リュージがオペラオーの皐月賞出走をどのように調整するか考えていたのと時を同じくして、
オペラオーもオペラオーで色々と動いていた。
オペラオーの皐月賞出走が決まる数日前、リュージとオペラオーは体育館の前にいた。
ちなみにリュージはなぜ自分がここにいるのかのかわかっていない。
オペラオーに突然「今すぐ体育館前に来たまえ!」と呼び出されたのである。
リュージは困惑しながら、オペラオーに聞く。
「オペさん、急にこんなとこ呼び出してどないしてん?
いま色々と忙しいんやけど。」
するとオペラオーは、
「はーっはっはっは!何を言っているんだいリュージ。
今年のお正月に定めた目標を忘れたのかい?」
リュージ、ちょいとばかし頭をひねる。
「…皐月賞の出走以外になんか目標あったっけ?」
オペラオーはリュージにため息をつきながら、
「やれやれ、まさか本当に忘れていたとはね。
ボクのことを知らない観客を救う為に、
知名度を上げてファンを増やすと言う話をしただろう?」
リュージは思い出した。
「あー、なんかそんな話もあったなぁ。
皐月賞の出走準備のせいですっかり忘れとったわ。
…で、それと体育館に呼び出された事がどう繋がるんや?」
オペラオーが高らかに宣言する。
「ズバリ!この体育館でファン集めの結果発表をするんだよ!」パンハカパーン‼︎
…どう言う原理かはわからないが、
どこからかファンファーレが聞こえる。
オペラオーは続けて言う。
「ボクのファンには、これから体育館に来るように学内の掲示板で呼びかけてある。
もしファン集めに成功していたら、満場のファンから拍手喝采が!
一方失敗していれば閑古鳥。寂しい結果発表になるだろう。」
リュージはその話を聞いて頭を掻きながら、
「オペさんのファンやったら、前の毎日杯の勝ちで結構なファンがついてるって
前に取材してくれた記者さんから聞いてんで。
いちいちこんなことせんでもええんちゃうか?」
オペラオーはそれに対して、
「やれやれ。いいかい、我がトレーナーリュージよ。
確かにここ最近ボクのファンが増えてきていることは聞いているよ。
でも実際には今の段階でどれほどのファンがボクを応援してくれているのか、
ボクに注目してくれているファンはどんな人たちなのか、
人伝に聞いた話ではなく自分の目で確認したいんだ。
もし皐月賞に出走したとしても、
それほど注目されていなければ皐月賞を走る意義が薄れてしまうからね。」
「君もそう思うだろう、ドトウ?」
オペラオーはリュージと同じくその場に呼び出したメイショウドトウに話しかける。
「は、はい・・・。
私はクラシック三冠なんて、とてもとてもとても出られませんけれど・・・。」
「ファンはすごく大切・・・。それだけは・・・わかります。」
ドトウもオペラオーの意見に賛成する。
それを聞いてリュージは、
「・・・さよか。まあ確かにファンのことを大事にするんは大切やし、
オペさんなりにファンのことを考えて動いてるんもわかったわ。
そう言うことなら俺からいうことは何もあれへん。」
それを聞いたオペラオーは
「よし、じゃあ早速体育館の扉を開けようか。」
3人は体育館の扉の前で立ち止まる。そしてオペラオーがまた高らかに謳う。
「さあ現れ出るは、神か悪魔か!迎えるはたくさんのファンか、それともゼロか!?」
「運命の扉ーーーーオーップン!」
(ガラガラガラッ!)
