マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00010010_指揮管制システムの実地試験

《ぐあっ……!》

「シロコ、突出しすぎだ。セリカのカバーを待て」

 

 シロコのマイクに相手の声が乗る。いや、そのバトルライフルでその交戦距離(レンジ)はどうなんだと思うが、銃床で相手の腹をどついている。あれは痛そうだ。銃撃戦において僕は完全に戦力外なのでさっさと露店の影に引き下がる。アヤネも追われていた女の子を連れて下がってくる。

 

《こいつら、アビ……》

 

 至近距離で斉射を浴びせても相手に風穴が開かないというのは、ありがたいと同時に面倒でもある。こういうときはちゃんと倒れてくれないと無力化が難しい。

 

「シロコ、後退してセリカと合流、路地に下がる相手は深追いするな。深い路地はトラップの可能性が高い。マキ、2時方向の敵警戒」

 

 マキの銃はペイント弾と実弾が混ざったマガジンを使っているらしく、時々ケミカルな色合いの塗料が地面や壁や相手のヘルメットに付着している。なんだかすごい銃を使うなぁ。脅しにはいいけど。

 

 対して相手の武装は堅実なバトルライフルやサブマシンガンだ。弾薬の補給も大変そうだが多種多様にそろっている。なのに武器の特性も考えず固まって撃ってくるあたり扱いが雑だ。このちぐはぐ感はごく最近感じた。

 

 ヘルメットで覆面をしたチンピラがあっという間に下がっていく。なるほど、引き際を読むのはうまい相手だ。馬鹿じゃない。まぁ、頭がいいわけでもなさそうではあるけれど。

 

「状況報告」

「クリア」

「クリア」

「クリアですー」

「ん。クリア」

「クリア」

 

 戦闘を担当した5人からすぐに回答が返ってくる。若干やりすぎた感もあるが元気に逃げ帰ってくれたしこれでよしとしたいところだ。戦闘開始と同時にスタートしたタイマーは53秒を指していた。相手も7人だとこんなものか。

 

「損害があればリポートを」

「……ゼロ、みたいですね」

 

 回答を待っていたアヤネがそうまとめた。うん、とっさの動きにしてはマキもチヒロも悪くない。

 

「あ、ありがとうございました……! 皆さんがいなかったらどうなっていたことか」

「擦りむいてる場所とかないですか? こけさせてしまったので……」

 

 アヤネが追われていた女の子を助け起こしている。見れば見るほどこの場には不釣り合いな子だ。オーバーサイズ気味な制服のセーラー襟はしっかりと糊を効かせて手入れされていることがわかる。リュックサックで両手が空くように荷物をハンドリングしているのはいいのだが、弾倉がすぐ取り出せない位置にあったりと、戦闘を意識した格好ではないのだろう。

 

「えっと、あの……?」

 

 どこかもじもじと目をそらされたので、僕が観察しすぎているのだと気が付いた。視線をそらしてすぐにチヒロの肘が僕の脇腹に食い込む。痛い。

 

「たまたま居合わせちゃったからね。……えっと」

「阿慈谷ヒフミです。トリニティ総合学園の2年生です」

「僕はアラタだ。アラタ・リョータ。あんまりここに来るにはいい恰好とは思えないけど、どうしてブラックマーケットに?」

 

 ヒフミに頭を上げてもらいながら周囲の状況を整理。周囲の警戒のためにも結構広い通りの真ん中に移動しつつ会話を続ける。もう周囲は通常運転だ。銃撃戦が日常茶飯事になっていることがよくわかる。

 

「あ、あはは……実はその、探し物がありまして」

「おやぁ、ってことはおじさんたちと似たような目的かなぁ?」

「えっ!? 皆さんもぺロロ様グッズを!?」

「ペロロ様グッズ……?」

 

 なんだか一人エキサイトし始めたヒフミがバッグをごそごそと漁る。その間にもタブレットで指示出しをしておく。シロコとチヒロ、マキに警戒を依頼しつつ、セリカとホシノに自然に戻ってきてもらう。この状況で追撃があるならホシノの盾でヒフミを庇いながら離脱しなければならないだろう。

 

「もう販売どころか製造すらされてない限定品でもう絶対手に入らないって諦めかけてたんですけど、ブラックマーケットにならあるって聞いて……」

 

