オペラオーがリュージの元でトレーニングを始めて数ヶ月後の8月、オペラオーにもとうとうメイクデビューの日がやってきた。
リュージは先んじてレース場に到着しオペラオーを待っていたが、待てど暮らせど彼女が来ない。
「オペさん何してんねん。もうすぐレース始まるっちゅーのに、全然連絡もつかへんし。」
今日はオペラオーの走りを初めて観客に披露する大事な日。
なのにその主役が
そう思いながらリュージが控室で待機していると、
1人のウマ娘がおっかなびっくり控え室に入ってきた。
「いよいよオペラオーさんのメイクデビュー…大丈夫なのかなぁ…。」
「ちゃんとスタートできれば平気そうだけど…。でも、まだ…あうう…。」
控え室に入ってきたそのウマ娘のバストは豊満であった。
リュージはまず顔を見て、
次に胸を見て、
最後にまた顔を見ながらウマ娘に向けて話しかける。
「オペさん…なんかイメージ変わった?」
(…具体的に言うとパイオツが!パイオツの部分が!)
リュージが心の中で「パイオツ」と書かれたテロップを掲げていると、
そのウマ娘がリュージの会話に答える。
「ひゃあああ!すみませんすみません!私、オペラオーさんじゃないんです。」
「『メイショウドトウ』って言いまして…
その…オペラオーさんの友達で…」
「オペラオーさんは友達と思ってないかもしれませんけど…。
今日は応援に…。」
メイショウドトウから事情を聞いたリュージは笑顔を浮かべながら、
「あ、そうなんや。オペさんのお友達なんやね。
仲良ぉしたってや。
ところでドトウちゃんはオペさんどこにおるか知らん?」
「えーとぉ、それが〜……まだ来てないみたいなんです。
だから私、心配で…。」
リュージは天を仰ぎながら、両手で頭をかかえる。
「マジかぁ…。初っ端から遅刻かい…。」
仕方がないので、リュージはオペラオーの到着を今や遅しと待つことになった。
⏰数分後⏰
「いやぁ、リュージ!待ったかい?待っただろうねぇ!
何しろわざと待たせたんだから。
はーっはっはっは!」
「いや、ほんま何してんねん!初めてのレースやっちゅうのに!
なんかあったんかい!?」
「何もあるものか。意図的に会場入りを遅らせたのさ。」
「主演が一番初めに会場入りしてしまっては、周りに気を使わせてしまうだろう?」
「…なんっちゅう理由やねん。まぁオペさんらしいっちゃあらしいけども。」
リュージは理由を聞いてげんなりしているが、
オペラオーはそれを無視して話を続ける。
「嗚呼、メイクデビュー!ついに衆目の前にこの美貌と走りを披露する日が来たね!」
「デビューだけでなく、さまざまなものをメイクしてしまいそうだ!」
「伝説、崇拝…そして愛!」
(オペさん、入り込んでんなぁ)
「愛…。すごいです、オペラオーさん。」
オペラオーは自分の世界に入り込んでしまっているが、
素直なドトウはその勢いに乗せられて信じてしまっている。
「さあ、行こうじゃないか。リュージ。
新たな綺羅星を、時代が待ち望んでいる。」
「走りの心配は不要だ。だからレース後の記者会見の準備を抜かりなくね。」
「さぞやメディアが殺到することだろう!はーっはっはっは!」
(…ちょっと不安なところもあるけど、けどまぁオペさんの練習を見る限り、
デビュー戦は問題なく勝てるやろ。)
しかしこの時のリュージとオペラオーは思いもしていなかった。
オペラオーのお披露目となるはずのメイクデビュー戦があのような結果になろうとは…。
【メイクデビュー後、ライブを終えた控室で】
「…」
「いや…まさか…。こんな結果になるとは…。」
オペラオーのメイクデビュー戦、第4コーナーまでレースは順調にいっていたが、
最終直線で突如失速してしまい、先頭から6バ身差の2着という結果になってしまった。
オペラオーはこの結果に非常にショックを受けている。
「なんてことだ…ボクはこのメイクデビューで、伝説の始まりを高らかに謳い上げるはずだったのに。
観客の皆もボクを一番人気に指名してくれたにも関わらず、
こんな不甲斐ない結果で…。」
「オペさん…すまん。俺の指導力不足やったんかもしれん。」
意気消沈しているリュージとオペラオーに向けて、
今まで静かにしていたメイショウドトウが、
レースを見ていて気になったことを話し出す。
それは2人をさらに突き落とす内容だった。
「あのぉ…。レースを見てて気になったんですけど、
オペラオーさんが最後の直線に入ってきた時から、
走り方がなにか変だなぁって思ったんです。
あの時何かあったんですかぁ?」
その疑問に顔を曇らせながらオペラオーが答える。
「…実はあの時から今も左脚に違和感があってね。」
「えぇ!?そうなんですかぁ?!」
「なんやて!?なんでそんな大事なことをはよ言わんねん!
