マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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なんとか今日も更新。新章開幕です。


“地平線のホルス”作戦
00000101_砂の街


(けだし)(なんじ)は祭を欲せず、欲せば我此を(たてまつ)らん、(なんじ)燔祭(はんさい)を喜ばず。

神に喜ばるる祭は痛悔の(たましい)なり、痛悔して謙遜なる心は、神よ、(なんじ)軽んじ給わず。

Ps.51:16

 


 

 

「あ、おはようございます! アラタ先生」

 

 シャーレ本部ビルの一階に入っているコンビニに入るとかなりの高頻度でアルバイトに入っている女の子に挨拶をされる。朝6時半、登校前のタイミングなんだろう。

 

「おはよう」

「いつものベーグルサンド入ってますよ!」

 

 すでに買うものを覚えられている。僕以外あまり使う人がいないのか、毎日朝寄っては野菜のベーグルサンドとカフェインレスのコーヒーを買っている僕は1週間もたたずにお得意さん認定を受けている。日に焼けたら大変そうな真っ白な肌をしたソラというネームプレートを付けた女の子はすでにコーヒー用の紙カップをレジに用意していた。

 

「あれ? 今日はおひるごはんも今買われるんですね」

「うん。ちょっと今日は朝から出かけることになってね」

「大変ですね……今日は日差しも強いって言いますから日焼け対策しっかりして……」

「ありがとう。ソラ」

「ひゃ……」

 

 なぜか顔を赤くして黙り込む店員さん。いや、なぜそうなると思ったが、この街は異様に大人が少ない。いろんなところでロボットやら二足歩行する犬やら猫やらが闊歩していて、大人の男性なんて絶滅危惧種のような状況だ。そりゃ経験値の差もあるだろう。もっとまともな大人がちゃんといるといいんだけど。

 

 おにぎりのセットと麦茶のペットボトルをカゴに入れつつ、日焼け対策と言われたので一応日焼け止めも買っておく。場所が場所だ。あった方がいいかもしれない。

 

「会計お願いします。これといつも通りカフェインレスコーヒーのSサイズ」

「はいっ! ……アラタ先生は毎回お飲み物はカフェインレスですよね? 苦手なんですか?」

「いや、若い時はよく飲んでたんだけど、寝なきゃいけない時に寝れなくなったり、起きなきゃいけない時におきれなくなったりするからね、避けるようにしてるだけだよ」

「そ、そうなんですね……あ、日焼け止め。どこに行かれるんです?」

 

 聞かれたので財布を開きつつ答える。

 

「アビドス……って言ってわかる?」

「砂漠じゃないですか! あそこってまだ学校あったんですか!?」

「あ、やっぱりそんな感じなんだね」

 

 その反応に苦笑いしつつ会計の済んだものを袋に詰め替える。朝食用のカフェインレスコーヒー用のコップを受け取り、コーヒーメーカーにセットする。

 

「あまりに砂が多すぎて街のほとんどが放棄されたって……街中で遭難するレベルで荒れ果ててるって……だ、大丈夫ですか? 拳銃なら売ってますよ!?」

 

 カウンターから身を乗り出して心配してくれているのはありがたい。拳銃がコンビニエンスストアで買える時代というのもすごいものだ。さすがのアメリカでもそんなことにはなっていまい。……いや、なってるか。スーパーマーケットなら買えると聞いた覚えがある。キヴォトスではそれを学生がコンビニエンスストアで販売して、購入できる。末期的だなキヴォトス。

 

「あはは、大丈夫大丈夫。試験機だけどロボットも導入したし、必要な弾薬を届けてあげて、状況のヒアリングするだけだから」

 

 陰鬱な気分になりそうだけれども、子供に不安な顔をさせるわけにはいかないと笑い返す。今日は長距離行軍試験もかねて、導入したコマちゃんズ――――正式には量産型のLCM-01S“ロジコマ”として配備を進めるのだが、搭載AIの元となるテストモデルや使用感のフィードバック用として試作機を5機、エンジニア部に無理を言って稼働状態にしてもらった――――を連れていくことにしている。

 何かあっても機動力にものを言わせて逃げ切れればいいし、射角は取れないが、車体の下に機関銃を2門装備しているので非武装ではない。もっとも、弾薬の積載スペースが少なすぎて、連射すると3秒かからず空っぽになるんだけど。

 

