マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00001011_任意同行とチョコドーナツ

「さて、改めて名前から聞かせてほしい。そういう手続きになっているので」

「アラタ・リョータ。アラタは新しいに田んぼの田ですね。連邦生徒会、捜査部の顧問をしています」

 

 やたらと壁に三角形のモコモコがついた取り調べ室でカンナと向かい合う。壁のそれは防音材というよりは暴れたときの緩衝材か、もしくは電波暗室にでもなっているのだろうか。

 

 目の前には昔ながらの金属製のテーブル。そこにコーヒーを置いたカンナが指を組んで向かい合う。つまみながらできるようになのか、ドーナツがいくつかあるのが見えた。

 

 それよりも気になったのが、この部屋に入ってドアを締め切ったとたんカンナの態度が少しフォーマルになったというか、堅くなったことだ。なぜだろう。そう考えつつ質問が来るまでは黙っている事にした。

 

「それで、明らかに威力の高すぎる武装がもちいられたようですが。どこでなぜ戦闘に?」

「なぜ、というのは掴みかねているので答えられませんが、戦闘については2回。アビドス高等学校の側で1回、カタカタヘルメット団というらしい武装組織から襲撃を受けました」

「もう一回は?」

「同じくカタカタヘルメット団らしき武装組織と戦闘になりました。こちらは地域の見回り中に怪しい動きがあったため致し方なく」

 

 限りなく嘘に近いが、事実ではある。アビドス高等学校は流砂対策が間に合っていない現状を僕に説明するためにつれて行った先でたまたま襲撃を受けたことになっているし、実際あのあたりは流砂のひどい地域ではある。

 

「そこでミサイルのようなもので攻撃を受けた」

「はい」

 

 僕はミサイルだなんて言ってないんだけどなぁ。と思いつつ、嘘ではないので頷いておく。どうもこの公安局長、優秀なんだろうが、致し方なく僕に釘を刺しに来た感じがどうも拭えない。多分接触しろと言ってきたのはもっと上の階層だなと当たりをつけておく。

 

「その時の画像は?」

「襲撃を受けてからのものでよければこのタブレットと、各ロジコマの記録領域にデータがあるはずです。自由に抽出していただいて構いませんよ。シャーレに機密事項があるわけでもないし、まだ部員も備品管理のためにミレニアムの生徒に何人か名前を貸してもらっているだけですから。活動として機密事項の高い事項を扱っているつもりはありません」

 

 そう言いタブレットを机に置く。相手はPCから伸びるケーブルを差して、データを探しているようだ。アロナには変なことをしないでくれと釘を刺した。相手は画像フォルダなどに直行しているらしい。必要なのは動画などのデータだし、それ以外のところは必要ないという判断だろう。このあたりはお互い信頼していきたいものだ。

 

「それにしても弾痕だけでよくミサイルだとわかりましたね」

「そう言うあなたはよく口が回るんですね」

「情報が欲しいのは君たちの方に見える」

 

 相手は能面みたいに表情を落とした。うん、やっぱり言われたから来てるだけだなこの子。そしてこの子はそれに納得していない。

 

「交渉をしているつもりですか?」

「何についてだい? 僕はただ子ども達が戦闘に巻き込まれている現状をなんとかしたいだけだ。おそらくヘルメット団という不良組織に資金と武装を送り込んでいる大人がいる。僕の狙いは()()だけです。僕は彼らに手を引いてもらいたいだけですよ」

 

 そう言うとカンナは鼻を鳴らした。

 

「そうか」

 

 それで会話が一旦途絶える。おや? ここで会話が途切れるんだ。と少し意外になる。

 

 明確な敵ではなくなった……かな? ヴァルキューレ警察学校が主体という可能性は少し減っただろうか。それでも無関係ではなさそうだし、上の意向を無視できるほどの権限はない、ということだろうか。そうなってくると僕は雇い主を疑わなければいけないわけだけども、さて、困った。

 

「なぜ先生はアビドスに?」

 

 そんなことを考えていたら話題が変わった。

 