オペラオーが体育館の扉を開けると、
(パチパチパチ)
「あっ!オペラオーだ。オペラオー!」
ファンの数はそこそこ。拍手もそこそこだった。
これを見てオペラオーは、
「おおおっ、これは・・・!?会場が割れんばかりのビックバン大拍手じゃないか!」
「リュージ!これはもう世界中の人々を魅了したと言っても、過言ではないね!」
「…そうかもしれへんなぁ。
せやけどいざファンの人たちに集まってもろたら、
オペさんのことを応援してくれてる人が
確かにおるっていうんが実感できるなぁ。」
実際にオペラオーのために集まってくれたファンの人たちを見て、リュージは思った。
(オペさんが呼びかけてこれだけのファンが集まってくれるんやったら、
オペさんが皐月賞に出走するかどうかについてはある程度注目されてるんやろうな。)
オペラオーは集まってくれたファン達に声をかけながら、
体育館の壇上にあがり所信表明を行い始めた。
「やあやあ、集まってくれたファン諸君!聞きたまえ!」
「華麗なる幕は今開けた!ボクが目指すのは前世代を打ち倒しての「世代交代」だ!」
オペラオーの言う前世代とは「日本総大将」スペシャルウィーク、「怪鳥」エルコンドルパサー、「不死鳥」グラスワンダー、「トリックスター」セイウンスカイ、「不屈の王」キングヘイロー、そして「遅れてやってきた秘密兵器」ツルマルツヨシなど錚々たるメンバーが揃う、
「黄金世代」と呼ばれる世代のことである。
現在のトゥインクルシリーズの話題はこの世代のメンバーが中心になっており、
世間での知名度も非常に高い。
自らを主役と称するテイエムオペラオーとしては、
この状況に思うところがあったのである。
オペラオーは続けて言う。
「この世代交代を行うためには、まずクラシック三冠で存在感を示さなければならない。」
「道は簡単ではない。
おそらくクラシックでは・・・かの難敵がボクの前に立ちはだかるだろう。」
「だがボクは負けない!”覇王”として堂々と戦い、かの者に勝利を収めてみせる!」
(ワーッ!)
ファン達はオペラオーの言葉に対して興味津々で質問をぶつける。
「その・・・かの者とは!?」
「誰!?誰なの!?教えて!オペラオー!」
「それでは答えよう!そのかの者とは…!!!」
「…リュージ!教えてやってくれたまえ!」
リュージずっこける。
(オペさん!考えとらんかったんかい!?)
リュージとしては急にオペラオーに話を振られたため、咄嗟に言葉が出てこない。
するとファンと共に話を聞いていたメイショウドトウが、
突然何かに気づいたように話しだす。
「…!?も、もしかして私ですかぁ!?」
「む、む、む、無理ですよぉ!クラシックなんて出るところまでも行けません!多分〜!」
オペラオーはメイショウドトウを見て言う。
「ドトウ、今は立ち止まる時ではない。未来を妄想し、真実には目をつぶれ。」
「君が名乗り出てくれれば、未知の出演者登場に壮大などよめきが起こるだろう!」
「さあ!好敵手ドトウよ。即興の悪役【ヴィラン】よ!
ボクの手を取り、壇上へ!さあさあ!!」
メイショウドトウはあたふたと慌てふためいている!
「どどど、どうしよう〜。誘ってくれてる…。あのオペラオーさんが…。」
「憧れの…。でもわた…弱…。あうぅぅぅぅ〜〜〜…。」
「やってみた…い。でも…でも…。きっと…ううん、絶対に…。」
「〜〜〜!ごめんなさぁい!無理ですぅ〜〜〜!」
メイショウドトウは体育館から逃げ出してしまった。
やはり少々ゴリ押しが強過ぎてしまったようだ。
これにはオペラオーもビックリ。
「…やれやれ。ボクが魅力的すぎて気後れをさせてしまったかな。」
「けれどこの程度で途方に暮れるボクではない!そう!これもまた歌劇の伏線なのさ!」
「諸君!ボクにとっての難敵!それが誰なのかはーーー」
「皐月賞当日に明らかになるだろう!
また会おうみんな!クラシック初戦の交錯する、新緑の中山で!」
(ウオオオオオオ!!!)
オペラオーは何とかこの場を誤魔化し、
リュージと共に体育館を後にした。
部室に向かう道すがらでオペラオーはリュージに依頼する。
「リュージ、本番までにライバル役の準備をしなければ。とびっきりのライバルをね。」
「またドえらいことになってもうたなぁ…。
けどまあどっちにしろ皐月賞に出走してくるメンバーの
リサーチはせなあかんかったからちょうどええか。
このついでにオペさんのライバルになりそうな相手を何人かピックアップしとくわ。」
一方その頃、メイショウドトウは…
「オペラオーさん…。せっかく手を差し伸べてくれたのに…。」
「ごめんなさい…。弱くてごめんなさい…。」
体育館裏に生えている木の根元で、
期待に応えられなかった自分の不甲斐なさに
涙を流していた。
体育館での決起集会から2日後、
オペラオーは寮の談話室で皐月賞でのライバルになるウマ娘を探していた。
しかし…成果はあまり芳しくないようだ。
「なぜだ!?なぜみんなボクのライバル役を引き受けてくれない!?」
「歌劇に好敵手は必要不可欠だ!
