マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00110110_忘れられた神々について

『……演算停止、電算処理が追い付きません。再起動、予測を組み立てます……!』

『そう! まさにそれ! 試行錯誤を繰り返し、最適解を見つけようとする時間こそRPGの真骨頂っ! レトロチックゲームのロマン!』

 

 ドア越しにアリスとモモイの声を聴いて少しホッとする。30分ぐらい様子を見てみたが、ゲーム開発部の面々とは相性は悪くないらしい。一応明日もう一度意思を確認することにはなるだろうが、この様子だとモモイはアリスを離そうとはしないだろう。

 ちなみにジブリールも中でアリスのプレイを見学中だ。なんでも今プレイしている『テイルズ・サガ・クロニクル』はゲーム開発部のプロダクツなのだが、ジブリールからは『誰でも簡単に狂気に浸れます。トレーニングでなければ触れたくもありません』と酷評されている。それでも数時間かけてトゥルーエンドまでは到達したらしいから、ジブリールも真面目だ。

 

「やれやれ、若い子は元気だねぇ。おじさんにはついていけないや」

 

 松葉づえに体重を預けたホシノが笑う。

 

「君もそう変わらないだろう……ともかく、アリスの身柄についてはこれでほぼ決着だろうね。ゲーム開発部に置くことでヴェリタスやエンジニア部のアシストを受けられる形を取り、非常時は僕が対応すると言う形で決着させる。対外的にはゲーム開発部の廃部回避までの時間稼ぎにも使えるだろうし、いろいろと用意をすすめよう」

「それってつまり、やばくなったらまた先生に丸投げされるってことだよねぇ……ねぇ先生」

「なんだい?」

「そろそろ意図を教えてよ。情報の出所は全部ヴェリタスなのに、ヴェリタスの言いなりになってコトを進めている理由」

 

 ホシノが笑顔のまま聞いてくる。

 

「そろそろ聞いてくると思ってた。シロコやノノミも聞きたそうにしてたしね。……真面目な回答とお茶目な回答、どっちを聞きたい?」

「どっちも、って言ったら?」

「じゃあ真面目な回答からだ。……子どもが困っているのに手を貸さない大人にはなりたくない。それだけ」

 

 君の時と一緒だ、とは言わない。ホシノはそれをわかった上で聞いてきているし、これ以上ホシノがこれを負い目に思う必要はないからだ。

 

「じゃあお茶目な回答……というより、その『お茶目』は『私たちを納得させるために組み上げた』って意味合いだとおじさんは捉えてるんだけど、それを聞いたらなんて答えるの?」

 

 やっぱりこのあたりのホシノの嗅覚はずば抜けて優秀だ。正確に、かつ、的確にロジックを組み立ててくる。『おじさんにはアヤネちゃんと違って指揮官適正はないんだよぉ』とか言っていたこともあったが、伊達に対策委員会委員長としてカイザーグループ相手に遅滞戦闘を展開していない。

 

「シャーレとしてヴェリタス、正確には明星ヒマリ部長の提案に乗ったのは、ゲーム開発部を捨て駒として何らかの技術か情報の獲得を期待しているように見えたからだ。モモイたちが学園からパージされた場合でもシャーレ側でいったん保護できる体制を整える必要があったというのが大きい。利用されているにしろ、いきなり情報なしで爆心地になるよりは、情報を得つつ構えていた方が被害が少ない。それに結果論だがアリスという超技術を手放しで生徒に預けるのも怖いから巻き込んでもらって正解だったと思うよ」

「……で、実際にそんな事態になった」

「うん。実際かなり危なかったのは確かだ。ヒマリは少なくとも、実戦は経験していないみたいだね。電子戦は強いんだろうけど、現場タイプではない。そのミスマッチについて僕がしっかりカバーしておくべきだったんだけど、ままならないもんだね」

「そりゃあねぇ……」

 

 ホシノはそう言って天井を仰いだ。

 

「ずっと砂漠で生活削ってたおじさんたちと、ジブちゃんたちとジャングルで戦ってた先生だもん。場数の差でしょ? 妄信したくなるのだけは理解できるよ」

「妄信って……」

「だって先生強いもん。先生の指揮下なら大丈夫だって妄信したくなる。……でも先生はそうすることを良しとしない、でしょ?」

「よくわかってるじゃないか」

 

 そう言うと寂しそうに笑ったホシノ。

 