「アビドス高等学校の生徒から救援要請があった。武装組織に襲われるようになって兵站が尽き果てそうだということで、ロジコマで運搬した」

「アビドス高等学校? あそこは連邦生徒会の議決権を停止させられているはずですが」

「たしかにそうだね。でも議決権を停止させられているだけで除名にはなってはないんだろう? なら、連邦生徒会傘下の僕には動く権限があると思うけど、今もね」

 

 アビドス高等学校の状況は警察も認識しているらしい。

 

「調査で必要ならデータの提供を行うし、必要なら連絡士官(リエゾン・オフィサー)をシャーレにおけばいい。必要な協力は惜しまないよ。それが戦力の提供でもね。ヴァルキューレ警察()()ってことは連邦生徒会には加盟してるんじゃないのかい?」

「申し出はありがたいが……いや、やめておきましょう。戦力ならヴァルキューレにもパートナーが居る」

「なるほど」

 

 コンコン、とカンナの手にあったコーヒーマグが音を立てた。

 

「シャーレが何をしようとしているかはわからないが、ヴァルキューレを甘く見ない方が良い」

「……?」

 

 どこか演技くさい自慢げな声とは裏腹にカンナの表情は暗く沈んだままだ。口調を崩したのもわざとだろう。

 

「万年戦力不足で有名なヴァルキューレも警備局主体でカイザーPMCとの連携が始まった」

「カイザーPMC……なるほど」

 

 またマグをぶつける音がする。やはり二回。

 

 たしかアビドスでの会話でローン会社の名前を思い出しつつ意識してゆっくり話す。早口で話すと自分自身の思考をも早めてしまう。こういうときに結論を焦るのは良くない。

 

「僕は民間軍事の世界に居たことがあるけど、優位性というのは兵器の優劣のみで決まるものではないよ。情報連携の密度やお財布事情、いろんな情報が複雑に絡み合う中で、一企業に依存するのはよろしくないと思うけど。それに警察組織と相性が悪いことがほとんどだ」

「心配には及ばない。カイザーコーポレーションはキヴォトスでも最大クラスを誇る巨大な多業種複合企業(コングロマリット)だ。金融、製造、警備、不動産……どれも実績ある会社でね」

 

 もう一度コーヒーマグが鳴る。二回。これでトータル三回目。

 

「それに、そういう契約周りの話は私にではなく、連邦生徒会にするべきだ。そうだな……防衛室の不知火カヤ室長あたりなら知ってるんじゃないのか?」

「なるほど、警備で食うに困ったら泣きついてみるよ」

 

 そう言うとあからさまに顔をしかめるカンナ。おそらくこれは本音だろう。

 

「困る予定でもあるのか?」

「今のところはまだ」

 

 そう答えつつゆっくりと頭を回す。コーヒーマグが鳴る、今度も二回。二回鳴るのがダブルクォーテーション(“ ”)の意味だとして、意味は強調か引用か。どちらにしても、その鳴った中身が伝えたい核心ということだろうか。

 

「ちなみに今回の戦闘、一応アビドス高等学校の自治区内で発生したと思ってます。その場合ってヴァルキューレ警察学校は出てこれるのかな?」

「要請があれば。ですが、そんな長距離の遠征を前提にした即応は無理でしょう。D.U.や学園に組み込まれてない私有地の警備・防衛だけで手一杯なのですから」

「防衛? 警察が防衛ってあまり聞かない用語だね」

「ヘルメット団のような犯罪組織も重武装の一途をたどっています。それこそ、戦車やヘリが出てくる程度には」

「なるほど、もはや防衛戦ってわけだね」

 

 で、それに僕も巻き込まれる、と。D.U.と言えば連邦生徒会の直轄地のようなもので、シャーレのビルも立地する場所だ。たしかにキヴォトスに来た初日の戦闘ログに戦車がリストアップされていたが、ヘリコプターまで出てくるらしい。操縦をどこで習うんだろう。それともAIなどでラジコン感覚でいけるのだろうか。そうだとしたらかなり厄介だ。乗員のタフさも考えるとそれこそ使い捨て感覚でヘリコプターが投入される可能性もある。対空も考えなければならないとなると、一気に不安要素が増えてくる。

