前走のメイクデビュー戦からおよそ5ヶ月後、
オペラオーの骨折もようやく癒え、
レース復帰の目処もついてきた1月1日。
この日リュージはオペラオーのトレーニングを休みにしたため、
部室にこたつを持ち込んでぬくぬく温もりながらみかんを頬張りつつ、
新年のお笑い番組を見ていた。
「やっぱ中◯家さんはおもろいわ〜」
なんてことを言いながらくつろいでいると、和やかなムードを押しのけて
トップスタァが堂々やってきた。
「嗚呼、リュージ!今年も新しい年が来てしまったよ!」
「どうやらボクの美しさに引き寄せられたようだ。あっ…ハッピーニュー覇王…。」
「おー、あけましておめっとさん。今年も初っ端から絶好調やな。
ちょい待っときや。確かみかんがこの辺に…。」
リュージはこたつの中から出ずに横着しながらオペラオーに渡すみかんを段ボールから探していたが、
どうやらさっき食べていたみかんが最後のようだ。
他に何かないか部室の中を見回していると、
パックに小分けされた切り餅を見つけた。
「オペさん、みかんはもうあらへんけど、餅やったらあるで。食べるか?」
「お餅!いいと思う。いただこう。」
「よっしゃ。ほな作ってくるわ。」
⏰数分後⏰
「できたでー。ただ餅食べるんも味気ないから、お雑煮にしてみたわ。
喉に詰まらさんように気ぃつけや。」
「お雑煮!とてもいいじゃないか!いただこう。」
そして2人でお雑煮を食べた後、こたつでくつろぎながらオペラオーはリュージに今年の方針の話をする。
「さて、リュージ。昨年デビュー自体はしたものの、
怪我の影響で全くレースができないまま、クラシック級となってしまった。
そのせいもあってか、ボクのことを知らない観客が多すぎる。
これは『世紀末覇王』として由々しき事態だ。
ボクのことをまだ知らず、絶望の淵にいる人々をどうか救ってあげたいと思う。」
「せやなぁ。今の時点では正直言うてまだまだオペさんは無名のウマ娘や。
ファンなんかおるわけない。しかもレースの経験値も全然足りてへん。
絶望から救うっちゅうんはようわからんけど、なんとかせなあかんのは確かやな。」
「うむ。そこでボクは考えた。まず今月中に何かしらのレースにデビューする。
そして春までにレースに出て出て出まくって、
活躍する姿を1人でも多くの人に見てもらおうと思うんだ。」
「なるほどな。レースに出て勝ちまくれば経験値も積める上にファンも増える。
ファンが増えればオペさんに注目する記者も増える。
オペさんに注目する記者が増えればそれだけ記事も増えてさらにファンも増える。
ええループになるんちゃうか?」
「そうだろうそうだろう!」
「ただ、ぎょうさんレース走るんはええんやけど、無理はあかんで。
また怪我させるわけにもいかんしな。どのレース走るかについては俺の方でも考えとくわ。」
「頼むよリュージ。…できれば皐月賞にも出走したかったんだが。
怪我の影響でクラシック三冠レースへの参加登録ができなかったから出走できないしね。」
このお話をご覧になっている方ならご存知の方も多いとは思うが、
クラシック級で行われるクラシック三冠レースに参加するには、
事前にクラシック登録というものを行っておく必要がある。
ちなみにこのクラシック登録を行うと怪我といった相応の理由がない限り、クラシック三冠レースのうちどれかひとつは必ず出走しなければならないという制約が課されることになる。
もし上記のような理由もなく三冠レースへの出走を拒否した場合、
数ヶ月の出走禁止等の重い罰が下されるのだ。
URAによるとこの制度はクラシックというレースの権威と格を守るための措置との事だ
つまりクラシック登録だけしておいて、途中で「やっぱり出走辞めます」というような事が出来ないようになっているのである。
そのため、ジュニア級での戦績が良くないウマ娘並びにその担当トレーナーの中には敢えてクラシック登録を行わないことを判断する陣営もある。
オペラオーの場合、メイクデビューの際の骨折の影響で半年間レースができていない状態であり、
なおかつ復帰のめどがついている1月から
4月中旬に行われるクラシック第1戦『皐月賞』までは、実質3ヶ月少々しかない。
それを踏まえ、リュージとイワモトトレーナーはオペラオーと竹山会長を交えて
クラシック登録を行うかどうかについて話し合いを行った。
オペラオーは、
「覇王として、クラシック三冠レースに出走しないわけにはいかないだろう!」と
最後までクラシック登録にこだわっていたのだが、
話し合いの結果、オペラオーと言えどもまだ1戦しかしていない上に5か月近くのブランクがあるこの状況から、
3ヶ月後の皐月賞には流石に間に合わないだろうと判断し、
陣営としては一旦登録は行わないという決断を下したのだった。
「まぁ、こればっかりはしゃあないからなぁ。
今の段階やったらなんとも判断できひんし。
ただもしオペさんがこの3ヶ月ちょいで結果出せたら、
<クラシック追加登録>っちゅうんを使うて皐月賞に参加することも考えてるって
師匠も竹山会長も言うてたで。」
オペラオーはそれを聞くと目を輝かせながら、
「よし!とりあえず今年の方針は決まったね!
