マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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Q.ロマン砲を振り回すのに、生徒は何人必要か?
A.1人。


00111001_勇者ランク判定

「はっはっはっはっは!」

「笑いごとじゃないんだよウタハ……」

「先生も笑った方がいい。表情が気分を作るんだ。笑うだけでポジティブになれる」

 

 ウタハがそう言って肩を叩いてくる。エンジニア部が手入れしている演習場だというが、そこにはアリスとユウカがそれぞれに設定された陣地で準備中だ。ここは演習管理センターという名前の対爆壕。コンクリートでガチガチに固めているのは高火力の兵装の試験等を行うためらしい。フィールドの幅は200メートルほどしかないが、奥行きが500メートル以上ある細長い演習場だ。

 

 ちなみに管理センターには僕とウタハしかいない。残りの面々は観戦ができる別の建物で様子を観戦している。管理センターが狭いのと、判定に公平を期すため、という理由もある。

 

 そんな場所で試験をしなければならなくなったのは、ユウカとの『決闘』のためにアリスが選んだ武器が原因だ。

 

「光の剣:スーパーノヴァ……まさかあれを持ち上げることができるなんてね」

 

 ウタハの感慨には僕も同意する。エンジニア部の技術の粋を集めて作成された小型高出力のレールガンなのだが、そのネーミングと誰も扱いきれないと説明されたピーキーな仕様も相まって目を輝かせたアリスがこれじゃなきゃ嫌だと駄々をこねた。

 

 実際『勇者にしか扱いきれないものなのでしょう。これを引き抜いて証明して見せます!』とさらりと持ち上げてしまったので断るに断れなくなった。140キロオーバーの()()()()可搬運用(ハンドヘルド)するというのは僕の常識の範疇を超えているのはもちろん、キヴォトスでもまずありえない事象らしい。

 

 それが正しいなら、ミニガンを乱射できるノノミもまずありえない所業を笑顔でしていることになる。もっとも護衛役に徹している彼女は今席を外しているし、それを彼女自身に聞くのもどうかと思うのでひっそり心のうちに抱えておくことにした。

 

「あれの電力ってバッテリーでまかなってるんだろう? 何発撃てるんだい?」

「常温環境下かつ弱装填モードで10発が最大だね。飛翔体(プロジェクタイル)も10発で1カートリッジだ。そもそもが艦載前提の兵装で、コンペティション用にバッテリーパックとカートリッジセットを作ったに過ぎない。宇宙戦艦に積載するなら電力は無制限で供給される前提だったけど、改修した方がいいだろうね」

「ちなみに最大出力だと何発撃てるんだい?」

「うーん……3発くらいかな。設定上は1発でバッテリーパックを空にするような特高圧モードも実装してるけど、一瞬でプロジェクタイルが全部プラズマ化して制御どころじゃないし、レールモジュールも交換が必要になる。……うん、やっぱり実用限界だと3発までだね」

 

 つまり、実用限界の1/3まで出力を絞っているらしい。まぁ地対地もしくは地対空ミサイルの代わりだと思えば3発も補充無しで撃てるというのは魅力であり脅威だ。砲身と言っていいのかわからないけれど、加速に使うレールもその三倍まで耐えれるらしいし、安全マージンとしては十分だろう。

 

「本当にアリスを先生の下で活躍させるなら、スーパーノヴァには宇宙太陽光発送電システム(S S P S)からの送電を遠隔で受けられるようにしたいかな。射点の自由度確保のためにも受電用中継ドローンが必要になるけど、受電システム自体は開発済だし、ドローンを40mmグレネードに詰めれるようにすればいいだけだ」

「なんで40mmグレネードなんだい?」

「ユズのランチャーが40mmグレネード対応だからさ。ロジコマのスモークディスペンサも同一の規格だから射出可能だし、屋内でも中継ドローンが窓越しにでも確認できれば送電を受けれるようになる。ドローンは狙われやすいけど、使い捨てにもできるしね」

「なるほど」

 

 ユズとセットで動いてもらうというのはいいアイディアだろう。一番ブレーキが利く気がするし、戦闘レンジ的にもぴったりだと思う。

 

《それじゃあ始めるわよ》

 

 用意が整ったのか、ユウカがサブマシンガンを手に無線に吹き込んだ。

 

