マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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本日はちょっと短めです。


11010111_市街地戦の下ごしらえ

「電力設備、非常用発電機に切り替わります」

「なんだったんだ今のは……」

 

 建物の屋上の監視所で濛々と上がる煙と光を見る。いつでも頭を下げられるようにと土嚢を積んだ山から少しでも露出しないように中腰のきつい姿勢で周囲を観察。より大柄な上司はなおのこと辛そうにしながら反対サイドを見ている。

 

 私書箱(PO BOX)1142号と呼ばれるこの拠点は、昔はアビドス高校の校舎だったらしい。私書箱なんて言っているが、実際は廃墟の中の学校を一つ潰して作った研究施設……ということにした、非協力的な相手と()()()()したり、()()()()したりするための場所だ。時々偉い人が頭陀袋に入った()()()()()だったり首輪をつけた()()()だったりをつれてやってきては()()()()()をしている。相手は知らないし、末端が聞くべきではない代物だと言うのはわかる。

 

 一昨日の朝に()()()()()が一袋運び込まれたのは知っている。しばらくはかかるだろうということをお偉いさんは言っていたし、そのお偉いさんはこのアビドス砂漠を統括する支部から歩兵中隊を二つと機甲中隊までもってきていた。それに歩兵中隊は“外”とのローテーションでキヴォトスに中期でリフレッシュ休暇兼トレーニングのために配置されているキヴォトスにしては精鋭をつれてきていた。

 

 それは戦闘がありうるということだろうと警戒をしていたが、案の定相手はやってきて、なぜかジャガイモとは関係ない資材置き場の列の端にある受電設備だけを焼いて撤退した。

 

「それにしても、あれマルサン中隊のおっさんたちっすよね? さすがキヴォトスの生徒、よく3分近くももつもんだ」

「押されて撤退に見えたのか? あれが」

 

 なぜか上司はご立腹。

 

「小隊長機が一瞬で狙撃されたの見ただろう。気を抜くなよ、狙撃手にかち割られても文句言えんぞ」

「ちなみにここで労災が起きたらどうなるんすか?」

「一応D.U.まで行って階段から転げ落ちたとかあのーあー、あれか、温泉開発部だ。そいつらの開発に通勤中に巻き込まれたとか適当な理由が付いて病院に放り込まれるだけ。私書箱1142号は存在しないことになってるからな」

「うれしくて涙が出るっすねー」

 

 そういいつつ一応記録を取るために端末を起動。勤務中は持っておくようにと言われている電子端末。襲撃などの情報はこれを元に共有されることになる。監視塔にいるときは特にそうだ。入力だったり報告だったりをこの端末経由で出したり受けたりということになる。

 

「……あれ?」

「どうした」

「端末が死んでるっす。戦術マップの表示が恐ろしく遅くて……回線のせいっすかね」

 

 そう言った瞬間に目がちかりとして目を閉じる。日の出だった。それに安心して視線を下に戻して、気が付く。

 

「あ、表示きたっすけど変っすね。撤退した敵のアイコンがまだ受電設備の傍にあることになってるっす」

「どうせ今の停電でルーターがリセット……」

 

 上司の言葉が一瞬途切れいきなり双眼鏡をもって突進してくる。

 

「わっ! なんすか! なんなんすか!」

 

 慌てて避けると上司が双眼鏡で太陽のそばを見ようとしている。自殺願望かと思う。

 

「……やられた」

「は?」

 

 無線機を取る上司を見る。

 

「さっきの停電で警報装置の親機がリセットされやがった! 停電中の警告を受信できてない!」

 

 慌てて上司が双眼鏡で覗いた方を見る。線路がある。そして―――線路に土煙が見える。

 

「POBOX1142より司令部、聞こえるか! 自律戦車だ! 奴ら自律戦車出してきやがった! 馬鹿野郎! とっくに一次防衛線は超えてる! 速度……おそらく100キロ以上! 数最低でも3、おそらく5から6! 最終防衛線まで3分ねぇぞ! 砲兵隊へつないでくれ! アビドス東幹線を敵は驀進中だ!」

 

 

 


 

 

 

「……ていうのも、全部聞こえてるんですよねぇ。こっち」

 

 コユキが笑いながら復号した音声通信を打ち込んでいた。それを聞きつつ僕は指示を出す。画面が近いのに大きすぎて座っていると首が疲れるから立って指示をしているのだが、これはこれで楽かもしれない。正面のスクリーンがタッチパネルならこれでもいいだろう。リンクしたシッテムの箱をタップして攻撃目標などを更新していく。

