マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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お待たせしました。これが私たちが追い求めたブルーアーカイブです。


11101101_ヤバいアウトロー

 待たされているうちにもう銀行は閉まりかけている。通常の融資は15時で閉まるのだが、14時55分をまわり、もうすぐ夕方という気分だ。今頃は事務所に戻ってネルドリップなどと贅沢は言わないまでも、インスタントのコーヒー片手に作戦を練っているはずだったのだ。既に日程が崩壊している。

 

 仕方ないので自分の通帳を手元で弄びつつ、今回の依頼について考える。本来ならこの話を横で寝てる幼なじみのムツキや携帯片手に黙々と情報を漁ってくれている参謀役のカヨコ、待合スペースの隅でブツブツずっと呟いているフロントアタッカーのハルカと一緒に事務所で相談したいのだが、誰が聞いているかわからないこの銀行の待合スペースで話すわけにもいかない。

 

 今回の依頼主は表でも裏でも有名なカイザーグループの子会社。そこの汚れ仕事(ウェットワーク)を受けることになったのは良い。()()()から弾薬と違約金の徴収もできたのも上々だった。少なくともここで惰眠を貪る可愛い部下も、その権利があるから無理に起していないのだ。

 

 だがこの後が厄介だ。全校生徒5名の廃校寸前の小規模校とはいえ、学校を一つ潰す必要がある。しかも情報が正しければ小型の自律駆動と思われるロボット戦車五台を抱えた上に、やたらと練度の高いアタッカーチームが有機的に連携して抵抗してくることになる。前金ナシとはいえ、一人無力化か転校させるごとに500万、つまり最大で2,500万というのはかなりの好条件だが、それだけ出すのもうなずける。

 

 なんでこの仕事に飛びついたのか、28時間前の私を全力で殴りたくなるがそうも言っていられない。お金が発生するならばなんでもやるのが便利屋68だ。

 

 改めて敵の情報を思い出す。思い出せば思い出す程、今からでも依頼を断るか悩む。

 

 構成は前線に出てくるのが4人、後方支援専門のオペレータ1人。オペレータの腕はわからないが、戦績だけ見るなら、ケツをまくって逃げ出したくなるぐらいヤバいのが2人、普通にタイマン勝負はご遠慮願いたいぐらいにはヤバいのが2人。前線担当の4人中4人がヤバいというのは何の冗談だ。

 

 一番ヤバいのは対戦車ミサイルを真正面から受けきるフィジカルタフネスと重武装パワードスーツ相手に遭遇から5秒掛からず頭部のセンサユニットに盾を叩き込んで無力化する機転とクソ度胸を兼ね備えたピンク髪の生徒会副会長、小鳥遊(たかなし)ホシノだろう。誰が呼んだか暁のホルス、ゲヘナのみならずトリニティやミレニアムからも要注意リスト入りしていて、あのゲヘナ風紀委員長が直々に目をつけているらしいという時点でもう『おわり』である。『オッドアイのあのチビが盾構えて前進するだけで陣形を崩されるし、なんなら接近されたのは覚えているがその後の記憶が無い。いつの間にか倒されてる』とか冗談はやめてほしい。こいつの対応は後回し。

 

 もう一人ヤバいのはスポーツ用自転車(ロードバイク)で爆走しながらヘッドショットを決めて離脱していったり、攻撃ドローンや手りゅう弾などをばら撒いて離脱していく砂狼(すなおおかみ)シロコ。強行偵察(ワイルドイーゼル)役らしいが、どうやったら自転車で砂の浮いた道路を時速45キロでかっ飛ばしつつ、チンピラ7人をノックダウンして離脱できるのか、是非とも教えてもらいたい。真正面からぶつかった場合、ホシノが陣形を崩すと同時にこいつが飛び込んできて、敵陣のど真ん中でホシノと一緒に暴れ回る最悪のイベントが発生する。数で押し込もうとしても士気が急速に低下して戦線が崩壊するあたり、完全に活用方法が核爆弾のそれだ。こいつの対応も後回し。

 

 この核爆弾二人組が飛び道具過ぎて影が薄いが、遠距離から近距離まで手堅く押さえてホシノやシロコの撃ち漏らし(たべのこし)をきれいにお掃除できる万能アタッカー黒見(くろみ)セリカ、120キロ以上ある高出力なガトリングガンを手持ちビタ止めで乱射できる移動砲台十六夜(いざよい)ノノミも大概バケモノである。

 