それなのになぜ皆フリードリヒ伯爵になり、ボクを討とうとしないのか!?」
「断る理由もまるでわからない!
『めっちゃはずい』ってなんだ!?
『友バレしたら死ぬしかない』とかどういうことだ!?
むしろ自分から積極的に友バレして行くべきだろう!」
「リュージ、どう思う!?」
「…おう!せやな!」
一応リュージもオペラオーに賛同したが、
実のところライバルの依頼を断った面々の内心はわかっていた。
(たぶん、巻き込まれたくないって思てるんやろうなー。)
そのような会話をしているところにメイショウドトウがやってきた。
「オペラオーさん…あの…ごめんなさい…」
「どうだったドトウ?そちらも成果なしかい?」
「はい〜…。皐月賞に出られそうな人に
『ぜひオペラオーさんのライバルに』って話しかけようとしたんですけど…」
「私の実力では恐れ多くて、声をかけられませんでしたぁ…。」
「なんと!勧誘する前から降伏か!?
しかも声すらかけられないとは!
謙譲を美徳とするにも限度があるぞ!ドトウ!」
リュージ、頭を掻きながら
「これは流石にちょい厳しいんとちゃうか〜?
まあ皐月賞まで時間ないこの段階で、
急にライバル認定されても困るっちゅうんはわかるけどもやな。」
しかし、オペラオーには秘策があった。
「リュージ、実は候補者はいるにはいるんだ。
しかも2人。皐月賞に確実に出てきそうなウマ娘が。」
「あー、もしかしてあの二人かぁ?」
「情報によると、だいたいこの時間には談話室に来るはずなんだが…」
そんなことをオペラオーが話しているところに
1人のウマ娘が談話室に入ってきた。
そのウマ娘の顔を見た瞬間、オペラオーの顔色が変わる。
「!!!お、おおお!君を探していたよ!
ボクのライバル候補のうちの1人!アドマイヤベガ!」
「…なに?」
怪訝な顔でオペラオーに反応するアドマイヤベガ。
オペラオーはアドマイヤベガに向かって続けて話す。
「テレビで君の活躍を見ていたよ!
ラジオたんぱ杯ジュニアステークス1着!
そして今年の弥生賞でも2着!」
「まさに君こそ、ボクの皐月賞のライバルとするにふさわしい!」
「ちょっと待って、話が読めないんだけど。」
オペラオーはアドマイヤベガの困惑をスルーして、
話を続ける。
「聞いたよ。君は皐月賞の出走をほぼ確実にしてるらしいね。」
「ならばちょうどいい!ボクのファンという立場から三階級特進で、
ライバルにならないかい!?」
「ボクの相手が務まるのは君しかいないよ!麗しのアドマイヤベガ!」
アドマイヤベガ、ちょっとムッときたご様子。
「別に麗しくないし。
それに勝手にあなたのファン認定されてることも腹立つわね。
別にファンでもなんでもないんだけど。」
「君とはどことなく因縁を感じる!だからなんとなく決着をつけなくては!」
「ちょっとは人の話を聞きなさいよ。
そんなふわっとした理由で因縁つけられたら、私としてもたまったもんじゃないわよ。
ふわっとしてるのはお布団とクッションだけで十分だわ。」
「いいから!これからボクとキミはライバルだ!」
「何がなんでも引っ張り込む気なのかしら、この人。」
この光景を見たリュージ
(おーおー、今日もオペラオーワールドが炸裂してんなぁ。
アドマイヤベガがめっちゃ押されてんで。)
オペラオーはまだまだ止まらない。
「さあ、叙勲式だ。
君はたった今、この場でボクのライバルに任命された。」
「もうやりたい放題ね、この人。
…謹んで辞退させてもらうわ。私のことは放っておいて。」
「そうかそうか。よかったなマイライバル。
フランス語で言うならばリヴァルか。」
「どっちでもいいし、引き受けてないから。
そもそもなんでフランス語?」
一連の流れを見ていたメイショウドトウが恐る恐る口を挟む。
「あのう…オペラオーさん、もしかしてアドマイヤベガさん嫌がっているんじゃ?」
