※オリウマ娘注意です。
誕生日:4月22日
体重:ふっくらとした、いい仕上がり。
身長:158センチ
スリーサイズ:89・58・85
メジロレムのヒミツ3・実はスマートファルコンの娘とクラスメートで友人。
始業前の教室の雰囲気というのは、学校によってそれなりに違いがあるのではないでしょうか。
中学のときの朝の教室には『今日も一日の授業が始まるのか……』という少し憂鬱な空気が感じられましたが、ここではほとんどそんなことはございません。
あえていうなら、一時間目が数学の時はすこしどんよりとした空気が漂っている気がいたします。
……学生のご多分に漏れず、ウマ娘も数学が苦手な娘が多いのです。
わたくしは理数分野、嫌いじゃないんですけれどもね。
トレセン学園の朝の教室はわりと明るい雰囲気に満ちていて、生徒各々が友人との談笑を楽しんだり、スマホゲームに没頭していたりしていて、自由な時間を満喫しています。
それは朝からトレーニングをして体を動かし、シャワーを浴びてきているというのも影響しているのかもしれませんね。
「おはよう、レム」
そんなことを漠然と考えていると、背後から声をかけられました。
「おはようございます、レアさん」
わたくしに朝の挨拶をかけてくださったのは、後ろの席のファルコンレアさんでした。
お名前から察せられるとおり、レアさんはお母様が【砂のサイレンススズカ】こと、あのスマートファルコンさまという超良血ウマ娘で、今年のフェブラリーステークスとドバイワールドカップを制覇するなど、その血に恥じない成績を残していらっしゃいます。
スマートファルコンさま譲りの美しい栗毛のセミロングと、切れ長の涼しげな瞳が目を引くレアさんの容姿は非常に端麗で、あいらしい【ウマドル】をなされていた彼女のお母様とはまた違った魅力を持つ女性です。
170センチの長身と相まって、彼女の立ち振舞いはまるでモデルさんのようでした。
「そうそう、レアさん。先日はお手製のシュネーバル、ありがとうございました。家族みんなで美味しくいただきましたわ」
「それはよかった。レムの家って当然みんな良いもの食べてるでしょうから、お口に合うかちょっと心配だったのだけれども。まぁ、先生のレシピ通り作ってるからそんなひどい味にはならないだろうとは思っていたけどね」
そう言って彼女は朗らかに笑ってくださいました。
レアさんは製菓教室に通われているようで、そこで作ったお菓子をご近所の席のよしみでたまに持ってきてくださるのです。
ご存じの通りわたくしの一家は(お酒をたしなまれるお父様を除いて)甘味が大好物ですから、そのおすそ分けはとても嬉しいのですね。
「わたくしは不器用ですので製菓はたしなみませんが……お菓子作りはとかく、レシピ通りに工程を進めるのが肝要とお聞きしたことがありますわ」
「そういう一面もあるのは確かね。うちの先生、そのあたり結構厳しいから……。手順やグラム数が少しでも違ったら『そのやり方では美味しくなりませんから、もう一度最初からやり直してください』って感じで指導が入るのよ」
お稽古事の先生が生徒や弟子に厳しく指導するのは昨今では賛否両論あるでしょうが、ある程度のレベルを目指すのであれば、どうしても厳しさは必要になってくるでしょう。
「なるほど。それでレアさんの作られるお菓子は美味しいのですね。ところでその先生というのは、どのようなお方なのですか?」
「えーとね。レムは【ふらっしゅのおかしやさん】って洋菓子店知ってる?」
「ええ、エイシンフラッシュさまがオーナーコンディトリンを務めていらっしゃるお店ですよね?母がよくそのお店から色々なお菓子を取り寄せておりますし、わたくしも大好きなお店ですわ」
「そのエイシンフラッシュさんが、わたしの教室の先生なの」
「そうなのですか!」
プロの方に教えてもらっている、とは前にちらりと聞いていたのですが、それは初耳でした。
「でも、よく教室に入ることができましたね?エイシンフラッシュさまのお菓子教室は大人気で、なんでも空きが出るまで2年3年待ちは当たり前と聞いたことがありますが……」
エイシンフラッシュさまの製菓教室にはレアさんのように趣味でお菓子を作る人だけではなく、将来はプロのパティシエ・パティシエールになりたいといった方々も教えを請いにいらっしゃると聞いたことがございます。
「あ~……それはね。わたしのお母さんは現役時代、エイシンフラッシュさんとルームメイトだったから……。ちょっとばかり顔が利いたのよね」