 特に十六夜ノノミ、どうやったらあのガトリングガンを素手で扱えるのか理解不能だ。軽自動車を軽くバックさせられる反動を体幹だけで受け止めているのはまだいいーーいや、よくはないが理解はできる。だが、なぜ回転トルクを握力だけで打ち消せるのか意味がわからない。ライフルスコープぐらいなら軽く素手で握りつぶせる握力がないとあんな芸当はできない。それに弾薬を入れ替えながらとはいえ、一回の戦闘で累計3分くらい射撃していたとか記録にあった。さすがにそれは誇張だと信じたい。もし本当なら単純計算で弾薬は1万8,000発、重量にして約450キロが手荷物として純増する。そんなご機嫌な重量があったら反動の問題は弾薬の重量が打ち消したということで円満解決だ。ふわふわボンキュッボンなガーリーな格好をしているくせして中身ゴリラかお前。

 

 こうなってくるとまだ人間として理解出来る範疇である黒見セリカを拉致して交渉しようとした判断は極めて正しい。こんなの真正面から相手にするのがそもそも間違っている。尤も、交渉前に居場所を特定されて急襲されたわけで、虎の子パワードスーツがホシノによって5秒でスクラップにされる結果を招いたから正解でも届かなかったというのが実態だ。情報収集能力もバカ高いとかどうしろと。

 

 コレにまともな情報も無くぶつけられたカタカタヘルメット団には素直に同情する。武器の回収に伺った時に、彼女たちからまともな抵抗がなかったのも当然だ。まともな戦力は破壊され尽くした挙げ句心身ともにボキボキな所に()()に行ったわけだ。いつか機会があったら詫びのジュースぐらい差し入れないといけない。

 

 そう考えるとこいつらをまとめてオペレートしているオペレータ役の奥空アヤネも、フロントメンバーが素直に彼女の言うことを聞く時点で相当なバケモノということになる。彼女が銃を抜いているところを確認できないため戦闘能力は不明だが、せめて常識の範疇であってくれと祈るしかない。なんとしても彼女から叩き潰す以外に突破口がないが、彼女に接触するためにはフロント4人を抜いてからである。絶望的にも程がある。

 

 これに加えてロボット戦車も最近配備されたらしい。念押しが痛すぎる。

 

(なんでこいつらSRTかヴァルキューレに志願しなかったのかしら……)

 

 万年人員不足のせいで『かっこいい制服!』やら『充実の奨学金、活動報奨金制度!』やらで生徒を釣る両校だけれども、このアビドス面々、全員が全員ヴァルキューレに転籍するだけで、学費免除で報奨金たんまりなエリート街道をロケットブーストで駆け抜けていくに違いない。コンビニスイーツを毎日買ってもお釣りが来る豪遊生活が待っているはずだ。少なくとも半額惣菜狙いの屋内銃撃戦(デイリーミッション)に巻き込まれる心配をしながら激安スーパーに通う必要は無いだろう。

 

(これあたし達が戦うより、ヴァルキューレの転入生募集チラシをポスティングしたり、SRTのリクルーターにタレコミした方が効果あるのでは……?)

 

 正直そっちの方向で考えたいところだ。支払い条件は一人無力化か転校させるごとに500万円だ。リクルーターに賄賂で半額掴ませたとしても普通に大黒字である。

 

陸八魔(りくはちま)様、おまたせしました」

 

 そんなことを考えていたら、ようやく呼ばれた。6時間以上待ったのだ。さぞ好条件の融資をしてもらえるに違いない。

 

「大変申し訳ありませんが、今回残念ながら弊行(へいこう)では、陸八魔様へのご融資は致しかねます」

 

 現実は非情である。わかってました、わかってましたとも。事務所も構えてカイザーグループからの取引実績をひっさげても通らないとなると、これを成功させて資本金増資しかないか。そう思いつつ肩を落とした直後――――――

 

 照明の電源が落ちた。窓のルーバー越しに差し込む夕日で館内が薄暗く照らされる。

 

「ちょっ、停電?」

 

 自分で口にしておいてなんだが、そんなはずはない。融資の審査に何度玉砕してもめげずに通ったから知っている。ブラックマーケット内部にある銀行とはいえ、腐っても銀行。ここの電線と通信回線は盗聴や盗電を警戒して地中化してある専用線だ。そう簡単に落ちないし、それを掘り当てようとしたら盛大な土木工事が必要で、バレずに工事もほぼ不可能。温泉開発部すらもなかなか近づかないブラックマーケットで、回線ごと地面を吹き飛ばせるような爆発音も聞こえなかった。

 

「カヨコ!」

「窓の外は電気ついてるよ」

「ハルカ! ムツキを叩き起こして! なにかがおかしい」

「は、はいっ!」

 

 電気が復旧。回線の寸断? 変電所の不調? おかしい。それに備えたバックアップも全部まとめてダウンした? なぜ?

