マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
感謝を込めて七夕にいつも通りのきな臭い話をお送りします!
「……軽迫撃砲、の威力じゃないね。君たちの攻撃じゃないみたいだ」
《巻き込まれるような弾道で撃つようなへまをするような社員はいないわ》
ロジコマが破片の盾になってくれた。もうもうと破片の煙が立つ中でアルの声がする。通信は便利だ。アヤネとキリノは舞い上がった埃で咳き込みつつも無事を確認できた。ハンドサインでアヤネとキリノにロジコマに乗ってもらう。小走りで走りつつみんなとの合流を急ぐ。
思ったより僕の思考が散らばっているのがわかった。情報がまとまらない。僕の焦りは子ども達の被害に直結する。頭を冷やさなければ。
《それにさっきのは口径は80ミリ、多分34式重迫撃砲ね。そんな馬鹿でかい図体の武装なんて持ってこれないわよ》
「詳しいね」
肉声の届く距離まで入ると、陸八魔アルはどこかばつが悪そうに笑った。
「なんたってゲヘナ風紀委員の武装だからね。嫌というほど覚えてるわ」
口径が80ミリということは、砲弾だけでも数キロある。それをわざわざ持ってきたのか。北風に流されてビルに着弾したあたり、観測は甘い。おそらく北東象限から撃ってきている。さて、どうしたものか。
それにしてもゲヘナ風紀委員か。兵力は送るなと連絡したはずだが。
「ノノミ、急いで合流してくれ。シロコ、ハルカの拘束を解いて。大将、無事ですか?」
「店はこの通りだが、なんとか」
「ってかゲヘナ風紀委員!? アビドスに何の用よ!」
セリカがプリプリと怒りながらそんなことを言う。
「どうやら僕らごと便利屋68を粉砕したいみたいだね。今のは試射だ。効力射が来るぞ。大将、申し訳ないですが、ロジコマのトランクに隠れていてください。かなり揺れますがそこが一番防弾が効きます」
「わ、わかったが……お前さんはどうする?」
「もちろん逃げますよ」
ノノミがロジコマに乗ってやってくる。
「ロジコマで離脱する。アヤネ、ノノミのロジコマに添乗してくれ。大将を乗せた機体にはセリカとキリノ、シロコはハルカとだ。アル、僕と来てくれ」
「なんでこいつらを!」
「利用価値があるからだ。ほら、効力射が来たぞ」
「あぁもう!」
議論する余裕はなさそうだ。とりあえず効力射が来ない領域まで離脱する必要がある。指示の途中から動いていたキリノとアヤネはいいのだが、残りの面々はなんとかかんとかといった感じ。アルは慌てて僕を追ってくる。
便利屋68が仕掛けた攻撃だとしたらこれが牽制になるはずだ。違うとしたらリスクを背負うことになるが、そもそも無警告で市街地に迫撃砲を打ち込む相手にリスク計算をしたところですでにストップ高だろう。もしくは警戒させることが目的だろうか。
「横にハンドルとフットレストがある。しっかり掴まって」
砲弾が降ってくる中急発進になるがとりあえず投射域を離脱する。
「残りの二人は大丈夫かい?」
「うちの社員は優秀よ。とっくに撤退してるわ」
アルの声を聞きながら僕はロジコマ各機に指示を出していく。アロナのサポートを受けながらだが、視線で地図上をプロット、4機のロジコマがそれぞれ個別のルートに分かれた。
「ちょっと! どこに向かうのよ!」
「説明は後だ。なんとか集合したいけど、おそらくその前に鬼ごっこがある。相手の砲撃と戦果の確認が終わる前にこちらの情報共有を行いたい。この後全機行き脚を止める。周囲の警戒は厳にしてくれ」
《ゲヘナ風紀委員会との交戦は確定ですか……?》
アヤネの声はもっともだが、こういうときは懐に飛び込むに限る。
「どうやらゲヘナ風紀委員会と色々情報の行き違いがあるみたいだからね」
それぞれ路地裏に隠れたタイミングで一旦全機脚を止めさせる。地響きの様な音が響く。効力射があったということは、残念ながら誤射ではない。
「アル社長、残りの面々にも通信を繋げるなら繋げてくれ。僕たちの情報と作戦を伝える。残る二人の居場所は聞かない」
「……信じていいのかしら」
「信じるも信じないも君たちが決めていい。それによってこちらの作戦が変わることはない。ただし、僕たちを攻撃するなら風紀委員会と僕たちの両方を相手に逃げ回れ。僕は止めない」
「だからそれじゃ私たちに選択肢はないじゃないのよ……」
