マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00001111_電話越しの戦争

 ホシノのマイクからの風切り音が変わる。G(ゴルフ)地点からエントリーしたはずだ。同時にストップウォッチを走らせる。僕がここから先でできることはあまりない。ストップウォッチのカウンターを見ながら、全員分のマイクの音に耳をそばだて、相手の動きを予想するだけだ。

 

「先生……」

「今は声を掛けないでくれ。音が頼りなんだ」

 

 キリノには申し訳ないけれど、こうするしかない。僕がリアルタイムで戦場を追いかける手段は今、皆の首に下がった安い音声通話用マイクから流れる収音機能だけだ。スマートフォンにはノイズキャンセリング機能が勝手についていることもある。周囲のノイズだけで判断して、相手の動きを探るには、どうしても集中力を使う。

 

 正面の地図にオーバーライド表示されているのは1時間半前の衛星写真。直前で取った衛星写真はあまりに角度が付きすぎて使い物にならなかった。積んであるコンテナなどを動かすには大きなクレーンが必要だ。90分というのが、配置転換に必要な時間としては短かったことに賭ける。

 

 つまり僕は、1時間前の衛星写真1枚で皆をオペレートすることにした。しかもインフォメーション・イルミネーターの支援は限定的で、彼女たちはスマートフォン経由のグループ通話でしか情報連携手段がない状況だ。そうなると、情報は音だけになる。

 

 スタイラスペンで天板をなぞりながら、それぞれの動きの予測位置を書き込んでいく。ホシノは壁に寄りながら動いているように聞こえる。彼女自身の足音の反響音が聞こえるが、残り二人の足音を拾えない。だがノノミのマイクにはリズムが異なるじゃりじゃりとした砂を踏む音が入っているということは、ホシノだけ別行動だ。

 ショットガンの発砲音。反響音がすぐにくる。入って北のコンテナ沿いにどんどん回り込んでいる最中ということだろう。

 靴が立てる音は重たい。足元に何か敷いているということは、補強材か、もともとなにかコンクリートでも敷設してあったか。地形図を見る限りではなにもないので、仮設で何かを床にしていた。そりゃここに車を止めるならそうなるか。

 

 僕にできることは、情報のなかで彼女たちの動きを正確に想像し、生きて帰すことだ。

 

 すぐに銃撃戦が始まった。北のコンテナに寄ったということは北のコンテナから撃ち下ろされる可能性をホシノは排除したということだ。直前までの発砲音はなし。相手はホシノたちがタコつぼに入るのをわざわざ待っていたことになる。

 

 そして破壊的な機械音が入る。

 

《うっはぁ! PGU-14/B!?》

「アロナ」

 

 ホシノの驚いた声にすぐに検索をさせる。間髪おかずに出てきたのは弾薬の種類、30mm径焼夷徹甲弾。それを撃てるのはGAU-8機関砲。通称、“アヴェンジャー”。

 

 退避を指示するより早く誰かが地面を蹴る音が響いた。

 

《ホシノ先輩っ!》

 

 ノノミの驚いたような声が響くと同時にホシノが強く何かを蹴った音が入る。二回。おそらくコンテナを足場に高く飛んだ。

 

《ここだよ》

 

 ガン!という鈍い音にガラス質のような何かが割れる音。予想外の動きだが……おそらくコンテナを使って飛び上がって、盾かショットガンの銃床をガラスに叩き込んだ。おそらくパワードスーツのカメラ部分。直後に発砲音が2回ほど。

 

《ノノミちゃん》

 

 風切り音からワンテンポ遅れてハイテンポな射撃音がもう一度。今度はノノミがパワードスーツに向けて発砲。飛びのいたホシノのマイクからもう一度蹴りこむ音。連続する。おそらく地面をかなりの速度をつけて走っている。

 

 ガツン、という鈍い音。おそらくホシノが体当たりした。衛星画像を見る限り、パワードスーツの全高は5メートルくらいはある。その足元は死角になりやすく、同時に砂の浮いた鉄板なんてグリップ力が低い足場で足を崩されれば見える状況は一つだ。

 

 金属的な音がやたらと響く。

 

《ホシノ先輩! こっちへ!》

《うわわわわわっ!》

 

 キリノやユウカが口元を押さえているのが見える。おそらく体勢を崩したパワードスーツが風よけのコンテナに寄りかかり、そのまま倒れこんだのだ。

 

