娘の名は、アドマイヤベガ。

 

クラシック級のティアラ路線で桜花賞・オークスの二冠を制し、

「西の一等星」と称された名ウマ娘、ベガを母に持つウマ娘である。

 

この日アドマイヤベガは、生まれてくることなく母のお腹の中で命を落とした双子の妹の年忌法要のため、実家に帰ってきていた。

 

アドマイヤベガは仏壇で妹のために祈りながら、トレセン学園に入学したこと、

来年クラシック戦線で走ることを報告し、

そして妹のためにレースで走り続け、勝利の栄光を捧げることを誓った。

 

そのアドマイヤベガの後ろから母親であるベガがやってきて、

和室の座布団に座って話しかける。

 

「…何を祈っていたのかしら?」

「…あの子に誓いを立てたの。私はあなたのために走るって。

走れなかったあなたのために、

私のせいで生まれてくることすらできなかったあなたのために。」

 

ベガは複雑な表情を浮かべながら、自らの娘に話しかける。

 

「あなたが思い詰めることじゃないのよ。

あの子が死んでしまったのは、誰のせいでもなかったのだから。」

「でも、あの子は走りたがってた。私の身代わりになって死んだあの子は。

だから私があの子の代わりに走ることで、せめてもの供養になると思うの。」

 

ベガは娘の悲壮な決意に瞳を潤ませながら、

アドマイヤベガが生まれた時の話をする。

 

「私はね、あなたのせいであの子が死んでしまったなんて思ったことは一度もないの。

あなたが生まれたあの日、お医者様からは私の身体が危険な状態で、

2人のうち片方だけ助けるか、私の命と引き換えに両方助けるか、

どちらかしかないと言われたわ。」

 

アドマイヤベガは黙って母の話を聞いている。

母は話を続ける。

 

「本当に悩んだけれど、でも私はどうしても生まれてくる娘をこの手で抱きたかった…。

あの子が死んでしまったのは誰のせいなのかと言われたら、

責められるのは私よ。

私のエゴで、あの子は死んだの。」

 

アドマイヤベガは、振り向いて母の顔を見る。

 

「お母さん…」

「これだけは忘れないで。あなたは間違いなく望まれて生まれてきた子よ。

誰かの身代わりでもなんでもなく。

あなたが生まれてくれた時、そしてあなたを始めて胸に抱いた時、

私がどれほど嬉しかったか。どれほど生まれてくれたことに感謝したか。

…あの子が死んでしまったのは本当に無念で悲しいことだけど、

そのことにあなたが責任を感じて贖罪のために生きるなんて私は望んでいないし、

きっとあの子も望んでいないはずよ。」

 

そして最後に母は言う。

 

「でもあの子のために走るようなことはしないでと私が言っても、

今のあなたは聞かないでしょうね。

だから今はそれでいいと思う。

けれどいつかあなたの走る理由が変わる日がやってくるはず。

その時が来たら…あの子のためではなくあなた自身のために走るということを戸惑わないでね。」

 

アドマイヤベガは母の言葉を聞くと、黙って家を後にした。

 

トレセン学園に戻ってきたアドマイヤベガは、

自分の担当トレーナーである奈瀬文乃(なぜふみの)の元でトレーニングを開始する。

 

「お帰りなさい、アドマイヤベガ。…大丈夫かい?」

「問題ないわ。トレーニングを始めましょう。」

 

トレーニングを行いながら、アドマイヤベガは思う。

 

「今はまだお母さんの言葉の意味がわからない。

『私自身』のために走るなんて。

私はあの子のために走ることしか許されないのだから。」

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