 

「悪いことは言わないわ。貴方も警戒した方が良い」

 

 審査落ちを伝えにきた銀行員にそれだけ言う間にも状況が動く。いきなり銀行の入り口に黄色いスポーツカーが突っ込んできた。ガラスや鉄製の窓格子が吹き飛ぶ破砕音がする。さすがにこれで寝ぼけていた幼なじみも起きただろう。

 

「無人……?」

 

 暴走したスポーツカーは営業時間終了間際で私たち以外誰も居なかった待合スペースに突入し、ゴムタイヤの擦れる嫌な音を残してカウンターの前で停止した。なにかがおかしい。

 

「暴走しただけ……?」

「社長、伏せて」

 

 カヨコがいきなり私を引き倒す。その時に違和感の正体にやっと気がついた。

 

 無人のスポーツカーは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 つまり、誰も轢かないようにブレーキを遠隔でかけた誰かが確かに存在する。

 

 

 

 視界の端をなにかが横切る。缶状のなにか。色はオリーブドラブ、そこらで10個いくらで売っている安物のスタングレネード。

 

 つまりこれは、攻撃!

 

 スタングレネードが破裂。事前にある程度わかっていたおかげで直視をせずに済んだ。

 

「社長、このまま気絶したフリでいこう」

「ムツキとハルカは?」

「大丈夫、いまので気絶してる。気づいても社長が動かないうちは大丈夫……な、はず」

 

 ハルカの足がちらりと見えた。スポーツカーに皆気を取られたせいで、ほぼ全員がスタングレネードを直視に近い形で喰らったはずだ。上手い。スタングレネードを使う機会があったら今度真似しよう。

 

「はーい、全員動かないでくださいねー。痛い目にあいたくないでしょー?」

「そこ、さっさと伏せなさい!」

 

 少女の声。武器はそこらで売っている安物のバトルライフルやショットガン。精度が出ないだろうがこの状況では精度が出ない方がおそろしい。どこに飛んでいくかわからない銃を握っている相手ほど恐ろしいものはないというのは、この街の人間なら痛いほど知っている。

 

「通報しようとしても無駄無駄。カウンターの下の通報ボタンを押しても誰も飛んでこないよー? カイザー系の通信システムって穴だらけなんだからもっとマシな所にきりかえなよー。張り合いないなぁ」

 

 ピンク色の目出し帽を被った犯人が真っ黒なショットガンを銀行員に突きつけながらカウンターに足をかける。人数は5人。一人トリニティの制服の子がいるが絶対フェイクだ。おそらく古着屋で上物でも買ったんだろう。それにしてもよく考えるものだ。トリニティの制服を着ていたからといって馬鹿正直にトリニティに抗議に行くわけにはいかない。あそこの学校に睨まれれば戦闘はともかく政治経済の面で動きづらくなることこの上ない。身分をうやむやにするには最適だ。ブラックマーケットで商売を商う銀行だ。ブラックマーケットを潰せる力を持つ学校に本格的に喧嘩を売ることはできない。

 

「で、どうするファウスト?」

「そ、そうですね……」

 

 しかも案の定、そのトリニティの制服の子がリーダーだ。紙袋に『5』という数字。数字は偉い順ではないらしい。紙袋を被っているのは大きく動き回らなくてもお前らを制圧できるぞという自信の表れだろう。

 

 残りの面々もしっかりと周囲を警戒している。真っ青な布地に『2』と刺繍された目出し帽の犯人が執拗に私たちをポイントする。この子はアビドス高校のジャージを羽織っているが、こちらもおそらくフェイク。アビドスは廃校寸前になった関係で古着屋に制服や運動着が大量に出回っている。使い捨てる前提でもコストパフォーマンスが高い。

 

「私たちは覆面水着団です。あなたたちを傷つけたいわけではありません。こちらの指示にはしたがってください、従う限り安全を保障します。グレートヒェンさん、ヘレンさんプラン1-2を開始してください」

「りょうかーい」

「ん」

 

 私たちを監視していた『2』が赤い『4』にバトンタッチ。『2』は持っていたバッグをカウンターに持って行く。

 

「私たちはこの銀行の構造は全て知っている。そろそろ三階のパニックルームのドアが開かないって支店長が叫んでるころかな?」

「っ……!」

 

 銀行員がおののいたように相手の銃口を見る。

 

