マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
柴関の大将への補填は、大将の自宅で埃を被っていた屋台セットの修理と再開までの仕込みや調達の手伝いをすることになっていた。社長と私で屋台の補修。ムツキとハルカが仕込み補助の役割分担で動いていた。
「ムツキちゃんそうじゃねぇ。しっかり鍋の底をかき回すようにするんだ」
大将はガス式の調理台の前でチャーシューを仕込みつつ、豚骨を煮ているムツキの指導をしている。それを後目に、私は椅子のがたつきを直していく。天面の布と中身のスポンジというか、綿が死にかけているのでそれを取り換え、張り替えていく。屋台だからそこまで綿密じゃなくてもいいのだが、椅子の水平も出しておく。釘がほぼ錆びてダメになっているのでこのあたりは全部打ち換えだ。もはや木の骨組み以外は全部交換する勢いで直している。
案外こういう日曜大工系はアル社長がうまい。机の天板の塗装を終えたアル社長が屋台の屋根の部分を確認している。今日はもう午後5時、明日もこの調子なら引き続き作業となるだろう。
本来はバイトのセリカなどが来るはずだったが、顔を合わせると気まずいということもあって昨日のうちから断っている。昨日の今日で案外平和に終わってしまった。……ボロボロ屋台の修復に忙殺されて情報収集どころではなかったともいえるが。
「よし。じゃあみんなそろそろ休憩に入ってくれ。そう旨いもんは出せんが、握り飯とたまごスープくらいは出してやっから座って待っててくれ」
「ほんとっ!?」
「え? そんな悪いです……ごめんなさい、わたしが爆破したせいで……」
目をキラキラさせるムツキと対照的に自虐的な発言をするハルカ。通常モードといえばそうだが、店の爆破の犯人たちを前にして気前がいい気もする。
「いいの?」
「カヨコちゃん。ハルカちゃんも。何度も言ってるが、そもそも退去勧告が出ていた店だ。それに店の手伝いで補填もしてもらってる。そことここは別で考えてはくれんか。それに、飯屋で働かせて腹を空かせて家に帰したとなれば、こっちの沽券にもかかわる。簡単なものでも腹は満たして帰ってくれなきゃ、こっちが申し訳ねぇ」
「……ありがとう。社長。休憩だって」
「ちょっと待って……多分ここのねじだけ……やっぱりワッシャーもう一枚かませないとだめね。後にするわ。今行く」
こういう時に一番よく動く社長はすごいと思う。アウトローとか言ってるけど、普通に真面目だし、ロマンとか言わなければ何をやっても成功するだろうに、少しもったいない。
「あ、アルちゃん、さっきアラタ先生から電話があってな、この後話があるからしばらくここで待っててくれって」
「先生が?」
「おう。なんでも『どうしても仕事を依頼しないといけない』らしいぞ。引っ張りだこだな」
先生が話してくるという時点でなんだかざわざわする。
「アルちゃん、ちょっと聞いてみるんだが、アラタ先生ってどんな人だい?」
「え? 大将、私に聞く?」
「セリカもアヤネちゃんもすごいヒトだっていうけど、なんというか、食べに来るときはなんだか疲れ切ったサラリーマンみたいな感じなんだが、今回はものすごくテキパキ物事が決まっていったからあの人のことが上手くわからなくてねぇ……ほかの人の意見も聞いてみたくてね」
大将が小鍋に出汁をとりつつアル社長に話を振った。アル社長はちょっと悩んだ様子。
「そうね。すごいヒト、というのは間違いないわ。というより、ヤバい。鳥みたいにずっと遠くまで見て、最適解を叩き出してくる人」
「最適解……ねぇ。戦闘にはあるのかい、最適解。飯屋やってると味の最適解なんてないように感じるが……」
