マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
「ありがとうございましたー」
コンビニエンスストアというのは便利だ。とっぷり日が暮れた時間でも食事が買えるし飲み物も買える。キヴォトスではそれらに加えて各種弾薬が流通している。ピンク色の樹脂弾倉と一緒にカジュアルに売ってあるのは驚いた。トリニティ推奨口径弾薬入荷しました! なんてパステルカラーのファンシーなポップと一緒に飾られているのを見るとめまいがしたが、こういう世界だと割り切るしかないのかもしれない。
とりあえず晩御飯用にサンドイッチとホットのコーヒーを買って出た。コーヒーを飲んで目を覚まして、シャーレオフィスまでの30分を乗り切るつもり。今のところお金には困ってないのも大きいが、しばらくはコンビニご飯になりそうだ。
「とはいえ、食堂設備もあるんだよなぁ……シャーレオフィス」
もしシャーレが大きくなってオフィスビルの宿泊設備なども稼働するようになったらさすがに食堂の運用も考えなければならない。この予算もリンに相談しないといけない。考えることは山積みだ。
僕が個人として使えるのはリンから預かった『大人のカード』などと呼ばれるクレジットカードというか、どこかの口座と連動したデビットカードだけ。シャーレの予算と直結している様子はないが、総額が僕の入出金以外でちょくちょく動いているのが少々怖い。コンビニのATMで現金として下せるのは助かるが、どこに連動しているのかは謎なのが怖い。時々なぜか金額が増えているのが本当に怖い。
「それにしても……」
コンビニエンスストアの前に止めたロジコマ2機のボロボロ具合と街中での浮き具合を見て変な笑いが浮かんだ。正直これの予算がダイレクトに大人のカードに直結している方がまだ安心するような気がする。多分数百万は今日だけで吹き飛んだ……戦闘してきたんだから当然と言えば当然なんだけれども。
防弾板への被弾跡が痛々しい。これでいて走行中は軋み一つないんだからエンジニア部はすごい。本当にお礼を言わなければならないな。明日、この惨状をエンジニア部に説明しないといけないとなるといろいろと気が重いけれど、アビドスの子たちの代わりに傷ついてくれたのだから、1両全損、4両小破くらい喜んで背負おう。
とりあえず連れて帰っているロジコマの一両に背中を預けてカフェインレスのコーヒーを啜る。僕の職場ではアルコールもカフェインもあまり推奨されなかった。どちらも眠りを阻害するからだ。軍事の世界でいつでも眠れていつでも起きれる能力は必須だ。だけど苦味による刺激がほしくて飲みたくなる時がある。
苦味で目を覚ましながら今日のことについて考える。僕に借金の返済については帳消しにできるようなウルトラCがあるわけではないので、僕がまず考えなければならないのは武装組織の方だ。借金も人を殺すかもしれないが、武装組織はより直接的な脅威だ。
といっても、ちぐはぐな攻撃そのものの意図はなんとなく想像はついた。
「アビドスの子たちをあくまで疲弊させる必要があった、か……」
現状を整理するとカタカタヘルメット団を使って何かを成そうとしている者たちの目標地点はそうなる。カタカタヘルメット団がしているのはアビドス高校に対する
アビドス高校が廃校を避けるためには借金の返済が必要で、土地は質に入れているような状態のはずだ。つまりアビドス対策委員会にもう撤退する余地はなく、死守するしかない。抵抗する以外の選択肢を奪われたアビドス対策委員会にハラスメント攻撃は抜群に効いただろう。
「つまり、敵は戦力と戦況を正確に見積もった……指揮官はかなり話の分かる相手のはずだ」
手段も、タイミングも正確だった。なのに、攻撃する理由だけがわからない。何かの情報が足りてない。どこかで見落としたか、アビドスの子たちが僕にはまだ話せないなにかを持っているか。
「……そもそもなんで疲弊させる必要があった? 彼女たちに何を譲歩させたかった?」
武力衝突は外交の失敗として現れるものだし、僕の経験上で理が通らない動きを敵がした時は政治を疑うのが近道だったことも多い。それを踏まえると今回相手はお金を払ってまでアビドス対策委員会から何らかの譲歩を引き出す必要があるということだ。
「だとしたら、なんだ?」
