マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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お待たせしました。プライベートも激烈だったので投稿遅くなりました。

みんな大好きあの子が登場です。


00011001_大人数を巻き込む

「初めましてですね、先生。お噂はかねがね。防衛室長兼行政委員の不知火カヤです」

「連邦捜査部顧問のアラタ・リョータだ」

 

 人懐っこく目を細める桃色の髪の少女と握手を交わす。連邦生徒会ビルでのあいさつ回りも、いったんこれで最後。このペースなら遅めのお昼だけアビドスにちょっと寄っても15時のミレニアムでの会議に間に合いそうだと目途が立った。

 

 まぁ、今日の中では多分一番ハードな交渉相手なんだろうけど。

 

「ひとまずはお礼を言わせていただかないとですね。サンクトゥムタワーの制御権奪還は先生のおかげだったと聞いてます。ありがとうございました」

「できることをしただけだよ」

「ご謙遜が過ぎますよ、先生。ささ、とりあえずおかけください。後ろの子もどうぞ」

 

 勧められたのでキリノと並んで席に座る。カヤと名乗った部屋の主は内線をかけてコーヒーを持ってくるように頼んでいた。

 

「どのようなご用事で?」

「シャーレとして動いている事案の情報提供と、連邦生徒会の審議をお願いしないといけない事項があるから、その見解をいろいろと聞きたいと思っている」

「ふむ……ということは、アビドス周りですかね」

 

 さすが防衛室長、耳が早い。

 

「うん、実はアビドスの廃校対策委員会から要望がでていてね、代表権を『アビドス生徒会』から『アビドス対策委員会』に変更したいということでね」

「なるほど……そういうことですか。財務室長になんて言われるか分かりませんが……」

「アオイ財務室長にはもう話を持って行ったよ。アオイは財務室長として推奨はしかねるが、アビドス高校の生徒達がそれを望むなら反対しない、だって。リン代行とアユム調停室長は賛成、交通室はトレインジャックの対応が差し込みで入った関係で話を持って行けなかったけど、アユムから話を持って行ってくれるそうだ」

 

 カヤの眉が一瞬ピクリと下がった。

 

「な、なるほど。そうでしたか……?」

 

 それっきりしばらく会話が途切れる。糸目でどこを見ているのかわかりにくいが、視線は応接セットの机の上をあてもなく滑っているように見える。そのタイミングでコーヒーが人数分運ばれてきた。持ってきてくれたのは浅黒い肌の子……確か名簿だと……

 

「えっと、体育室長のハイネ、だったかな?」

「えっ!? なんで名前!?」

「名簿ぐらいは目を通してるからね。本当は後日君の所にも行こうと思ってたんだけど、ちょうど良かった。君も話を聞いて欲しい」

「じゃ、じゃあ僕の分のコーヒーも持ってきます……!」

「え、あ、ちょ……っ!」

 

 カヤがなぜか焦っている。まぁ席ももう一つ余っているんだからいいだろうとは思うけど。

 

 すぐにコーヒーカップがもう一つ持ってこられ、カヤの隣に収まったハイネ。

 

「で、お話って……」

「うん、防衛室長には繰り返しになっちゃうんだけど……」

 

 前置きもそこまでいらないだろうし、もう一度さらりと説明をする。うん、説明している間もハイネはカヤの様子を窺ってるということは、お茶汲みに使ってたのもそういう関係なんだろう。派閥というのは恐ろしい。

 

「なるほど……アビドスの子達、なんであんな砂しかないところに拘るかな。インフラ含めて大変だろうけど」

「そこを問い詰めても理の通った答えは多分返ってこないよ。それでもそこで学びたいという子がいるのなら応援したいと思っている」

「しかし、アビドスの債務は膨れ上がっている状況ですからね、代表を切り替えたところで債権は減らないでしょう。なんでわざわざ面倒なコトを」

「防衛室的には面倒かい?」

「そりゃあ、まぁ。純粋に維持すべきインフラが増えますし、それに伴う警備も増えるわけですからね。あの子達が背負うべき借金でもないでしょうし、さっさと破産してカイザーにでも押えてもらった方があの子達も楽でしょうにねぇ」

「だから、そこを合理で納得しろというのも無理な話だろうね。()()()()()()()()()()に攻撃を受けていた状況でも引かなかったんだ。そこは折れないと思うよ」

 

 さて、どうするか。大体答え合わせは済んでしまったんだけど、これを証拠というわけにもいくまい。

 