わたくしがそんなことを聞くと、彼女は苦笑いしながらその理由を教えて下さいました。
なるほど。
わたくし個人の意見としては自分の人生を豊かにするのに人脈を使うことは何ら悪いことではない、と思うのですが、人によってはショートカットだ、ずるいという印象を持たれる方もいらっしゃるのでしょう。
ですが……。
「どんなに素晴らしい先生に教わっても、本人にやる気がないのならブタに真珠というものです。レアさんの作られるお菓子が美味しいのは、レアさんがお菓子作りに真剣に取り組んで、一生懸命作られているからだと思いますわ」
わたくしがそんなことを言うと、レアさんは照れたような微笑を浮かべられました。
「嬉しいこと言ってくれるわねぇ。……昨日自分のおやつにと思って作ったものだけど、食べる?」
そう言いながら彼女はバッグから小さな巾着袋を取り出すと、口を開けてくださいました。
その中にはお店で売っているものと遜色ない出来映えのクッキーが入っていて、それをわたくしに差し出してくださいます。
「よろしいのですか?」
「ええ。自分用に作ったから大して美味しくないかもだけれども」
「またまたご謙遜を。いただきますわ」
美味しそうなカカオクッキーを指で摘み、そっと口の中に入れました。
優しい甘さにもかすかなほろ苦さがあって、それが抜群のアクセントになっています。
歯ごたえはサクサクなのに、舌の上に乗るとほろりとクッキーが溶けていくのです。
市販のクッキーでも、これだけ美味しいものを探すのはなかなか大変でしょうね。
「美味しいです。……あの、もう一ついただいても?」
我ながら意地汚い……と思ってしまいましたが、美味しいものに目がないのはお母様譲りなので血統的に仕方ないですわよね?
「もちろん!気に入ってくれたのなら何個でも食べてね。家にはまだあるし、家で焼くクッキーって保存料使わないからあんまり長持ちしないのよね。早く食べてもらったほうがありがたいのよ」
気を使っていただいたのでしょう。
レアさんはそうおっしゃるとクッキーの入った袋を机に置き、それをパーティ開けにしてくださいました。
「恐縮ですわ。では、遠慮なく……」
わたくしたちはレアさん手作りクッキーをつまみながら、レースでのちょっとした悩みごとやライブパフォーマンスで気をつけたことが良いこと(歌もダンスも、レアさんはウマ娘の中でトップクラスにお上手なのです)などを、それとなく気軽に話し合いました。
こうしてレースのことを気軽にお話できる友人がいる、というのは非常にありがたいことです。
これはわたくしの主戦場が芝の短距離、レアさんはダートを走っていらっしゃるということがありますね。
もし同じ舞台で戦うことの多い友人同士だったら、手の内を明かしたくない、というわけでもございませんが……気軽にレースのことを話し合う、というのは難しいものになってしまいますから。
そうしてわたくしたちは予鈴が鳴るまでの短い間でしたが、有意義な時間を過ごすことができたのでした。
安田記念に向けて本格的なトレーニングに入る前に、一つ明るいニュースがございました。
かねてからわたくしの脚は虚弱で、トレーニングには細心の注意が必要だったのですが……。
主治医の先生の見立てでは少しばかりその虚弱性が年齢とともに改善しているらしく、『多少負荷の大きいトレーニングを取り入れても大丈夫』との太鼓判をいただくことができました。
ミーティング時にそのことを診断書とともにトレーナーさんへ報告すると、思った以上に喜んでいただけました。
「G1路線を戦っていくにあたって、それは大きな収穫ね。トレーニング量はそのままそのウマ娘の才能だから……。伝統のマイルG1に向けて、気合い入れていきましょう!」
「はい」
わたくしは短くも気持ちの入った返事をすると、トレーナーさんは満足げにうなずかれます。
「といっても、無理は禁物よね。どのぐらいまでなら大丈夫なのか、レムの脚の状態を見ながらその都度トレーニングメニューを考えていきましょう」
今日のところはとりあえずダートを少し多めにしてのトレーニングかしらね、と続けて、トレーナーさんはストップウォッチとタブレットを手に取り席を立たれました。
それを見たわたくしも、椅子から腰を上げて練習バ場へ向かう準備を始めました。
安田記念に向けてのトレーニングは、非常に順調でした。
トレーニングの負荷も平均的な丈夫さを持っているウマ娘と同じぐらい、というわけには参りませんでしたが、それでもかなりの強度のトレーニングはこなすことができておりました。