無線をオープン。タブレットとリンクさせて、スピーカーでアルにもアビドスの面々の声が聞こえるようにする。裏でアロナにモモトークを開いてもらう。チナツとの会話画面を呼び出す。
| 既読 | チナツ、アビドス自治区で 迫撃砲の攻撃を受けている |
| 13:02 |
| 既読 | 多分情報の行き違いがある そちらの状況を知りたい |
| 13:02 |
よしよし。既読はすぐついた。これで砲撃が止まってくれれば御の字。止まらなければいろいろと考えるべきことがある。
「とりあえずだが、ゲヘナ風紀委員会に便利屋68の存在について照会をかけたのは僕だ。それを受けて便利屋68の拘束にきたんだろうけど、それにしては明らかにオーバーな攻撃をしている。重迫撃砲の運用に50人程度、それ以外にも連れてきているだろうから多分150人規模なんじゃないかな」
《すごい数ですね……》
ノノミの声。
「うん。すごい数なんだ。どうやら本気でいろいろ作戦を立てているらしい。だから確認したいんだけど、ヴァルキューレでも他校の自治区近傍での活動については生徒会の認可が必要だが、僕は認可した覚えはない。現段階でそれら申請を受諾した子はいるかい?」
反応はない。ホシノにはまだ連絡が付かないが、今居るメンバーでは連絡を受けた子はいないらしい。
チナツは幹部クラスに限って横展開するといったということは、これがゲヘナ風紀委員会の幹部クラスの誰かがこれが妥当と判断したのだろう。兵力を送らなくていいと言うのを僕が弱気になっていると捉えたかな。まぁ人員不足で対応速度を上げられないという事情があるのは確かだけど、そこで低く見積もられたんだろう。
これ、僕が振るまいを間違えたのが原因だな。ここから挽回しないといけないのか。けっこうしんどい。それでもまだなんとかなる被害だと信じよう。
「アヤネ。ホシノへの連絡は?」
《それが……ずっと携帯電話の回線が不通で……》
「基地局が吹き飛んだ……いや、そうすれば
《多分電源を切ってるんだと思います。コール音もしないので……》
ホシノはいったい何をしているんだろう。この騒動のどさくさに紛れて殺されてましたとか無いことを祈るしかない。もし本当にそうなっていたら、僕はカイザーコーポレーションと徹底的に戦争をするしかなくなる。
迫撃砲の着弾の音はまだ続いている。音の間隔からしておそらく10門近く持ってきたんじゃないだろうか。どれだけ連れてきたんだ。
《でも先輩がゲヘナ風紀委員に『勝手に自治区でドンパチしていいよ~』なんて言うと思う?》
今度はセリカの声。それは僕もないと思う。自治権の維持に拘っていたのはホシノだ。みすみす手放すとも思えない。
「それについては僕も同感だ。なら相手は十中八九、勝手に撃ってきたということだね」
《ゲヘナほどの大規模校がそんなことをしてくるなんて……》
「キリノ、ヴァルキューレの経験からしてこういうことはよくあるのかい?」
《まずありません。というより、前代未聞だと思います》
「となると、便利屋68の逮捕を名目にしたアビドスへの攻撃の可能性も排除しきれないわけだ」
《先生、先生はゲヘナ風紀委員会がカイザーと繋がってると考えてる?》
シロコの声に僕は努めて明るく声を出す。
「実際にアビドスのビルを複数倒壊させてるしなぁ……。とはいえ、カイザーグループと組織的に繋がってる可能性はあんまりなさそうかな。便利屋68を名目に僕たちを狩り出すなら柴関を狙う理由は尚更無い」
アルがものすごい居心地が悪そうにしているけれど、ここは我慢してもらおう。店一つ吹き飛ばしたのは事実だ。
「いいかしら?」
アルが会話に割り込んだ。無線の奥で誰かが息を飲む。
「信じてくれとは言わないけれど、お店を吹き飛ばしたのはこちらの社員のオペレーションエラーによる事故よ」
《事故って、あんたね……》
「セリカ、まだアルの話が続いている。今は聞こう」
アルが目だけで礼をして続ける。やっぱり事故だったか。
「ただお店の破壊に風紀委員会は関わっていないし、あいつらはお店の爆破を待っていたわけじゃないはずってことは信じて。あいつらに借りを作るぐらいならどこかの覆面を見習って銀行を襲うわ」
クスリと笑ったのはシロコだろうか。