「唯一の答えがあるわけではないと思うけど、それでも最適な答えというのはあるの。あの人は……それを、悩む素振りもなく一瞬で叩き出してくる。敵としたら、どうしようか悩んでいる間に、そこにだけはいてほしくないって場所にピンポイントで兵力を置いてくる。出方を読むことはできても、読めたところでそこを正面突破する以外の選択肢がいつの間にか消されていて、全滅するか、投降するかを選ばないといけない感じ。……最小の戦力で、最大の戦果を挙げる、お手本みたいな指揮をする」
社長の理解は結構適切だと思う。ロマンモードに入ってない時のアル社長はちゃんと切れる。実際、風紀委員会の面々にはかわいそうなことをしたと思う。先生が帰り道に罠を仕掛けてくれと言ってきて、だいたいの仕掛け方まである程度指示をくれた。そしてキルゾーンまで戻ってきた風紀委員はすでにロジコマというらしいロボット戦車の前で恐慌状態で見え見えのトラップにも気づかず吹き飛ばされていた。あんなことをされたら士気が下がって指揮系統もへったくれもなくなる。
「人は見かけによらないんだなぁ……」
大将はのんびりと言っている。うまく伝わったかわからない。
「やぁ、大将、便利屋のみんな」
そしてそこにくだんの先生がやってくる。砂漠の夜は冷え込むからか、ジャケットまで着込んで、重そうなアタッシュケースを下げたスーツ姿の先生、後ろにはアヤネもついている。後ろにはロジコマが1機……のはずだが、カラーリングやら細部も変わっている。新型だろうか。
先生を見て、一瞬ぞわっと寒気が走った。……なんだか、昨日までと空気が違う。アル社長もそれを感じ取ったようで目元が緊張している。
「よう、今お前さんはすごいって話をしとったところだ。アヤネちゃんもスープ飲んでけ」
「あ、ありがとうございます……ですが、みんな頑張ってるので、私だけもらうわけには……」
「すごいのは子どもたちです。僕はできることをしているだけですよ」
そう答えつつアヤネに座るよう促す先生。
「あれ? ロボット君いろいろ変わってる?」
ムツキがロジコマのそばに寄る。
『はじめまして~、浅黄ムツキさんっ! 先輩たちがお世話になりましたっ!』
「わっ。喋れるんだっ!」
『もちろんですとも! ミレニアムサイエンススクールエンジニア部の最新プロダクトですから! ニューロチップ式マイクロチップを搭載し、AIによる自律行動および任務の遂行が可能となりました!』
「あー、宣伝は無視してくれ。高性能なのは確かなんだが、いろいろとおしゃべりなんだ」
『そんなご無体なアラタ指揮官! 指揮官端末との連携も含めて盤石な指揮体制がこれでとれるわけですぞ! それに簡易熱光学迷彩によるボディカラー変更機能が新搭載。砂漠用の無限軌道アタッチメント、酸素硬化式液体ワイヤランチャーを追加装備! 人員搭載用キャノピーブロックの新規開発も間に合って対戦車ヘリ以外なら向かうところ敵なしですっ!』
「はいはい」
なんだか機能がもりもりなのはわかるが、先生はもうすでに辟易としている様子。後ろでロジコマがボディカラーを瞬時に砂漠迷彩のタンカラーから真っ白なボディに切り替えて見せるなど、勝手にデモンストレーションを始めており、ムツキがキャーキャー言っている。……なるほど、人の眼は無理でも、これ、街中の画素数の荒い監視カメラとかなら騙せるんじゃないだろうか。少なくとも発見を遅らせることができる。熱光学迷彩と言っていたから、赤外線センサーも多分対応してる。……純粋に、欲しい。あれがあれば普通に戦略の幅も広がるしいろいろと便利だ。
そんなやり取りを意図的に無視している先生だが、目元に掛けてあるシューティンググラスのようなデバイスには朧気に表示が光っては消えていく。
「……何かあったのね」
アル社長が聞くと先生は首の後ろを掻いた。
「そんなに僕はわかりやすいかい? 今日はいろんな人におびえられてばっかりでね」
「わかるわ。というより……昨日と顔つきが全然違うもの。風紀委員会の砲撃より悪い事態?」
「そうだね。……いきなりだけど本題に入ろう。小鳥遊ホシノがカイザーPMCに拘束された」
