リュージとオペラオー   作:アシール

9 / 10
すみません。
相当お時間が空いてしまいました。
ちょっと創作の意欲が枯れかけてしまいまして。

本来は今作を後編と銘打って皐月賞編を終わりにしようと思ったのですが、長くなりすぎそうなので3つに分けることにしました。

後編も鋭意製作中なので、ご期待いただけると幸いです。


第7話 皐月賞:中編

皐月賞出走直前、オペラオーは本バ場入場を終え、

雨降るコース上でアップのための早駆けを行っていた。

 

それを観客席の最前線で傘もささずに、

フェンスにもたれながら食い入るように見ていたリュージの後ろから、

トップロードのトレーナーであるクニヒコがやってきた。

 

ちなみにリュージとクニヒコの関係性としてはクニヒコがリュージの2つ年上で、

トレーナー専門学校でも先輩後輩の間柄だったが、

リュージはクニヒコのことを「ナベちゃん」、

クニヒコはリュージのことを「わっくん」というように

苗字でのあだ名で呼び合うほど仲が良い。

 

そのクニヒコがオペラオーをずっと目で追っているリュージの横に並んで話しかけた。

 

「わっくんのところのオペラオーちゃん、調子ええみたいやね。」

「うわっ!ナベちゃん!ビックリしたぁ。急に話しかけんといてくれや!

オペさんに集中しすぎて、後ろから来てんのに気づかへんかったわ!」

 

クニヒコはリュージの反応を見て笑いながら、

「ははは、驚かせてしもてごめんな。

まあ話戻すとオペラオーちゃん調子よさそうやけど、

うちのトップロードも負けてへんで。

本バ場入場前に軽く話したけど、めっちゃ気合い入ってたからな。

ほんまなんで2番人気になってんのか納得いってへんくらいやわ。」

 

それに対しリュージは、

「確かにトップロードちゃんも見てたけど、ごっつい調子よさそうやな。

気合い乗りも1人だけ段違いなんはようわかるわ。

せやけどうちのオペさんも調子で言うたら負けてへん。

なんたって今回の皐月賞は本気で取りに来てるからな。

舐めた走りしとったら、簡単にパクッと食うてしまうでぇ。」

 

リュージの啖呵にクニヒコも真剣な表情で答える。

 

「それはオペラオーちゃん見てたらようわかる。

今回結果的に5番人気になってもうてるけど、絶対舐めたらあかん相手やってな。

・・・正直言うて今回の皐月賞でトップロードの一番の強敵は、

わっくんのところのオペラオーちゃんやと睨んでんねん。」

 

その言葉にリュージは、

「・・・俺も同じこと考えてたわ。

このレース、勝つとしたらオペさんとトップロードちゃん、

ひいては俺とナベちゃんのどっちかやってな。」

 

二人の間にピリピリとした沈黙が流れる。

お互いに無言のまま闘志をぶつけ合っているものの、

決して嫌な雰囲気ではない。

そしてしばしの沈黙ののちクニヒコからリュージに対して話しかけた。

 

「まぁお互い勝ったら初めてのG1勝利やし。

悔いの残らん、ええレースをしようや。

よろしくな、わっくん。」

「こっちこそ。お手柔らかに頼むで。ナベちゃん。」

 

その後握手をして2人は会話を終えた。

 

クニヒコは先にトップロードの元にいるディグタストライカに合流するためにそちらへ向かい、

リュージは再びオペラオーへと目線を向けた。

そしてその一連のやり取りを、

本レース1番人気のアドマイヤベガのトレーナーである奈瀬文乃がじっと眺めていた。

 

 

 

 

皐月賞の出走ゲートにウマ娘18人が集まった。

中山レース場の観客席、そしてテレビ越しでもファンが見守る中、実況のミヤケアナウンサーが話し始めた。

 

このミヤケアナウンサー、F1やプロ野球といった数々のスポーツで名実況を残した名物アナウンサーである。

 

「中山の空から降りしきる雨粒が、磨き抜かれた18人のウマ娘たちの体を濡らします。雨の舞台となった今年の皐月賞。まもなく、胸躍るスタートを迎えます。実況席の解説はレース雑誌「週刊トゥインクル」の編集者であるヨシダヒトシさん、そして過去にサクラスターオーでこの皐月賞を制したアズマトレーナーです。よろしくお願いします。」

 

ミヤケアナウンサーが2人のレース解説者を紹介し、

出走ウマ娘の評価を聞いたあと、

スタート地点にいるもう1人のアナウンサー、ヨシダアナウンサーに状況の確認をする。

 

「さあ各ウマ娘がゲート入場に向けて準備を進めている中、スタート地点にいるヨシダアナウンサーに話を聞いてみましょう。

現在の状況はいかがですか?」

 

「はい。今回のレースで最注目のアドマイヤベガですが、ときおり体を揺らしてはいるものの、しかしなにかこう湧き上がってくる闘志を内に秘めて落ち着いているというように私には見てとれます。そしてナリタトップロードも落ち着いてますねぇ。」

 

「レースコースの状態自体はどんな感じですか?」

「先ほどコースを整理している方にお話を伺ったのですが、

『これくらいの雨では、ほとんど影響ないよ。』と。そういうふうにおっしゃっていました。」

「なるほど。良バ場と考えていいということですね。わかりました。」

 

この2人の会話を聞いて、解説の「週刊トゥインクル」編集者であるヨシダ氏が意見を述べる。

 