「じゃあ、カヤはこれが出たら反対するかい?」

「防衛室長としては管轄外なのでノーコメントです。ただ、行政委員としては推奨しかねますけどね」

「なるほど、ありがとう。じゃあハイネはどうだい?」

「えっと……体育室もあまり関係なさそうなんで……」

「なるほど。じゃあこの件書類が揃い次第……そうだね、一週間ぐらいはかかるだろうから、改めてその場で審議よろしくね」

「え……賛成してね、じゃないんですか?」

 

 ハイネが虚を突かれたようにそう言う。僕は笑った。

 

「個人的には賛成してほしいけど、それを強制するのは、大人としても先生としても間違ってるだろう? あくまで連邦生徒会の主権に口を出すつもりはないし、そこまでお節介はしないよ。君たちは君たちの仕事とスタンスがあるし、それは応援したいと考えてる。……あと、カヤにはもう一件あるんだ。今ヴァルキューレの交通管制システムがダウンしてる件について」

「あぁ……あれもシャーレの報告でしたね。たしかシャーレへのクラッキングが原因だとか」

「そう。その件についての簡単なレポートを持ってきておいた。目を通して欲しい」

 

 ペーパーの書類をクリアホルダーごとテーブルに滑らせる。それをカヤは受け取って覗き込んだ。

 

「シャーレへのアクセスの起点になったのは、前日の夜にヴァルキューレが保管のため押収したシャーレの自律戦車だ。そこから認証コードが外部に転送されていて、それが悪用されたところまでは証拠含めて確認が取れている」

「つまりどういうことだい?」

 

 紙を渡されていないハイネが首をかしげている。カヤは押し黙ったままだ。

 

「……この情報は、どこまで?」

「シャーレ関係者を除けば、押収を行った尾刃カンナ公安局長とこの部屋にいるメンバーだけ」

「先生はこれを私に見せてどうしろと?」

「別に何も、必要かなと思って共有しただけだよ。防衛室はヴァルキューレへの指揮権を持っているそうだし、そこの公安システムまで外部に筒抜けになっている状況はあまりに良くないはずだ。万が一にも外部に漏れるわけにはいかない。そうだろう?」

 

 せめて悪く聞こえるといいんだけど、と思いつつとりあえず笑って見せた。

 

「……ご協力、感謝します」

「うん。また気がついたことがあったら連絡するよ」

 

 そう言ってコーヒーを飲み干す。思ったより濃い。多分ハイネはミルクとかたっぷり入れて飲むタイプなんだろう。コーヒーは利尿作用もあるし、一杯でやめておきたいところだ。

 

「……あと、これはシャーレの顧問としての僕じゃなくて、大人としての忠告なんだけど」

 

 僕が席を立ち、カヤも見送りのために席を立ったタイミング、相手はどこか不安げな表情を作った。

 

「あんまり背伸びはしない方が良い。悪い大人はその背伸びを見逃さないよ」

「……それは自己紹介ですか?」

「それもある。またね、カヤ。ハイネも」

 

 そう言ってとりあえず部屋を出る。何かものすごく言いたそうにしているキリノが足早に着いてくる。

 

「さて、アビドスに寄ってからミレニアムに行こう。結構ギリギリだけどなんとかなると思う。鉄道で移動になるけど、大丈夫かい?」

「はい、大丈夫ですけど……渡して良かったんですか? 資料」

「大丈夫大丈夫。流れる前提の資料だし、向こうもそれが分かってると思うよ」

 

 さらりというとキリノがすごい目で僕を見てくる。

 

「これはチヒロからの受け売りなんだけど、電子的攻撃には名札が付くんだって。必ず解析されて、必ず対策される。相手も同じ攻撃はもう使えないし、使ってももうシャーレには通用しない。そう言う意味ではセキュアだ」

 

 そう言っても信じたのか信じてないのか分からない様子のキリノ。ここで話すのもあれだから、とりあえず建物を出て地下鉄に向かう。ロジコマは時間が掛かるので、僕たちが連邦生徒会ビルで用事を済ませている間にもうアビドスに向かって自律進軍中。アロナがきっちり裏で制御してくれているはず。アロナ様々だ。

 

 ミレニアムサイエンススクールまでは地下鉄で一本なのだが、アビドスに寄る関係上かなり遠回りをすることになる。乗り換えを逃すと結構痛いので行き先をちゃんと確認してホームに向かう。ICカード式の改札を抜けるとホームは想像よりがらんとしていた。周りに人が少なくなったタイミングでキリノが呟いた。

 

