マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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今日はひたすら武器の話。怪しい大人を書くのすげえ楽しいなぁ!(白目)


F1-003:武器商人について

 弾倉を空にして、マガジンを外す。薬室に実弾が残ってないことを確認して銃を置いた。屋内の風のない射撃ブースで20メートル先のメタルターゲットを狙うなら大体の弾は当たる。

 

 シューティングレンジには安全確保のための人数制限がある。私とあの人、武器商人以外は、つまりホシノたちはこのシューティングレンジを見下ろせる休憩スペースで待っているという。あの人の号令で銃を撃つのは訓練であっても久々だ。

 

 黄色い大きなイヤーマフを外すとあの人が声をかけてきた。

 

「2番目のが一番撃ちやすそうだったね」

「はい」

 

 あの人は私のことをよく見ている。反動はたしかに強いが、それでも取り回しはよさそうだった。武器商人が薄っぺらい拍手をしてくる。

 

「いやはや素直に驚きましたよ。まるでサイボーグです。よく訓練されている」

 

 あの人は商売の笑みのまま武器商人の方を振り向いた。2番目に撃った銃が仕舞われた樹脂ケースを手に武器商人の人はもう一度射撃ブースに入ってくる。

 

「製造コードはHK416C“サブコンパクト”。少々反動は強いですが、精度と堅牢性を求めるならわが社のラインナップとしては頭一つ抜けた完成度を誇ります。その分、個人兵装としては導入コストが割高となるのがネックですが……まぁ先生なら問題ないでしょう」

 

 武器商人が樹脂ケースを開けて中身があの人に見えるようになる。

 

「弾薬の入手性は?」

「5.56x45mm弾ですから、KAZEYAMA製の弾薬であれば万単位でご用意できます。弾倉(マガジン)もSTANG4179準拠のサードパーティー製と互換性があります。ほら、コンビニエンスストアでピンク色のマガジンがついた実包を見るでしょう。あれが弾倉ごと使用可能ですから、どうしても足りなくなったらコンビニエンスストアに駆け込んでください」

 

 もちろん、まとめて注文いただいた方がお値引きできますがと言われてあの人は頷いている。

 

「ジブリール、どう思った?」

「撃ちやすいですし、重量のわりにはハンドリングが楽です。シングルポイントスリングで携帯すれば、拳銃のような予備火器(セカンダリ)への持ち替え(トランジション)もやりやすいでしょう。携行のメインウェポンとして使うなら第一候補になると思います」

 

 思ったことを並べ立てていく。あの人の求める情報はシンプルだ。余計な言葉はあまり必要ない。それにこのタイプの銃はよく使っていた。私も慣れているレイアウトの銃だ。

 

「ですが、この銃はセレクタが右手でしか扱えません。制式として考えるなら、ポジションのスイッチや左利きの部隊員のこともあるので銃の両側面に操作レバーがあるとよいです」

 

 本来は左利きでも容赦なく右で撃つように矯正するのだが、ここではそこまで訓練をしていないように見える。

 

「あと強いて挙げるならアイアンサイトが使いにくいのが気になります。光学照準器(オプティカルサイト)を信用していないわけではないですが、バックアップが欲しいです」

「なるほど、わかった。……キャスパーさん」

「オプションにはなりますが下半分(ロワーレシーバ)だけAR-15ファミリーの製品であれば交換ができます。左右対称(アンビ)のものに交換すればよいでしょう。アイアンサイトもピカティニーレールを使って時計回りに45度オフセットさせたものをバックアップとしてつけておくとよいかと。ただその光学照準器は電源不要ですし、軍隊での採用実績もあります。信頼性は高いものなので故障の心配はありません」

 

 武器商人はあの人の質問を聞くことなくセールストークを始めた。人の話は最後まで聞くべきだと思う。

 

「そのアイアンサイトを見ることはできますか?」

「もちろん。時間的にゼロイン調整まではできませんが」

 

 そう言って武器商人は一言断ってレンジを出ていく。その間にあの人の袖を引く。

 

「あの武器商人は怪しいと思います」

「そうかい?」

「お金に忠誠を誓う人物のように見えます。信用できません」

「つまり僕の同類ということだ」

 