 じゃん! と効果音がつきそうなほど元気よく取り出される掌サイズのぬいぐるみ。それを後目に僕は情報入力を急ぐ。攻撃予測地点を入力してアヤネに共有。西側で影がやたらとうるさい。太陽の位置ぐらい簡単に確認しておけと思うのだが、そんなに頭に血が上ってるのだろうか。

 

「アイスクリーム屋さんとコラボレーションした『アブソリュート・ゼロ・フローズンぺロロ様』です!」

 

 チヒロとマキが西に続く路地に入る。別の路地にシロコが単独で入っていく。

 

「わぁ☆ モモフレンズですね! 私も大好きです! ぺロロちゃんかわいいですもんね! 私はミスターニコライが大好きで!」

 

 ノノミが会話に交じって、ミニガンのハンドルに提げたキャラクターのついたストラップを見せつつ、銃身を回すためのモーターの電源をさりげなく入れた。アヤネ、表情が硬くなっているぞ。自然に笑ってという意味を見せつつ、僕は口角を持ち上げた。アヤネもちゃんと意味に気付いたようだが笑みが妙に引き攣っている。

 

「わかります。ニコライさんも哲学的なところがかっこよくて! 最近出た『善悪の彼方』も初版で買っちゃいました。ベッドで読みふけっちゃってもう寝不足なんですよぉ」

「『他人に依存しないのは、ごく少数のひとたちのみにかかわることで、強者の特権である』でしたっけ?」

「! ちゃんとそれを暗唱できる人に初めて会いました! 本当に大好きなんですね!」

 

 ノノミとヒフミがそんな会話をしているとホシノがやれやれと言った雰囲気で盾を背負い直した。

 

「やれやれ、おじさんにはわからない世界だねぇ」

「いや、年の差ほとんど無いじゃん」

 

 律儀に突っ込んだセリカはバトルライフルをローレディの位置で構えている。ホシノはそれに肩をすくめると同時に盾のハンドルに手をかける。僕はヒフミとアヤネの様子を見る。ヒフミはノノミとの会話で気がついた様子はない。アヤネはしっかり頷いていた。

 

「まぁとりあえず――――――伏せようか」

 

 僕とアヤネでヒフミを無理矢理しゃがませると同時、ホシノが盾を展開して彼女と僕たちを射線から守った。相手が態勢を整えるのが早い、というより、やけくその攻撃といったところか。ホシノの盾に弾丸が突き刺さる音が響く。

 

「ノノミ」

「はーいっ☆」

 

 砲身が回るモーター音に続き猛烈な勢いで弾丸が吐き出されていく。ガトリングガンというのは面制圧兵器だ。それを避けようと思えば、相手は後退するしかない。そもそもそんな兵器を一人でがっちりと固めて撃てるノノミの体幹と握力はとんでもないのだが、いつか身体を鍛えるコツでも聞いておいた方がいいかもしれない。

 

 それにしても人員を路地一杯に横に並べて突撃なんて意図がよくわからなかったのだが、ノノミのタフネスを見て納得する。キヴォトス人は怪我等に対するタフネスさが桁外れだ。その桁外れなタフネスを武力で抑え込もうと思ったらかなりの火力の投射が必要だ。反撃を受けても怪我するだけで死にづらいなら戦列歩兵よろしく横一列並べて突撃というのが最適解になるのか。

 

 理屈はわかったが僕はやりたくない戦法だな。遮蔽もなく肉の盾で押しつぶすのはする側もされる側も無駄な被害が出るだけのような気がする。それにこういうのは正面以外からの攻撃にすこぶる弱い。

 

「SC班、シロコ、攻撃開始」

《ん、がんばる》

 

 敵本隊の横っ腹にマキの弾丸が派手に突き刺さる。案の定側面から奇襲をされたことでなにがなんだかわからない様子の敵集団。その頭を押さえる位置にシロコが何かを投げ込んだ。直後に爆発。ドリンクボトルに擬態した破片手りゅう弾(フラグメンテーション)なんて何のために用意してたんだと気になるところだ。いつかシロコの持ち物検査はしようと思う。一体なにが出てくるかわからない。

 

「ノノミ、射撃中止。総員警戒態勢で維持」

 

 ここからは僕の仕事だ。僕の声はよく通るらしい。とりあえず相手の攻撃威力が削げたところで、マイクを切って声に出す。

 

()()()()()()()()()()の皆さん、こんにちは。少しお話でもしませんか」

 