「頑張ってくださいね……死なないでくださいね!」

 

 心配性なコンビニ店員に見送られて僕はとりあえず、カフェインレスのコーヒーを啜る。

 

 だが、彼女の言うことは正しい。

 

 今は来ないだろう、大丈夫だろうという油断はいつだってリスクの見落としと致命的な結果に繋がる。ハキムの時もそうだったし、ランドクルーザーの時もそうだった。キヴォトスでもユウカの身体が頑丈だったために死ななかっただけで、僕の怠慢で子どもを殺しかけたことには変わりない。

 

 とりあえず、とりあえずを続けてここまできたが、そろそろ状況に流され続けるのはやめたいところだ。

 

「さて、……仕事だ。切り替えろ。僕の判断一つで子供が死ぬ。忘れるな子供使い」

 

 アロナをスリープから起こしてロジコマを呼ぶ。必要な弾薬は既にコンテナに積載済、予備機に交換用バッテリーを満載しての移動になる。

 

「一番の問題は僕の握力が持つか、だな」

 

 今から2時間と少し、ロジコマに跨乗(タンクデサント)して移動しなきゃいけない。休憩をしっかりとりながら進むことにする。

 

 

 


 

 

連邦捜査部の先生へ

 

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 サンクトゥムタワー奪還のニュースと連邦捜査部発足のニュースを拝見し、今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙をお送りしました。

 

 単刀直入に言いますと、いま、私たちの学校は地域の暴力組織によって、追い詰められています。

 

 こうなってしまった事情はかなり複雑で説明しづらいのですが、どうやら私たちの学校の校舎が狙われているようなのです。今は生徒総出でなんとか食い止めてはいますが、弾薬などの補給が尽き、このままでは暴力組織に学校を占領されてしまうかもしれない状況です。

 

 急な依頼で申し訳ありません。それでも、先生のお力とお知恵を貸していただけないでしょうか。

 それが難しくても弾薬や物資の補給だけでもお願いできないでしょうか。使用口径等は別紙を同封いたしますので、そちらをご確認いただけるとありがたいです。

 重ねてとなりますが、急なご連絡をお詫びいたしますとともに、どうかよろしくお願いします。

 

アビドス高等学校1年 

対策委員会 書記   

奥空アヤネ      

 

 


 

 

 僕の仕事の8割は地図を見ることだと思っている。現在地を常に確認し、更新して、指針を示すこと。軍事においての指針は、実際の地勢と強く結びついている。故に地図を見ることが指揮官としての僕の仕事だ。

 

「たしかにこれじゃ市街地で遭難するわけだ」

『あのビルの残骸がミズハラビルの基礎部分のはずですよね……』

 

 アロナの声がヘッドセット越しに響く。

 

「あのビル、だとわからないかな」

『あっ、11時方向距離350のビルです!』

「なるほど」

 

 アロナの音声を聞いて当たりをつける。元は高いビルだったんだろうが半分くらいでポッキリ折れている。

 

「ミサイルでも直撃した……わけでもなさそうか」

 

 情報が欲しくて双眼鏡を取り出して覗き込む。飛び出した鉄筋は錆が回っていて砂がこびりついているように見える。つまり、倒壊してからしばらくの時間が経っている。それでも地図上では健在のはずで、そこに向かうハズの道があり、小さな用水路をまたぐ橋が架かっているはずだった。

 

「橋も落ちてるし……これはここ数日って話でもないぞ」

 

 結論から言うと、地図が使い物にならなかった。というより、メインの道路がかなり砂に埋没しており、廃墟と荒野になっていた。

 

「うーん。困った」

『あまりに利用者が少ないから、地図の最新化も対策も後回しになっているんだと思います』

「にしても生徒がいるわけだからなぁ。暴力組織とはいえ、地域住民もいるわけだし……いや、逆か。地域住民がいなくなったから暴力組織ができたのか」

 

 そんなことを考えながらビルを双眼鏡で眺める。買うべきは日焼け止めじゃなくてまともな帽子だったかもしれないと思いつつスーツのジャケットについた砂を適当に落とす。下手に脱いで肌を焼くよりスーツの方がまだマシだ。

 

『アビドス高等学校の生徒登録数は年々減少傾向のようです。既存の生徒会も活動を実質的に停止、連邦生徒会の代表権も失っています』

「……それ、連邦生徒会の顧問として口出して大丈夫なんだろうか」

『えっと……』

 