 

 SC班に向いていた砲撃がより高強度の目標、高速で向かってきているロジコマの集団に向いていく。30秒はこれで稼げただろう。

 

「SA班、ようやく監視ポストが君たちに気が付いた。あと1分ほどで砲撃が開始されるだろうけど、数十秒で黙らせるから安心してくれ」

《SA1,了解(Copy)です。想像より遅いですね》

「その分楽させてもらおう。……SE1、諸元入力状況を」

 

 りゅう弾砲の運用部隊に連絡を取る。諸元の計算はユウカが叩き出しすでにアップロードしていた。

 

《ファウスト、です。1番から20番、全砲門用意ヨシ、です》

「わかった。相手の発砲炎を確認でき次第、試射に入る。目標は4拠点。試射に使用するのは3番、8番、13番、18番」

 

 敵の砲撃陣地は3か所。すべて射程内だ。あとは敵のデポにある本隊指令所を叩くことになる。指揮所とホシノの監禁場所を分けたのはいい判断だ。

 

《SC1,発砲炎を確認》

 

 チヒロが敵の砲撃陣地で何か光ったのを捉えた。

 

「ようやくか。SE班、応戦に入ろう。試射を行う。3番、8番、13番、18番、攻撃を許可する(CLEARED HOT)

 

 僕の指示で砲撃が開始される。着弾予測域をアロナがマッピング。リアルタイムで補正を掛けていく。その間にも敵の砲弾が着弾していく、最後尾を抜けているフブキのロジコマが若干爆風で煽られただろうか。被害は少ないし、動的目標を狙撃できるほどりゅう弾砲は甘くない。面制圧ができるころには旧アビドス市街地に飛び込んでいる。

 

「ユウカ」

「わかってます。SE班、1番から5番および16番から20番は諸元変更なし、6番から10番は仰角+1.0、11番から15番は左へ1.0、仰角マイナス2.0修正。効力射に備えて」

 

 ユウカの指示の間にも試射が着弾。これで相手の砲兵隊にもこちらの本気度が伝わっただろう。着弾前から着弾位置が絞り込めていくのはアロナとヴェリタスの演算装置のおかげだ。本当にいい仕事をしてくれる。

 

《SE1から管理班、諸元修正完了しました》

「SE班、全門、効力射開始せよ。5分間で撃てるだけ撃ったら撤退だ」

《へっ、撤退ですか!?》

「君たちには歩兵戦力がない。歩兵で囲まれたら君たちが危険だ。だから撃てるだけ撃ったらすぐに撤退してくれ」

《わかりました! 急ぎます!》

 

 つるべ打ちとはまさにこのことといった様子でどんどん砲弾が飛び出していく。この速度でもアロナが追従するあたり、本当にアロナとヴェリタスの動きは優秀だ。撃った弾一発一発の動きをトレースして危険域を算出している。

 

 相手の砲撃は一斉射だけして止まった。それもこちらの効力射が入る前になんとか撃ちきることを目標にしていたらしく、完全に外れたところを撃っている。おそらく訓練中の新兵集団か、そういうところだろうか。

 

「それにしてもここまで向こうの対応が遅いのはなんでだと思う?」

 

 ユウカが何言ってんだこの人と言いたげな目で僕を見てくる。

 

「あのですね。先生が、というかこの管制システムが早すぎるんです。その端末と情報連携のおかげで3か所に同時着弾とかしてくる時点で打てる手はないでしょう?」

「そうかい?」

「ちなみに聞きますけど、初手で管制システムを叩き壊されて、音声通信までハックされているかもしれないって中、無制限でりゅう弾を全力投射してくる相手にできることあります?」

「そこなんだよ。なぜ撤退指示が出ない? 攻撃開始からもう3分は経ったぞ」

 

 そう言うと今度こそ、なんだこいつという目で見られる。

 

「……3分しかたってないからでは?」

「通信網は潰された。現場は被害が出ている。なら引いて立て直す以外に手はないだろう。いや、キヴォトスならこれぐらいの損耗は許容するのか……?」

「はぁああ、先生。敵は先生ほど目がよくないのです」

 

 ここで視力は1.0もないんだけどとか言ったら多分蹴られるだろう。

 

「それは戦略眼的な意味でだね」

「誰がここで視力検査の話をしますか。いきなり不意打ちされて頼りの戦術リンクが吹き飛んでのこれです。私から見るとカイザーはよく対応していると思いますよ。敵をほめるのはなんだか嫌ですけど」