「ジブちゃんにも言ってるけど、私は第四夫人でいいからね」

「……冗談でもそういうことは言うべきじゃないな」

「冗談でこんなことを言えると思う? まぁイスラーム? だったっけ、ジブちゃんの宗教。まぁその神様を信じてた大昔の王様とかは4人とかに囚われずに何人も娶ってたみたいだよ? がんばって、先生」

「教育に悪いことはしない主義だ。僕の出身地では重婚は重罪だし、未成年相手はもっと重罪だ」

 

 そう言うとホシノがけらけらと声を上げて笑った。何がホシノのツボにはまったのかはわからない。

 

「まぁ、かなり先のことは今は置いておこうか。先生も忙しいんだしさ。で、このあとの調査の手筈は? 第13直轄地の再調査も進めるんでしょ?」

「今はカンナに後ろ盾を頼んで連邦生徒会防衛室と調整中だ。連邦生徒会直轄地だから本来ならヴァルキューレが動くべき事案だからね。とはいえ地域的にもミレニアムが近いからシャーレが仲介する形で調査になるかな。カンナ曰く、工場の内部探査はSRTの人員を投入するかもしれないそうだ。まぁ決まり次第いろいろ確認する必要があるけど……」

「けど?」

「その前に情報が得られそうな相手に心当たりがある」

 

 僕がそう言ってシッテムの箱を取り出して届いていた通知を確認。通信相手を選択して無線を開く。

 

「情報提供者とコンタクトがとれた。ホシノ、セリカ、僕の護衛を頼む。アヤネは今シャーレ本部ビルだね? 管制室に移動してくれ。ミレニアム側の管制のバックアップを頼みたい。……ジブリール。ゲーム開発部の方を頼んだ。大きく動くことはないと思うが、何かあったらアヤネと協力して対処するんだ。万が一があれば君頼りになる」

『そういうことは二人きりの時に言うべきだと思います』

 

 つれない返事に笑って返してしまうと、背にしていたドアがいきなり開いた。

 

「笑うべきではありません。アラタ」

「大分日本語がうまくなったね、ジブリール」

 

 そう言って助け起こしてもらう。こういう時でもジブリールは優しい。指先がすごく暖かくて、あぁもうかわいいなあという感情になる。

 

「とはいえ、頼むね。モモイたちも、僕はちょっと席を外すから、アリスを頼むよ」

「わかった! いってらっしゃーい!」

 

 モモイはアリスの支援に忙しく目線を逸らすことなく送り出してくれた。うんうん、これぐらいの距離感の方がやりやすいな。

 

「アラタ。無茶はダメです」

「わかってるさ。だからホシノたちをつれていく」

 

 ジブリールの頭をポンポンと撫でて移動を開始。エレベーターに乗ったタイミングで思い出したことを聞いておく。

 

「ホシノ、僕に前預けてくれた拳銃と弾頭、持ってるね?」

「……もちろん。使うの?」

「いや。君が持っていればそれでいい。落ち着いていこう。レンタカーにはなるが防弾車も手配してもらってる」

「重装備だね。……それだけの相手、ってことかな」

「戦闘にはならない予定だけどね。……僕を囮に情報を引き出す」

 

 そう言うとホシノの目が見開かれた。

 

「……本気で言ってる?」

「もちろん。僕が出ないと相手も本気にならないだろうからね。誠意には誠意で対応するさ。もちろん、悪意にも対処していくことになる。……移動を開始する。目的地はD.U.シラトリ地区、鐘崎港だ。現地に応援も呼んであるから、大船に乗ったつもりでいこう」

 

 

 


 

 

 

「で、いきなり呼び出されてこういうことになる、と。人使いが荒いわよ、ほんと」

《くふふ。でも嫌じゃないんでしょ? アルちゃん笑ってるし》

「仕事中は社長と呼びなさい。それに私の顔が見えてるなら位置を変えなさい」

《はーい。先生からも今指示きた。移動しまーす》

 

 コンテナの上、対赤外線シートを引っかぶって相手を見やる。どうやらあれが、先生の言う情報提供者、らしい。暗闇のコンテナの隙間。輪郭もあいまいだがスーツ姿の男が一人。横でスポッターをしているカヨコが望遠鏡のピント調整ノブを動かしているのがわかる。

 

「風もほぼないし、これなら大丈夫そうだね。……対赤外線スーツ暑いけど」

「このまま三日とかそういう話じゃないんだから我慢しなさい」

 

 そう言って安全装置をかけたままのライフルのスコープ越しに状況を見る。

 