 アロナが歯切れの悪い回答を返してくる。

 

『……連邦生徒会は、他校との統合による廃校を勧告していましたが、あくまで勧告で強制権はありません。代表権の停止も規定を超える会議への欠席が原因です。原則、一人でも生徒会に生徒が所属していて、実務機能が残っていることが確認できれば連邦生徒会での議決権も回復可能です』

「つまり、僕が連邦生徒会の傘下組織として正式に動こうと思ったら、そのあたりも考えないといけないってことだね?」

『そう、なっちゃいます、はい……』

 

 申し訳なさそうなアロナの声をききながら双眼鏡を目元から外す。

 

「とはいえ、わざわざ紙でお手紙を出してくれたんだ。それに暴力組織からの攻撃というのも尋常ではない」

『そうですよね! 先生ならそう言ってくれると思いました!』

「とはいえ、そういう情報は出発前に欲しかった。事前に連邦生徒会に調整かけておくこともできるし、次から早め早めに情報を出してくれ」

『ご、ごめんなさい……』

 

 恐縮しきりなアロナをなだめつつ、周囲を見回す。砂とがれきの街に信号の残骸がある。かなり大きな街だったことがうかがえるが、もうそれも歴史の彼方なのだろう。

 

 いろいろと残酷だと思いつつマイクをオン。

 

「もう道路の利用を諦めて迂回しつつ目的地を目指す。ロジコマ、マップコードA65N-15,D13へ」

『命令は了解されました!』

 

 回答はスピーカーで返ってくる。僕を振り落とさない速度で動いてくれるのはありがたい。

 

「……それにしても、砂漠が広がってるなぁ」

『十年以上前から砂漠はあったのですが、拡張傾向にあるようです。旧アビドス高等学校の校舎ももう砂に沈んでいて、新校舎も結構大変な感じです』

「砂かぁ……」

『なにか嫌な思い出でもあるんですか?』

 

 アロナが聞いてくる。

 

「いや、僕の()()での初仕事も砂漠でだったんだよ」

『そ、そうでしたか……』

「いろいろとままならないこともあるものさ」

 

 愚痴くさくなるのは歳を取った証拠だろうか。学園の校舎の座標が正しければここから2.3キロ先、砂漠と廃墟がここまで近いとなれば、新校舎も砂の影響を受けているんだろう。

 

「アロナ、地域から学校が排斥されるような状況って過去にキヴォトスで事例はあるかい?」

『記録にある限りではありません。学園内でクーデターがあることはあっても、学園の自治区から学校に攻撃なんて基本はありえません』

 

 クーデターってなんだクーデターって。恐ろしい世界に来たとつくづく感じる。それでもミャンマーでも主に日本の思惑で『アラタランド』を建国しろなんて言われた位だからそう変わらないか。

 

『生徒には転校の自由と居住の自由が認められていますし、生徒の不満であれば、学外から攻撃するのではなく学内で解決することになります。学区を跨いでの問題ごとは各校の生徒会が連携するか連邦生徒会が調整をかけます。少なくともその方向で調整するはずです』

「それが機能していない。……生徒会の機能不全か、なにか特別な事情があるか。手紙にも対策委員会としかなかったし、特別な事情というのが正しいかな」

 

 さて、困った。

 

 持ってきた弾薬をちゃんと渡していいものかどうか。わからなくなってきたぞ。

 

 あり得そうなシナリオは二つ。

 

 一つ目は対策委員会が本当にアビドス高等学校の委員会で、本当に暴力組織から攻撃を受けている場合。この場合、弾薬を渡しても問題はないだろうが、生徒会機能が失われている理由がわからない。

 二つ目はあの手紙がブラフで、何らかの理由で武力組織が網を引いている場合。この場合は武器を渡すことはできないし、僕の命も危ないことになる。

 

 二つ目だったら困るなぁと思っていたら遠目に人影が見える。第一村人発見と言いたいところだが、舗装路向けのロードバイクで対向車線を走っている彼女はこちらをみて止まった。背負っているのはバトルライフルかなにからしい。

 

「止まって」

 

 声をかけられる。まぁそうなるよな。

 

「ロジコマ、全隊停止。セーフティオン。指示を待て」

 

 小声でロジコマを全機止め、武装をロック。すれ違いの事故は避けたい。

 