《さっきも言った通り、ルールは略奪戦に準拠。あなたが攻撃側、私が防衛側。あなたは私の陣地にある射撃用目標(クレーピジョン)を壊さずにあなたの陣地まで持ち帰ってもらう。壊れやすいから注意するのよ?》

 

 ユウカが親指で自身の後ろを指した。青い線が引かれた陣地の向こうに射撃用のスタンドに立てかける形で蛍光色に色が塗られた素焼きの皿が置いてある。あれがクレーピジョンなんだろう。一方でアリスの背後にも赤い線が引かれた領域があり、そこがアリスの陣地となる。陣地間の距離は400メートル。

 

《あなたがクレーピジョンを回収した後は、私もクレーピジョンを攻撃できるし、クレーピジョンの破壊を積極的に狙っていくわ。20分以内に自陣まで安全に持ち帰ることができればあなたの勝ち。できなければ私の勝ち》

 

 単純でしょ? とユウカは笑う。クレーピジョンは防衛側にとって奪われた段階で破壊されるべきものという想定だ。何らかの都合の悪い情報を奪取する場合か、人質の救出か、そんなところだ。1対1の対決で20分というのは相当長いが、千日手を避けるためにつけた時間制限だろう。実際は5分もかからずに終了になるはずだ。

 

《銃撃戦において、胴体もしくは頭部に被弾した時点で戦闘不能とみなすわ。復活は無しだから、バイタルゾーンに被弾したら即負け扱い。ただし、跳弾が当たった場合はノーカウント。降参は認める。……ほかに質問は?》

《ありません》

《じゃあ、先生がカウントを取ってください。カウントゼロで状況を開始。それぞれ射撃等に必要な動作はカウントがゼロになると同時に開始できるものとします》

 

 ウタハにマイクを勧められたので声を吹き込む。

 

「僕が君たちに求めるのは安全にちゃんと留意して行動してくれることだけだ。無茶は無し。いいね?」

《アリスは指示を理解しました》

《防衛側もOKです》

「それじゃあカウントを始める、状況開始まで、5、4……」

 

 しっかりカウントを取って、ゼロ、とカウントすると同時に爆発的な加速度でアリス自身が飛び出した。その速度に度肝を抜かれる。

 

「時速38キロ!?」

 

 予備動作無し、交換バッテリーや弾倉のカートリッジを含めて150キロの武装を背負っての動きだ。人間の100メートル走の世界記録がおおよそ時速45キロだったはずだ。専用のトラックで荷物無しでの世界記録に迫る速度を予備動作なしでできるのはすごい。この速度なら30秒もかからずにクレーピジョンを確保できる計算だ。

 

《なるほ、どっ!》

 

 ユウカがそれに即応する。白く塗られた銃から正確に弾丸が飛び出していく。アリスはブレーキを掛けるように地面を蹴って斜め上に飛び上がることでその射撃を回避。面白いぐらい高度が稼がれる。加速度を位置エネルギーに変換した形だ。

 

「ほう」

 

 ウタハが感心している。地面を蹴る時にわざと斜めに飛ぶように蹴ったのだろう。体の正中線を軸に回転運動が始まっている。アリスがユウカと正対する時には背負っていたレールガンが発射態勢になっている。

 

《ターゲットインサイト!》

 

 ユウカとの射線が交錯し、ユウカが引き金を引きながら前に、アリスとの距離を詰める方向に飛ぶ。

 

《光よ!》

 

 プラズマ化した飛翔体が飛び出したせいで、カメラの画像が白トビを起こした。いきなり明るくなったのにカメラの絞りが追いつかなかったのだ。おいおい、ユウカは無事なんだろうな。

 

《やるじゃないの》

 

 そう思ったタイミングでユウカの声が無線に乗る。よかった、無事だったらしい。カメラの映像が不鮮明だったからよくわからないが、姿勢を低くして前に飛んだのが功を奏したんだろう。おかげでユウカの射撃もブレてアリスにはヒットせずに抜けている。お互い有効弾なし。

 

 一方でアリスは空中でレールガンを撃った反動で今度は後ろ向きのモーメントを受ける形になった。バック宙の要領で空中で一回転して着地態勢に入る。その着地点に向けてユウカが飛び込む。

 

《……っせい!》

 