まず間隔を調整しながら走れるレースには出て出て出まくろう!
そうやってファンとレースの経験値を増やしつつ、結果を出して皐月賞へ!」
それを聞いたリュージも、
「よっしゃ!俺も全力でサポートするわ!頑張ろうな!オペさん!」
オペラオーのクラシック級が始まった。
初戦は1月中旬の未勝利戦1400m。足元の負担が少ないダートレースを選択した。
このレースでは流石に2戦目しかも半年ぶりのレースということもあり、4着に終わる。
しかし次のレースである2月初週の未勝利戦1800mダート。
1番人気に選ばれたオペラオーはその人気に沿う形で1着。
2着のウマ娘とは5バ身差をつけての圧勝だった。
レースを終え、地下バ道からインタビューブースに向かうまでの道すがらで、
リュージが出迎えに来ていた。
「オペさん、お疲れ!今回はほんますごかったで!
なんていうても5バ身差やからな!」
「ありがとう、リュージ!それにしても嗚呼…!ナイスラン、ボク!
この万人を魅了する走り!ボクはボクのことが恐ろしく感じるよ!」
「ボクにはもうすでに見えている!
彗星の如く再臨した新人名優を迎える、記者たちの群れが!」
「さぁ記者たちよ!この日を称え、思う存分にインタヴューしたまえ!」
「いや…。それなんやけどな…。」
「ん?どうしたんだい、リュージ?早くインタヴューブースに行こうじゃないか!」
【インタビューブース】
「…」
「…」
(シーン)
「あれ…誰もいない?いや…!」
「あの〜、テイエム、オ、オペラオーでいいのかな?
オペラオーさん。取材いいっすか?」
「記者は1人だけだとぅ!?」
「わ、私もいます〜」
「オペラオーさん、とってもいい走りでした〜…。」
「プラス、ドトウ!?いや、しかし、こんなはずでは・・・。」
「リュージ、これは一体どういうことだ!?」
「まぁ、まだ未勝利戦を勝っただけやからなぁ。
いくら勝ち方が強かったとはいえ、
そない簡単にファンや記者が注目してくれるっていうわけにもいかんやろ。」
「クッ…。時代の先端を行く記者たちですら、まだボクの強さに気づいていないということか。」
しかしこんなことでへこたれるようなウマ娘が、「世紀末覇王」を名乗るはずもない。
「ふふふ…はーはっはっは!いいじゃないか!これはこれで一歩前進というものだよ!」
「今までボクの取材に訪れた記者は1人もいなかった。」
「しかし今日!そのゼロが1になった!これは1を10にすることよりも遥かに難しいことだ。」
「すなわち!間違いなく世紀末覇王伝説の幕が今上がったということさ!」
「光の片鱗を見せてあげることができて大満足だよ!はーはっはっは!」
「むしろ記者の君!このボクに取材を申し込むとはなんという慧眼だろうか!
いいとも!いくらでも取材してくれたまえ!」
「は、はぁ…。」
どれほど現実の壁を突きつけられても決してへこたれない。
これこそがオペラオーの強さなのだということをリュージは改めて実感した。
「オペさん、やっぱすごいわ。
…今はこんなもんかも知れへんけど、
オペさんはこんな1人の記者に囲まれる程度のウマ娘やない。
絶対にもっと注目されるべき存在や。
俺が絶対にオペさんを誰もが注目する実力あるウマ娘にしてみせる。」
リュージはこの光景を見て再度決意を新たにしていると、
取材を終えたオペラオーがリュージのもとにやってきた。
「さてリュージ、こうして最初の一歩を踏み出したことだし、
次のステップに進もうじゃないか。
次のレースはどうするんだい?」
「せやなぁ。未勝利戦とはいえ、ダートを5バ身差で勝ってるんや。
そろそろ芝のレースに戻ってみてもいいかも知れへんなぁ。
ええとレーススケジュールはっと…。」
リュージはレースの予定が記載されているスケジュール帳を開いて、
直近で開催されている芝のレースを確認する。
「お、これとかええんちゃうか?2月末に開催されるゆきやなぎ賞。
芝の2000mで皐月賞と開催レース場は違うけどおんなじ距離や。」
「おお!いいじゃないか!それに決めたよリュージ!