「現金に興味はないの。私たちが欲しいのは、情報。35分前に戻ってきた現金輸送車、あの輸送車の集金記録、あるよね?」

「しゅ、集金記録なんてそんな無価値なものを何に……ヒッ」

「価値はおじさんたちが決めるんだよ? 急いでくれるとうれしいなぁ。貴方たちだって違法貸し付けの裏帳簿がヴァルキューレ公安部や銀行組合に流れるのは困るんじゃないかなぁ」

「な、なぜそれを……」

 

 ピンクの目出し帽の『1』がにやりと笑う。

 

「公安部の査察はともかく、他の銀行に知られるのはつらいよねぇ。インターバンク市場から弾かれたら現金なんて集まらないしやってられないでしょー、お金があっての銀行さんだもんねぇ。ましてやここは()()()()()()()()()だしねぇ」

 

 柔らかい声が逆に恐ろしい。あまりに自然体過ぎる。

 

「わ、わかりました! わかりましたからっ! お、おいっ! 23号車の記録とブツだ! 急げっ!」

「ん。私が監視する」

「じゃ、頼むよヘレンちゃん」

 

 慌てて裏に行こうとした銀行員を『2』がポイント。そのまま『2』が奥に消えていく。

 

(や、ヤッバーイ! ブラックマーケットの銀行を襲うなんて筋金入りのアウトローがまだこの世界にいたなんて!)

 

 しかも恐ろしく手際がいい。構造の把握、車を突入させての視線誘導からスタングレネードの使い方、的確に死角を潰すクリアリング技術と掌握の早さ。どれも一級品だ。おそらくまだ3分も経ってない。

 

(大胆な作戦を徹底的に合理で叩いた無駄のない動きと言葉選び! まさにこのために生まれてきたような集団! 覚えたわよ覆面水着団! 最高よあんた達! 涙でそう!)

 

 それに知識もある。インターバンク市場なんて始めて聞いたがイメージはつく。他の銀行に流れたら終わるような情報を既に握ったのだろう。警報ごとまるごと殺せる集団だ。おそらく銀行の電子情報は既に筒抜けになっているぞという脅し。それが本当でも、ハッタリでも、そんなリスクを銀行は背負えないというのは火を見るより明らかだ。それをさらりと流せるあたり恐ろしい。

 コールサインもウィットに富んでいる。リーダーの『5』がファウスト、『1』がグレートヒェン、『2』がヘレンとくれば戯曲『ファウスト』だ。知を極め、今生きる世界に失望したファウストは、自身の魂を対価に悪魔とこの世に存在するありとあらゆる苦楽を知ることができる契約を交わす。そのファウストがトリニティの制服を着て銀行を襲うというストーリーを演じてみせているのだ。彼女には悪魔メフィストフェレスがついている。あぁ、この悪魔じみた作戦を演出するにはなんと小洒落たコールサインだろう。

 

「ファウスト、グレートヒェン、対象は押えた」

 

 奥から『2』が戻ってくる。

 

「ありがとうございます。では、わたしたちはこれにて。ごきげんよう」

瞬間よ止まれ(Verweile doch)汝はいかにも美しい(Du bist so schön)!」

 

 ファウストの挨拶に続いて、『1』の演技じみた台詞。直後、破砕音。窓をぶち抜いて覆面水着団が逃げる。同時に大量に様子見をしていたらしいごろつき集団がわらわらと押し寄せてくる。

 

「なるほど、銀行に車が突っ込んだのに消防も傭兵も来ないことに気がついた奴らか」

 

 カヨコが身体を起しつつそういった。火事場泥棒がやってくるからその対応も必要になる分追跡が後手になると踏んだんだ。なんて鮮やか。実際銀行の中は大混乱だ。

 

「ねぇねぇアルちゃん」

「さっきまで気絶してたけど大丈夫なの?」

 

 ムツキが身体を起しながら声をかけてくる。

 

「追っかけた方が良いんじゃない? 覆面水着団」

「そうね。……そうしましょうか!」

 

 ここでただ揉まれるのも味気ない。なぜかハルカが『アル様の邪魔をした敵……』といろいろ言っているが、なだめつつ後を追う。

 

(待ってなさい覆面水着団! 貴女たちに拍手の一つぐらい送らないとアウトローの名が廃るわ!)

 

 

 


 

 

 

「で、言わないの? アレ、どう見てもアビドスの子達だって」

「くふふ、だってその方がおもしろそうじゃん」

 

 

 




さて、逃げろ!

次回 Unwelcome school

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