オペさん!すぐ病院行くで!」
そうしてリュージはオペラオーをすぐに病院に連れて行った。
担当した医師は、過去にトウカイテイオーの骨折を診断し、
その治療に最後まで付き合った、
メジロ家の主治医と並ぶウマ娘界隈でも名医と呼ばれる人物である。
その彼がオペラオーの左脚のレントゲン写真を見ながら、
治療が必要な箇所について診断をしている。
「リュージ、そんなに心配することはないさ。軽い捻挫か何かだと思うから。」
「せやかてレース後に足の違和感覚えたってなったら、
どんな怪我しててもおかしないやろ。
ちゃんとした診断の結果が出るまでは安心もできひんわ。」
そんな話をしていると、診断を終えた医師がオペラオーに向けて話しかける。
「テイエムオペラオーさん。」
「なんだい?」
「折れてます。」
「「え?」」
「骨折です。レース復帰はおそらく来年の年明けごろになるでしょう。」
「……えええええぇぇぇええええ!!!???」
「なんだってぇ!?骨折!?本当なのかい!?」
「ほ、ほんまに折れてるんですか?」
「折れてます。具体的にお話ししますと、骨折箇所は左脚の飛節。
いわゆる足首のくるぶしにあたる部分です。
症状自体は軽症ではあるものの、場所が場所です。
日常的にも頻繁に稼働する箇所ですし、レースにも非常に重要になる部位です。
レースに復帰できるレベルまで完治すること、
またリハビリのことも考えた結果、
治療には半年程度かかるだろうと判断しました。」
その後医師は言う。
「とりあえずの処置として、痛み止めを打っておきましょう。」
「うえっ!?ち、注射かい!?
覇王であるボクにはそれは不要なんじゃないかと思うなぁ。
はーっはっはっh(ブスッ) うわあああああぁぁぁあああ!!!!???」
医師からの診断を受けて、オペラオーは痛み止めを打ってもらった後に
左足首にギプスとバンテージを巻いてもらった。
リュージはオペラオーが治療を受けている間に師匠のイワモトトレーナーと竹山会長に電話をする。
「…というわけでオペラオーなんですが、
ジュニア級でのレース出走はほぼ絶望的ということになりそうです…。」
この知らせを受けてイワモトトレーナーからは、
「まぁ、てそか(大層な)怪我んならんかったならよかよか。
とりあえずその骨折ば治すことに集中しんしゃい。」
また竹山会長からは
「いやはや…私がかねてより心配していたことが現実になってしまいましたな…。
今回の怪我については、トレーニング中ならばともかくレース中に起こった怪我なので、リュージ君にもどうしようもできなかったでしょう。
それこそ、屈腱炎や繋靭帯炎のように
引退も視野に入れなければならない怪我ではなかった分だけ、
まだマシという捉え方もできます。
ただ彼女のポテンシャルであれば朝日杯のようなジュニアG1も取れたかもしれないと思うと…。
非常に残念です。」
との言葉を受けた。
結局オペラオーは脚の治療に専念するため、
年内いっぱいまでレースに出走することができなかった。
レースの経験を積むためには非常に重要となるジュニア級のシーズンを、
オペラオーは棒に振ってしまったのである。