マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
「本日付でヴァルキューレ警察学校生活安全局より連邦捜査部シャーレに出向となります。中務キリノです」
「同じく
ヴァルキューレ警察学校から
カンナ、連絡は早めにしてくれなんて嘆いていても仕方がないので、とりあえず敬礼を返しておく。僕がしてもあまり様にはならないけど。
「連邦生徒会、捜査部顧問、アラタ・リョータだ。キリノは昨日ぶりだね」
「はい! あの、昨日の取り調べは大丈夫でしたか……?」
「大丈夫大丈夫。僕も情報が欲しかったし、カンナも優しかったしね」
正直な感想を口にするとフブキもキリノも『何言ってんだこいつ』と言いたげな目をした。
「あの“狂犬”カンナが……?」
「優しいんですか? 公安局長が……?」
「狂犬?」
話が見えない。僕から見たら中間管理職を押しつけられて大変な子にしか見えなかったんだけど。
「あの、公安局長……狂気じみた執念で犯人を追い詰めて捕まえることで有名で……その……」
「見た目も怖いしねぇ、公安局長」
「なるほど。あだ名か。怖いというより優しさの発揮のしかたがわからないって感じかなぁ、あの子」
そう言うとなんだか二人はもっと遠い目をした。まぁ僕は一晩たって冷静になったこともあって完全に親目線になってしまったから、二人に僕の心境をわかってくれというのも、まぁ無理な話だろう。
「大人ってすごい……!」
キリノになんだからキラキラした目で見られているが、とりあえず話が進まないので、二人をロビーに入れる。
「とりあえず入り口の認証ゲートは、この後シャーレ用のパスカードを発行するまではゲストIDを使ってくれ。僕も今朝二人の着任を聞いて今後の流れをあまりつかめて無いんだけど、二人の活動時間とか、ここまでの通勤……って言って良いのかわからないけど、その手段とかは何か聞いてるかい?」
「出向扱いですので、そのあたりはシャーレの活動時間に準じます。ヴァルキューレ警察学校内の生徒宿舎に荷物もありますが、毎日の移動が大変なので、オフィス勤務がメインになるなら、近くに部屋を借りようかと……」
キリノの回答に突っ込みどころがいろいろ出てくる。
「うん? 学習とかは……BDや教本で実施するから、警察学校に通学する必要はないのか」
「だよー? それに毎日報告のためだけに朝夕2回ヴァルキューレに顔出すのも面倒だし、だから在籍出向って事にさせてもらったワケ。だからシャーレの制服とかあるならそっちに着替えるよー」
ヴァルキューレの制服かっこいいんだけど首元苦しくて暑いんだよねー。とはフブキの談だが、話を聞けば聞くほど僕の仕事が積み重なっていく。
「と、とりあえず必要ならビルの中に部員用宿舎があるから使ってもらって構わない。一応ハウスキーピングシステムが稼働してるから、衛生状態は悪くないはずだけど……備品足りてるかな……」
「え? シャーレってこのビルの中に住めるんですか!?」
「ヴァルキューレのボロ宿舎とは大違いだねぇ……」
執務室のある5階へのエレベーターを呼び出しつつ考えをまとめていく。
部屋はそれでいいとして、食堂を急いで稼働させないとだめだ。ここに子どもが住むとなったら食をおろそかにするわけにはいかない。だれか食堂周りの運用が出来る人を呼ばないとだめだ。
制服はシャーレとしては制定してない、というか他の学校の生徒に兼任してもらうことを想定してたから、腕章はあっても制服がない。
「あと、制服はそのまま着用してほしい。在籍出向って事だから君たちの権限そのものは活きてるはずだしね」
そうは言うが、やっぱりシャーレ単独で制服の制定も考えた方がいいのだろうか。このあたりも専門家にアドバイスを仰がないと僕にはさっぱりわからない領域だ。
またリンに質問してわかりそうな人に繋いでもらわないといけない。そろそろ質問が多すぎると彼女に怒られそうだけど。
「とりあえず明日明後日ぐらいまでを目途に食堂とかの段取りをするから、それまでは申し訳ないけど警察学校の宿舎を使ってほしい。1週間もかからないと思うけど……不便をかけるがすまない」
「今度ドーナツ奢ってくれればいいよー。トップは大変だねぇ、先生?」
フブキがからかってきたタイミングでエレベーター到着。まったくだ、と答えつつ乗り込んで流れで執務階まで移動する。