では早速出走の登録をしておいてくれたまえ!」
「了解。こっちでやっとくわ。」
「頼むよ。ではボクは今から着替えてくるから。
行くぞドトウよ!はーっはっはっは!」
「は、はい〜…!」
颯爽と踵を返し、控え室へと去っていくオペラオー。
リュージは早速ゆきやなぎ賞にオペラオーの出走登録を行なっていた。
2月最終週、リュージとオペラオーは阪神レース場にいた。
出走するレースは芝2000mのゆきやなぎ賞。
天気は曇りでバ場は稍重。
久しぶりの芝のレースでリュージとしては不安もあったが、
そんな不安も何するものぞ。
着差自体広がりはしなかったがオペラオーは悠々と1着でゴールイン。
このレースを終えてから少しずつではあるが、
オペラオーを応援するファンや取材を申し込む記者の数も増えてきているようだ。
ライブと取材を終えて、控室に戻ってきたオペラオーに、
リュージは次に出走するレースを伝える。
「オペさん、次に出走するレースなんやけどな。
芝も問題なく走れることがわかったことやし、
ここは一気に重賞に挑戦してみようと思うんや。」
「おお!とうとう重賞かい!待ちくたびれたよ!で、どのレースに挑むんだい?」
「毎日杯にしようと思てんねん。これも今回のゆきやなぎ賞とおんなじ芝2000mで、
しかも場所もおんなじ阪神レース場や。」
「なるほど…。リュージ、考えたね。」
「せや。今回のゆきやなぎ賞は実はこの毎日杯の予行練習も兼ねとった訳や。」
「いいじゃないか。ところでその毎日杯の日程はいつなんだい?」
「それやねんけどな。3月の28日。つまり3月最終週やな。
今年の皐月賞が4月18日やから、もしこれで勝てれば…。」
「皐月賞の出走も見えてくる、そういうことかい?」
「そういうこっちゃ。
このレースは巷では皐月賞前の『東上最終便』って呼ばれてるレースやからな。
このレースに勝つことが皐月賞、
ひいてはクラシック三冠レースに挑戦するラストチャンスと考えてもええ。」
「ふふふ…」
「オペさん?」
「はーっはっはっは!燃えてきたよ、リュージ!絶対勝とう!この毎日杯は!」
「おう!一発かましたれ、オペさん!!」
皐月賞参戦への正念場、毎日杯が始まる。
3月28日 阪神レース場 第11レース
毎日杯
天気は曇、良バ場と発表された。
このレースでオペラオーは1枠1番、3番人気での出走となった。
1番人気はカツハルトレーナーが指導する3枠4番のバイオマスター、
2番人気は奈瀬文乃トレーナーが指導する3枠3番のビッグバイキングである。
オペラオーは緊張することなくゲートに入り、
他のウマ娘たちのゲート入りも順調に行われていった。
最後に本レースで大外枠に指名された14番のアストラルブレイズがゲートに収まってゲートが開いた。
「毎日杯スタートを切った!」
実況が展開を伝え始めたが、そのスタート直後に一つ波乱が起こる。
「おおっと、大きくつまづいてしまいました。
8番タイロバリー、大きな出遅れになりました。
そして2番のマチカネキモッタマも後方からのレースになります。」
「まずは正面の先行争い、人気のバイオマスター、外から6番のサンキングラッドが行きました。
サンキングラッドが飛ばしていきます。二番手に4番のバイオマスター。
そして、少し離れまして7番のバンナムフェザントが続いていきます。」
「あとは固まって11番ブルーコマンダー、外から13番プロティウス、
内を通ってテイエムオペラオー、5番タガノブライアンも好位グループです。」
先頭をいくサンキングラッドがリードを2バ身ほど開いて、レースを引っ張っていく。
その後ろにバイオマスターが単独の二番手で追いかける。
テイエムオペラオーは先団後ろのポジションをキープしている。
かなり良い位置で第1コーナーに入っていった。
「よし!オペさん、ナイス位置取りや!そのままその位置をキープやで!!!」
オペラオーはこの先団後ろのポジション、前から四番手あたりをキープしたまま、
2コーナーから向こう正面に入っていく。
リュージは3コーナーから4コーナーに向かって走るオペラオーを見ながら、レース終盤に向けての戦略を組み立てていく。
同じタイミングでオペラオーも前を走るウマ娘たちをどのように抜かすかを考えていた。
(オペさんの末脚があれば、この四番手の位置からやったら先頭集団を一気に刺せる。)
(ボクがするべきことは、仕掛ける終盤までこの位置をキープすること!)