「それにしても、早速先生は面倒なことに巻き込まれているのね」

「今度はミレニアムだっけ? アビドス組が早速大暴れしたのはさっきログで見たけど」

「札付きのアウトローである便利屋68(わたしたち)を突っ込まなかったのは公式での調査名目だからでしょうね。……シロコとノノミが即応体制(ホットレディ)、セリカとホシノが準即応(ウォームレディ)でアヤネがバックアップに入っていたのにあのザマよ。情報負けした戦闘は面倒だけど、先生も放り出すわけにはいかない事情があるんでしょう」

《アル様、来ました》

 

 ハルカの囁くような無線が乗る。コンタクトタイプのTITTYでも確認できている。先生が乗った自動車がロジコマに護衛されてコンテナターミナルに入ってきた。交通管制システムはオフライン。完全手動で先生が運転しているらしい。対応としては正解だ。こういう時は手動に限る。

 

 コンタクトに投影されたメッセージが状況報告(レポート)を求めている。事前に打ち合わせていたコードで返答。状況は2-4-11。対象自身の武装の携帯有無は不明。周辺に無関係な民間人はなし。

 

全社員(オールスタッフ)、コンディ・オレンジ。その場で警戒態勢を維持」

 

 確保したコンテナの上からも先生の車のヘッドライトが見えた。どこにでもあるような銀色のセダンが助手席側を情報提供者に向けるようにして止める。おそらく指示をしたのは助手席に座っているホシノだ。先に後部座席のドアが開いてセリカが降りてくる。自動車を盾にして話す態勢だ。助手席の窓が開き、銃口だけが小さくのぞいているのが見える。いつものショットガンではない。おそらく拳銃だ。

 

《お呼びだてしたのにお待たせしてしまいました》

 

 先生が運転席から降りて車越しに呼びかける。

 

《くっくっく……先生が我々ゲマトリアを忘れていなかったことに感謝しますよ。……お久しぶりです、暁のホルス。ご無事で何より》

 

 先生と情報提供者の会話が始まるが、情報提供者は先生よりも先にホシノに声を掛けていた。

 

《どうも》

《あなたには直接報告ができてなかったので、一応報告に。怪我こそありましたが、なんとかぎりぎりで保護できました。情報提供感謝します》

 

 先生がそう言って笑っているのが見える。

 

《こんなところで神秘の可能性を持つ生徒が使いつぶされるのが惜しかったからこそ、あなたに協力を依頼しただけです……成功報酬もお気に召したようで》

《ジブリールの言う“預言者”はやはりあなたでしたか》

《少々リスキーではありましたが、それでもリョータ・アラタを敵に回さないためだったらそのリスクぐらいとりますとも。……さて、第13直轄地についての情報がご入用ですね?》

 

 話がいきなり本題に着地する。

 

《その前に、武器は持ってますか? 狙撃手などの配置は?》

《もちろんしていませんとも。なぜ私がシャーレを攻撃しなければならないのですか》

《わかりました。ではなにかあったらこちらもそれ相応の対応ということで。何があってもお互い言いっこなしでいきましょう》

「とか言ってるけど、いるじゃん。狙撃手」

 

 カヨコがつぶやくようにそう言った。実際いる。対岸のコンテナ船の上、赤外線の対策すらしていない。

 

「情報提供者と狙撃手を雇った組織が別なのかもね。本当にあの情報提供者は狙撃手なんて手配してないんじゃないかしら」

「……だとしたらどこ?」

「さぁ? はい、二組目。ガントリークレーン三番機の根本」

「確認した。……本当に対赤外線スーツ暑いんだけど。リーファーコンテナって冷たいんじゃなかったの?」

冷凍(リーファー)コンテナの()()冷たいわよ。我慢よ我慢」

 

 カヨコが地図情報をマッピングしてくれている。ホシノやセリカにも共有されているはずだが、そちらを見ようともしない。さすがアビドス。訓練が行き届いている。

 

《第13直轄地について、正確な答えを私が把握しているわけではありません。ですが、かなり確かな傍証とともに、予測について共有することはできます》

《聞きましょう》

《まず事実から。我々、現ゲマトリアはこの件については関与していません。メンバー全員に確認を取りましたが、現状において第13直轄地に干渉したものはいません》

 

 情報提供者の朗々とした声を聴きながら目を走らせる。狙撃手は二組。スナイプチームだけとは考えにくい。別動隊か司令塔が地上、おそらく情報提供者と先生の会話が聞ける位置にいる。