 そういうつもりで言ったのではないと言い返そうとしたら、言い返す前にあの人は頭に手を置いてくる。それで黙ってしまった自分が悔しい。

 

「プロフェッショナルであればそれでいいんだよ。僕はビジネスをしているつもりだ」

「イヌワシの魂は高潔であるべきです。剣は斬った相手で切れ味を変えると言います。私はイヌワシがなまくらになることを許せません」

「詩情にあふれた言い回しだ。変わらないね、ジブリール」

 

 乗せられた手を払いのけることができずに被り物(ヒジャブ)越しに撫でられるままになってしまう。変わらないのはイヌワシの方だ。故郷を焼いたあの日も表現をほめられた。

 

 あの時よりあの人の英語はボキャブラリが増えたけれど、私たちを労わることを忘れない。変わらないというのがこんなにもうれしく、こんなにももどかしい。

 

「それでもここだけは譲るつもりはないんだ。僕は、僕の魂のために手段を選ぶぐらいなら、ジブリールや生徒たちを守る卑劣なイヌワシでありたい」

 

 それは愛の告白ではないのか。

 

 そういうのは少なくともだれも来ない場所で口にしてくれないとこちらも受け止めきれない。

 

 それでもイヌワシにそんな気持ちはないのだろう。心が妙に浮足立っていて、それを戻ってきた武器商人に見られた。今すぐあの人に自覚させたいところだが、今見られるのはなんだか恥ずかしくて耐えることにした。この屈辱は今晩にでもゆっくり伝えよう。

 

「仲がいいことはよいことです。さて、お持ちしましたよ」

 

 武器商人に茶化されるしあの人の手は離れるし、いろいろと面白くない。武器商人は紙箱から取り出したブロックをサブマシンガンとアサルトライフルと中間ぐらいのサイズの銃に乗せ、ねじ止めしている。

 

「それにしてもMr.アラタ。あなたは面白い人だ」

「そうですか?」

「活躍は聞いています。ミレニアムサイエンススクールと提携し、あのカイザーコーポレーションを押しのけた。我々HCLIにとっては久々の痛快なニュースです。いえ、もちろん僕たちのためにしてくれたわけではないことは知っていますよ。それでもライバルが蹴落とされるのを見るのはやっぱり気分がいいじゃないですか」

 

 カイザーコーポレーションというのはホシノから聞いた。ホシノたちの学校を襲撃していた武装集団だ。あの人が指揮して敵指揮官を排除して手打ちにした。

 

「できればアフリカにいる妹にも会わせたかった」

 

 反射で腰の後ろに手が回る。ヘルメットギャングから奪った拳銃が差してある。

 

 武器商人はアフリカと言った。この世界にアフリカはない。そしてこの武器商人はアフリカを知っていて、あの人がアフリカのある世界にいたことを知っている。つまり、敵だ。

 

 都合がいいことにこの武器商人にも天使の輪はない。つまり、銃が効く。

 

 拳銃を抜く前にあの人に後ろから抱きつかれて止められた。わひゃぁとかうひゃあとか、そんな感じの声が出た。なんという屈辱。後ろから抱きしめられた姿勢でじたばたとしていたら、あの人の腕がより強く戒める。軽くかかとが浮いている。あの人は思ったより筋肉が付いている。どちらかと言えば、私が軽すぎるのかもしれない。

 

「フフーフ。怖いことはなしにしましょうよお嬢さん」

「いや、すいませんねキャスパーさん。お転婆なのは後でよく聞かせておきます」

「気にはしませんよ、子供は元気が一番です」

 

 そう言って武器商人は肩をすくめる。はいこんな感じになります、と口にしながらアイアンサイトを付けた銃を見せてくるが、私はあの人に捕まえられたままで何もできない。

 

「アラタ、放してください」

「攻撃はなしだ。約束できるかい?」

「……はい」

「いい子だ」

 

 かかとがちゃんと地面につく。あの人の腕の熱が離れていく。万が一の時に盾になれる位置にとどまった。私には天使の輪があるが、あの人にはない。

 

「……それにしても驚きました。キャスパーさんも“あちら”の出身でしたか」

「えぇ、本当はミャンマーにいるうちにご挨拶に伺いたかったんですよ。インドネシアかフィリピンあたりならすぐにご挨拶に伺えたのですが、ケイマンに先を越されてしまった。日本の防衛セクションとにらみ合うのに忙しかったんですよ」

