マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00110010_とりあえず砲撃

「ジブリール」

 

 僕の声に合わせて、消音機(サプレッサ)付の拳銃を発砲する。相手にしているのは昔見た映画のロボットみたいだ。頭の奥で『遠い昔、遥か彼方の銀河系で……』とアナウンスメントが流れそうになったが振り払う。どうも相手はセンサ関係も強くない。サプレッサをかませているとはいえ、音そのものが消えるわけではないし、木の上からの射撃というバレにくい状況ではあるのだが、それでも相手は頭を射抜かれてダウンしている。周囲のロボットが庇う様子もない。

 

「……オートメーションで徘徊しているだけのようですね」

 

 木の上から降ってくる声に僕も頭を掻く。一応別の木の陰で待機してもらっているゲーム部の面々にはそのまま警戒を続けてもらう。

 

「HK45Tで十分に無力化できるとなると、単純に廃墟が崩壊の危険があるから立ち入りを禁じた、だけか。本当か? それだけか?」

 

 クレーターの斜面を降りきって大分自然に帰った廃墟群を歩く。蔦だらけになっている工場のシルエットは800メートル先ぐらいまで近づけている。ここまであっさりいくと正直肩透かしを食らった気分になる。

 

「コタマ、ヒマリ、無線に干渉は?」

《ありません。データ側も警報は鳴っていません》

 

 電子戦闘が進んでいるというわけでもなさそうだ。さて、困ったことになってきたぞ。おそらく置かれている状況は安全か極度に危険かのどちらかだ。

 

 安全である場合とは、本当に廃墟化が進んでいるだけで未知の脅威など存在しないというものだ。こうなるとここにあるのは廃墟のみ。G.Bibleがここに転送されたことを考えると、おそらくここに不法侵入した不良生徒か市民が持ち込んだ端末に転送した可能性があるから、戦闘になってもロジコマである程度制圧できるだろうし、脱出までの時間ぐらいは稼げると思う。

 

 極度に危険である場合とは、すでに相手に捕捉されたうえで戦闘を回避されているというものだ。すでにこちらはキルゾーンに飛び込んでいることになる。用意周到な敵の場合、瞬間的に潰されることになりうる。

 

「ヒマリ、建物への砲撃を実施したい」

《はい……?》

「工場プラントの西側に高層ビルの廃墟があるだろう? 観測手を置いているとしたらそこだ。とりあえずそこを叩き潰してみて様子をうかがう」

《え……アレ壊すんですか!?》

「それで済むなら手っ取り早い。相手のキルゾーンを見極める」

 

 敵がいるかわからない状況だ。その状況で襲撃の可能性を排除するわけにはいかない。

 

「先行するロジコマで音声警告を発報。その三分後に砲撃開始。LC班、展開用意。ジブリール、降りてきてくれ」

「はい、飛び降ります」

 

 え? と反応するよりも先にジブリールが木から飛び降りてくる。慌てて両手を広げて、キャッチ。腰がやられるかと思った。

 

「ジブリール、普通に降りてきてよかったんだよ」

「すいません。手が滑りました」

 

 お姫様抱っことでもいうのだろうか。その形になっていたが、すぐに彼女を地面に降ろす。自分の腰をトントンと叩いていたらなぜかジブリールから軽いローキックが飛んできた。理不尽だと思うが、敵のコントロール地域である可能性が十分にあるからどうにもできない。

 

「まぁとりあえず砲撃してから考えよう」

 

 

 


 

 

 

『警告します! 連邦捜査部シャーレはこれより倒壊危険性のある建物の安全確保のため、砲撃を開始します! 当該地域に残っている方がいらっしゃる場合、手を振る、煙を炊く、信号を送る等で合図してください。3分後に砲撃を開始します!』

 

 ロジコマが警告を発するのを聞く。先ほど『我々はスポーツマンシップを乗っ取り……』などと訳が分からないことをほざき始めて先生が止めるのを笑っていたらチヒロに怒られて反省していたのだが、それどころではなくなってしまった。

 

「うへぇ、いちゃついちゃってまあ……お姫様だっこかぁ」

「で、アビドス高校の小鳥遊ホシノさん、どうしてここにいるんですか? というより、セリカさんもアヤネさんも止めなかったんですか?」

「もちろんこっちの素性もリサーチ済だよねぇ。まぁ驚かないけど、ミレニアムサイエンススクールの明星ヒマリさん?」

 

