リュージとオペラオー   作:アシール

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第5話 皐月賞に向けて

毎日杯を勝利したテイエムオペラオーは皐月賞の有力候補に名乗りを挙げたのだが、

ここで一つ問題が発生した。

 

その問題というのはオペラオーの支援をしている竹山会長が

オペラオーの皐月賞出走に難色を示したのだ。

 

というのも、オペラオーは確かに毎日杯を3連勝で制したが、

世間の評価としては実力はあるもののまだトップクラスのウマ娘との対戦経験がないと見られたことと、過去に毎日杯を経由して皐月賞に出走したウマ娘の成績があまり芳しくないことから、テイエムオペラオーはあくまで伏兵という扱いであり、

メインは皐月賞トライアルである弥生賞を勝利し重賞連勝中のナリタトップロードと、その弥生賞2着でティアラ二冠ウマ娘を母に持ち、今年のクラシック戦線第一の実力者と見做されているアドマイヤベガであった。

竹山会長としてはこういった評価の中で、

無理に皐月賞に出走させるよりは日本ダービーを本命に絞った方がいいと考えているようだ。

 

なお、オペラオーは昨年の怪我の影響から皐月賞への出走登録を行っていないため、今の時点では出走権を持っていない。

このタイミングで皐月賞に出走するには「クラシック追加登録」が必要になる。

 

この「クラシック追加登録」という制度が制定された経緯として、

かつてカサマツの所属だった稀代のアイドルウマ娘・オグリキャップが中央に移籍した際、クラシック登録をしていなかったため出走は叶わず、そのことにURAはファンから大きな批判を浴びた。

そしてそれはトレセン学園生徒会長であるシンボリルドルフによる

制度改善の嘆願にまで発展する大騒動になったのである。

この「クラシック追加登録」はその時の反省から生まれた制度である。

 

なおクラシック追加登録には登録料が必要になる。

通常のクラシック出走登録であれば無償なのだが、

クラシック追加登録の際は20万円ほどの登録料が発生する。

 

ちなみに追加登録に登録料が必要になる理由としては、

追加登録も無料にしてしまうと本来のクラシック登録の意義が失われるという懸念から、高額な登録料を支払ってでもクラシックに参戦したい、

あるいはクラシックに勝てる自信があるウマ娘のみ出走を許可するための措置である。

 

この追加登録料は学生のオペラオーにはあまりにも高額であるため、

後援会長の竹山会長にその金額を支払ってもらうことになる。

 

竹山会長の言い分としては、

「出走が重なって疲労が溜まっているこのタイミングで、高額な追加登録料を払ってまで、無理に皐月賞に出走する必要はないのではないか。

いっそ皐月賞は回避して一度休憩を挟みつつ、

青葉賞を経由してクラシック第二戦の日本ダービを狙った方が良いのでは」とのことだ。

 

リュージはオペラオーの皐月賞出走の是非について、

大いに悩んでいた。

 

(オペさんが直近のレースで三連勝と重賞制覇を達成した結果、それなりにオペさんのファンも増えてきた。ファンとしてもオペさんの皐月賞出走を望んでるはずやし、本人も出走を望んどる。

何より俺が皐月賞で走るオペさんを見たい。

せやけどクラシック登録ができてない以上、竹山会長に追加登録料の件をお願いせな出走自体できひん。

それにオペさんを全面的にバックアップしてくれてる竹山会長の考えを無碍にはできひんし…。

どないかして竹山会長を説得せなあかんなぁ。)

 

そういったことを考えながら、リュージはオペラオーがトレーニングしているコースに向かった。

 

 

リュージがトレーニングコースにつくと、そこには先客がいた。

 

丸いサングラスと帽子をつけ、杖をついた老人がオペラオーの練習風景を眺めている。

その老人は小柄ながらも、ただならぬオーラを醸し出していた。

 

リュージはその老人を一目で見て誰なのかを察した。

 

「ご無沙汰してます。ろっぺいさん。」

「六平(むさか)だ。ったく、誰も俺の正しい名前を呼びやがらねぇ。

お前らわざと間違えてるんじゃねぇだろうな。」

 

その老人の名前は六平銀次郎。

 

かつて地方のカサマツからやってきたオグリキャップを

『葦毛の怪物』『永世三強』と呼ばれるほどの名ウマ娘に育て上げた

『フェアリーゴッドファーザー』と称される名伯楽である。

なお本人はこの呼び名を気に入っていない。

 

その六平がオペラオーの練習風景を見ていることにリュージは疑問を抱いていた。

すると六平がリュージに話しかける。

 

「久しぶりだな。イワモトは元気にしてるか?」

「はい。お陰様で。ところで今回はどういったご用件で?」

 

リュージは六平に今回の訪問の経緯を尋ねるが、

六平はその質問に答えない。

そのままオペラオーの練習風景を見ながら、リュージに尋ね返す。

 

「テイエムオペラオーだが、クラシックはどうするつもりだ。」

「え?あ、はい。どうでしょうか。出るには追加登録が必要になりますし。」

「…このウマ娘は悪くない。皐月賞に出走してもかなりいいところまでいけるだろうな。」

「…ちなみにそう思われる理由をお伺いしてもええですか?」

「前走の毎日杯であんな勝ち方をされたらな。あれは強いウマ娘にしかできないレースだった。

もし同じことがクラシックでできるのなら、面白いことになる。」

 