 

 ケイマンといえば、老師ランソンの息子の武器商人だ。あの人もいい人ではなかったかもしれないが、この人よりはマシだったと思いたい。

 

「陸上自衛隊と。それは大変だ」

「ええ、父の代からの宿命でして、それはもう苦戦しました。あなたにはスガシラと名乗っているかイトーと名乗っているかはわかりませんが、その人にHCLIのキャスパーと会ったと言ってみてください。きっと面白いレスポンスが返ってくることを保証しましょう」

「なるほど。機会があったら話してみます」

 

 あの人はどこか面白くなさそう。

 

「あまり派手には動いてなかったつもりなのですが、情報は流れるところには流れているものですね」

「あなたは有名人ですよ。それこそシベリア・ラーダも目をつけていたわけですし、武器商人の世界でも関心の的でした。……だからこそわからない。あなたは少年兵を使い続ける。こんなにも子どもを愛しているのに。そしてあなたは銃を憎んでいる」

「よくおわかりで」

「言ったでしょう。妹と会わせたかったんですよ。あなたと僕の妹、ココ・ヘクマティアルはよく似ている。銃を恨み、銃を憎み、故に銃を捨てられない」

 

 やはり射殺するべきだと思うが、銃を抜くのを止められてしまった以上、言い返すことしかできない。

 

「あなたに何がわかるんですか」

「ジブリール」

「アラタの苦悩も、悲哀も、あなたに理解できるとは思いません」

 

 あの人が止めるが、武器商人があの人をジェスチャーで止めた。

 

「フフーフ。もちろん僕には理解できませんよお嬢さん。なにせ僕は武器商人です。ウソもホントもひらひらと口にしていいのは悪党、武器商人の特権! それに理解したからと言って、ビジネスである以上、最高の武器を提供することには変わりません。味方にはなれませんが、敵にはなりません」

 

 あの人の方向に一歩踏み出してくるので間に割り込む。背が低すぎてあの人への視線を遮ることができない。

 

「僕のような武器商人にとってこのキヴォトスは楽園です。ここの住人は皆とても人間らしい生活を送っている」

「銃を撃ち合うのが、人間らしいでしょうか」

 

 あの人の影が動く、おそらく首の後ろを掻いた。

 

「戦争というのはとても人間的な行為です。銃を撃ち合うというのはその一つの形態にすぎません。譲れないもののために結託し、攻撃し、反撃する。その営みを効率化するのが銃です。もちろん銃だけじゃありません。火薬が封じられたらクロスボウを売りますし、鉄が封じられたら棍棒を売りましょう。それが僕たち、武器商人だ」

「なるほど。……これ以上は喧嘩になりそうだ」

「喧嘩になったらあなたは子どもに銃を持たせるのでしょう? そんなあなたを僕はとても好ましいと思っています。僕とあなたとなら、きっといいビジネスにできる。その矛盾、その覚悟。それは僕たちが焦がれたものであり、僕が支援するに足るものだ」

 

 ビジネス。あの人も言っていた、ビジネス。それがあの人の魂を汚すのならば、私はそれに反発しなければならないと思う。それをするのは、この体では足りないだろうか。私では力不足だろうか。

 

 そんな気持ちも知らないで、あの人は口を開いた。

 

「あんまり教育に悪いことはしたくないんですけどね」

「それでも僕からしたら、あなたはとても人間らしい人間のように僕には見えますよ。古代ギリシアのアリストテレスは学問のための余暇(スコレー)を確保するために奴隷制を奨励しました。彼の『政治学』によれば、生まれの良い人間が、生まれの悪い人間を支配する権利を持つそうです。今では否定された論理ですが、そのスコレーという言葉が学校(スクール)の語源になった。奴隷を奨励した言葉が、今や奴隷を否定している」

 

 演技のような言葉がつらつらと出てくる。あの人はだまったままだ。

 

「人間は矛盾と闘争に満ちています。僕はその矛盾を愛するし、その矛盾に挑む人に武器という形で貢献したい。……あなたのありかたが、きっと人間を育ていくのだと思いますよ。……まぁ武器商人の戯言ですが」