今まで地道に行ってきた、プールトレーニングやポリトラックでの走り込みはもちろんのこと。
レース勘を養うためのダートでの並走。
瞬発力を鍛えるための坂路トレーニング。
爆発的な瞬発力を引き出すための上半身のパンプアップ。
どれも決して、楽なものではございませんでした。
しかし胸に輝く【星】にかけて、恥ずかしいトレーニングはできません。
【星】というのは……G1を勝ったウマ娘には、URAから制服やジャージに付けることのできる、星をかたどった徽章サイズのバッチが贈られます。
ちなみにこの星はG1を制覇するたびに授与されるので、複数回G1を勝っているウマ娘はその回数分だけ、さながら戦闘機の撃墜マークのように星を持っているのですね。
さすがにいつもの授業の日にその星を制服につけている娘はいませんが、学園の式典や行事などでは、与えられた星をきちんとつけて出席するのがマナーとされています。
反対に普段のトレーニング中は、ほとんどのG1ウマ娘がジャージのどこかにこの星を身に付けます。
それは決して、単に自分の功績を周りに見せびらかしたいから、というわけではございません。
G1を勝った自分はたくさんの人から注目されている。
もしかしたら、自分のようになりたいと思ってトレーニングを見てくれているウマ娘もいるかもしれない。
そんな人達に気の抜けたトレーニング姿を見せる訳にはいかない、という自覚と戒めのためにG1ウマ娘はその【勲章】を身につけるのです。
G1に勝ったウマ娘がその後も第一線で活躍し続けるケースが多いのは、この【星】のおかげでトップウマ娘の仲間入りを果たしたとしても、気を抜かずにトレーニングを続けられているからかもしれませんね。
幸いなことにトレーニングの強度を上げてもケガが再発するようなこともなく、レースの一週間前には前回の高松宮記念の時以上に体が仕上がっている、と実感しておりました。
あとは本番の安田記念でG1ウマ娘として恥ずかしくないレースをファンの皆様にお見せするだけ、と思っていたのですが……。
「あれっ、どうしたのレム。元気ないじゃない。ひょっとしてダイエット中でお腹すいてるとか?」
トレーニング前のミーティングのためにトレーナー室で待っていたわたくしに、トレーナーさんはそんな声をかけてくださいました。
担当するウマ娘の感情を一瞬で見抜くその観察眼は褒めて差し上げたいのですが、もう少し言葉を選んでいただきたいものです。
……まぁ、レース前ということもあり少しばかり食事制限をしておりますので、空腹というのもあながち間違いではないのですが。
「トレーナーさんもご存じの通り、わたくしは体重の管理が難しいタイプでございますから、レース前はいつもお腹が空いていているんですけどね。それはいいのですが、その、今日の週刊ウマ娘を見て少し落ち込んでおりまして……」
「ああ」
わたくしのトーンの低い声を聞いて、トレーナーさんも思い当たるフシがあったようです。
「あの。わたくし、今年の高松宮記念を制したG1ウマ娘ですよね?」
「そうね。あなたのおかげで私の部屋にもG1のトロフィーを飾ることができたわ」
彼女はそういうと、棚に飾ってある高松宮記念優勝記念のトロフィーを指さしました。
このトロフィーはトレーナーとウマ娘のどちらにも贈られるため、わたくしの部屋にも同じものが飾ってあります。
「それなのに、六番人気の低評価に甘んじているのはなぜなのでしょう?……ひょっとしてわたくし、知らないうちにファンに嫌われるようなことをしたのでしょうか?」
どういうわけだか人間性やキャラクターがファンに受け入れられず、勝ってもあまり人気にならないというウマ娘が時々います。
ひょっとしてわたくしも、知らないうちにそういった種類のウマ娘になってしまっていたのでしょうか。
「いや、さすがにそんなことはないと思うけど。色々と原因はあると思うけど、一番の原因は単純に【初めての1600Mの距離に不安がありそう】ってことじゃない?」
「……そういえば、そうですわね」
わたくしのこれまでの戦歴は七戦四勝。
四つの勝ち星の中で、一番距離が長いのは初勝利の未勝利戦芝1400Mです。
これは別にわたくしが短距離にしか適性がなかったから、というわけではなく、脚の状態と体調が良かったときに選んだレースがたまたま短距離だった、というだけなのです。
中学時代の大会では何度か1800Mのレースも制しておりますし、中学生ウマ娘の最大目標である【全日本中学生ウマ娘ステークス】では1600M部門で一応、優勝していたりします。