 ユウカが選択したのは、接近戦。左の掌底でアリスの顎を狙うように飛び込む。さらにアリスはバック転でその間合いを外す。左手だけで地面を正確に押し返し、そのまま距離を稼ぐ。

 

《着地狩りとは、卑怯な……!》

 

 アリスが言い切る前に右手だけで持ったサブマシンガンが火を噴いた。アリスは体をひねってレールガンの側面でその弾丸を受ける。冷却がまだ続いているのか、弾丸を受けた側面からは半透明のもやが立ち上っている。

 

《無駄に硬いわねその銃!》

「無駄とは失礼な」

 

 ウタハが抗議しようとしたのでとりあえずウタハのマイクを切っておく。二人の邪魔をするべきではないだろう。

 

「プラズマも加速に使うために気密性と剛性を求めたらそうなるだけだからね。結果的に小銃の弾丸ぐらいで歪んでもらったら困るからこうなっただけだよ」

 

 わかるかいこの性能こそが導く美学! とか言っているがマイクが切られていることに気が付いていない。戦闘はその間にも続く。レールガンを盾にしたまま大回りに走り出す。ユウカを迂回してクレーピジョンを確保しに動いたらしい。冷却が終わったのか、砲身を固定するように銃がわずかに細くなる。

 

「冷却完了。やっぱり弱装填でも撃ってから8秒は冷却にかかるね。冷却機構は要改善だ」

 

 ウタハがそう関心する間にも状況は目まぐるしく変わっていく。スタンドからクレーピジョンを確保したアリスはそのままレールガンを自身に立てかける形で両手を空け、ポケットのジッパーを引いている。そこにクレーピジョンを仕舞おうとしたのだろうが、残念ながらそれは悪手だろう。アリスの()()は戦闘用だとウタハが推測していたがそれにしてはこのあたりの判断が稚拙だ。

 

 レールガンを盾にすれば相手の視線を遮ることができるが、それはアリス自身も同じこと。そしてポケットにクレーピジョンを仕舞うために視線を下げてしまった。それは案の定ユウカにリロードと距離を詰める隙を与えることになる。

 

《っ!》

《遅いっ!》

 

 アリスが気が付いた時にはユウカが文字通り手の届く距離に飛び込んでいた。ユウカもユウカでシャーレ本部ビルのドアを壊れかけていたとはいえ一発で蹴り破ったり、フウカを抱えて食堂の提供口をハードル走の要領で飛び越えたりと瞬発力とバランス感覚の良さは実戦で証明済だ。アリスにとってはすこぶる戦いにくい相手だろう。

 

 ユウカが回し蹴りをレールガンに向かって放つ。レールガンの上部、しかも盾にしていた面ではなく、握りなどがある薄い側面に蹴りが入ったことでレールガンがバランスを崩し、アリスを押しつぶす方向に倒れそうになる。

 

 ここでもアリスがクレーピジョンを仕舞おうとしたことが足を引っ張っていた。クレーピジョンとジッパーで両手が埋まり、レールガンはアリスの肩で支えていた形だ。これまでのアリスの動きを見るに、レールガンがアリスの上に乗っても無傷だろうが、素焼きの焼き物でできたクレーピジョンが下敷きになれば確実に割れて判定負けだ。そうじゃなくても下敷きになれば単純に動きにくいしこの距離で攻撃されればよけきれない。

 

 つまり、アリスはレールガンを支え直すしか手がない。

 

 そしてそれは、ユウカが予想した通りの動きをなぞるしかない、ということでもある。

 

 発砲音。

 

《クレーピジョン破壊、勝負ありね》

 

 ユウカの淡々とした声。

 

《……負けてしまいました》

《単純に経験の差ね。ナイストライ、アリスちゃん》

 

 助け起こす手をアリスがとっているのが見える。

 

《条件はクリアされたわ。あなたの実力を証明し続けなさい。……アリスちゃん、美しき友情の始まりね》

《アリス知ってます。それは共犯者になる時に使う言葉です》

 

 戦闘そのものは1分もかからなかった。

 

 

 


 

 

 

 ゲーム開発部とユウカの面談をドア越しに聞く。どうやらモモイたちはユウカをコテンパンにできれば合格と思い込んでいたらしく、さっきまでお通夜モードだったのだが、アリスと戻ってきたユウカが『在校を認めるに足る最低限度の実力は確認できたから、登録手続きに協力する』と告げてからハイテンションな声が廊下まで響いている。