 

《そしてもう一つの事実として、過去にゲマトリアという組織は別の目的をもって存在し、神の再生産を目的とする研究機関を支援していた……もはやその研究所もとうに朽ち果て、旧ゲマトリアは今のゲマトリアとは出自も目的も異なる組織であることにはご留意いただきたいですが》

《神の再生産、とは?》

《かつてその研究所は『対・絶対者自律型分析システム』と呼ばれる神の存在を証明し、分析し、対処するためのAIを開発していました。そして、その解析プログラムは過去どこかのタイミングで解析を終了し、新たなる神を生み出さんと様々な人工知能を扇動(アジテート)していったという確度の高い推論を我々は構築しています。そうして再生産された神々のシステムを神聖十文字(デカグラマトン)と呼んでいます》

《なるほど。……ホシノ?》

《その反応からして、暁のホルスも噂ぐらいは聞いたことがあるようですね。えぇそうです。セイント・ネフティスの線路などを定期的に襲っているビナー……アレもデカグラマトンの一角だと考えられています》

 

 どうやら砂漠にはまだまだ秘密が埋まっているらしい、ということだけはわかった。先生が言葉を選ぶような間がある。先生の端末からバックアップの要請が飛ぶ。本部ビルにいるアヤネにこの周辺の通信をスキャニングするようにの指示。先生も司令塔の存在を気にしているのがわかって安心する。スキャニングのノイズが一瞬乗った。

 

《そのデカグラマトンが第13直轄地に関係する、ということですかね?》

《当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。我々が知っているところまでだと、貴方は人型のロボットを回収した。おそらくそれはデカグラマトンの解析対象になりうる何かであるという推測ができます。おそらくは、かなり古いものでしょう》

《解析対象になりうる……つまり、神に近しい存在、だと》

《機械でありながらヘイローが浮かんでいるというのが何よりの証左です。ヘイローとは神秘の象徴であり、我々も完全な制御には成功していません。その神性がどこからくるのかを解き明かすことこそ、私の研究の最終目標でもありましてね。語れることはまだ少ないのが現状です》

 

 スキャニングに反応があった。司令塔がいる。ライン掌握。先生の合図待ち。

 

《現状では『対・絶対者自律型分析システム』が解き明かそうとしていた神は唯一無二であることから名前がなかったとされています。故に発音はおろか記録としても残っていません。ただそれらを崇拝する司祭が存在し、知識と信仰をとりまとめ、つかさどっていたことは明らかになっています。……結論を申し上げましょう。おそらくあなた方が回収したものは『名もなき神々』とその司祭にルーツを持つオーパーツである可能性が非常に高い》

《……要は何もわかってない、っていうことね》

 

 この声はセリカだ。先生が窘めるような声がする。

 

《いいえ。わかっていない領域が判明したことは大きいのですよ、お嬢さん。そしてそのオーパーツが起動状態であるということは、おそらくデカグラマトン側も観測したはずです。……おそらく近々干渉を受けるでしょう。あるいはもう受けているか》

《対処方法は?》

《ありません。相手は文字通りオーパーツ級のAIで、自らのコピーをすでにばらまいていると想定されます。文字通りキヴォトス全域を一瞬で灰に帰すような一撃でも与えない限り、どこかの端末から再生されるでしょう。故に、乗り移った器に対するモグラ叩きを続けるしかない》

《厄介ですね》

《ええ、本当に。だからこそ研究のやりごたえがあるというものです》

 

 情報提供者が肩をすくめるのが見えた。

 

《私が知っている正体とはこの程度です。ですがリョータ・アラタ、あなたはこう考えているはずです。正体や出自はどうでもいい。そのロボットがなんであれ、なぜそこに―――》

「先生!」

 

 割り込む声。呼ばれた先生も予期していたはずだ。当然、TITTYで見ていた私も。

 

 照準合わせ。距離320メートル、風は5時方向から0.2m/s、突風無し、安定。

 

攻撃せよ(CLEARED HOT)

 

 先生の声に合わせて発砲。続けて照準合わせ。距離420メートル、風向風速ともに変更なし。発砲。

 

「こちらSC2。B1、B2クリア。……やっぱり社長、いい腕してる」

「こんな好条件で当てられないほうがどうかしてるわ」

 