「このあたりで見ない顔だけど、どこに行くの? 迷子?」

 

 エルフ耳の次は獣耳か。と思いつつ武器を持っていないことを示すためにも両手の手のひらを見せる。グレーの髪に紺色のブレザー。青い十字の髪飾りが似合っているとは思うが相手の左手がするりと銃の吊り紐(スリング)に回っている。

 

「迷子といえば迷子かな。もらった地図が古かったらしくてね」

「もしかして、連邦生徒会の先生?」

 

 話がいきなり本題に飛んだ。ちゃんと警戒できる良い子でよかった。

 

「どうしてそう思ったんだい?」

「このあたり、もう学校は『アビドス』しかないし、こんな廃墟でうろうろしている大人なんてまずいなかったから」

「……なるほどね。連邦生徒会、捜査部のアラタ・リョータだ。はじめまして」

 

 そう名乗ると相手の左手がスリングから離れた。

 

「なら、久しぶりの『お客さん』だ。……アビドス高校、対策委員会の砂狼シロコ。手紙は持ってる?」

「持ってる。確認するかい?」

 

 そういって胸ポケットを叩く。こういうときにすぐに懐に手を入れないのは一種のマナーだ。

 

「対策委員会の誰の名前で届いた?」

「一年生の奥空アヤネさんから」

「うん、合ってるね。ようこそ、先生」

 

 ライディンググローブをつけた手を差し出される。それを気にせずこちらも握り返した。

 

「手紙からだと簡単なことしかわからなかった。話を聞かせてほしい。まずはそこからだ」

「うん、案内するね。ここからだとそんなに遠く――――――」

 

 発砲音。反射的に獣耳の女の子――――シロコをロジコマの影に引き込むようにして倒れ込む。反射的に彼女の頭を抱き込んだのは正解か否かはわからないが、とりあえず砂が浮いたアスファルトに頬を擦った位なのだからよしとするしかないだろう。

 

「ロジコマ!」

 

 防弾板を展開すると甲高い金属音が響く。最近こういうのばっかりだ。後続の二台が回り込み盾をさらに重ねる。跳弾が怖いがとりあえず直撃は避けられそうだ。

 

「先生、離して」

「あぁ、すまない……あれが暴力組織の人たち?」

「ん……先生は見慣れない車列のせいで目立つからね。私と握手したことで敵と見なされたのかも」

 

 シロコはさらりと言いつつ背負っていたライフル……ミャンマーの警察の押収物でもなかなか見なかった欧州系のライフルのようだ……をコッキングする。

 

「先生、離脱――」

「いや、突破する。君が本当に生徒なら、下がったところでアビドス高校の前で待ち伏せされるだけだ。ならばこちらから前線を押し上げる。アロナ、三号機のコンテナに使い捨ての偵察ドローンがあるから同期してくれ。ロジコマ全機、直接音声入力(D V I)アクティベート」

『DVIアクティベート完了しました。以降復唱を省略して、リョータ・アラタの指揮を実行します!』

 

 ロジコマが小気味良く答えを返してくる。今隠れているのはシロコを引き込んだ関係で2号機の影になる。シッテムの箱を取り出して画面を表示すると既に周囲のロジコマ全機がリンクされていた。周囲の熱源は9。おそらくもっと居る。

 

「指揮階梯変更、指揮官機を一号機から二号機に変更する。三号機、コンテナロック解除、航空ドローン射出」

 

 直後にパシュン、と空気の弾ける音がした。スモークディスペンサーに収まっていた砲弾型のドローンが射出された。すぐにフェアリングが切り離され、手のひらサイズの偵察ドローンが3機指揮下に入る。敵らしい熱源が増える。15、思ったより少ないし、装甲車のような速度の出せる移動手段は見当たらない。

 

「シロコ、いったん自転車は諦めてくれ。ロジコマ(これ)で離脱する。横にステップとハンドルがあるから掴まって。可能な限り細い道と広い道を交互に挟みながらアビドス高校まで誘導してほしい」

「わかった。やってみる。真正面から突っ切っていいね?」

「任せるよ」

「ん。走ったらその角を左、30メートルで右の路地に入って」

「ロジコマ、今の声紋を登録。彼女の指示を実行しろ」

 

 ロジコマが一気に走り出した。

 

 

 




いきなり戦闘開始です。頑張るぞー

次回 カタカタヘルメット団迎撃戦

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