((そして仕掛けるタイミングは…4コーナー抜けてからの直線!!))
そして、レースは終盤戦に突入する。
「さぁウマ娘たちがこれから4コーナーのカーブに入っていきます。
バイオマスターが早くも先頭。二番手に11番のブルーコマンダー。
三番手に9番のマイネルサクセス。その後ろからタガノブライアン。
内を通って1番のテイエムオペラオー。外から接近してきたアストラルブレイズ…」
オペラオーが四番手の位置について4コーナーから直線に入ろうとしたその瞬間、
三番手につけていたマイネルサクセスが大きく外側に膨らんだ。
オペラオーの前には誰もいない。
目の前には勝利への道が広がっていた。
「オペさん!今や!いけぇ!」
「!!!」グッ!!!
この瞬間にオペラオーの次元の違う末脚が炸裂した。
「先頭はバイオマスター、バイオマスターが先頭!
ブルーコマンダーが並んでいる!
大外からはタガノブライアン!そしてマイネルサクセス!
間を通って1番のテイエムオペラオー!
テイエムオペラオーが抜け出した!200を通過!」
オペラオーが前にいるウマ娘たちを軽々と交わしていく。
「二番手は外からタガノブライアン!内を通ってブルーコマンダー!
四番手にマイネルサクセス!最内からバイオマスターは完全に止まった!
先頭は1番のテイエムオペラオー!二番手はタガノブライアン!
テイエムオペラオー1着!!!」
この瞬間、テイエムオペラオーが毎日杯を先頭で駆け抜けた。
走破タイムは2分4秒1。
上がりの3ハロン(600m)は36秒7。
出走ウマ娘中唯一の36秒台。
後続に4バ身の差をつけた、文句なしの圧勝であった。
「テイエムオペラオーが勝ちました!!!
3連勝で毎日杯を制覇いたしました!テイエムオペラオー!!!」
これでオペラオーは重賞初制覇。
ジュニア級で走ったのはわずか一回きり、
今まで誰からも注目されていなかったオペラオーが
この3ヶ月の快進撃で一気にクラシック戦線の有力候補に名乗りを挙げたのである。
レースを終えたオペラオーが、ウィニングライブの準備をしている間に、
リュージはアナウンサーからインタビューを受けていた。
実はリュージ、なかなかこういうインタビューを受ける機会がないので、ちょっと緊張している。
「リュージトレーナー!毎日杯優勝、おめでとうございます!」
「ありがとうございました!」
「これで3連勝なんですけれども、強かったですね!」
「そうですね。やっぱり彼女の直線の脚は目を見張るものがありますね。はい。」
「今日の勝因を特に一つ挙げるとすれば、どこでしょうか?」
「そうですね。彼女が先団グループに怯まず、狭いところでも入っていけていたのでね。
勝因とすればそこにあるのではないかなと思います。」
「これで本番に向けての楽しみも増えましたけれども、一言お願いします!」
「そうですね。まぁ、彼女が強い勝ち方をしてくれたお陰で、
次も楽しみが広がりましたんで。
あとは、皆様も引き続き、オペラオーの応援よろしくお願いします!」
リュージのインタビューの後、オペラオーのインタビューが始まった。
「オペラオーさん!毎日杯優勝、おめでとうございます!」
「はーっはっはっは!みんなありがとう!」
「4コーナまではオペラオーさんがちょっと周りに囲まれたりして、
手応えが悪かったように見えたんですけどもいかがでしたか?」
「そうだね。まぁ、ボクもバ場のコンディションを気にしながら走っていたし、
4コーナー手前まであえて抑えて走るように意識もしていたからね。
その4コーナーを抜けてちょうど外に出た瞬間に前が広がったから、
十分に残しておいた末脚で駆け抜けたよ!」
「最後にファンの方に向けてのメッセージをお願いします!」
「ボクはここに誓おう!
必ず皐月賞の栄光を我が物にし、君達ファンの期待に応えて見せることを!
皆、ボクの活躍を楽しみにしていてくれたまえ!」
こうしてオペラオーは一躍今年度のクラシック戦線の有力候補の1人として世間の注目を集めていくことになるのであった。