「まともにロックをかけてなかったな……」

 

 基本的にコンテナの上下にはツイストロック機構が付いている。それを活用して緊締(きんてい)して使うのが基本だが、おそらく足元は単純に置くだけでまともに固定していなかったらしい。ツイストロックも正常に使用されていたかもあやしい。単純に乗ったブロックが崩壊したというのはこの拠点自体がかなりの急ごしらえだったことを意味する。

 

《セリカちゃん!》

 

 ノノミの声に耳をそばだてる。このタイミングで見つかる? たまたま倒れたパワードスーツが当たりのコンテナを蹴り飛ばしたか。もしくはセリカが騒動を聞いて飛び出して来たか。

 

《セリカちゃん! 大丈夫ですかっ!?》

 

 ノノミが走る音。おそらく武器を放り出して走っている。

 

「シロコ、ホシノ、周囲警戒。セリカの容態の確認は彼女に任せろ」

 

 最低限の指示だしをしつつタイマーを見る。まだ30秒も経っていない。なんとか乗り切れるか。

 

《セリカちゃん! 大丈夫ですか? 今、テープ切りますから!》

 

 テープ。おそらく全身を拘束されていたか。ということはパワードスーツが当たりを引いたな。うれしい誤算ではあるが、これで撤退まで間に合うか。

 

《うぐっ……、ぅげっ! ゲホッ、ゲホッ……! ノノミ先輩……? よね……?》

《そうですよ! 十六夜ノノミですっ! いま、目隠しも外しますから! よーく頑張りました! もう大丈夫です! みんなで助けに来ましたよ》

 

 とりあえず彼女の声が聞けたことでどっと力が抜ける。横でキリノがガッツポーズをしているが、僕が気を抜くわけにはいかない。

 

「シロコ、ホシノ。これまでの攻撃で何人無力化した?」

《パワードスーツ1機はホシノ先輩が。ヘルメット団の隊員はホシノ先輩が2人、ノノミ先輩と私が1人ずつ》

 

 赤信号。何かを見逃している。この人員規模で済むはずがない。

 

「ノノミ、セリカの容体は? 動かせそうかい? できれば早急に離脱したい。周囲の様子がおかしい」

《ガムテープとかワイヤーでぐるぐる巻きでコンテナに固定されてるので、ちょっと……待って……》

《ノノミ先輩も何で来たんですか!?》

《友達が居なくなって探さない友達がどこにいますか?》

《そうじゃなくて! 早く逃げて! 砲撃が来る!》

「!!」

 

 喉が干上がる。砲撃。撃てるとしたら一カ所しかない。

 

「シロコD列、ホシノC列のコンテナの影で伏せて。ノノミはそのままセリカとコンテナの中で待機だ。耳を塞いで口を開けて!」

 

 指示出しが終わるかどうかのタイミングでドン! と大きな音が響いた。直前に風切り音が聞こえたから音速は超えてない。迫撃砲かなにかだろう。複数回それが連続する。

 

「アロナ、それぞれのマイクの感から大体の着弾位置を割り出せないか」

『誤差すごいですよ!?』

「誤差が出る程度にはできるんだな? やってくれ」

 

 着弾位置がマッピングがされていく。おそらく効力射が出ている。そりゃそうだ。事前に照準し放題だろうし、セリカが居る以上、こちらも接近せざるを得ない。ロジコマがいれば単体で突っ込ませて確認させるが、それができなかったことがここに来てひどい結果になっている。

 

「砲撃は南東象限からだ。ポイントD3E23、採掘基地の脇。おそらくそこに迫撃砲陣地を作られてる」

 

 回り込むような戦力はない。とりあえず第一波が終わったら効力確認のフェーズがあるはずだ。そこまでは耐えるしかない。そのタイミングでハイウェイ側に離脱させるしかないだろう。

 

「いよっし! タンゴ・ダウン! 相手のネットに繋がった!」

 

 そのタイミングでマキが手を打った。

 

「処理力オバケのカラクリもわかった。ヴァルキューレの交通管制システムに寄生して、衝突回避AI用の車載コンピュータを軒並み並列化したんだ。衝突回避AIを数十万台並列化したらそりゃパワー出るよ。これ、ヴァルキューレのシステム全部ゾンビにされてるから多分公安の情報も全部ぶち抜かれてるよ」