大将が菜箸を落とす音がする。
「ホシノちゃんが!?」
「正確にはホシノがアビドスの借金の帳消しをちらつかされて、カイザーPMC側についた。……が、その条件自体が嘘だったようでね。現在はアビドスの旧市街の旧アビドス高校校舎に拉致、監禁されている」
先生がそう言って印刷した紙の資料を社長に渡す。人数分刷って来てあるらしく、社長から資料が回ってくる。
「連邦捜査部として、今回の事象は企業による未成年者略取誘拐であると断定してヴァルキューレの令状を待っている状況だ。だが今晩中に令状が出る見込みが立った。明日の夜明けと同時にカイザーPMCのアビドス砂漠の拠点と指揮システムに強襲を掛ける想定で作戦を遂行中だ」
アル社長は先生をじっと見ている。
「この作戦はアビドス高校だけではなく、ミレニアムサイエンススクールから電子戦部隊、ゲヘナ学園風紀委員会が1小隊、トリニティ総合学園救護騎士団から医療スタッフ3名、ヴァルキューレ警察学校公安部から若干名が参加する合同作戦となる見込みだ。あと覆面水着団に強奪されたトリニティの迫撃砲中隊が砲弾をばらまいてくれるらしい」
ゲヘナが噛んでるのが気になるが、昨日のアレで脅しに脅したんだろう。トリニティはゲヘナが正規で部隊を出しているので衝突を避けるために武装した人員の公式派遣は避けたが、武装を強奪されたことにして兵力を出した、といったところか。
「そこに、私たちも参加してほしいと?」
「そうだ。連邦捜査部として、便利屋68に公式に作戦への協力を依頼する」
そう言ってアル社長の前にアタッシュケースが置かれる。
「……これは?」
「中に情報端末と、今回の報酬が入っている」
「……私たちへの依頼は高くつくわよ」
社長の声に先生は表情一つ変えなかった。
「4名全員の参加で一人当たり1,000万では足りないかい?」
「いっ!?」
ハルカが息を飲んでいる。……正直、無茶苦茶な金額だ。
「便利屋68はブラックマーケットに拠点を置いているそうだね。それもあって今回だけに限らず、中長期的な治安等に関する動向調査を依頼したい。こちらについても1,000万。今日は5,000万もってきた。これで足りないようなら言ってくれ。成功後の支払いにはなるが追加で5,000万円までなら工面する」
馬鹿だ。絶対この人大馬鹿だ。
「あの……昨日も同じことを言った気がするんだけど、正気? 自分で言ってていろいろ空しいんだけど、たった4人の零細企業よ? そこに一回の戦闘に4,000万? で、今後の情報収集に1,000万?」
「そんなに驚くことかい?」
「正直イカれてるわよ。相場の10倍どころの話じゃないわ」
「これで子どもの命一つ救えるなら破格の安さだと思うけど。それに今回はリスクもゼロじゃない。敵はカイザーPMCの機甲中隊および、2個歩兵中隊」
「それにその人数で挑むの!? ロジコマがいたとしても私入れて歩兵戦力が20人ぐらいじゃない!」
「相手が抵抗するなら叩き潰すだけだよ」
確かにそれなら値段も納得だ。普通だったら『死んで来い』という依頼だ。
「……で、あたしたちは何をするの」
思わず口を挟む。先生が私を見る。昨日社長が『イヌワシの眼』といったのがよくわかる。とび色の眼が、私を見る。
「アビドス高校のメンバーと同時に突入するクラッキング班2名の護衛だ。クラッキング班は事前にある程度接近しておく必要があって、ロジコマによる強襲ができない。事前にアビドス旧市街に潜伏、作戦開始と同時に相手の受電設備に侵入し、クラッキング班がイントラネットにウイルスを注入後に受電設備を爆破して撤退というのがあらましになる」
「……社長、どうする?」
アル社長は顎に手を当てて考えている様子。
「質問いいかしら?」
「なんでも聞いてくれ」
「これは私があなたを信じるかどうかにかかわる大切な質問よ。回答次第では断るわ。……生徒にそこまで入れ込むのは、なぜ?」