「とりあえず今日は二人の事務デスクとか手続きとかしたいんだけど……ちょうど今日、ヴェリタスとエンジニア部の面々も揃うことになってるし、ちょうど良いか」
「エンジニア部って言うと、ミレニアムの?」
キリノが聞いてくるのに頷いて答えて執務室に繋がるドアを開ける。
「キリノは見てるけど、昨日のロボット、ロジコマを作ってくれてるのがエンジニア部だね。今日は電子情報のプロのヴェリタスも加わって指揮管制システムの試験とか、ロジコマとの連携試験とかを予定してたんだけど……いろいろと僕が怒られなきゃいけなくなっちゃってね」
「本当にトップは大変だ……で、私たちはどうすればいい?」
「いろいろと意見も聞きたいし、事務仕事をお願いしてる面々との顔合わせも合わせて、午前中は僕と一緒に行動してくれ。いきなり上司が怒られるのを見せるのは思うところがあるんだけど……仕方が無い」
「一体何をしたんです?」
キリノが真顔で聞いてくる。
「……いろいろあって、試験に使えるロジコマがなくなった」
「はい?」
「はぁああああ!? もうロジコマちゃんがこんなに壊れて、うおおおおおおお!」
シャーレの西側半分は地下1階から地上2階にかけての3フロアを使ってガレージ兼装備の保管庫兼メンテナンススペースが確保されているのだが、そこにコトリの絶叫が響く。それはそうだろう。本来は5機あるはずのロジコマが1機もないのはなぜかを聞いて、戦闘シーンの記録映像をみせられたら叫びたくもなる気持ちはよくわかる。セミナーから顔をだしてもらったユウカのため息が嫌に響く。
ここに揃っているのはユウカとコトリの他に、エンジニア部からウタハとヒビキ、ヴェリタスからハレとはじめましての子が二人。真っ赤な髪の子と黒髪に黄色いウサギの髪留めをした子。それにヴァルキューレ警察学校のキリノにフブキが合流して結構な大所帯になってしまった。
「1機がミサイルには耐えたけど工場の崩壊に巻き込まれて全損、2機はアビドスで待機中、残り2機はヴァルキューレ警察学校で公安部に証拠物件として確保された、と……面白いことになってるね? 稼働状態にしたの一昨日の夕方だと思うんだけど、24時間経たずにすごいボロボロじゃないかな?」
「ははは、返す言葉もないよ」
エンジニア部部長のウタハが肩を組んでそう言ってくる。首に回った腕が食い込んで苦しい。
「で、私たちの傑作自律戦車に想定外な耐久試験を無償で提供してくれたこの武装集団にはきっちりお礼をするんだろうね?」
「直接手を出してる武装集団にはしないよ」
そういったらさらに首が絞まった。そろそろ顔が赤くなっているんじゃないだろうか。
「そこにお金を払って襲わせてる上が居るから、そこを締めるしかない。今はそっちに絞って情報収集中だよ」
「そうならそっちを先に言ってほしいな」
やっと首が解放されたが、跡になってると嫌だなと思う。
「そうなってくると、ロジコマの追加配備を急ぎたいところだよね。パーツの供給は急ぎでやってもらってるけど、いつまでに何機ほしい?」
「ウタハ、逆に聞いちゃうんだけど、いつまでに何機できる?」
「そうだねぇ……パーツが揃うのが明後日、そっから一日あたり3機組み上げるのが限界かな。製造工程はほぼ自動化できてるけど、検査はエンジニア部が手と目で確認するしかないからね」
「じゃあ、2週間後までに12機を目標にしてほしい。トラブル発生の場合は遅れても構わない。ついでに見たとおり砂漠での戦闘になる可能性が高いんだけど、キャタピラみたいなオプションってあったりする?」
「もちろんある。それも合わせて20日後までに14機でどうだろう?」
「助かる」
「対戦車ミサイルの直撃に耐えるという目標は達成してたし、そのデータは取れてたから今回の特急料金はオマケするよ」
ウタハが頷いて肩を叩いて離れていく。
「今日はロジコマを使って指揮システムの確認は無理だろうから、私とヒビキはロジコマの製造レーンの調整に入るよ。コトリ、イルミネーターの方の話預けるからあとはよろしく」
「はいっ! おまかせくださいっ!」
そう言って早々にヒビキとウタハが離脱する。もっとひどく怒られるものだと思ってたんだけど。
「で、ロジコマの方はいったんこれで進めるとして、指揮システムとかの話は……ハレに聞けばいいのかな?」
そう言うと隅の方にいたハレは首を横に振った。
「その話は副部長から」
そう言われて一歩前に出てきたのは、はじめましての子の黒髪の方。