「だけど妙なのも確かよ。私たち便利屋4人を狩り出すためだけに迫撃砲分隊までつれてきて展開するのは明らかにやりすぎだし、あいつらにしては泥臭い。別の意図がある」
《社長の意見に私も賛成》
知らない声が割り込んだ。出所はアルの携帯電話だ。スピーカーモードになっている。
「君は鬼方カヨコさん、かな?」
《私達のことは調査済みなんだね。はじめまして、先生》
「アルの意見に賛成ということだったけど、どこの部分だろう?」
《この攻撃には別の意図があるってところ。これは風紀委員会の攻撃だけど、風紀委員会の総意ではないと思う。風紀委員長が指揮権を掌握してたら、ここまで無鉄砲に砲撃するとは思えない。それも“暁のホルス”小鳥遊ホシノのテリトリーで、だ》
「噂の空崎ヒナ委員長か……」
名前を口にすると明らかにアルのトラウマを抉ったようだ。顔が青くなる。あとホシノ、君は昔何をやったんだい? 僕の子供使いも大概な二つ名だが、暁のホルスというのも相当な二つ名だ。
《情報がないからなんとも言えないけど、これは私達便利屋への攻撃じゃなくて、おそらく先生、あなたへの攻撃だと思う》
「アビドス高校へのではなく、かい?」
なるほど、この子が便利屋68のブレインか。かなり場数も踏んでいるし頭が回る。こうなってくるとさっきのアルの発言も嘘ではなさそうだ。
《4人の私達と5人のアビドス高校の生徒じゃ、対応に必要な規模は早々変わらないはず。となれば相手の警戒度を上げさせたのは他の要因しかない。そうなれば変数は先生以外にないよ。……それに私達の依頼主も、生徒よりもあなたを警戒しているようだったから》
「ちょ、カヨコ!」
《社長、信頼には信頼で応えるのがモットー、でしょ。今日対応して分かった。今回の依頼主は私達を時間稼ぎのための捨て駒としか見てない。信頼には信頼で応えるなら、軽んじてくる相手に忠義を立てる必要もない。それに先生には社長とハルカを助けてもらった。その分の恩ぐらいは返しておかないと》
逆に、シャーレに借りは作らないという宣言だ。上手いなこの子。なんというか、グエンを思い出す。警戒は解かないが、信頼は寄せてくれるというスタンスは僕もとてもやりやすい。
タブレットに通知。目を落とす。
| 既読 | チナツ、アビドス自治区で 迫撃砲の攻撃を受けている |
| 13:02 |
| 既読 | 多分情報の行き違いがある そちらの状況を知りたい |
| 13:02 |
| チナツ | |
|---|---|
| 申し訳ありません。 今はまだ話せません。 | 13:04 |
| チナツ | |
|---|---|
| 本当は止めたかったですが 上を止められませんでした | 13:04 |
| チナツ | |
|---|---|
| ~チナツ~ | 13:05 |
今は話せない、上を止められなかったという文言から、おそらくチナツは正確に情報を共有し、それが利用されたのだろう。カンナといい、僕の対応をしないといけない子はずっとこんなことになっている気がする。申し訳ないがここは僕もどうしようもない。
だけど、大体分かった。相手は僕らを値踏みしている。デモンストレーションをしてほしいらしい。無意味な戦闘をするとなるとつらいものがあるが、実際に部隊を動かしてきた以上は対処しない訳にもいかない。疲れるしやりたくないんだけどな、デモンストレーション。
「カヨコ、情報ありがとう。ついでに一つ聞きたい。いま風紀委員会のチナツと連絡が取れたんだけど、彼女は上を止められなかったって言ってる。この『上』に心当たりはあるかい?」
《医療部のチナツが『上』と言って黙るとなると、ほぼ決め打ちで天雨アコ行政官だと思う。というより、戦果を焦ってここまで雑に砲撃部隊を運用するあたり、実働部隊出身の指揮じゃない。チナツ以上の幹部でこんな運用で現場を黙らせられるのはアコ以外いないよ》
「なるほど。もっと上……たとえば風紀委員長が絡んでいる可能性は低い?」
話を振りながらとりあえずチナツに返信。
| 既読 | どうもありがとう 大体理解したよ。 |
| 13:05 |
| 既読 | 現地に君がいるかどうかは 教えてもらえるかい? |
| 13:05 |
カヨコが悩むような間を取る間にも、チナツのモモトークは入力中に切り替わる。