 

「で、アビドス高等学校の自治区の中で不当な武器を使う集団が現れた場合、それを僕やアビドス高等学校の皆が排除しても問題は無い?」

「ありません。自治区の中はそれぞれの学校で治安維持の仕組みがあります。ゲヘナの風紀委員に、トリニティの正義実現委員会や自警団、それらの自治組織で処理できなくなれば我々ヴァルキューレやSRT、これからはシャーレもそこに入るのかも知れませんが、それらで犯罪者を拘束し、それでも問題があれば犯人を連邦矯正局に叩き込む」

「なるほど」

 

 固有名詞のオンパレードで何が何だかわからないが、自治区での異常事態は自治区にある学校が対応し、それでも上手くいかなかったら連邦生徒会などの応援を頼んで制圧。捕まえた後の犯罪者で手に負えないものは矯正局という刑務所のようなところに叩き込む、ということらしい。だいたいの流れはわかった。

 わかったが、納得が追いついてこない。子どもが地域の責任を負う世界は、やはり間違っている。

 

「まるで世界を滅ぼしそうな顔をしていますね」

「今いる子達を見捨てられないと思っただけだよ」

 

 そう言って立ち上がろうとする。だいたいの話は聞けた。それに向こうも別件逮捕をしてまでデータを得たがった。そのデータは先ほど渡した。相手もこれ以上の勾留を必要とはしないだろうし、僕も必要無い。実際、タブレットを回収する僕を、彼女は止めなかった。

 

「先生に一つだけ、聞いておきたいことがあります」

 

 僕が部屋のドアに手をかける段階になってはじめてカンナが引き留めてくる。

 

「誰かを見捨てることで正義が成されるとして、先生はそれを選びますか?」

「僕は正義の味方じゃないよ、カンナ。それに僕の行動の理由を知りたいのだとしたら、その質問は不完全だ。僕は正義かどうかで行動を変えたことがない」

 

 素直に答えると、相手は黙り込んでしまった。さすがに答えが曖昧すぎたかと思って少し考えてから口に出す。

 

「実際僕は戦争しか能のない極悪人だ。実際僕はある国の暗殺対象だったし、同じ時期の別のある国からは実効支配地域を国として独立させろとか言われたこともある。正義にはいろいろある。いろんな組織が、いろんな人が正義を掲げて戦争をする。だから正義の為には仕事をしない事にしている」

「じゃあ、先生は何のために戦うんです?」

 

 戦争という言葉に釣られたのか、カンナが戦うというワードを使ってきた。教育に良くない問答だったと思う。僕らしくない、それでも、答えなければいけないと思った。

 

 

 

「戦うことしか選べなかった子ども達が、いつか銃を置くために」

 

 

 

 コンビニで弾丸が買える世界で、そんなことは夢物語だろう。それでも誰も大人はその夢を掲げてこなかったのだろう。だったら道化の一人くらい、許されてもいいだろう。

 

 子ども一人、女一人、村一つ。僕が僕であるために必要だった犠牲。

 

 それを帳消しにすることなんてできないけれど、僕が大人としてできることをする以外に僕は選べなかった。その選択は、まだ続いていると信じたい。

 

「……もう一つだけ警告しておきます」

 

 その答えが気に入ったのか気に入らなかったのかはわからないが、情報をくれるらしい。

 

「アビドスの砂漠には近づくな」

「……難しそうだけど、覚えておくよ」

 

 ドアを開ける。

 

「……シャーレにはヴァルキューレから連絡士官(LO)をつける。何か怪しい動きがあったらすぐに駆けつけるからな」

「無料で護衛を雇えたと思っておくことにするよ」

 

 そう言って取調室を出る。なるほど、防音構造の取調室じゃないと話せないはずだ。これが彼女にとって今できるギリギリの譲歩だったのだろう。そして、彼女は間違い無く敵ではない。彼女のことも庇いながらのオペレーションが必要になる。

 

 連邦生徒会防衛室、ヴァルキューレ警察学校警備局、カイザーコーポレーション。アビドス高等学校とアビドスの砂漠。

 

 さて、だれがどこの何を欲しがっているんだ?