「ロジコマの情報はそこから抜かれたのね、おそらく」

 

 ユウカは顎に手を当てながらそういった。

 

「マキ、ヴァルキューレのさらに奥の相手には繋がったかい?」

 

 僕の声ににんまりと笑って答える。

 

「今繋がった。相手の画面のミラー出すよー」

「正面モニタの左半分を使ってくれ」

「あいあい」

 

 やたらとぐちゃぐちゃした画面の戦況図が出てきた……うん。相手は高度に情報連携されているのはいいんだが、情報の取捨選択ができてる様子じゃないなこれ。これで情報を整理できている相手を褒めるべきか、なんなのか悩む。とてもミクロな作戦指揮をしようとしているように見える。

 

「大体わかった。マキ。相手に偽の情報を見せることはできるか?」

「できるけどこっちの侵入にもそろそろ気づかれると思うけど」

「それでいいんだ。今すぐ線路に沿って時速15キロで熱源が3つ撤退するようにみせられるかい?」

「余裕余裕!」

 

 左半分の情報はそのままに無線の方に意識を戻す。まだ全部通信は繋がっている。

 

「みんな生きてるかい?」

《ノノミ無事です! セリカちゃんの拘束ももう少しで全部外せます……!》

《無事だけど砲撃がうるさい……、ホシノ先輩は?》

《寝たくても砂漠の砂で火傷しそう……っていうか、遠くの着弾で舞い上がった砂で髪ざらざら。帰ったらしっかりシャワーだねぇ、これ》

「全員無事で何より。もうすぐ迫撃砲の第一段階が止まる。ノノミ、動かせるようになったら報告を入れてくれ。ハイウェイ側に離脱する」

 

 そう口にしつつ、相手の動きが止まるのを待つ。迫撃砲の射点は3キロ先。地熱で蜃気楼のような状況になっていて直接の観測は困難を極めるはずだ。ドローンで見ているとしても、諸元がずれていることに向こうが気がついたなら、迫撃砲の攻撃は一旦停止せざるをえない。そうなれば歩兵を前進させるしかない。

 

「10何時間も縛られた直後だ、まともに動けないだろうからノノミはセリカを負ぶって移動してくれ。ノノミの武装は放棄していい。武器よりも君たちの命だ」

《わかりました。……いつでもいけます》

「シロコ、ホシノ、二人を護衛して方位2-6-0へ。ハイウェイK23まで撤退するぞ。回収車両を手配した」

 

 横でフブキがVサインを掲げている。申し訳ないが、ヴァルキューレの人員輸送車を使わせてもらうことにした。

 

「とりあえずセリカを病院に叩き込むぞ」

《ちょ、そんな大げさじゃないってば!》

《さっきまで涙目だったですもんね、セリカちゃん?》

《ちょっ! 泣いてないからぁ!》

 

 戦闘中だぞ、と言いたくなるが我慢。ノノミのマイクから砂を踏む音が聞こえだし、それにシロコやホシノが加わる。

 

《少しでも谷を進んだ方がいいよね?》

「正解だシロコ。可能な限りでいい」

 

 とりあえずみんなが無事だったことでハイになっている。こういうときが一番危ない。敵の手を考えるしかない。

 

《先生。砲撃が止まった》

「わかった。来るとしたら歩兵だが、数はそれほど来ないはずだが要警戒。可能な限り砂漠の砂の影を進め。ドローンに警戒」

 

 彼女たちがヴァルキューレの監視カメラに写る距離まで1.2キロちょっと。これが長いか短いか。

 

「マキ、介入はもうやめて大丈夫だ。撤退してくれ」

「えっ!? このまま滅茶苦茶にしないの!?」

「大体相手のやりたいことはわかったからね。シャーレとしてもあまり相手に損害を与えすぎると後がめんどくさい」

「ちぇー」

 

 そう言いつつも画面を消し、撤退準備をはじめたらしいマキ。これくらいいつも素直なら、というユウカの嘆きは聞かなかったことにした。

 

 じりじりとした時間が続く。10分が恐ろしく長い。

 ヴァルキューレの権限を使って、ハイウェイ沿いの監視カメラを見る。その中で豆粒のような点を見つけて初めてため息をつけたように感じた。

 

「ハイウェイカメラで君たちを確認した。君たちから見て11時方向、道路の照明が見えるか」

《見えた》

「お疲れ様。とりあえずは生き残った。……あと25分かそこらで人員回収車が到着するから乗ってくれ。手配できたのがヴァルキューレの車両だけど犯人じゃなくて被害者の扱いだから安心するように」

 

 シロコから悲鳴かため息かわからない声が聞こえた気がする。

 

 とりあえず勝ちはしなかったが、負けもしなかった。だけど違和感がある。状況はある意味クリティカルだったはずなのに、結局相手は攻め手を欠いた。

 

 ――――――この攻撃は『僕』を見ていた?