 いくらタフネスに自信があっても痛いのは嫌だろう。少なくとも相手はロジコマを見たことがある相手だ。ここで出てこないと限らないうえに、ノノミやシロコ、チヒロたちにぐちゃぐちゃにされた直後だ。交渉に乗る以外手はないだろう。

 

 ヒフミのおかげで僕も当たりを引けた。所属団体を言い当てられたことで相手は完全に諦めモードで武器を地面に置いて両手を掲げている。そのままチヒロは相手をどんどんうつ伏せで伏せるように誘導している。マキやシロコの銃もある。勝てないと踏んだのか、皆素直に言葉で聞いてくれるのはありがたい。

 

「は、話ってなんだ……アビドスのコトはもう俺たちは無関……ヒッ!」

 

 ショットガンのシェルを一つ排出する機械音がする。ホシノがいつもの顔で綺麗な状態のシェルをキャッチして詰め直しているあたり、排莢不良を直したわけではなさそうだ。

 

「ホシノ、そういう脅しはいけない。相手はもう武器を置いてるんだからただの恫喝だよ。……そのあたりの話をするのにここで話していいのかい? マズいなら場所を変えるけど」

 

 低いが女性の声。ボスらしき人は選択肢を奪われているにしてもここでアビドスの名前を出すとはある意味で素直だ。間抜けとも言えるかもしれないけど、素直なことは悪いことではない。

 

「……わかった、場所を変える。事務所に戻るから、その連絡用に、け、携帯を使っていいか?」

「シロコ、ポインティングそのまま。チヒロ、携帯電話を取り出してあげて」

 

 チヒロが警戒を解かないまま、ボス相手にゆっくりと近づき、相手のズボンのポケットから見るからに旧式らしいプリペイド式の電話を取り出した。

 

「電話は使って良いけど、どこかが吹き飛んだとかそんな感じの悲しい事故は避けたいね。驚いて僕たちも引き金を引いてしまうかもしれない。チヒロ、その場で警戒。マイクを入れたままにしてくれ。こちらでも聞く」

 

 相手が客を事務所に入れたいという内容の会話で話していくのが聞こえる。

 

「今後の動きだけど、SC班は僕と一緒にカタカタヘルメット団の本拠地で打ち合わせ、多分ないと思うけど武力交渉(ハード・ネゴシエーション)の可能性はゼロじゃない、その時はチヒロ、マキ、頼んだ。アヤネは僕と一緒に敵本部で交渉に当たって欲しい。SA班はヒフミを外部に送り届けてそのまま情報収集続行。回線はオンラインで維持してくれ。怪しくなったら僕かアヤネが指揮に回る」

 

 指示を出している間にも相手は通話を終えていた。僕は携帯を受け取るためにもヘルメット団の方に寄っていく。

 

「あの、アラタ、さんは……」

 

 ヒフミがどこか怖がったような声で背後から問われるのが聞こえる。

 

「携帯電話を渡してくれ。あと武装は使わないように」

「あんた、あんたはなんなんだ……一昨日からいきなりやってきて、なんなんだ……」

 

 ヘルメットの向こうの顔は見えない。相手の前でしゃがみ込む。

 

「連邦捜査部顧問のアラタだ。僕たちはまだ話し合うことができる段階にあると思っている。……できれば話し合いでいろいろと解決したいね。話し合いの場所まで案内してくれるかい?」

「あ、あぁ……」

 

 話し相手を起すとブラックマーケットの奥に向かうように歩き出す。ヒフミが軽く頭を下げていたので、軽く手を上げて答える。アビドスの面々の、特にシロコとホシノの動きの良さからしてヒフミを離脱させる位、苦も無くできるだろう。アビドスの皆は個人のパフォーマンスがすこぶる高い。ちゃんとチームとして機能しているのは、おそらくホシノの指導がいいからだろうな。

 

 同時にチヒロもマキも良く動く。TITTYのシステムを熟知しているのもあるのだろう。きっちり指示をこなして正確に左右から圧を賭けてくれた。マキの銃はインクも同時に飛ばすせいで後処理が面倒そうだし、攻撃に名札がついてしまうので、危険度が高い任務などでは使い難いかもしれないが、十分前線に出せるレベルだ。人員不足なのもあってヴェリタスには頼り切りだが、今抜けられると困る。こういう時に動ける専門の人を早く置きたい。

 