 

 そう言って武器商人は改めて名刺を差し出した。

 

「ようこそキヴォトスへ、イヌワシさん。この矛盾だらけの火薬庫を変えられるとしたらあなただ。僕はあなたに武器を提供したい。もちろん適正価格で。子どもたちを力づける武器を僕なら提供できる」

 

 イヌワシは迷うことなくその名刺を受け取った。

 

「……その武器が、いつか子供たちが銃以外の解決策を見出してくれると信じたいね、キャスパー」

「鉛玉にイデオロギーはありません。それに意味をつけるのはいつだって引き金を引く人間です。商談に入りましょう、アラタ・リョータ。きっといい条件が出せる」

 

 武器商人はスマートフォンを叩いて、なにかの数字を見せた。おそらく金額だろう。

 

「取り急ぎお嬢さんの分の武器をお売りしましょう。HK416Cをベースにロワーレシーバをアンビセレクタが使えるものに換装しましょう。在庫と精度から見て同じメーカーのHK416A5モデルがいいでしょう。……メインの照準器はどうしましょうか。個人的にはお嬢さんにも試してもらった高度戦闘光学照準器(A C O G)のAN/PVQ-31をおすすめします。倍率は4倍、弾道補正機構(B D C)により600メートルまでは照準が可能です。米国海兵隊で採用実績がありますし、防水も11メーターまで効きます。実用には十分かと」

 

 あの人が私の方を見る。サイトの使い勝手に文句はなかったので頷いておく。

 

「ではそれで」

「オフセットアイアンサイトを装備して、1時間後までにお渡しします。弾倉は30発用のものを3つお付けしましょう」

 

 使用感も今度聞かせてください、とあの人に付け加えて、武器商人はまたスマートフォンを叩いていた。

 

「なのでライフルはこのお値段になります。商品引き渡し時にお支払いをお受けします。あとセカンダリとしてHK45Tを一丁、予備のマガジンの二つと一緒にお付けします。口径は.45ACP。こちらは試供品ということでサービスしますが、気に入ったら注文をお待ちしています。もし御不満があれば、これを基準に今後の納品を調整をしましょう」

 

 あの人が頷いている。

 

「今日の仕様のバトルライフルを10丁ほど後日でよいので納入をお願いします。1万発ほど対応の弾薬をセットで。射撃試験を行って正式採用するかを決めます」

「ではHK416Cカスタムは合計11丁、えぇ、明日の午後にでも連邦捜査部の本部にお持ちできます。こちらについての見積もりも後でお渡ししますが、通常のバンで配送可能なので送料は僕の権限で引いておきましょう。……あとご入用なものは?」

 

 あの人は言うことを決めていたのか、すぐに答えた。

 

「マチェットの取扱があれば注文したい。藪やトラップの排除用に一人一振りは装備したいから、こちらも大口になる」

「そういうことでしたらオンタリオのマチェーテがおすすめです。錆防止と光の反射を抑えるために刃身に艶消しブラックのコートがかけてあるので光を反射しにくい。ただしグリップが滑りやすいのでテーピングをした方がよいでしょう。正直このテープはテニス用を買う方が安くて質もいい。そこらへんのスポーツ用品店で買ってください」

「なるほど。それを二振りほど今日持って帰ることは?」

「もちろんオーケー。ですが、いくらキヴォトス人といえど、横なぎにしたら多分痛いどころの騒ぎではないので使いどころはご注意を。試したわけではないのでわかりませんけどね」

「できれば僕も子ども相手にそんな指示は出したくないね」

「フフーフ。優しい人だ」

 

 あの人と武器商人はそんな会話を交わしている。ここまで来てしまうと私の出る幕はない。

 

「では以上を1時間後までにご用意しておきます。待ち時間の間にスリングやホルスターなど選んでおいてください。アビドスの生徒さんたちもお待ちでしょう。……今後ともごひいきに、イヌワシさん」

 

 武器商人が笑う。やはりこの武器商人はあの人に似合わないと思う。




武器周りなんもわからんけど、キャスパーの台詞と黒服の台詞は手癖で書けることはわかりました。胡散臭いやつばかり上手くなる作者です。アラタ構文もジブリール構文もなんもわからん。

次回 襲撃はディナーのあとで

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