「一応、中学時代にはマイルの実績もあるのですけれどもね。血統的にもひいおばあさまはこのレースを制していらっしゃいますし、お姉様もジュニア時代は1600Mを二度制していらっしゃいますから、この距離はわたくしも十分にこなすことができるのですけれども……」
思わずそんなことをこぼすと、トレーナーさんは苦笑いを浮かべられました。
「まぁ人間ってどうしても視界が近いところとわかりやすいところに向いちゃうからね。私はもちろんレムがマイルは十分守備範囲ってことはわかってるけど、普通のファンはなかなかそこまで視線が届かないものよ」
言われてみればそうなのかもしれませんが……なんとなく腑に落ちないものを感じるのは、やはりわたくしも【ファンの皆様に実力を認めていただきたい】という気持ちを持っているからなのでしょうね。
「それに今年は【すごい娘】がここに参戦するから、余計そこに注目が集まってるってこともあるわよねぇ」
そんなことを言いながら、トレーナーさんはミーティング中に飲むお紅茶を淹れはじめられました。
それを見てわたくしも、棚からティーカップとミルク、砂糖などを取り出して準備します。
そうそう、今朝レアさんから頂いて、少し残っていたクッキーもお出ししましょう。
ミーティング中はやはり空気も気も張り詰めるので、ちょっとしたブレイクタイムがあったほうが良い意見が出たりしますからね。
「ええ、驚きました。まさかクラシック級で安田記念に参戦してくる娘が出てくるなんて思いもしませんでしたわ」
そうなのです。
今年の安田記念には、クラシック級でありながら堂々シニア級の先輩たちに挑戦する猛者がいるのです。
その娘は去年の阪神ジュベナイルフィリーズ・桜花賞・NHKマイルカップとジュニア・クラシック級のマイルのG1レースを完全制覇。
メイクデビュー芝1600Mを皮切りに、その各G1のステップレースであるアルテミスステークス・チューリップ賞・ニュージーランドトロフィーも制しているという、まさに【マイルの申し子】ともいうべきウマ娘なのです。
マイルという距離に絶対の自信を持つ彼女は、桜花賞ウマ娘でありながらトリプルティアラの最高峰・オークスには目もくれず、安田記念に乗り込んできたというわけですね。
そんな彼女の通算成績は、ここまで負け知らずの七戦全勝。
その名をリナアラビアンさんといいます。
彼女が著名なのは、その驚異的な競走成績だけが理由というわけではなく……。
「彼女の二つ名が【最強で無敵のウマドル】か。そのカンバンに偽りなし、よね」
トレーナーさんのお言葉に、わたくしは小さく相づちを打ちました。
レアさんのお母様であるスマートファルコンさまが【ウマドル】というものを定着させて以降、数年に一度は【ウマドル】を自称するウマ娘が現れます。
リナアラビアンさんは、そんな【ウマドル】の系譜のウマ娘なのですね。
抜群のライブパフォーマンスと愛らしいビジュアル、それに豪快な追い込みを身上とする派手なレースぶりで大きな注目を集めていらっしゃるらしいのですが……。
「でもですね。歌もダンスもうまくて、レースの才能にも溢れている年下の愛らしい娘にあっさりとG1を持っていかれるのも面白くないではありませんか。ここは是が非でも先輩の意地を見せなければなりませんね」
わたくしがそんなことを言うと、トレーナーさんは思わずと言った感じで苦笑いを浮かべられました。
「あらあら、いつの間にかレムもそんなお局様みたいなことを言うようになっちゃったのねぇ」
「あっ、いえ。そんなつもりはなかったのですが」
やる気と負けん気を表明したつもりだったのですけれども、言われてみればそう聞こえてもおかしくなかったかもしれませんわね。
しかし、あっさりと【最強で無敵のウマドル】の軍門に降るつもりがないのも確かです。
そんな年下の強敵の存在は、わたくしの闘争心の大きな炎を焚べてくれたのでありました。
読了お疲れさまでした。
私の学生時代はそんなにたくさん友人もいませんでしたし、
カースト上位にいたわけでもないのですが、
朝学校に登校して挨拶を交わし、ゲームや趣味の話で盛り上がる
友人はいたように思います。
勉強も運動も今ひとつでしたし、女の子にもモテないような
学生時代でしたが(苦笑)、それだけで結構灰色の学校生活も
救われたものです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また近いうちに、あとがきでお会いしましょう。