 まぁ当然私の名前も知ってるか。苦虫を百匹まとめてかみつぶしたみたいな顔のセリカさんと苦笑いですでに筋肉痛になってそうなアヤネさんを引き連れて指揮管制車に突撃してきたホシノさんはにやりと笑う。

 

「まぁシャーレとしても結構なイベントだし? 先生がミレニアムサイエンススクールに構ってばっかりで寂しいしさぁ」

 

 それで来ちゃったとホシノさんは言うけれど、盛大にセリカさんがため息をついた。

 

「うちの先輩がすいません。邪魔だったら引っ張り出しますんで」

「お、セリカちゃんも言うようになったじゃん。おじさんをひっぱりだせるかな?」

「けが人だし、先生にダイレクトラインがつながるの忘れてない?」

「うっ!」

 

 漫才を始めるアビドス高校の皆さんに笑みを浮かべてから、作戦図を投影する。

 

「邪魔じゃありませんよ。ですが来たからには協力してほしいです……正確にはそちらのアヤネさんに」

「私ですか!?」

 

 話を振られると思っていなかったらしいアヤネさんが素っ頓狂な声を上げる。

 

「えぇ、あなたに、です。アビドス高校対策委員会唯一の専任オペレータ、そしてこのキヴォトスで先生が戦線を預けたことがある生徒は二人だけ。陸八魔アルと、あなただけなんですよ。奥空アヤネさん」

「……」

 

 アヤネさんの表情が落ちる。あぁ、なるほど。確かにこれは先生が手元に置きたがるのもわかる。さながらイヌワシの雛鳥だ。感情を瞬時に消し、悟らせないように振る舞うことができる。それにしてもアビドス高校は本当に優秀だ。多分本気で彼女たちが牙をむいてきたら、セミナーを数時間はダウンさせることができるだろう。

 

「ジブリールちゃんと何回か会話しましたが、あの子は護衛としても兵士としても優秀ですが、指揮官ではない。陸八魔アルは私兵となっている癖がありすぎる面々の扱いの都合上彼女の方が慣れていたからに過ぎない、そう考えています。わかりますか、現状において指揮官としての先生に一番近い視座を持っているのはあなたですよ」

「でしょでしょ? ほしい?」

「ホシノ先輩っ!」

 

 にやりと笑ったホシノさんをセリカさんが窘めている。こちらも笑みを張り付けて続ける。

 

「ほしいわ」

「あげない」

 

 そのやり取りにため息をついたのはセリカさんとチヒロが同時。

 

「ヒマリお願いだからかたっぱしから放火するのやめて。おかげでヴェリタスもその延長で見られてるの」

「あらら、みんな可愛い子じゃないですか。いくらでも面倒は見ますから安心してくださいな」

 

 それに、と続けると皆の視線が私を向く。

 

「この立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花な美少女が、アビドス高校の武闘派筆頭小鳥遊ホシノ委員長とブレイクダンスできそうに見えますか?」

「その車いすで歩けるの? まぁいいか……さっきからこの車の人員のマイク、外部操作でオフラインのままロックしてるよね。先生に聞かせられない内容、かな」

「今は作戦中ですからね、不要な情報を流してもノイズになるだけですから」

 

 そう返すとホシノさんはアヤネちゃんをちらりとみた。

 

「アヤネちゃん、1個班のオペレート、いけるよね?」

「もちろんです」

「おっけ。じゃあヒマリさん。協力するからさ、SCの指揮権をアヤネちゃんに渡してよ」

「いいですよ。チヒロ」

「はいはい……こういう政治みたいなのいつから好きになったのヒマリ」

「だれかがやらなきゃいけないことです。いつかあなたにもわかりますよ」

 

 TITTYの情報連携の指揮階梯が更新される。すぐさま先生の承認が入った。これでアヤネさんが現地入りしたことも先生には知られたことになる。後で怒られるかもしれないが、それはアビドス高校の面々の問題だ。

 

 チヒロにぺこりと一礼したアヤネさん。彼女の肩を叩いてチヒロが出ていく。展開準備だ。

 

 ともあれこれで、戦闘班は全てシャーレ側に指揮権が移ったことになる。よくはないが、悪くもない。

 

