マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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11001110_アゲハ蝶

 わたしの名前は花岡ユズ。名乗って早々ごめんなさい。もし誰か聞いているのなら、聞いてほしいことがあります。

 

 冷たい水と胃薬をください。できたら隠れ家をください。

 

「あー……シロコ、ノノミ、そんなに詰めて座らなくてもいいじゃないか」

「ん?」

「いいじゃないですか先生?」

 

 半年ぶりの外は既に地獄の様相になっています。

 

 自動運転のマイクロバス、その最後尾4人がけの席で、連邦捜査部の先生だというアラタ先生は脇をがっちり初めて会う銀髪の人……シロコさんというらしい……に固められています。ちなみに先生の反対隣にはノノミさんという、にこにこ笑顔の女の人がガトリングガンを横に置いて座っていて、おかげで最後尾は窮屈そうです。ちなみにバスは空いてる座席もありますが、なぜか最後部にぎちぎちに人が詰まっています。たぶんそれは、先生のせい。

 

「ふふ、モテモテですね、先生」

 

 そんなことをのんきに言っているのはヒマリ先輩。ヴェリタスの部長と特異現象捜査部の部長を兼任しているすごい人。……なんですけど、さっきからバスの空気がドンドン悪くなってるのの半分は、たぶんヒマリ先輩のせい。残りの半分は先生の両脇をシロコさんたちが固めているので気圧が急降下しているジブリールちゃんのせい。昨日一緒にゲームしてわかっていたけれど、ジブリールちゃんは、負けず嫌いで、真面目で、やきもち焼き。

 

「ユズちゃん……大丈夫?」

 

 通路を挟んで隣に座っているミドリちゃんが声をかけてくれます。

 

「大丈夫……だけど……うぅ」

「無理はしちゃだめだからね」

「うん……」

 

 ミドリちゃんは優しい。普段は元気なモモイちゃんもこの空気感にガチガチになっています。どうしてこうなってるかは本当にわからないのだけれど、バスに乗る前の顔合わせからこの調子です。なぜかシロコさんとノノミさんは初対面のはずのヒマリ先輩の名前とか所属をばっちり知っていて、シロコさんが小銃をローレディの位置で警戒したままノノミさんが挨拶なんて一触即発な顔合わせになっていました。先生が慌てて止めたら今度はシロコさんが先生にべったりなので、おそらく先生のせい。それでどんどんジブリールちゃんも不機嫌になっているので、結構怖いことになっています。

 

 ちなみにバスに乗っているのは、今回の作戦実施メンバー全員なので、ヴェリタスのチヒロ先輩やマキちゃん、コタマ先輩も乗っています。ヴェリタスの皆さんはこの空気は勘弁といった感じで前の方に固まって座っていて、バス中央部にぽっかり空席がある感じになりました。

 

 それにしても、本当に会話がなくて、空気が凍り付いています。どうしてこんなことにと思うけれど、これも全部ゲーム開発部が主導してG.Bibleを手に入れるため……ということになってしまっているので、ゲーム開発部の部長のわたしは逃げられない。本当に、本当に、どうしてこうなったんだろう。モモイちゃんとミドリちゃんは、どんな風に伝えたらこんなことになるんだろう。

 

「先生、そろそろ本題に入っていい? というより、そろそろ『お出かけパッケージ』のアクティベーションに入りたいんだけど。あと、ヒマリ部長は無駄にアビドス高校のみんなを煽らないで」

 

 チヒロ先輩がそう言って先生とヒマリ先輩を見ています。

 

「あら、煽っているなんてひどい。この病弱系美少女がそんなことするわけないじゃないですか!」

「美少女は自分で美少女なんて言わないからね。あとノノミさんたちもヒマリ部長の挑発に乗らないでください。いつまでたっても話が進まないから」

 

 まったくもう、とチヒロ先輩はため息をついて先生に何かを投げました。見た目はフラッシュメモリみたい。それを先生が手を伸ばす前にシロコさんがキャッチして、チヒロ先輩に聞き返しています。

 

「これは?」

「お出かけパッケージ関連のロジコマ管制システムのアップデートパッケージ。本部サーバを経由しなくても先生の端末でお出かけパッケージをリモートでコントロールできるようになる」