融資したのはカイザーローンという会社だということだが、素直にそこに確認に行ったところで情報は出てこないだろう。債権回収もおそらくカイザーローン本社ではなく、どこかに委託しているはずで、そこの誰かが正式にくればいい。わざわざ暴力手段に出る必要はない。
ありえそうなのがアビドスの土地を急いで現金化する必要があるぐらいだろうか。しかし借金を盾にそのまま差し押さえすればいい。貸し剥がしは悪評が立つ可能性もあるが、わざわざ武器で脅すような嫌がらせをさせる必要なんてないし、キヴォトスで不動産投資が過熱しているなんて話は聞いたこともない。
考えたくない可能性だが、僕を巻き込むためにアビドスがヘルメット団を雇って実行したマッチポンプという線もあるにはある。だけれどもあそこまで豪華な罠を仕込むのも不自然な話だし、僕を巻き込んだところで借金は減らない。ヘルメット団を雇う金で返済する方を選ぶ子たちのように見えた。
それに、あの子たちを信じて手を貸すと決めて口にしたんだから、疑うのはいったんやめにした。本当にそうだったらあとでお説教すればいいだけだし。
コーヒーをもう一度啜る。夜になって冷えてきたのか、ホットのコーヒーが心地よい。
「失礼します。ここ駐車禁止ですよ」
「ん?」
いきなり声を掛けられる。いけない、いけない。思考が沈み込みすぎていた。
白というかグレーっぽい上着に紫色のスカート。紫色の腕章には「K.S.P.D」の文字。小さくて読みづらいが『Kivotos Student Police Department』とあるからキヴォトス学徒警察といったところだろう。白色っぽい銀髪に青色の瞳。両肩には拳銃をオープンキャリーしている。
「ヴァルキューレ警察学校、生活安全局です。ここ駐車禁止区域です。速やかに移動してください」
「え、でも駐車用の枠線が……あぁ、利用可能時間外か……」
「です」
そういって腰に手を当てて怒ってますと言いたげなジェスチャーを取る婦警さん……というより学生さんはそう言って僕の姿を舐めるように見てきた。
「すまない。すぐ移動しよう」
「その前に身分を確認できるものはお持ちですか?」
そう言われ一応発給されていた身分証を取り出す。日本で働いてたころみたいに首下げにするべきなんだろうかと思いつつ、それを婦警さんに渡した。
「アラタ・リョータさん……って、あ! 連邦生徒会の!」
そう言われ敬礼されたが相手の顔がすぐに険しくなった。
「って、連邦生徒会の顧問の先生が規則を破ったらだめじゃないですか!」
「いや、……はい。全くもっておっしゃる通りです」
戦車が我が物顔で走るところで駐禁もなにもと思うが、キヴォトスではそれが普通で日常なんだった。このあたりの感覚はミャンマーのままだった。まずいまずい。素直にこれは僕が悪い。
「一応このことは学校に……って連邦生徒会専属の顧問の先生だから連邦生徒会に報告……? えっと、あれ?」
なんかいきなりはきはきとした喋りが怪しくなってきた。ここまで大人の存在感がない街でも大人のこういう違反はイレギュラーらしい。
「えっと……この場合は、どこに……ちょっと待ってくださいね。確認します」
「いや、お手数かけてすいません」
ここは素直に僕が間抜けでやらかしただけなので謝るしかないのがつらい。
「騒がしいな、
「え? ……って、尾刃公安局長!?」
手帳を取り出して何かを確認しようとしていた婦警さんが慌てて敬礼の姿勢を取る。どうやら偉い人が飛び出してきたらしい。公安局長、今度は狐耳、本当にキヴォトスは耳の形が豊かだ。
「で、生活安全局がシャーレの先生を捕まえて何をしてたんだ?」
「えっと、駐車可能時間外に車両を停車させてたので……」
「ふむ……」
尾刃公安局長と呼ばれたこの狐耳の子、騒がしいと言って会話に割り込んだ割には僕の立場を知っている。公安、公安ね。そりゃあマークするよなぁ。イトウさんの親戚みたいな業務なんだろうし『相手を調べるのは礼儀みたいなもの』って前に聞いた。ミャンマーでの常識がキヴォトスでどこまで通じるかは不明だし、その常識を日に何度も破られている状況だからあまり参考にはならないだろうが。
「私にはそれよりも車両の被弾跡の方が気になるが? 明らかに条例違反の威力の兵装でつけられた跡のように見えるが……戦闘をしたのか?」