「舐めてかかるよりよっぽどマシさ」

 

 戦術リンクを吹き飛ばしたのは以前ミャンマーでこれをやられたことがあったからだが、同じような戦略モデルを『坑道作戦モデル』としてミレニアムサイエンススクールが研究していた時点で有効なのはわかっていた。それにしても効きすぎな気もする。人材不足な僕たちは別として、専門訓練を積んでいるはずの傭兵集団がこれでいいのか。

 

 こちらのりゅう弾砲が相手の砲撃陣地をめちゃくちゃにしていく。すごい威力だが、これを学校が保有していて普通に訓練で使っていると言っていたからやっぱりこの世界は狂ってるな。

 

《通信班より管理班、敵がハニーポットにかかった》

 

 これはコタマの声。ハニーポットというのはヴァルキューレの交通管制システムに仕掛けていたトラップだったはずだ。

 

 電子攻撃には名札が付いている、というのはマキから聞いたんだったか。既存のサーバでは処理できなくなった時、かつ、こちらが攻撃をためらうような手段で処理能力を回復して情報連結を維持するために取りうる手段として、前回通用した手段に頼ってくると予想したのはチヒロだった。

 つまり、セリカを誘拐した時、こちらのロジコマを活用してハッキングをするために使われた、車載AIを使った分散型コンピューティングネットワークの再利用に走らざるを得なくなる。その接続時の情報を取れば、その車載AIを悪用しているところの現行犯としてカイザーのサーバを押さえることができるはず、というのがミレニアムサイエンススクールの筋書きであり、それに使われた技術パテントの有無は問答無用で調査対象となる。言い逃れできない状況で押さえるためにも、ここにアクセスさせる必要があった。

 

 それにしてもその通りになるとは、このあたりの感覚はチヒロは優れている。

 

「データはとれそうかい?」

《ルータ情報とれた……MACアドレス取った、ばっちり》

「情報をノアに転送してくれ」

《もう送ってる》

「ノア、情報連携を確認してるかい?」

 

 ノアを呼び出す。

 

《はい。確認してます。……このアドレスは見覚えがあります。盗品のようですね。技術が得られないからといって盗むような不届きものはこっちで逮捕しちゃいます。シャーレにはセミナーを代表して感謝申し上げます。……ここから先は、ミレニアムサイエンススクールにお任せください》

「やりすぎないようにね」

《大丈夫です》

 

 その大丈夫は絶対大丈夫なやつじゃないと思うんだが、と思う間にも呼び出しがかかった。コール元はSA班。

 

《SA班、まもなく旧市街地に入ります》

「進入継続。SE班が砲撃陣地をぼこぼこにしてくれた。SC班の再配置まであと35秒。このまま市街地戦に突入する。SA班は僕の指示に従ってくれ、個別に指示を出す。SE班は少々早いけど現在装填中のもので砲撃やめ。撤退を始めてくれ。目標は達成した。ユウカ、SE班撤退のとりまとめを頼む」

《わかりました! 撤退します!》

「ファウスト、ハイウェイの入り口まで誘導するわ。移動準備が整い次第連絡を」

 

 ユウカにSE班のハンドリングを任せ、僕も管制卓に座る。本格的に誘導しないとおそらくここからは間に合わない。

 

「SA班、減速加速度に注意。タイヤ走行に切り替えたとたんに速度が落ちるから気を付けて」

 

 市街地戦に入る。相手はこちらの動きをつかんでいるということは、対戦車ミサイルや装甲車も出てくるだろう。

 

「いこう」

 

 

 


 

 

 

「皆さん牽引車に乗ってください! 急いで!」

 

 念のためにいつぞやの紙袋を被っていたが、どうやら敵に見られることなく撤退が完了しそうだ。砲塔をけん引位置に戻し、地面に固定していたピンと足を格納し、それぞれの牽引車に繋ぐ。自分が担当していた20番砲から全力疾走で残っている人がいないかを確認しながら1番砲へ向かう。公では動けない作戦のために急いで、ただ抜かりなくやる必要がある。

 

「凡人には無理ですってこれ……!」

 

 だれも残ってないことを確認しながら走る。紙袋もあって顔が熱いがいろいろと思うところがないと思えばうそになる。

 