「それで、協力してほしいことってなんですか?」

「もちろんオペレートですよ。コールサインはオペラ3を使ってください。……第13直轄地に眠る何か、それを特異現象捜査部はミレニアムサイエンススクールが生まれる前にロストした何らかのオーパーツと考えています。そしてそれの存在を連邦生徒会は知っていた。詳細はともかく、存在することそのものは把握していたと考えられる」

 

 そしてそれに先生は思い至ったからこそ、15台のロジコマなんていう莫大なリソースの展開に走った。パンドラの箱をわざわざひっくり返すのだ。備えは必要だろう。

 

「……それが牙をむいてくるなら、おそらく先生が突入するタイミングの可能性が高い。電子戦闘は私が、SC班は預けます」

「わかりました」

 

 指揮車両の管制卓にアヤネさんが付く。管制卓に備え付けのヘッドセットを耳にあてて地図をざっと見ているのがわかる。

 

「SC班、これよりオペラ3がオペレートに入ります。SC1,2は3,4を待たずにポイントF2N32への移動を即時開始してください。西側方からLC班の砲撃がまもなく入りますので念のため確認を。SC班は現地で再集合します。予想到達時間(E T A)1132、SC2にリードバックをリクエストします」

 

 SC2はシロコさんのコールサイン。シロコさんがすぐに伝達内容を復唱する。

 

《オペラ3、SC1,2はF2N32へ移動を即時開始。LC班の砲撃に注意。SC3,4とは現地で集合、ETA1132。以上SC2》

「正常なリードバックを確認しました。問題ありません。SC班は行動を開始せよ、以上オペラ3」

《アヤネがいるってことはホシノもいるね? 勉強はちゃんと終わらせたのかい?》

 

 先生のオープン回線。ホシノは苦笑いだ。

 

「ちゃんと終わってるよー。もうアップロードしてるから戦闘終わったら見ておいてー」

《了解だ、できれば君たちを巻き込みたくはなかったんだけどね》

「今更水臭いなぁ」

 

 そう言いつつもホシノさんの頬が緩んでいて、多分ホシノさんはそれに気が付いている。だからそれを隠そうとして、へんな表情になっている。

 

《そうかい? ともかくだ、アヤネ、SC班を頼んだ。中央に近づけすぎるな。なにかがおかしい》

「了解しました」

 

 一方でアヤネさんは表情が一気に緊張したものになっている。

 

「ヒマリさん、先行してるロジコマ……LA班のデータ、収集中の生データも含めて全部出してください」

「全部……ですか」

「気温湿度、赤外線情報、収集データ全部です。先生の言う通りです。何かがおかしい。順調すぎます」

 

 なかなかとんでもない要求だと思うが言われた通り出す。収集項目は150項目にのぼる。これをリアルタイムで出していくとそれだけで画面が2/3埋まる。

 

《LC班砲撃開始》

 

 先生のコールに合わせて迫撃砲がポンポンと砲弾を吐き出していく。建物が崩壊していくが、周囲を警戒しているロボットの動きに変化がない。

 

「吊り出せそうな感じでもないですね」

 

 ぼそりとアヤネさんがつぶやくのが聞こえる。

 

《砲撃やめ。LA班を工場に向ける》

 

 先生がロジコマを動かす。ゲーム開発部他のSA班もそれに続いた。

 

 発電工場の入口でロジコマは停止、マイクのノイズからして何かタービンの音がする。ざっと収拾データを見る限り異常はなし、先生は放射線を警戒していたが、それも正常値内。LA班はさらに奥へ。建物の内部構造のスキャンが始まる。

 

「ヒマリさん、この工場の内部の構造図ってありますか?」

「それがないんですよ。見つからないんじゃなくて、ないんです」

「……どういう意味?」

 

 ホシノさんの声が尖がる。

 

「連邦生徒会の測量は過去に3回。そのいずれにおいても発電工場と近傍の施設についての内部調査は実施されなかった。もしくはされなかったことになった」

「……連邦生徒会による隠蔽、かな?」

「私はその可能性を疑っています。そしてシャーレの強権をもって、ミレニアムサイエンススクールは第13直轄地に初めてアクセスできた。隣接しているにも関わらず、開発も、偵察も不可能だった土地に」

「……アビドスとの交換留学制度が爆速で整備されたのはそれが理由か」

「そのあたりはセミナーの方に聞いてください。ただ、特異現象捜査部がそれを利用させてもらったのは確かです」

 