「シロコ、そんなに警戒しなくていいし、さっきからどうしたんだい?」

 

 先生はそう言ってシロコさんを窘めて、フラッシュメモリを受け取っていました。先生用のタブレットに読み込ませています。

 

「お出かけパッケージについては既に別便で集積済だけど、『廃墟』の情報収集能力が不明だからバレているのかバレてないのかもわからない。というのが実情なんだけど……どう使うの?」

「うん。それなんだけどさ」

 

 先生はなんでもないように口にしています。

 

「ミレニアム側というか、ヒマリたちが恐れているのはロジコマに対して何らかの干渉が対象から入ることだと思うんだけど、それは合ってる?」

「えぇ、LCM-01Sロジコマは虎の子ですからね」

 

 ヒマリ先輩はそう言って微笑み返していたけれど、対照的にテンションが落ちているのがアビドス高校の皆さん。バスの前と後ろからプレッシャーが飛んできて今すぐに帰りたくなりました。どうして部長とかそういう役職の人たちってこういうプレッシャー合戦というか、鞘当てが好きなんだろう。わたしには理解できません。

 

「で、各ロジコマの活性状況はヴェリタス側が監視するとして、万が一の可能性を排除できないのであれば、ちょっと運用を変えてみようかなと思ってね。軽迫撃砲はロジコマ2機で運用できるわけだし、8機4門を外延部で待機させる。これをLC班として運用、残りは僕たちと同行するLA班だ。危ない感じだったら早めにノノミ達にも出てきてもらうことになると思う」

指揮階梯は?

 

 ジブリールちゃんが鋭く発言しています。ジブリールちゃんの声は凛としていて、通る声。これまでにあったことがないタイプの子。ちょっと怖い。

 

「突入するゲーム部のメンバーとジブリールでSA班。リーダーはジブリール。万が一はないと思うが、自分で考えて指示を出すんだ。できるね?」

「はい」

 

 澱むことなく返事をしたジブリールちゃん。ゲームよりは自信がありそうだし、多分強いんだろうな。

 

「SA班はジブリール、ユズ、モモイ、ミドリの順としてSA1からSA4までの番号を順に割り振る」

「ひぇ……」

 

 ジブリールちゃん直下……! ゲーム開発部の部長なんだからそうなるのは当たり前なんだけど!

 

ユズ、そんなに心配しなくても構いません、指揮継承順は私の次はモモイになります。奇数番号のオペレータが一つ下の番号の子とバディを組んで動きます。私が死んだらモモイに指揮権が自動継承されます。……本当にモモイでいいのかはわかりませんが、アラタには思うところがあるのでしょう。ユズの指揮権継承順位はその次ですから、基本的にユズは私の指示に従ってくれれば問題ありません

 

 相当物騒な言葉が淡々と飛び出してきて、びっくりしてしまいます。死んだら? 死ぬことを想定している?

 

ジブリールちゃん、ジブリールちゃんは怖くない……の?

アラタが指揮をするのですから恐れるに足りません。そして私たちが何よりも恐れるべきは、自身の恐怖心によってアラタの指揮についていけなくなることです。アラタの指揮は私たちにも最高の働きを求めますから、恐怖する余裕はありません。もっとも、あなたがアラタの指揮以上の最善策を提示することができるなら別ですが

ジブリール、あんまりユズを虐めちゃだめだよ。それよりも僕はそんなに非道な指揮をしているかい?

 

 先生の声はジブリールちゃん以上に通りますし、英語だとなおさら通ります。

 

イヌワシは人の善悪などに囚われません。神はイヌワシをそのようにおつくりになられたからです。ですが人間には善悪があります。そして悪いジンが我々の脚を絡めとるならば、イヌワシに追いつくことなどできないでしょう

イヌワシ(ゴールデン・イーグル)

あの人の綽名です。暁を呼ぶイヌワシです

 

 ジブリールちゃんはうっとりとそう答えています。それを真正面から聞かされた先生はどこか恥ずかしそう。逃げようにも両脇をシロコさんとノノミさんに固められているので逃げられない様子で、チヒロ先輩がため息をついています。