「ヴェリタスの副部長、
「捜査部顧問のアラタだ。参加ありがとう」
「気にしないで。ヴェリタスにとってもうまみのある話だから乗っただけ。ミレニアムとも連邦生徒会とも等しく距離をとりながら動ける環境が欲しかったしね。とんでもないサイズのサーバを置くことを認めてもらったわけだし」
「チヒロ、それ聞いてないんだけど?」
ユウカが会話に割り込む。
「言ってないからね。シャーレ用の指揮管制プログラムとセキュリティパッチ、エンジニア部と共同でロジコマに搭載する補助通信機材群と生徒用のティティとアプリケーションのトータルパッケージを超特急で開発、保守を行う代わりにヴェリタスのサーバとシャーレ本部ビルに設置するサーバで
「……先生? ミレニアムの子達を巻き込むときは
青筋を立てたユウカにネクタイを引っ張られる。今日はどうやら首を狙われる一日らしい。
「ヴェリタスを巻き込むことは伝えてたし、ヒマリから『ユウカちゃんには私から伝えておきます』と言われたんだけど……」
「聞いてないんですけど!」
それにけらけらと笑ったのはマキだ。
「そりゃあ、あたしたちがユウカに情報丸々流すわけ無いじゃん?」
「やっぱりあんたら狙ってやったでしょ!」
ユウカに首根っこを捕まれたままチヒロとユウカの言い合いが続く。あっかんべーをしているマキもいてどんどん場が混とんとしてきた。僕やヴァルキューレ組は完全に蚊帳の外になってきた。
「で、ミレニアムの内輪もめは後でやるとして、ティティの説明からだね」
ちょっと!とまだ食いついているユウカを後目にチヒロが箱をポケットから取り出した。数は二つ。ティティなんてすごい名前をつけるなと思っている間にも説明が始まった。
「Terminal Illuminater of Tactical Task for Youngsterの頭文字を取って
箱の中身はそれぞれコンタクトレンズとシューティンググラスのようなものだった。どちらもハードケースに包まれコンタクトレンズの方は洗浄液に浮かんでいるのが見える。シューティンググラスの方は、ハードケースを開けると電源が入る仕様らしく、青っぽい光がレンズに浮かんでいた。
「コンタクトレンズの方は生体電流を使って稼働するからバッテリー切れの概念がないし、眼鏡との併用もしやすい。だけど当然眼に入れるものだからケアが大変なのが玉に瑕でね、眼鏡の方も作った。こっちはバッテリーを使うから作動時間に限界があるけど、ツルの部分がアンテナになってるから通信が安定しやすい。あと、逆光の状態で表示が見やすいのは眼鏡の方かな」
「なるほど」
眼鏡の方を取り出して掛けてみる。うん、UIの詳細は違うが、僕が前に使ってたインフォメーション・イルミネーターにかなり近い。
「眼鏡の方は骨伝導で声が伝わるのかな」
「そうだね。コンタクトの方も問題なく音声通信できるよ」
「仕組みはよくわからないけど、すごいな」
「ガワは既製品だし、よくあるやつだよ。ただし、コンタクトの方は長距離通信の補助にスマートフォンかタブレットを使うから手間と言えば手間かな。まぁ今時みんな持ってるだろうから問題ないとは思う」
「うん、いいね。この薄いので処理ができるんだな」
シッテムの箱を取り出しながらそういうとチヒロは首を横に振った。
「ティティはあくまで表示端末と入力端末。処理はあくまでサーバサイドで実施することになる。だから先生の要望に合わせて、3000機までは遅延を100ミリ秒以下で行えるようなサーバ構成にしたんだけど……本当にここまでいる?」
「ありがとう。処理能力は多いに越したことはないからね。表示は問題なさそうだね。あとは僕の端末との連携がどうなるかだけど……アロナ」
『アプリケーションの連携を確認しました! 位置情報等問題なく取得できてます』
「……僕のタブレットでも確認できた。うん。これを軸に動かしていけばよさそうだ」
そう言うとなぜか肩を落とすハレ。
「相変わらずよくわからないタブレットだね、それ」
「まぁ、連邦生徒会でも中身がよくわからないと言ったみたいだしね。僕には使いやすくて助かるけど」
「……そう」
ハレが恨めしそうにタブレットを見てくる。この子、ロジコマの試験のことをやっぱり引きずってるらしい。
「で、ハレを沈めたってドローンを使って試験予定だったのに、今日はない。と」