リュージはそれを聞いて六平の意図を悟った。

 

六平というトレーナーは、どんなに強い勝ち方をしても、どれほど重賞を勝っても、

『クラシック登録をしていなかった』という制度の壁によってクラシックに出走できなかった

オグリキャップの悔しさを1番身近で見てきた人物である。

 

その六平がわざわざオペラオーの練習を見に来た理由は、

「テイエムオペラオーやその関係者には、オグリキャップの時に感じた無念を経験してほしくない。

今は彼女の足跡が生み出した『クラシック追加登録』という制度ができている。その制度を利用すべきだ。」

という想いを伝えたかったからにほかならない。

 

おそらくこのことをイワモトトレーナーや竹山会長に直接伝えるのは憚られたのだろう。

だがオペラオーの関係者にはなんとしても自分の思いを伝えたい。

たがらわざわざオペラオーの練習に赴き、自分が来るのを待っていたのだ。

 

そのことを理解したリュージは踵を返しつつ、

六平に話しかける。

 

「わかりました、ろっぺいさん!イワモト先生ともう一回オペラオーの皐月賞出走について話してみます!」

 

六平は、「むさかだって言ってるだろうが…」と言いながらもリュージの駆けていく背中を見てわずかに笑みを浮かべた。

 

 

リュージは六平から聞いた話をイワモトトレーナーに伝えるために部室に戻った。

 

部室では運よくイワモトトレーナーが書類作業をしていたため、

早速先ほど六平から聞いた話をイワモトトレーナーに話した。

 

イワモトトレーナーはそれを聞いて、

「ほーん。六平先生がそんなことを…。」

「そうです!ろっぺいさんにそこまで言わせるほどの実力が今のオペさんにはあるんです。

俺としても、オペさんは皐月賞に出るべきやと思ってます…。

せやからどうか、イワモト先生からも竹山会長を説得していただけませんか?」

 

イワモトトレーナーは少し考えると、

「…じゃっどな。六平先生も後押ししてくれとるみたいやし、

何より一番近くでオペラオーちゃんのことを見てるリュージがそこまで言うんなら、

おいからも頼んでみるがよ。」

「ありがとうございます!」

 

次の日イワモトトレーナーは竹山会長を行きつけのバーに呼び出した。

 

葉巻を燻らせながらウイスキーを嗜む竹山会長にイワモトトレーナーは地元鹿児島の芋焼酎ロックを飲みながら、オペラオーの皐月賞出走についての話を切り出した。

 

「まっさんよぉ。オペラオーちゃんの皐月賞出走についてなんじゃけどなあ。」

「いっつぁんや。前にも話したかもしれんが、

おいとしてはオペラオーにクラシックはまだ早いと思とるし、

走るにしても皐月賞は回避してダービーからにしたほうがええっちゅう考えも変わらんぞ。」

「まぁ、まっさんの言うとることもわかっけどね。

じゃっどんオペラオーちゃん自身がクラシックを走りたがっとるし、

あの子の今の実力じゃったら、皐月賞でもええ勝負する思うがよ。

それについてはリュージもおんなじこと言うとった。

じゃからどげんな?オペラオーちゃんを皐月賞で走らせたってくれんか?」

「むむむ…。しかしなあ…」

 

いまだ難色を示す竹山会長にイワモトトレーナーは、とっておきのカードを切る。

「おいとしては、オペラオーちゃんの皐月賞出走を許してくれるなら、

追加登録料については、おいが立て替えてもええと思とる。」

「! いっつぁん、それは…。」

「まぁオペラオーちゃんの皐月賞には、

おいもリュージもそんくらい期待しとると言うんはわかってくれ。」

 

イワモトトレーナーのある種の覚悟を滲ませた言葉を聞いた竹山会長は

残り少なくなったウイスキーを煽ると、

「おはんらの覚悟はようわかった。

そこまでの啖呵を切られたなら、おいも男じゃ。

オペラオーの皐月賞出走を決めよう。

追加登録料もおいが全部出す。絶対に勝たせてやってくれ。」

「まっさん…。すまんなぁ。ありがとうよ。」

 

 

そうしてようやく話はまとまった。

イワモトトレーナーから話の経緯を聞いたリュージは、

追加登録料を立て替えるとまで言ってくれた師匠の尽力に何度も何度も頭を下げた。

 

リュージはオペラオーに皐月賞出走が叶うこと、

この皐月賞出走に多くの人々が力を尽くしてくれたことを伝えた。

 

オペラオーはこのことを聞き、

「ボクの皐月賞出走のために、本当にたくさんの人たちが頑張ってくれたんだ…。

覇王を名乗るものとしてこの期待を裏切るようなことは許されない。

リュージ!もう時間はないよ!ボクをもっと強く、速くなれるようトレーニングしてくれ!」

その言葉を聞いたリュージは、

「よっしゃ!任せとけ!オペさんを絶対に皐月賞ウマ娘にして見せる!

残された時間でできるだけのことをやるで!」

 

 

 

「「行こう!皐月賞へ!」」

 

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