 

 とりあえず浮かんだ可能性を消すためにも、セリカから話を聞かなければならないし、さっきからひっきりなしに掛かってきていた電話も無視できなくなってきている。

 

 電話の相手は、七神リン。

 

「……連邦生徒会に無断でヴァルキューレのネットワークを使って突っ走ったって、そりゃ怒られるよなぁ」

 

 そういえば昨日の出張の報告もしていなかったことを思い出しつつ、覚悟を決めて電話に出る。

 

 

 


 

 

 

「どういうことだ! ハッキングとその防衛は()()()の管轄だろう!?」

 

《えぇ、その点については申し訳なく思っておりますよ。まさかここまで電子戦に長けた人員をもう引き込んでいるとは》

 

「口だけならなんとでもいえるがな、おかげでこちらも大損害だ。結局社有地から砲撃をせざるを得なくなったんだぞ。だいたい、今になってなんで連邦生徒会が絡んでくるんだ」

 

《連邦生徒会が絡んでいる件についてはこちらも困惑しているところです。もっとも、新設された捜査部の独断行動であるところまでは裏がとれていますが、ククク……》

 

「気味が悪い笑い声を上げるな、ゲマトリア」

 

《あぁ、失礼しました》

 

「それに我々の協力がなくて困るのはそちらだろう!」

 

《えぇ、我々はビジネスパートナーですからね。ですがよろしいのですか? たしかにこのまま私が事態をコントロールしてもよいのですが、そうなれば貴方たちの欲している技術そのものも私たちが預かることになる。それは貴方たちも望むところではないでしょう》

 

「傍観者がよく言うものだ」

 

《えぇ私は傍観者です。故に協力できるところもある、ということですよ、ミスター》

 

「つまり、いつも通り情報を出す、と?」

 

《連邦捜査部の顧問ですが、アレはなかなか交渉が効きづらいタイプの指揮官です。取り崩すのは容易ではありません。可能な限り彼を絡めない形でコトを進めることが必要となりますが……もうそちらの関与に気がついていると思われます。スピード勝負ですよ、ミスター》

 

「ふん、ヘルメット団ではラチがあかなかったが……本隊を大々的に動かすか……」

 

《それはどうでしょう? せっかく高校以外の防壁を丸裸にしたのです。通す筋は通すのがよいかと》

 

「何が言いたい」

 

《そろそろアビドスもスタミナ切れです。どうでしょう? そろそろ交渉に入っては? 交渉の間は攻撃を停止、それでも相手が突っついてきそうなら適当な相手と遊ばせておけばよいでしょう》

 

「我々は貴様のアドバイスで昨日からたくさんの兵器と拠点をふいにした。信じるに値するのだろうな?」

 

《信じられなければそれでも構いません。どうぞ侵攻を続ければいい。個人的には彼女も私の趣味の対象ではあったのですが、これも契約です。ただ、一つ言えるとするならば、あの()()使()()は本物だということです》

 

「子供使い?」

 

《私もそうしたように、貴方たちも彼との正面衝突は避けた方が良い。彼は私や貴方とは比べものにならない場数を踏んでいます。ことに、子どもを使った戦争については》

 

「ありがたく受け取っておこう。だが心配は無用だ。カイザーコーポレーションは、必ずや箱船を引き当てる。貴様もそれまでは我々との契約が継続されるということをゆめゆめ忘れるな」

 

《もちろん。では、またなにかありましたら》




2万UA、お気に入り600件突破ありがとうございます。ほんとうれしいです。
この組み合わせのクロスオーバーでここまで伸びると本当に思ってなかったので小躍りしております。

そして毎回思うけど、マージナルオペレーションの戦闘描写ってやたらと難しくない……? このノリで戦闘ある度に書くの? マジで……?

次回 ラーメンと胃もたれ

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