《……たぶん、というか、絶対無い。ヒナ委員長は情報部出身の叩き上げで、机の上でも現場でも火砲の威力とその影響の意味を知ってる人だ。ヒナ委員長を前にして、試射で関係無いビルを叩き壊した挙げ句、諸元をそう変えないで効力射を投射したら、砲手も指揮官も無事じゃ済まない》
「わかった。その感覚を信じるよ」
| チナツ | |
|---|---|
| 指揮権はありませんが…… 一応は待機しています。 | 13:05 |
| チナツ | |
|---|---|
| ~チナツ~ | 13:05 |
チナツはどうやら無線の『通信終わり』の合図のように名前を名乗る癖があるらしい。わかりやすくて助かるが、これ以上は勘弁してくれという意思表示なんだろう。
うん。これはチナツより上の指揮権を持つ子たちにはどうにか黙ってもらってチナツに撤退を指揮してもらうのが一番早いな。手早く片付けたい。
「状況はわかった。これはシャーレとしてというより、対策委員会顧問としての提案なんだけど、風紀委員会の皆さんには力尽くで退去願うのが一番じゃないかな、どうだろう?」
「いっ!?」
アルがいきなり目を剥いている。
《そこの便利屋より出してる被害がデカいしね。賛成、大賛成。いい加減腹立ってきたからちょうどいいわ》
《私も賛成。先生の判断を信じる》
レスポンスが早かったのはセリカとシロコ。セリカは報復とかに走らないようしっかり声かけしないとだめだな。
《先生のおかげで山ほど弾薬はありますしねぇ。やっちゃいましょうか!》
のほほんと回答が来たノノミにアルの顎が落ちる。
《本当はこんなところで借金も弾薬の消費も増やしたくないんですけど……》
アヤネの回答に僕は笑って答える。
「違いない。だけどまぁ、そこはゲヘナ風紀委員会というより、さっきのアコって子との話し合い次第かな。話の分かる子だといいんだけど」
10秒も掛からずに対策委員会の回答が揃ったところでアルがおずおずと口を開いた。
「……あの、正気? 100人以上いるのよ?」
「逆だ。相手は数が多すぎて身動きが取りづらい。路地と大通りが入り組んだ街区で地図の更新は数年前で止まっている。一方で僕たちはこの街の構造を理解している。相手は情報を脚かドローンで取得するしかない。そんな状態で砲兵を含む三桁の人員を投入するのは自殺行為だ」
打って変わってこちらは情報のアップデート済み、機動力はロジコマで稼いだ上で小回りがきく。ノノミの面制圧能力もあるし、シロコやセリカなら一撃離脱もお手の物だ。鈍重な相手に嫌がらせし放題となればリスクは許容できるレベルで低い。
「対策委員会のコンセンサスはこれでいいとして、
「私達に?」
アルに頷いて見せる。正直これはチャンスだ。柴関爆破の報復で便利屋68の事務所にロケット弾を叩き込むよりはよっぽどいい。
「アビドス高校対策委員会とゲヘナ風紀委員会の停戦交渉が開始されるまで、僕の指揮下でゲヘナ風紀委員会にハラスメント攻撃をしてくれれば50万を支払おう。ただし停戦交渉中のゲヘナ風紀委員会との交戦は禁止、契約期間はゲヘナ風紀委員会がアビドス高校の自治区を退去するまで。報酬は安いけど、その分弾薬費などの経費はシャーレに請求してくれていいし、働きによっては柴関ラーメン爆発事故の保障についての話し合いは僕が仲介する。実働時間は多分15分もかからないんじゃないかな。たぶん悪い条件じゃないと思うけど」
まぁ後でユウカやリンに怒られそうだけど、僕が怒られればいい話なので問題はない。
「……条件を変えさせて。弾薬代と報酬はいらないわ。ただし、お店との仲介交渉を確約して。あと全部終わってから風紀委員会に私達を突き出すのもナシ。それなら受ける」
そう言うとアルがにっと笑う。
「それにあの風紀委員会に一泡吹かせないと腹の虫が治まらないわよ」
「商談成立だ。まけてもらった50万円分以上の価値が提供できるよう僕も頑張ろう」
ようやく砲撃が止まったようだ。今から効力確認となれば、十分対応も間に合う。
「さてみんな、反撃に移ろう」
チナツには悪いが、僕もやりたいようにやることにした。後で菓子折でも持って謝りに行こう。
さて、次回はいよいよ対風紀委員戦。気合い入れていきます。
次回 ゲリラになりきる。
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