「子どもを助けるのに理由が必要かい?」
先生は即答。
「必要だわ。そこまで熱を掛ける理由はなに? 正義感?」
「正義感で子どもを助けたことはない。それに僕は僕のエゴで子どもを戦場に送り込む極悪人だよ」
「先生は!」
「アヤネ、今は話を聞いてくれ」
とっさにかばおうとしたアヤネを、先生は見ることもなく止めた。
「僕は過去、オペレーションミスで、僕を慕ってくれた子供と女性をやられたことがある。子どもはその場で射殺、僕を殺すためのブービートラップとして使われた。女性はさらわれ、僕をおびき出すための餌として使われた。……もっと前には僕は知らず知らずのうちに、村一つを地図から消したこともある。自分のオペレーションの意味を理解せずにね。……少なくとも、僕は君たちが思うようなできた人間ではない」
それでも、と先生は続ける。
「それでも、子どもが銃を取って戦わなきゃ生き残れない状況は間違っていると思うし、僕はそれに加担してきた大人の一人に違いない。なら、その責任は大人が背負うべきものだ。間違っても子どもじゃない。そんなもののために……子どもたちが消費されて良い道理なんてないんだよ。だから、大人が誰もその責任に向き合わないなら、僕がそこに向き合おうと決めている」
先生の表情は優しいのに、目だけが燃えている。
「……ほんと、なんというか。怖い人ね、先生は」
そう言った社長に虚を突かれた表情をする先生。
「キヴォトスではこの現状が当たり前なのよ。なのに、それに一人で反旗を翻すの?」
「ほかに誰もいないなら」
これも即答。本当に、怖い人だ。そう言われて放っておける人はまずいないだろう。
「……わかった。そして安心した。一人でも世界を変えようなんて夢物語、大人になっても言っていいのね」
「語るだけなら自由だ」
アル社長は、陸八魔アルは、すごく優しく微笑んでいる。……あんな顔できたんだ。
「アンタが極悪人だって言うなら、アンタは最高のアウトローよ。……この話、乗るわ。ただし、うちの社員を軽んじたらただじゃおかないから」
「ありがとう。報酬は足りるかい?」
「十二分、ただし、シャーレの情報端末、この作戦が終わっても持っててもいいかしら?」
「もちろん。預けておく」
先生はそう言って立ち上がる。
「集合は
「……何度でも言うけど、便利屋68の依頼料は高くつくわよ」
「それだけの働きを期待するよ、アル」
先生に続いてアヤネもぺこりと一礼して去っていく。
「……よし。アルちゃんたち、スープ飲んだら上がってくれ。朝から仕事なんだろう?」
「大将?」
「夜食で握り飯の差し入れに行くから、楽しみにしとけ。……負けるなよ、みんな」
答える声が揃った。
「合歓垣……」
「緊急で令状を発行してください。尾刃局長」
フブキが公安局長執務室やってきたのは22時になろうかという時間帯。差し出された紙の束に目を通す。申請用紙と、補足資料の束。
「……作ったのは中務だな」
「えぇ。今は疲れきって、アビドス高校の教室借りて爆睡してますケド。昨日からほぼ徹夜で駆けずり回って作った補足資料です。目を通してあげてください」
どこか慇懃に肩をすくめるフブキは、令状の発行まで粘るつもりなんだろう。デスクの前から動こうとしない。
「尾刃局長、質問してもいーでしょうか」
「なんだ」
資料に目を通しながら相槌をうつ。目撃情報や監視カメラの映像などをまとめた資料、そこから朧気に見えてくるのは、それらの稼働状況が犯人グループに事前に知られていなければ説明のつかない状況証拠の数々。
「キリノを停職にしたのは、これを調べさせるためですか」
「私は彼女が停職期間中に何をしてようと、違法行為がないかぎり関知しない。……そんな人員に調べさせた奴はいるようだが?」