 

「説明の続きに戻るよ、SC班はノノミ、シロコ、チヒロ、マキの4名で待機。僕からの通信が断絶している場合はノノミが指揮を頼む」

「はーい。任せてください!」

 

 先生の腕を取りながらノノミさんがそんなことを言っていて、ジブリールちゃんの目がすっと細くなりました。イヌワシ先生は戦闘は強いのかもしれないけれど、ジブリールちゃんの機嫌を読むのは苦手みたいで、それは正直勘弁願いたい。

 

「……さ、ついたみたいだし降りて用意しようか」

 

 先生はバスが現地に着いたことをでなんとか逃げ切り成功です。バスの中で乱射事件なんて起きずに済んだことは奇跡みたいに思えるけれど、たぶんそれは先生にヘイローがないせい。

 

「うーん、あんまり距離はなかったと思うけど、長く感じたね」

 

 先生はそう言って腰を伸ばす間もジブリールちゃんとシロコさん、ノノミさんが周囲を警戒中。ジブリールちゃんに至っては伸縮式のストックを展開してすぐに撃てる状態です。

 

 先生や周りに流されるままに来てしまったけれど本当にミレニアムサイエンススクールの敷地外まで来てしまいました。実に半年ぶりです。吐きそうです。バスから降りたことで物理的に距離をしっかりとれるようになったわたしやミドリちゃんやモモイちゃんが真っ先に距離を取ることにしました。なんであそこまでピリピリしていたのかはまだわからないけれど、それでも怖いことはいやだ。

 その先にあるのは40フィート海上コンテナが10個ほど平積みされています。シャーレのエンブレムの他にミレニアムサイエンススクールの校章が小さく入っているのが見えました。

 

「じゃあ、お出かけパッケージ展開開始しようか。モモイ、ミドリ、ユズも! そのコンテナから離れてくれ!」

 

 先生の声が響いて先生の傍まで移動するとコンテナがガシャン! という音を立ててロックが解かれ、ゆっくりとひとりでにハッチが開きます。中から白いロボット戦車が出てきて、たぶんこれが先生がロジコマと呼ぶ自律戦車LCM-01S。

 

 戦車と呼ぶにはあまりに小さいけれど、ロボットと呼ぶには大きいぐらいのサイズ感。軽自動車用の駐車スペースに多分ぴったりサイズで、真っ白のボディがすぐに周囲に合わせてグレーの都市迷彩に色を変えています。電流で表面の色を変える特殊迷彩システム、実用化してたんだ。新素材開発部がものすごくハッスルしていた印象がある。

 

「か……」

 

 モモイちゃんが出てきたロジコマを見てプルプルしている。

 

「かわいいっ! なにこれ、これ本当に戦車!?」

『やぁやぁやぁ、うれしい反応ですな!』

「喋った!?」

『もちろん喋りますとも! ニューロチップ式マイクロチップとヴェリタス謹製AIサポートシステムが搭載されておりますから!』

 

 この自律戦車、ものすごくコミュニケーションに飢えているみたいで、モモイちゃんと意気投合し始めた。いいことだとは思うし、ミドリちゃんも「クリーチャーのデザインにつかえるかも……」とか言っているので悪くはないみたい。逆に困った様子なのは先生だ。

 

「チヒロ……これ、もう少しAIを機械側に寄せられないかな。生徒の盾としての運用がメインだからそこまで人間的にされるといろいろあれなんだけど……」

 

 あっているかはわからないけれど、RTAチャートで必須のキャラクターロストに耐えられないみたいなことにならないかと思っているみたい。要はロジコマはそういう役割なのだから、生徒から愛着を持たれ過ぎないようにしてほしい、ということらしい。

 

 そう言われたチヒロ先輩は困り顔

 

「AIベースを作ったのは部長なんだけど。部長、なんとかなりません?」

「ふふっ。『AIニンジャくぬっと君』をベースに組んでみたのですが、かわいい方がいいでしょう?」

 

 そう言われて先生は明確に嫌そうな顔をしました。

 

「なんだいそれは」

「予算獲得のためのコンペティションに出した児童見守りロボット兼遊び相手なドローンのPoC用モックアップです」

「すまない。後半部分がさっぱりわからない」

 