「本来は二機手元にある予定だったんだよ……でもまぁ、急ぎで連邦捜査部としてまともに調査しないといけないことができたからその代償だね。……ちょっとそれに関連してヴェリタスやエンジニア部の皆にも聞きたいことがあるんだ。データの表示のテストもかねて作戦指揮室に移動したいんだけど、みんないいかな?」
そう言ってぞろぞろと5階に戻る。僕の執務室のとなり、4階と5階の2フロアをつかった大規模な作戦室がある。大学時代の階段教室の階段を急にしたような作りで壁一面の巨大モニタと指揮官用の専用コンソール。あと、その補佐役用の座席が6席設けられた大規模な作戦指揮所だ。
「ヴァルキューレの発令所みたい……」
指揮所に入るとキリノがキラキラとした目で周りを見回している。うんうん。素直なのはいいことだ。僕も初めてこれを見たとき正直ワクワクした。
「アロナ、
指示を出すとほぼラグがなく、壁面モニタに戦闘シーンが表示された。相手が肩持ち式の小型ミサイルを構えているのを捉えている。
「そこで止めて。……昨日の戦闘シーンだけど、ミサイルを構えている戦闘員の他に人影が3人。問題はそのうちの一人でパワードスーツを着ているのがいる」
「……色塗り替えてるけど、あれカイザーPMCの旧型パワードスーツじゃないの?」
そう口にしたのはフブキだ。
「多分それ、カイザーPMCが一昨年あたりまで採用してた非対称戦闘向けパワードスーツじゃない? 左肩に刻印があったはずだからそれを消した跡があれば
「アロナ」
僕が口にするのとほぼ同時に肩の部分が拡大されるが、画素数が粗すぎて判別できない。
「となると出所はブラックマーケットあたり?」
マキがそう言って首を傾げる。げーという顔をしているのはキリノだ。
「面倒ですね。ブラックマーケットはヴァルキューレ警備局でも手を焼く危険地帯です」
「スラム化した闇市と思えばいいかい?」
「うん、先生の理解で間違いない」
チヒロがそう言って補助コンソールをいじり出す。
「お金さえあれば何でも揃う場所だよ。ヘリに装甲車、あとはドラッグからすぐに販売禁止になったソフトウェアやアニメグッズまで、合法違法問わず流通してる。……で、このパワードスーツの持ち主が今回の相手?」
「と、僕は考えている。それもアビドスに対して莫大な資金の投下を厭わない。かなり厄介だね」
「なるほど、だからロジコマの配備を急ぎたいというわけですね!」
コトリがそう言って手を打った。その横でユウカが考え込んでいた様子だったが、軽く手を上げて発言をする。
「こんな戦闘が何度も起こるってことですか?」
「いや、起こさないためにも配備を急ぎたい。敵はバカじゃない。間違いなく指揮官は高等教育を受けている。ヘルメット団をつかったハラスメント攻撃がロジコマには通じないことは理解したはずだ。相手は手段を変えてくる。何とか先手を打っておきたいんだよ」
攻撃手段をできるかぎり削いでおきたい。そういうとハレが唸った。
「でも、砂漠って電子機器にはハードな現場だからね。こういうところに配備するのは大変そう」
「そこは大丈夫ですっ! LCM-01Sは高度な防塵システムと高度な熱交換システムを搭載しておりますので!」
そんな会話が始まったが、タブレットが着信を告げた。音声通話だ。画面を見る。
発信者は、奥空アヤネ。
嫌な予感がした。すぐに出る。
「アラタだ、アヤネ、どうした?」
「アラタ先生! セリカちゃんが!」
慌てふためいた声がする。それとは反対に、頭の奥底が冷えていくのがわかった。
「セリカちゃんが、昨日の夜のアルバイトから帰ってこないんです!」
うん、やっぱり相手はバカじゃない。正確に僕たちが嫌がることを対策を打ち切る前にやってくる。
「わかった。今そっちで掴んでいる情報を教えてくれ。こちらも動く」
評価バー空きなしで点灯しました。皆さまありがとうございます!
日刊ランキングにもちょくちょく入っているようで、励みになっております。
さて、柴関ラーメンに行く前に動いてしまったカタカタヘルメット団。ラーメン屋でのあれやこれはまた後日ということで。
TITTYがとんでもない名前と言うのは本当にとんでもない名前なので、気になる人は英和辞典を引いてね!
次回 それでもリスクをとるということ
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これからもどうぞよろしくお願いいたします。