「相手に先手を打たせたくなかった。情報端末の影響下から脱した状況で調べさせるには停職にするしかない。そして、現状その状態でも捜査権をオーバーライドできるのは、連邦捜査部だけ。だから、シャーレに中務とあたしを送った」
「……フン」
そうして彼女はたどり着いた。フブキもまた、意図を汲んで動いてくれた。これ以上の説明は必要ないだろう。
「令状の発行手続きに入る。
「はっ!」
フブキがこちらを見ずに敬礼をする。申請書にサインと印を押し、手続きフローが開始される。どんなに遅くても翌朝4時には令状が降りるはずだ。ここまで揃っていれば連邦生徒会も拒否できない。公安局長の印の重さがここで光る。
「……中務は、尾刃局長が面接をして、引き抜いたと聞きました」
「人事局長も口が軽いな」
「そんなあの子をなんで生活安全局
「……彼女の銃のスコアを見ただろう? それに、物事を自身に寄せて考えすぎる」
「警備局ならともかく、公安としては使える人材でしょう。少なくとも、尾刃局長はそれを意図していたんじゃないんですか?」
言い返してくる。それにどう返すべきだろう。
「……あいつには、熱がある」
「熱?」
「……キヴォトスの治安を護るため、法と規則、規範のみを拠り所とし、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず……」
続きはフブキの口から紡がれる。
「不偏不党且つ公平中正に警察職務の遂行に当ることを固く誓います……入学時の宣誓文、ですね」
「技術は継承できる。前例は踏襲できる。規範は習得できる。ただ、その根幹を成すべき正義と倫理は、だれがどれだけ講釈を垂れたところで、あとから根付かせることはできない。そしてその正義を維持するだけの熱量は、そう簡単に維持することができない。私が公安局で学んだのは、それだけだったよ、合歓垣」
冷えてしまったマグカップを手に取る。ホットコーヒーも完全に冷えてしまえばえぐみしか舌に残さない。
そう、熱は失われてしまうのだ。それは絶望かもしれないし、日常かもしれない。それでもふと、振り返った時に冷えてしまったコーヒーにがっかりするように、ざらつきを残す。
「……彼女の持つ熱は、貴重だ。きっといつかヴァルキューレを変えてくれる。今はあまりに未熟だがな」
「そのための礎になる、そういうわけですか?」
「三流悪党の顛末としては上々だろう?」
そう言うと、フブキは長い、本当に長いため息をついた。
「尾刃局長。先に無礼を詫びておきます。申し訳ありません」
「は?」
つかつかつかつかと机を回り込んできたフブキを認め、直後に視界が大きくぶれる。頬を張られたと気が付くのに数舜かかった。
「……何をするんだ!?」
抗議をする前にジャケットを両手でつかまれ引っ張り上げられる。フブキが小柄とはいえ、椅子に座っていては彼女の方が視線は上だ。腰が軽く浮く。
「あたしたちはあんたの背中を見て走ってきたんだ! いまさらそれを否定すんな! あんたの背中を! あんたの正義を! ずっっっと、がむしゃらに追いかけてきたんだ! それを尾刃カンナ自身が捨てるのか!? それを信じてきたキリノは! あたしは! その憧れをどこに葬ってやればいいんだ!?」
フブキが怒鳴るのを初めて聞いた。
「答えてくれよ狂犬カンナ! その執念は熱じゃなかったのか!? その正義は! 熱じゃなかったのか!?」
「熱だったさ! それを信じていたさ! だがそれを! ヴァルキューレ自身が認めない! ヴァルキューレは脆さを抱え込んだ!」
「でもまだそれをぶっ壊せる可能性をあんたは捨てきれてないじゃないか! だから! キリノを拾った! キリノを守った! それは熱じゃないのか! アタシたちを拾ったのは! あんたの胸にある校章にまだ! そこに正義があると信じてるからじゃなかったのか! そこに火があるとわかってるからじゃないのかっ!?」
「それは……」