 私、阿慈谷ヒフミは平々凡々で、リーダーなんて柄ではないと自他共に認める性格だ。―――少なくとも、そう思っていた。リーダーとはナギサ様みたいに深く考えてしっかりと皆に理念を示せる方やミカ様のように高いコミュニケーション能力と推進力であり方を体現できる方がやるものだと思う。

 

 正直そんなリーダーに気に入られる理由がわからない。何ならティーパーティーのお二人のハイブリッド版みたいなことを始めた先生が私を使っている理由はもっとわからない。

 

 昨日から怒涛の24時間だったのだ。朝イチでいきなり午後にアポイントを取ってくれと言われ、ナギサ様にお伝えするとご朝食のパンケーキで咳き込まれつつもすぐに了承、ミカ様にも予定を半ば無理やり空けさせての会談の準備を滑り込みで終わらせると、あの先生はヘリから降ってきて、会談はゲヘナ嫌いのミカ様の神経を逆なでしたあとやたらと急いで帰っていった。そしてナギサ様の指示で夜中に砲兵隊を率いてきて砂漠にやってきて4分ちょっと撃って撤退である。正直全体像はつかめていない。正直この4分のために先生はトリニティに飛んできたのかと思うと労力に合っているのだろうか、とも思う。

 

 とりあえず全員が乗車したことを確認して1号車の後部座席に自分も乗り込む。

 

「SE班撤退準備完了しました!」

《了解。一号車から順番にアビドス圏域道23号線に向かって下さい》

 

 運転手をしてくれる1年生に声をかけ、ふぅと息をつく。紙袋の覆面はさすがにとってもいいだろう。

 

「おつかれさまでした。ヒフミさん」

「っ!?!?!?!?!?」

 

 隣からよく知る方の肉声が届いて文字通り飛び上がってしまう。窓の上の手すりに頭をぶつけていたい。

 

「ななななななな、ナギサ様!? ついてきてたんですか!?」

「えぇ、ヒフミさんに何かあっては困りますから」

 

 そう言って隣の席で微笑む作業着のナギサ様。

 

「よくやりました。相手の砲兵陣地と本部になっている補給拠点をここまできれいに砲撃したのです。しばらくは相手は混乱に陥るでしょう」

「そ、そうなんですかね」

 

 ナギサ様がなんでここに、という衝撃が強すぎて頭に情報が全く入らないが、ともかく仕事は完遂したらしい。

 

「それにしても、あの先生はかなりの曲者ですね」

「アラタ先生、ですか?」

「えぇ……私たちを問答無用でこの戦闘に巻き込む手腕、そして、正確に部下になる生徒たちを鼓舞して正義はこちらにあると示す演説能力、そしてなにより、情報システムと深く連動した、複数のレイヤでの戦闘の同時遂行能力を見せつけた。……味方にできればこれほど強い味方はいませんが、敵に回れば恐ろしい存在です」

「えっと、それはどういう……」

 

 ナギサ様は窓の外に目をやって続けた。

 

「今回の作戦、私たちだけじゃなく、ミレニアム、ヴァルキューレ、そしてゲヘナが参加した以上、この作戦そのものを秘匿することはもう不可能です。この情報は必ず洩れるし、もう漏れている。それこそレッドウィンター学園や百鬼夜行、山海経も盗み見ているでしょう。そこでシャーレの先生はあの演説をした。このキヴォトスそのものへの宣戦布告、そしてそれはいつかキヴォトスを滅ぼすやもしれない宣戦布告です」

「え……?」

 

 そんな話だったっけ、と首を傾げてしまう。確かにこの世界は間違っていると言っていたけれど、そんな直接的な話なんだろうか。

 

「生徒のために戦ってくれる先生かもしれません。でもどれだけ思想が高尚なものでも、それを急速に広めようとしたら、行きつく先は聖戦という名の虐殺か強制収容所です。そして先生は……聖戦を選んだ」

 

 ナギサ様の眼が私を見る。

 

「近いうちに私たちは選択を強いられるでしょう。シャーレという覇権を認めるか、否か。それはつまり、シャーレにつくか否かという選択です。学園やあり方を変えていくことができるか否かも含めて問われていく」

 

 そこで目の色がふっと優しくなった。

 

「トリニティも変革の時代に入ったのです。率いるのはあなたたちですよ、ヒフミさん。きっとあなたたちなら大丈夫」

 

 頭をなでられる。どうして私が、とは、結局聞けなかった。




なんとかデイリー投稿。この勢いでなんとかアビドス編ラストまで突っ走りたいところです。

次回 高速メリーゴーランド

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