「……絶対、漏れると思います」

「情報が、かい?」

「はい」

「うん。漏れてくれないと困るからね」

「はい?」

 

 今度こそ何言ってるんだこの人という目で見られる。

 

「これで相手は時間をかけていられなくなる。ここから一週間で相手は勝負をつけようとしてくるはずだ」

「一週間……あ『対策委員会』が連邦生徒会の公認になるタイミング、ですか?」

「そうだ。そして対策委員会は現段階で僕が顧問になっている。相手は僕が絡むことを嫌ってハッキングまでしてくる相手だし、そこから暴力沙汰で解決しても揉み消しが面倒になるだろうね」

 

 そう言ってから僕はキリノの方を見る。

 

「アビドスの疲弊具合からして、便利屋68の奇襲に対応できるのは一週間が限度だ。それ以上はみんなメンタルが保たないだろうし、保たなくなった子からやられていくだろう。そうなる前にさっさとその奥の本命が叩きに来てくれた方が楽だよ」

「……それ、カイザーと全面戦争の方が楽っていってますか?」

「そうだね。そうなれば、今度こそカンナ局長の出番だよ。ヴァルキューレ警察学校を守るには、そうするしかない状況になるからね」

 

 相手にとって穏便に、要は裏でコソコソやって何事もなかったように見せられるチャンスはこの一週間だけだ。それ以上引き延ばせば表裏問わず僕や連邦生徒会まで情報が筒抜けになるし、今のアビドスの借金の中身に触れるだけでカイザーグループの金融部門は信頼を一気に墜とすことになる。

 

「相手はおそらくこちらが裏帳簿を押えたことも耳に入ってる。これ以上相手は借金方面で強く出られない。ヘルメット団は僕とカイザーが和解しない限り動けない。カイザーにとっても便利屋のゲリラ戦が一週間で完了する確証は得られない可能性が高い。そうなると……批判覚悟でアビドスに正面攻勢をかけるか、交渉しかないんだ」

 

 やってきた電車に乗る。乗り換えは必要だが、アビドスまでギリギリ私鉄が生きている。セイント・ネフティスの列車ということは、おそらくノノミのご親族が関わっている会社だろう。いろいろと彼女にも聞いてみたいこともあるが、なかなか時間が取れずにいる。

 

 ショートメッセージでアビドスの面々に連絡を入れる。今日は自由登校日ということで、セリカは朝からバイトに出ていると聞いていた。柴関でラーメンを奢るから、いろいろと情報共有したいと送ると、ノノミからはすぐに『行きます☆』と連絡がきた。シロコから移動手段を聞かれたので鉄道でアビドス中央駅に向かっていることを伝えると、ノノミやアヤネと一緒に迎えに来てくれるとのこと。ホシノは自由登校日は寝てることが多いらしく、来ていないらしい。

 

「ホシノと話せないのは結構厳しいなぁ」

 

 思わず呟いてしまう。対策委員会としての意志決定で彼女の意見を聞けないのは痛い。

 

「キリノはアビドスの面々と直接会ったことないよね?」

「はい……ホシノさんの名前だけは聞いたことありますけど……」

「そうなのかい?」

「はい、結構な有名人です。それこそ、有力校の情報部なら一度はチェックするレベルです」

 

 ホシノ、一体過去に何をやったんだい。と聞きたくなるが正直あの振る舞いは確かに相手にすると脅威だ。多少の被弾は我慢するという魂胆なんだろうが、相手の懐にフットワーク軽く飛び込み暴れ回る胆力はなかなか怖いものがある。もちろん身体能力はすごいが、正確に状況を見切る眼はすごいのだ。

 

「ちなみになんで有名人なんだい?」

「えっと、学校同士のいざこざが発生すると、まずそのまま撃ち合いになるので……」

「……連邦生徒会は?」

「最終的には介入しますし、話し合いの場をセットするんですけど、初動だと間に合わないことが多いんです」

 

 いやまぁ、ホローポイントでヘッドショットもらってタンコブひとつで済むとんでもないタフネスをしてるのが普通な世界だからそれはそうなんだろうけど、撃たずに解決できないんだろうか。

 

「そうなると、外部と接触しやすい立場の有力者は各学校からマークされることになります」

「ということは、マークされることそのものは稀じゃないんだね」

「そうですね。有名どころだとトリニティ学園正義実現委員会の『歩く戦略兵器』こと剣先ツルギ委員長、彼女は戦闘中に特急にはねられて数十メートル吹き飛ばされても平気でした」

「うん?」

 