「えぇ、カタカタヘルメット団と名乗る集団から攻撃を受けまして」
ここは嘘をついても仕方がないので素直に答える。
「なるほど……相手側に密輸武器の使用の可能性がある、と」
そう言って顎に手を当てる尾刃公安局長。ヒトらしい耳と狐耳、どっちが本物なんだろうと関係ないことが頭をよぎる。
「このトランクを開けても?」
「えぇ、もちろん。ロジコマ、コンテナ解放」
連れ帰っている2台のロジコマ両方のトランクが開く。中には空になった交換バッテリーぐらいしか目立ったものはなく怪しいものはないはずなので存分に見てもらう。
「……なにか運んでたのか?」
「えぇ、アビドス高校から支援要請があって、補給物資を運んだ帰りなんですよ」
「ほう……?」
あれ? なにかおかしいことを言っただろうか。そう思っているとしばらく考え込むようなしぐさを見せた尾刀公安局長。
「新田リョータさんといいましたね。改めて、ヴァルキューレ警察学校、公安局局長の尾刃カンナです。道路交通法違反の疑いで任意同行願いたい」
「え? 局長!?」
尾刃公安局長――――カンナがそう言いながら警察手帳を出してくる。
「アラタさんは禁止区域に停車していましたが、すぐ動かせる状況で動かす意思も見せていたので聴取が発生するようなものでは……」
「あわせて違法流通している武装等についても確認したいことがある。任意同行願いたい」
中務さんというらしい婦警さんが慌てた様子で割って入るが、相手はどこ吹く風。実際僕もそうなるだろうなと思っていたので慌てたりしない。タブレットの指紋認証を操作して一応画面を呼び出す。
「いいですよ。戦闘等についてはロジコマ……このロボットのログもここあります。それら情報については包み隠さずお渡しできますし、
「何を言っているかわからんな」
「えっと局長? もしかして……それは別件逮捕では?」
その困惑した中務さんの声にカンナはため息をつくだけだった。
「どちらにしても道路交通法違反の疑いがある。そっちの取り調べについては生活安全局で実施すればいい」
「しかし……」
「わかったら返事をしろ、中務キリノ」
わかりやすいコンタクトだなぁと思いつつ僕はコーヒーをとりあえず飲み干した。婦警さんの名前がやっと聞けたけれど、その婦警さん、キリノはどこか不満そうにうつむくだけだ。
このタイミングでの任意同行。僕の『擦り合わせ』というピントのズレた回答にカンナはどういうことだなんて聞き返さず、返ってきたのは実質的な回答拒否だ。カンナは
つまりはこちらの動きを封じたいという釘刺しだろうか。それが警察関連のところからくるということはいろいろと根が深い話になってきた。
セリカの言葉をふと思い出した。
――――あいつら何にもしてくれないじゃない! 会議に出ても『他校との統合が妥当』とか紙切れ一枚よこすだけ! 破産すればいいんですよとか言うだけ言って何も……!
その思い出した間にもキリノはカンナに詰め寄っていた。
「尾刃局長! 納得できません!」
「……中務キリノ、指示には従え」
「ですが! 補導規範などに抵触します!」
「あー、大丈夫」
このまま放置されても時間がかかりそうだったので、僕が割り込む。割り込まれると思ってなかったのかキリノはどこか驚いた顔をした。
「僕も尾刃カンナ局長に聞いてみたいことができたし、今は少しでも情報が欲しい状況だ。ついていきますよ。どこに行けばいいんだい?」
「ふん。殊勝な心掛けだな。ついてこい。第三新校舎で取り調べを行う。その車両も連れてこい」
とっぷり日がくれているが、もうしばらくだけ頑張らないといけないみたいだった。
総合評価1,000pt越えありがとうございます。
書きたいように書いてたら今回投稿する予定の話の前半だけで5,000字超えたので分割です。
ということでヴァルキューレ警察学校組が出てきました。好きなんですよねヴァルキューレ組、カンナちゃんとかキリノちゃんとか、弊シャーレには合歓垣さんが合流してくれませんが……うぅ
次回 ドーナツと疑念
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誤字報告大変助かっております。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。