 先生はそう言っているが、多分本筋はそこではなさそう。『Proof of Concept(P o C)』と言えば実証実験用プロトタイプの開発フェーズのはず。ゲーム開発だとあまり聞かないワードだけれど、プログラミング学の単元で見た覚えがありました。

 

「テスト用のAIってことです。精度を上げるためにはジェネレーションを上げることが必要です。で、ジェネレーションを上げるためにもたくさんコミュニケーションを取って、たくさん現場の情報を収集した方がいいですからもう少しの辛抱ですよ、先生?」

 

 ヒマリ先輩はそんなことを言いつつ手をぽんと合わせています。先生はあきらめたみたい。

 

「それじゃあ8機は軽迫撃砲オプション。2機は情報収集ポッドを装備、残りの5機は標準装備だ」

『はーい!』

 

 はーいって……と先生は頭を抱えています。緊張感が欲しいのかもしれないけど、ロジコマの見た目だけで十分にインパクトがあるから言葉遣いぐらいは丸い方がいいと思います。伝えられないけど。

 

丸い友を思い出しますね

それよりも高機能だが、幼い感じがするな

 

 ジブリールちゃんはここぞとばかりに先輩アピールです。ノノミさんとシロコさんは優しい目でそれを見た後、なぜかヒマリ先輩の方を見て笑います。なんでヒマリ先輩にばっかりアピールするんだろう。

 

 それにしてもこのロジコマという戦車、先生は『お出かけパッケージ』なんて呼んでいるけれど、どう見ても『戦争スターターパック』です。私たちに同行するのは5機のロジコマ。斥候で情報収集用のアンテナなどが詰まったポッドを背負ったロジコマが2機先行してくれることになっているみたいです。働きアリというか、蜘蛛みたいというか、そのおしりのところのパッケージを切り替えていろいろできるし、これで対戦車ミサイルにも対応済というのは素直にすごいと思います。

 

 思うのですが……。

 

「これ中ボスあたりに出すのよくない!? こう、速度全振りみたいなさ!」

「うーん……どうだろう。一度に三種類ぐらい出してデバフ役と回復薬とセットだといけるかな……。色違いならある程度なんとかなる、かな……」

 

 テイルズ・サガ・クロニクルの次回作でこれを出す方向になりそうなのはまだいいとして、完全に最前線で撃ちまくる気満々の装備の山とそれについていかないといけないことに気が付いてないモモイちゃんやミドリちゃんと、そのパワーバランスを取り合っているらしいSC班のシロコさんたちと、情報戦バックアップのヒマリ先輩。

 

 これの原因にされているのが、ゲーム開発部のG.Bible探しなんだけど、これ、本当に大丈夫なの?

 

「ユズ、顔色が悪いけど、どうする? 今からSC班にでも回るかい?」

 

 先生は善意100%でそんなことを言っています。ミドリちゃんやモモイちゃんもなしで、ノノミさんやヒマリ先輩に挟まれて待機するのは絶対、絶対無理です。

 

「いえ、大丈夫、大丈夫です、から……!」

 

 ここで置いてきぼりはいやだ。

 

「わかった。無理せずにいこう。各班、配置についてくれ。遠足を始めよう」

 

 情報収集用のロジコマが先行を始めました。続いたのは迫撃砲分隊を成すロジコマたち。多分途中で抜けて、風上の方に移動するんだと思います。私たちの護衛担当のロジコマは私たちと同じ速度でゆっくりと動いてくれるみたい。大行進が始まります。

 

「気楽にいこう、なにかあれば撤退すればいいんだから」

 

 先生はそう言ってすたすたと歩き始めます。

 

 もうここまで来たら、ついていくしかありません。日差しの中でちょうちょがひらりと飛んでいくのが見えました。クレーターみたいな土地の底に今から目指す工場らしいなにかが見えます。

 

「……うぅ、大丈夫、かな」

 

 それでももう止まれません。ここまで来たら何とかするしかないのです。




大変お待たせしました。夏バテその他もろもろでダウンしていました。

次回 かわいそうはかわいいとか、言っている場合じゃない

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