 戦果レポートをしてくれたカヨコにそう返したものの、さすがに相手の銃身をぴったり狙撃して銃をへし折るのはやりすぎただろうか。だけど、狙われていることを向こうに知らせるにはちょうどいい。まぁ逃げようとしてもとっくに相手の退路はハルカとムツキが押さえているので逃げられないんだけど。

 

《ナイスショット、アル。シロコ、それ以上きつく縛り上げると危険だからそれぐらいにしておこうか》

《ん。わかった。……身代金とか請求してみる?》

《シロコ、あとで面談しよう。……監視されていたようだったので、排除させていただきました》

 

 先生が淡々とそう言う。

 

《狙いは最初から私の情報ではなく……監視者の狩り出し、ですか》

《お互い言いっこなしとお伝えしてましたよ。それに利用しているのはお互い様だ》

 

 情報提供者の恨み節に淡々と返して先生がコンテナの影に移動する。

 

《アロナ、連邦生徒会に照会をかけてくれ。おそらくだが、防衛室か文化室の関係者だ》

 

 すぐに検索結果が共有されてくる。B3にナンバリングされた相手、シロコが取り押さえた相手は連邦生徒会事務局の人員リストでヒット。所属は防衛室。先生の読みはビンゴだ。

 

《さて、なんでこんなことになってるのか、君が話してくれるならそれでもいいけど、とりあえず君の上司のところまで案内してくれないかな》

 

 その生徒にそう声をかけているのが聞こえる。先生はこういうことを淡々とするから恐ろしい。声色が柔らかいのがなおのこと恐ろしい。

 

《連邦生徒会が監視しているのを知ってて我々と接触した。……表舞台に我々ごと暗部を引きずり出すつもりですか》

《影から生徒をどうこうしようとしている時点で僕とあなたたちは分かり合えない。それに子どもを使って平穏を得ようとするような不届きものはそれ相応の報いを受けるべきだと思いますよ》

《くっくっくっ……やはり貴方は面白い人だ。確かにあなたの一手は有効です。連邦生徒会はもうこの一件をミレニアムだけの責任として押し付けることができない。そして我々もまた、公に出て主体として関わるか、傍観者に徹して闇に戻るかの判断を迫られる》

 

 ゲマトリアという組織に所属しているらしい情報提供者は唸る。ゲマトリアはおそらく非合法で、先生と敵対している組織なんだろう。そして先生は、この状況をゲマトリアに利用されることを恐れた。だから、先手を打った。

 

 そして、わざと怪しい動きを急に取ることで、尾行をつけていた連邦生徒会にしっぽを出させた。この尾行もおそらく非公式なもので公にはしたくない部類の何かなんだろう。

 

 ここがゲマトリアにとっても、連邦生徒会にとっても分水嶺になってしまった。ここでの事件をもみ消すには先生をうなずかせるしかなく、そのための交渉材料として、相手はシャーレが望む状況を作るしかなくなったのだ。

 

(やっぱり、最高のアウトローね、先生)

 

 情報提供者は先生に背を向けた。

 

《いいでしょう。本当に残念ですがこのロボットの件から、ゲマトリアは手を引きましょう。ですが改めて申し上げますが、我々はあなたの敵ではない。ゲマトリアはいつでもあなたに門戸を開いています。……先行投資として、一つ情報をお渡しします》

《投資に成功したらまた子どもが送られてくるとかならお断りしますよ》

《おや残念。……名もなき神々の崇拝は既に過去の遺物となっています。ただ、それは遺物になっているとはいえ、無力化されたわけではありません。名もなき力が意味消失していないということは、必ず、それを崇拝し、利用しようとする何かが存在する。お気を付けください。必ず、彼女は利用される》

《……どうも、それではまたいつか、黒服さん》

 

 黒服がコンテナの隙間に消えていく。反応がロスト。

 

《シロコ、追わなくていい。ビジネス相手としては信頼できる。……さて、もうひと頑張りだ》

 

 先生から撤退指示が来る。便利屋への依頼はここまでだが、さすがにアフターサービスぐらいはしておきたい。行く先はわかっているから、外でバックアップできるようにしておこう。

 

「さ、サンクトゥムタワーに移動するわよ」

「そういうと思った」

 

 カヨコがため息をついているが、まぁ、先生には恩もあるし、これぐらいはしてもいいだろうと思う。




次回予告では電話大会とか言っておいて、結局ダイレクトアタック仕掛けたよアラタ先生……。どうしてこうなった……

次回 連邦生徒会の意図、ミレニアムの意図

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