「今回のレースですが、アドマイヤベガ中心に2番手をどのウマ娘が争うかという風に動くと思います。というのも彼女の走ってきた3つのレースは全部バ場の悪いレースで行われたにも関わらずあの強い走りでしたのでね。今回ちょっと雨が降ってますけど良バ場にできそうなんで。アドマイヤベガの切れ味が活きると思いますね。」

 

「なるほど。果たしてこのコースコンディションは、アドマイヤベガにどう影響するのか。それ以外にも重賞二連勝中のナリタトップロード、そして毎日杯から飛び込んできたテイエムオペラオーがいて。さぁ!ファンファーレです!」

 

群雄割拠となったクラシック第一戦目、皐月賞。

今、その戦いの火蓋が上がる。

 

 

 

 

オペラオーの皐月賞。

出走ウマ娘全員の体勢が整い、ゲートが開いた。

しかしそのスタートは思いがけないものになった。

 

「リュージ・・・、あンのバカたれが。」

 

イワモトはオペラオーのスタート直後の動きに歯噛みした。

 

オペラオーはスタートを切った後に前に行かず、あえて後ろに下がる動きを見せたのである。

そして1コーナに飛び込んだ時は、オペラオーはなんと後ろから3番目につけていた。

 

イワモトは皐月賞前日ミーティングの際に、スタートしたら前目につけるようにオペラオーとリュージへアドバイスしたにもかかわらず、それが全く生かされていなかったのである。

 

イワモトとしては、この段階でオペラオーが皐月賞を取り逃したと思った。

しかし実はこれはリュージの作戦のひとつだったのである。

 

皐月賞出走前、リュージはオペラオーに以下のような指示をしていた。

 

-----------------------------

「…まずスタートなんやけどそこは気にすな。

オペさんのええ感じにスタートが切れたらええ。

もちろん上手くスタートするんに越したことはないけどな。

ほんでスタートしたら前には無理に上がらんと、

敢えて後ろに下げて位置取りをしてほしいと思うてる。」

 

リュージの戦略を聞いて、オペラオーは少し訝しんだ。

 

「ほう?いいのかい?皐月賞は2000mしかないんだ。

前回の毎日杯のように前めの位置取りをしておいた方が色々と融通がきいて有利だろうし、

実際イワモト先生からもそうやって走った方がいいと言われていただろう?」

 

オペラオーのもっともな疑問にリュージは答える。

 

「セオリーとしてはそうやな。

事実、皐月賞は逃げ・先行が比較的有利で、差し・追込みの勝率が低いっちゅうデータが出てる。

ただ今日の中山レース場のバ場状況を見るに、

良バ場発表とはいえ小雨の影響で内側がボッコボコに荒れてもうてるやろ。

その状況で前めにつけて走ってたら、最終コーナーのあたりで外側から回ってきた他の娘たちの集団に内側に押し込まれて、バ場の荒れてる所で走らされることになるかもしれん。

最終コーナーでのそのロスは致命的や。」

 

「せやけど後ろ目につけてれば周りに包まれることはないし、かつ前で走ってる娘の状況を見ながら外側に出て、

バ場の具合がええ所で走ることができるやろ。」

「ふむふむ…」

 

そしてリュージは続ける。

 

「ほんでこっからはスタートが終わってからの走り方なんやけどな…」

 

-----------------------------

 

 

「ここまではリュージの戦略どおり。さて次は確か…」

 

オペラオーはリュージから受け取った戦略を思い出しながら1コーナーから2コーナーに向かう。

 

ちなみにここまで後ろに下がってしまうのはリュージにも想定外だった。

そのためリュージは一瞬冷や汗をかいたものの、すぐに思考を切り替えた。

 

(ちょい下がりすぎかもしれんけど、ここで無理に挽回しようとして前に行ったら、無駄に脚を使うだけや。

終いには絶対に伸びる末脚をオペさんは持ってるんやから、今は我慢やで。)

 

2コーナーから向こう正面にかかったタイミングで、オペラオーはリュージから貰った戦略を再度思い返す。

 

「2コーナーから向こう正面にかけては後方待機。その間はアヤベさんを徹底マーク…だったよね、リュージ!」

 

オペラオーの動きを見て、リュージは内心ガッツポーズをする。

 

「せや!オペさん!その位置や!

そっから3コーナーにかけてじわじわ上がってけ!」

 

勝負どころの第3コーナー。

アドマイヤベガとナリタトップロードは同じように後方に位置取りし、オペラオーはそのすぐ後ろについた。

その横には前回の毎日杯でともに走ったタガノブライアンがいる。

 

ここでアドマイヤベガとナリタトップロードがほぼ同じタイミングでしかけた。

3コーナーから4コーナーにかけて一気に順位を上げ始める。

そこにピッタリと食らいつく形でオペラオーも着いていく。

 

うちからトップロード、真ん中にアドマイヤベガ、

そして大外にテイエムオペラオー。

3人が体を合わせて4コーナーを回り始める。

 

しかしその瞬間アドマイヤベガがほんの少し体制を崩した。

「ッ!アヤベさん!?」

トップロードは少し驚いた素振りを見せたが、冷静にうちに切れ込む。

オペラオーはその外を回る。

 

アドマイヤベガとしては、このささいなミスが命取りとなってしまった。

このロスの影響で前にいるウマ娘が壁となり、抜ける道を見失ってしまったのである。

 

中山レース場最後の直線。

皐月賞は最終段階にうつっていく。

 

果たして今年の皐月賞の栄誉は誰に輝くのだろうか。

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