 

「まずは……明日、挨拶だけしとかないとダメかもなぁ……」

 

 込み上がってきたあくびをかみ殺して、僕は警察学校の校舎を出ることにした。

 

 追っ手はかからなかった。少なくとも警察学校にとって、僕はまだ利用価値があるらしい。

 

 

 


 

 

 

「ちょっとちょっと! キリノどこにいくのさ!?」

「生活安全局長から抗議してもらいます! さすがにカンナ公安局長の行為は看過できませんっ!」

 

 両手を広げて通せんぼしてくる同僚の合歓垣フブキを押しのけながら私はずかずかと廊下を進む。無理矢理つれて行かれた先生を見送って、配属の校舎まで戻ってもやっぱり納得できなかった。

 

「はい、少しは糖分取って落ち着く!」

「もごっ!」

 

 チョコのオールドファッションを無理矢理口に突っ込まれて急停止。肺に砕けたドーナツが入りそうになるので勘弁して欲しい。

 

「……落ち着いた?」

「全く落ち着くわけないじゃないですか!」

「うん、さっきよりはマシだね。認識はできてる」

 

 フブキがうんうんと頷いているが、落ち着けなんてしなかった。

 

「調査のために不必要な拘束をするなんて、当たり公妨に並ぶ重大な規範違反、それも被害を被ったのは市民である先生なんですよ!? それをしたのは公安局長って上級幹部なんですよ!? どうしてフブキは落ち着いてられるんですか!?」

「よく言うでしょ? 非常時こそコーヒーを淹れろって。で、キリノはそれを見逃せないわけだ」

「見逃せるわけないじゃないですか! 私たちはヴァルキューレ警察学校の生徒です。キヴォトスの治安を護るため、法と規則、規範のみを拠り所とし! 何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず! 不偏不党且つ公平中正に警察職務の遂行に当ることを固く誓った! この学校の誰もがそう誓って入校した生徒なんですよ!」

「真面目だねぇ、宣誓文なんてよく覚えてるもんだ」

「茶化さないでくだ……ふがっ!」

 

 またチョコファッションを口に突っ込まれる。フブキは都合が悪くなると自分がドーナツを食べるか、相手にドーナツを食べさせることで黙らせる癖がある。

 

「まーまーまーまー、わかるようん。理由も憤りも」

「だったら!」

「でも、公安局長が直々に張ってたってことでしょ? 先生を」

 

 私が声かけした直後に現れたということはそうだろう。最初から公安局は先生をマークしていたことになる。

 

「公安局には公安局の正義がある。生活安全局には生活安全局の正義がある。……カンナ局長には私たちが見えないものが見えている」

「でも……!」

「それに、内輪で揉めてて良い状況じゃないしね。七囚人脱走の件も残ってるしさ。報告だけ上げてあとは上に任せるのが吉だよ、キリノ」

 

 そう言って丸め込まれてしまう自分が嫌いだ。突っ走ってしまう自分も嫌いだ。

 

「まぁ、私たちが追い切れない正義をカンナ局長が追うのなら、カンナ局長が見逃した正義を執行するのが、私たちの因果なのかも……なんて、絶対似合わないね。言ってみただけだよ」

 

 そう言って逃げるフブキも、それを笑い飛ばせない自分も嫌いだ。

 

「でも、私たちは……」

 

 そこまで言って、端末が通知を告げる。重要度は通常で、緊急での出動ではない。同じタイミングでフブキにも通知が入ったらしい。

 

「……出向命令? 明日から?」




前話と合わせてこれを一話でやろうとしてたってマジ……?

次回 インフォメーション・イルミネーターのアウトライン

今のところはヴェリタス&エンジニア部回の予定。

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