「ドトウさん…!」
アドマイヤベガ、救いの神が現れたような目でドトウを見つめる。
しかしその救いの神は、オペラオー相手には弱かった。
「ははは!何を言うドトウ。
もしかして君は、目を開けたまま物を見ているのかい?」
「だったら目を閉じて、耳も塞ぎ、心で見るといい。
そら、彼女は喜んでいるだろう。」
「な、なるほどぉ…。」
「いや、なるほどじゃないわよ。
あなたたち一体誰を見てるの。その心とやらで見てるの多分それ私じゃないわよ。
ちょっとは自分の目でちゃんと見なさいよ。」
会話が完全に噛み合っていない。
そんなところにもう1人ウマ娘がやってきた。
「あれ?みなさんこんなところで何やってるんですか?」
「! トップロードさん。」
「おお!君こそはもう1人のライバル候補、
ナリタトップロードさん!ちょうどいいところに!」
やってきたウマ娘はナリタトップロード。
今年の弥生賞でアドマイヤベガを抑えて一着を取った、
現在のクラシック級でも一二を争う実力者である。
そのトップロードがオペラオーに質問をする。
「これって一体どう言う状況なんですか?」
「よくぞきいてくれた!ボクは今皐月賞でのライバル候補を探していてね。
ちょうど今ここにいるアドマイヤベガをライバル認定し終えたところさ!」
「ち、ちょっと!勝手に…!」
「なるほど!じゃあ今からオペラオーちゃんとアヤベさんはライバル同士なんですね!」
「ち、ちが…!」
「ハーッハッハッハ!その通りだよ、トップロードさん!
だがボクのライバルはアドマイヤベガだけではない!
君もだよ!トップロードさん!」
「ええ?わたしもですか?」
「もちろんだとも!今年の弥生賞!ここにいるアドマイヤベガを抑えての1着、
実に見事だったよ!」
「君もまた僕のライバルとなるに相応しいウマ娘さ!」
それを聞いたトップロード。
少し考えた末に、
「いいですよ。じゃあこれからオペラオーちゃんと私はライバル同士です!」
アドマイヤベガ、驚愕。
「え!?いいの、トップロードさん?」
「ええ、もちろん。だってオペラオーちゃんも皐月賞、ひいてはクラシックを走るんですよね?」
「じゃあ、オペラオーちゃんは一緒にクラシックを戦うライバルじゃないですか!」
「ハーッハッハッハ!さすがナリタトップロードさん!話がはやい!」
「えええ・・・。なんかライバルの認識がズレてる気がするんだけど・・・。」
アドマイヤベガは目の前で勝手に進んでいく状況に困惑している。
そこにオペラオーが畳み掛ける。
「で、君はどうする?なんだかんだ言いながら、皐月賞には出るんだろう?」
「だったらボクと競うしかないではないか。であるなら、もう僕たちはライバルだろう?」
「それともなにかい?出走回避するつもりなのかい?」
「それは・・・!くぅ・・・。」
アドマイヤベガは歯噛みしながら、答える。
「出走回避は・・・しない。私にも追いかけてるものがあるから。」
それを聞いてオペラオーは破顔する。
「そうかそうか!ではやはり君もまたボクのライバルということだね!」
「よろしく!親愛なるアドマイヤベガ。いや!アヤベさん!ハーッハッハッハ!」
「くっ・・・・。なんでこんなことに・・・!」
こうして無事に皐月賞のライバル役が決まった。
この状況を見てリュージは思う。
(アドマイヤベガ、そしてナリタトップロード。
今年の皐月賞で一番マークせなあかんと思ってたウマ娘二人や。
やっぱりオペさんも目をつけてたんやな。
この二人をライバルにしたことで、
オペさんのモチベーションが目に見えて上がってるんが分かるわ。
これは皐月賞が面白くなるでぇ!)
そしてこの一連の状況を見ていたメイショウドトウ。
「オペラオーさん、すごい。ここまで強気に誘えるなんて・・・。」
「でも、これでよかったんでしょうか?流石に強引すぎな気も・・・。」