 ホシノさんはそれを聞いて不満げに鼻を鳴らした。

 

「そうするとなおのこと不可解なことになりませんか?」

 

 アヤネさんが視線をモニターに張り付けたまま会話に参加する。

 

「情報をクローズすることで安全を確保していたとして、それが連邦生徒会の利益になるとして、その予測が正しいなら今の状況は不可解です。シャーレの突入は連邦生徒会の利益を破壊することになります」

「えぇ、そうなんです。だからこそ、こちらも出せるだけの戦力を出した」

「それが……あのちびっこ3人?」

 

 ロジコマの画像にはネコミミっぽいカチューシャが二つ映っており、そのさらに後ろには赤い髪ががれきの影に隠れている……おそらく隠れているつもりの影が見える。

 

「強いの? あの子達」

「まだまだ原石の状態ですので今はそこまでって感じですね。とはいえジブリールさんもいますし問題はないでしょう」

「何がいるかもわからないのに、問題ない、ねぇ……」

 

 ホシノさんはそう言って鼻を鳴らす。

 

《……入ってみるしかなさそうか》

 

 先生はそんなことを言っている。アヤネさんは考え込んでいる様子。

 

《工場に侵入してみよう。何事もなければそれでよし、不味かったら撤退する》

 

 先生の報告。アヤネさんはデータの羅列を前にスタイラスペンを手に取った。

 

「先生、聞こえますか? アヤネです」

《どうした》

「工場内はありえないくらい手入れが行き届いています。ロジコマのタイヤの跡が残らない程度にきれいです」

《重要な情報だ。誰かいるね》

「浮浪者というわけではなさそうです。組織化されている可能性が高いですが、それが表のロボットみたいに何らかのプロトコールに従っているだけで機能していないのか、司令塔がまだ生きているのかは不明です。SC班を動かします」

《わかった。SA班は突入を開始する。ロジコマに出口を確保させて、中には僕とSA班でいったん突入する》

 

 先生はそういって工場の横まできていた。

 

《……古い本みたいな匂いがあるな。あとゴンゴン音がする》

《アラタ、これはハーブの香りです》

 

 先生の声に続いてジブリールちゃんの声。そのまま工場の中へとSA班が入っていく。その間もアヤネさんはデータを見続けている。

 

「……部長、おかしい」

「コタマ?」

 

 そこでアラートを上げたのはずっと黙ってヘッドセットに耳を傾けていたコタマ。

 

「これ、工場の稼働音じゃない」

「どういうことです?」

「イコライザー出せる?」

 

 この制御システムにイコライザーは機能として実装こそしていないがノイズキャンセリングの調整のために音響を弄れるようにはなっている。

 

「集音しているロジコマが移動しているのに、タービンの音に変化がなさすぎる。たぶんだけど、工場の稼働音じゃない。中低音をカット……1024Hz以上をブースト……いた」

 

 波形を見ると一か所だけ波形が突出しているのがわかる。

 

「これって……デジタルノイズ?」

 

 血の気が引く。これはおそらく、何らかの制御用のコマンド。音声認識システムを搭載し、かつ、人ではないなにものかのコミュニケーション用か、ウィルス注入用か。

 

「! 先生との通信切断……? いや、不正パケット検出でセキュリティが端末の論理接続をパージしたようですね」

「どっちにしても工場に先生たちが取り残されたことには変わらないでしょ。セリカちゃんも走ろうか」

 

 ホシノさんがそういう間にアヤネさんが淡々と指示を出す。

 

「オペラ3よりSC、交戦を許可します。SA班の回収を急いでください。なお、電子機器へのハッキングを試みた形跡があります。電子情報支援はあくまで参考としてください。セリカちゃん、走ってシロコ先輩たちと合流して」

「アンタまで私を走らせるんかい! あぁもう!」

 

 セリカさんが飛び出していく。

 

「SC班、工場までの最短ルートで誘導を掛けます。工場周辺では無線が不安定になる可能性に注意」

 

 状況が急速に動き始めた。




試される大地の民なせいで家にエアコンがないのがデフォなのですが、普通に死にそうですこの夏……いよいよエアコン導入を視野に入れないといけないかもです。

赤冬は涼しそうなのでそこでモミジをモミモミして過ごしたいですね。

次回 ガール・ミーツ・ガールズ

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