「ごめんね、本当はPCの方とか見たかっただろうに」

「こうなったら仕方ないでしょ。……本当に信用して大丈夫なんでしょうね」

「大丈夫。ダメだったらもう一度叩き潰すだけだよ」

 

 そう口にしておく。まぁトラウマになってるかもしれないけど、僕やアヤネの安全保障のためには必要な処置だ。アヤネはさっきから緊張した顔をしっぱなしだ。

 

「な、なぁ、アラタ……さん、は、どうしてあたし達がカタカタだと」

「身分バレを気にするなら、生徒を見て反射的に名前を呼んじゃだめだよ。少なくとも君たちは昨日一昨日と僕たちを襲撃しているし、もっと前からアビドス高等学校を襲撃していた。君たちが僕たちの研究をするように、僕たちも君たちを研究した。それだけの話だよ」

 

 路地の奥は清潔とは言いがたく、どこか排泄物のような匂いがする。おそらくここの水道は合流式だ。雨水ますの手入れがされていないのか、汚物の匂いがかすかに上がってきているのだろう。

 

「さっきから右にばっかりいくな、そろそろ一周してもどるんじゃないのかな」

 

 そう口にするとチヒロが案内役の後ろに銃を突きつけた。

 

「時間稼ぎはお互いなしにしよう。僕は彼女たちの安全を確保できればそれでいい。それとも、もう少し撃ち合った方が君たちも都合がいいのかい?」

「……っ」

 

 今度は左でまっすぐ歩き出す。大通りを抜けてビルに入る。どうやら少しでも時間稼ぎをしたかったらしいけどあきらめたようだ。

 

「本当はこういう教育に悪いことはしたくなかったんだけどね」

 

 そうぼやく間にも小さなビルに足を向けた。その一階は駐車場になっていて、軽トラックを改造した装甲車モドキがいる。その脇の階段を見る。

 

「あれ? ホシノ先輩? なんで中心部の方に?」

 

 アヤネが声を上げる。反射的に通りの左右を見回すがそこに影は見えない。地図を眼鏡に呼び出すと確かにブラックマーケットの領域内にいるのが見える。外にヒフミを送り届けたにしては不自然な位置だ。よく気が付いたアヤネ。僕も通信を開く。ホシノのアイコンのマイクがオンになる。

 

《ヒフミちゃんがさっきのお礼にってブラックマーケットの案内してくれるっていうからさー。お願いしちゃった。パワードスーツの出所とか、武器のカスタムショップとかで聞けるかもっていうからそっち回ってみるよー》

 

 まぁ、シロコとセリカのアタッカーもついているし大丈夫だろうと思って頷く。

 

「わかりました。あんまり無理はしないでくださいね」

《それはアヤネちゃんもだよー。先生のそばが多分一番危ないんだからさ。無理はしないでね。あと、負けるな、アヤネちゃん》

「……はいっ!」

 

 うれしそうなアヤネにこちらも笑みを浮かべてしまう。普段ならこういう交渉は僕一人で行くんだけど、連れてきてよかったかもしれない。なんだかんだいってホシノが言った通り今一番危険なのは僕と僕に同行しているメンバーであることには変わりないのだ。

 

 階段を上がると、がらんとした空間にベッドが並んでいる。皮脂が乾燥した匂いと制汗剤の匂いが混じった甘い匂いがする。その奥になにやらボロボロのソファと低い木製のテーブルのある場所に案内された。おそらくは廃棄された事務所の応接セットを奪ってきたのだろう。

 

「あなたがカタカタヘルメット団のリーダーでいいのかな?」

 

 その応接セットの中央上座に腰かけた赤髪の少女に問いかける。その前に案内してくれた子がジタバタする。

 

河駒風(こまかぜ)さんにそんな口の……」

「アンタは黙って、川原田(かわらだ)。……河駒風(こまかぜ)ラブよ。『カタカタ』のというよりは、このあたりのヘルメットを複数まとめてる。『カタカタ』のボスは情けないことに雇い主にケジメを求められて出張(タダばたらき)中。要件はアタシが聞くけど……『カタカタ』をコケにしたのがいるって泣きつかれたんだけど、それってお前?」

「コケにしたかはともかく、一昨日から連続で戦闘にはなりましたね。……連邦捜査部のアラタといいます。話をしにきました。雇い主はともかく、あなたたちとはまだ交渉ができると思っています」

 

 誰かが喉を鳴らす音がした。




ということでアビドスの適応力やばくね? な回でした。

次回 優等生と不良

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