ヴァルキューレの校章に据えられた、図形化された炎。それすらも記憶の彼方に埋もれていた。
「だったら目を逸らすな! 自身の正義を否定してくれるなっ! それでも、キリノは! あんたの熱を信じてる!」
釣り上げていたフブキの手が震えて、力が抜ける。椅子に戻された胸に、フブキの顔が埋まる。
「信じてるんだよ……! それを……あなたが奪わないで、カンナ先輩……!」
震える声にどうすればいいかわからない。抱きしめるべきなのか、頭をなでるべきなのか、拒絶するべきなのか、わからない。だから両手は、椅子の横に垂れたままだ。
「すまない……」
辛うじてそう返すと、フブキはやっと頭を上げた。鼻をすする音がする。
「大変失礼いたしました。いかなる処分も受ける所存です」
「……意見具申の範囲内だ」
そういうと、フブキはぐちゃぐちゃな顔のまま笑った。
「では、執行してまいります」
合歓垣にビニール袋を渡す。中は、キリノの端末と手帳、校章が入っている。
「渡しておけ」
「預かります」
受け取ったフブキが早足で部屋を出ようとする。
「合歓垣!」
呼び止め立ち上がる。自然に敬礼が出たのはいつぶりだろう。
「貴官らが保身や利権のためではない、真に公正な警ら学生であることを切に願う」
彼女は教本通りの敬礼を返し、飛び出していった。
「……まったく、好き放題言ってくれる」
電話を取り、ダイアル。外線の接続先は――――――連邦生徒会、防衛室。
「……そうですか、令状を。いえ、尾刃さんを責めるわけにはいきません。それにしても厄介ですね。……え? 処断? するわけないじゃないですか。尾刃さんには感謝しています。十分時間稼ぎをしてくれましたし、そもそもがカイザー側のミスです。あなたに責任を問うてどうするのです。引き続き、えぇ、情報だけは上げてください。……はい、どうも」
通話を切ってとりあえず手元にあったマドレーヌが包んであった紙をゴミ箱に叩き込む。
「……まったく、シャーレは厄介な状況を作ってくれますね」
昨日笑顔でやってきて、さらりと出していったレポート一つ。ヴァルキューレ経由で情報が洩れていることを示す書類は握りつぶした。一方でカイザー関係のシステムを使い続けることは今回の事件で困難になるだろう。それをわかっていても、防衛室としてできることはなにもないし、動いた瞬間にシャーレを敵に回すということを、レポート一本で示し、動きを鮮やかに封じてきた。
それがたとえ、レポートに流出していい情報しか乗ってなかったとしてもだ。
そのうえで尾刃カンナまで封殺してくるし、この情報をカイザーに流した瞬間に尾刃カンナから辿ってここまで即応してくる可能性が高い。
「とはいえ……明日の朝であれば、シャーレは戦闘中で、こちらは無防備、か……」
まぁいい。こちらはこちらでいろいろ動いていたとカイザーには言い訳できる状況を作る必要がある。改めて、電話。
「あぁ、ユキノ、私です。……例の計画ですが、前倒しましょう。明日朝、連邦生徒会を襲撃してください」
ついでにシャーレも消せるといいと思うが、タイミングはここがベストだろう。
「そう、すべてはSRT特殊学園の立ち位置を盤石にするために」
力は、適正に管理されなければならない。官僚という超人によって。
ヴァルキューレの校章云々とかそのあたりは夢たっぷりの独自解釈ですのでご容赦くださいませ。
これでやっと役者がそろったでしょうか……。人員配置にようやく入れます。
最終決戦(※アビドス編)まであとわずか。
次回 僕はイヌワシ
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前回分の感想返信等遅れてますがちゃんと読んでます。ぼちぼち返していきますのでごゆるりとお待ちいただけますと幸いです。
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