 やはりキヴォトス人、タフネスがおかしい。それはどう考えても人身事故だと思うのだけどそれで無事なのか。いや、対戦車ミサイルの前に被弾前提で飛び出すホシノも似たようなものか。

 

「あとは泣く子も黙るゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナさん。温泉開発部などの要注意団体も彼女の前では逃げ出します」

「ゲヘナ風紀委員会のチナツから聞いたんだけど、その温泉開発部というのは相当にマズいのかい?」

「いやぁ……温泉開発部は温泉が湧く可能性がある場所があるならそこがどこだろうと発破して掘削しちゃうんで……彼女たちがD.U.中央高速のジャンクションを爆破しはじめた時はもう……はい」

 

 うん、そんなところで温泉を開発されたらたまったものではないだろう。

 

「それは大変だ。そういえば便利屋68もゲヘナの生徒たちだったね」

「はい。……もう情報提供は?」

「してある。今のところは幹部級にしか情報を連携しないでもらってる」

「そうですね……一応、アビドスの自治区内での活動になりますもんね」

「うん」

 

 うんとは頷いたものの、指揮系統がバラバラになるのを避けたかったのと、相手の実力レベルが分からなかったので取り急ぎ断っただけで、自治区内での活動云々に配慮したわけじゃなかったんだけど。

 

「結構行き当たりばったりだけど、大分状況を引っかき回せたね。……このままなんとか主導権を取りたいところだけど」

「ミレニアムはほぼ全面バックアップ態勢、ゲヘナは風紀委員会経由で情報共有中、トリニティは……まぁ、ファウストさんということで、相手が勝手に誤認してくれればいいんですけどね」

 

 このままトリニティもなんとか巻き込みたいところだ。とりあえずなんとか糸口だけはつかんだ。

 

「そのファウストなんだけど、どうやらティーパーティーの一人にコネクションがあるらしい。アポイントメントはまだだけど、近いうちに挨拶に行く方向で調整中だ」

 

 そう言うとキリノが吹き出した。

 

「……ちなみに、ティーパーティーのどなたか分かりますか?」

「ナギサ様と呼んでたから……」

「フィリウス分派首長の桐藤ナギサさん……結構な大派閥ですよ。というより、なんでそんなティーパーティーのトップに気に入られるような子がブラックマーケットに……?」

「なんでも、限定品のペロロ様人形が欲しくてらしい」

「ど、どうしてそんな理由で……」

「僕もそう思う」

 

 自然体で銀行を襲ったり、他校の生徒を拉致しようとしたりするのがキヴォトスの常識じゃなくてつくづくよかった。キリノと話していると僕の感覚がそこまでずれてないと再認識できる。僕もヒフミにもうブラックマーケットに出入りしないようにと口を酸っぱくして言ったつもりなのだが、多分あの子、好きなことの前だと一直線なタイプだから僕の言葉は届いてないんだろうなぁ。

 

 とりあえず感慨にふけるのは後にして列車を乗り換え。アビドス行きの私鉄を見つけて乗るとほぼ貸切状態だった。

 

「このまま大人数を巻き込んで、睨み合って、僕たち以外動けない状況を作りたい。主導権を可能な限りかき集める。アビドスの問題を短時間で解決するにはこれしかない」

 

 そう考えると、僕はミャンマーと同じ事を真逆の目的でやろうとしている。ミャンマーでレインボー会議の下請けをしていたときは、可能な限りだらだらと戦争をするためにがんじがらめにしてきたが、今回は可能な限り短時間で対応するためにがんじがらめにしている。戦争のやり方としては正当派なんだろうが、借金返済の方法としてはどうなんだろう。それでも相手が暴力的手段に出ている間はこれでやるしかない。

 

「なんとか間に合って欲しいもんだね」

「きっと先生なら大丈夫ですよ。そんな気がします」

「ありがとう」

 

 励ましてくれるキリノは優しい。とりあえず急いで状況を整えるしかない。悠長にやってたらホシノ達の体力が尽きる。

 

 それからしばらく対策とかをキリノと話していると窓の向こうは砂がちの光景になってきた。アビドス中央駅に列車が滑り込む直前にセリカから予想外の連絡が入ってくる。

 

 セリカが大将に頼まれてお使いに出ていた間に柴関ラーメンの店舗が吹き飛んだらしい。情報を流してから1時間と少し、望んだ展開とはいえ、いささか反応が激烈すぎやしないか。




また近づいてくるunwelcome schoolのかほり

次回 絶対に許さない

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