 

 廊下は僕と護衛役のノノミだけ。向かいの教室ではようやくジブリールの語学研修がココナ主導で始まった。ココナはジブリール用に教材となる語彙カードを手作りしてくれていた。カードの内容はシャーレの活動に合わせて、行軍時の号令に使う方位であったり、距離であったり、武器の種類であったりと軍事方面に特化したものになっていて本当に頭が下がる。

 

 ココナ曰く『ことば選びにはシュン姉さんにも手伝ってもらいました』とのことなので、そのシュンという人物にも早めにコンタクトを取っておきたいところだ。需要を正確に理解して的確に実現できる手腕はできれば敵に回したくない。お礼もかねて今度挨拶に行くべきだろう。来週のココナの授業に合わせてジブリールと梅花園に足を運ぶ形で調整したい。

 

 そんなことを考えていると、ノノミがくすくすと笑っていた。

 

「どうした?」

「みんな元気いっぱいですねって」

 

 ノノミはゲーム開発部が揃っている方の教室のドアに視線を送っている。ハイテンションはハイテンションなままだが、モモイとユウカが言い争っているようだ。

 

「……なるほど、部の存続条件が厳しくなったのか」

「2週間後のコンペティションで賞を取れ、って結構な無茶ぶりな気がしますけど……」

「どうなんだろうね。ゲーム開発ができるだけで僕からしたら結構すごいと思うんだけど」

「あはは……」

 

 なぜかノノミは苦笑い。

 

「毎週のように戦ってて負けなしの先生もすごいと思いますよ?」

「残念ながら得意なのはそれだけでね」

 

 僕は肩をすくめるしかできない。戦闘なんて大嫌いだし何より教育に悪い。僕はもう諦めたけど、子どもたちにはこうなってほしくない。そう思っているのだが、今日も模擬戦でレールガンが火を噴くあたりまだまだ机上の空論だ。

 

《わ、わかりました! ミレニアムプライスで実績を残せばいいんですよね……!》

 

 ユズが声を張るのを初めて聞いた気がする。半ばやけっぱちのようだが、大丈夫だろうか。直後教室のドアが開く。

 

「そうよ、ユズ。じゃあ、私も楽しみにしているわね、グッドラック、ゲーム開発部」

 

 ユウカがそう言い残して出てくる。ドアが閉まったのを確認して声を掛けた。

 

「お疲れ様、ユウカ」

「……本当にですよ。先生、こうなるのわかっててゲーム開発部にアリスちゃんを預けたんじゃないんですか?」

「それはセミナーもじゃないのかい?」

 

 そう言うとユウカがハッとしたように僕を見る。

 

「驚くようなことかい? 僕がアリスの扱いについてミレニアムに何らかの形で籍を置いてもらいたいと言ったとき、君は『生徒としてという意味だとは知らなかった』と言った。つまりユウカ、君はアリスがロボットであることをその時点で知っていたとほのめかしてしまった。それなのに、次の瞬間には入学資格の手続きの話になる。……アリスがゲーム開発部の拾得物として備品登録される可能性を排除したのはなぜだい?」

 

 ユウカはシャーレのバックオフィス系の管理権限を持っているから工場での作戦について調べる事ができる。だから知っていること自体は問題ではない。だが、それ以上の情報をほのめかしてしまっていた。

 

「ミレニアムの生徒であるかの資格は正式な手続きを経て精査されなければならない。それがたとえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……君が言ったんだよ、ユウカ」

 

 そう、ユウカがアリスとモモイを探しにやってきたとき、ユウカはそんなことを言っていた。

 

 そして僕はこの件について、セミナーの会長が絡んでいるなんて聞いていない。

 

「ユウカ、そろそろ教えてくれ。結局ミレニアムは僕にどうしてほしいんだい?」

「……そうでしたね、先生はそういう方でした」

 

 ため息の後でユウカがまっすぐ見てくる。

 

「ミレニアムにはなんとしてもAL-1Sを確保しなければならない事情があります。……セミナーの執務室で話しましょう。この時間ならリオ会長もいるはずです」




おかしいな……セイア&イブキ貯金が消えた……どうして……(体操服マリーを見ながら)

次回 冷房の効いた部屋で

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