マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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00111011_一つの戦場、三つの指揮系統

「チャーリー・ゼロワン。聞こえるか?」

 

 僕は指揮官用のTITTYの左目の部分に不透過オプション――単純に真っ黒なプラスチックの板をレンズの外側にかぶせるだけなのだが――を付けつつ情報を収集していく。目の前にはシャーレシステムとの同期が考慮されていないミレニアム独自の警備システム。こちらもホログラムウィンドウを多用する仕組みのため、ホログラム同士で情報が渋滞して可読性が著しく下がるからこうするしかない。左目のレンズ部分だけ真っ黒なスポーツグラスを掛けている僕は、海賊のコスプレみたいで傍からみたらものすごく間抜けに見えるだろう。

 

《はいはーい、あなたが噂の先生?》

「連邦捜査部のアラタだ。君たちの作戦指揮権限をセミナーから移譲された。指示に従ってほしい」

 

 ユウカから展開してもらった資料を見る。一ノ瀬アスナ。レポートを見る限り、中近距離を基本として機動力に特化した人物のようで、あとはスナイパーで褐色肌の角楯カリン、爆薬などを用いた掃討を得意とするとあるからおそらく工兵の室笠アカネ。恐ろしいことに、この全員が自由降下(フリーフォール)技術認定を受けている。僕ですら空挺降下の指揮なんてしたことないが、ミレニアムではあるらしい。つくづく恐ろしいなキヴォトス。

 

「チャーリーゼロワン、今の装備にパラシュートはあるか? もしくはラぺリング降下のスキルはあるか?」

《どっちもあるし、すぐにでもできるけど、お急ぎ?》

「大急ぎだ。突入箇所の周辺情報を今送った。ミレニアムの生徒が先ほど工場内部に突入した。チャーリー・ゼロワンは先行して天窓からパラシュート降下で突入。彼女たちと合流し、保護。組織的な戦闘能力をもった武装ドローンとの戦闘が予想される」

《はいはーい。今来たメールの天窓ね。楽勝!》

《ゼロスリー、アカネです。私たちはどうしましょうか》

 

 落ち着いた声。それを聞きながら考える。C&Cが力になってくれるのはありがたいが、最前線で向き合うジブリールたちと同じ交戦レンジで戦えるのはアスナしかいない。工兵も狙撃手も屋内で多数のドローンを相手取って戦闘するのはかなり悪手だろう。

 

「現在連邦捜査部のオペレータが現場に急行中だ。ゼロツーとゼロスリーはその人員と合流して正面から迎えに行きつつ、内部構造の確認を進めてほしい。オーパーツとはいえ構造物で、破壊可能な物質だ。まずい状況になれば、突入した人員の脱出と同時に発電プラントを爆破し、その質量をもって封じ込める」

 

 そう言うと聞いていたリオがぎょっとした気配。横でミレニアムの警備システムの確認をしていたユウカもすごい顔で振り向いてきた。

 

《承知しました。それではそのように。ゼロワンの降下の後、私たちも降下しますので、誘導をお願いします》

「ちょっと先生……」

 

 ユウカのお小言の前に無線が入感。

 

《ヒマリです。状況は聞いてます。今わたしの配下のエイミをそちらのノノミさんの方に送りました。ノノミさんの工場到着までにはギリギリ間に合うと思います。到着目標(E T A)ネクスト02》

 

 反射で腕時計を見る。この仕事はデジタルな数値を扱うことが多いため、時計はアナログの方が情報の取り違えを防げる。アナログ文字盤が示す現在時刻は17:57。エイミは5分後にノノミと合流予定。C&Cを乗せたヘリは一度工場の上でアスナをドロップしてから、残りの二人を正面に降ろす。そうなればほぼジャストのタイミングだろう。外は日が落ち始め、暗闇に紛れやすくなる時間だ。どこまで安全に進めることができるか。

 

「わかった。セミナーの管制システムに反映させてくれ。電子戦闘を警戒。ジブリールたちはまだ撃ってない。相手はまた工場内部に引き込んでから戦うつもりだ。この外部通信も潰される可能性がある」

《わかっております。今ヴェリタスのメンバーにも招集をかけました。サーバルームにはすでにチヒロがいますのでご自由にコールしてください》

「助かる。コタマとハレも捕まるならヴェリタスのサーバルームに向かわせておいてくれ。コタマの耳とドローンオペレータとしてのハレの腕を借りたい。

《手配済みですが急がせます》

「ヒマリともいろいろと話したいと思っているけれど、まずはみんなを安全に帰還させてからだ」

《デートのお誘い……というよりも、お説教大会ですね。えぇ、ゲーム開発部の皆さんが無事に切り抜けられたら、話しましょう》

 

 通話が切れる気配を感じてアロナに指示。ダイレクトラインをカヤに繋いでもらう。ヒマリとの会話が切れると同時にカヤに通話がつながった。

 

《はい、防衛室です》

「連邦捜査部のアラタだ。至急でSRTの人員を借りたい。工場内から発見されたオーパーツが僕やミレニアムの意図しない形で第13直轄地に再侵入した」

《なる、ほど? 不測の事態というわけですか》

「そうだ。なにが起こるかわからない。なにも起こらなければそれでいいが、そうじゃない可能性が出てきている。緊急でこれからすぐ借りれないだろうか」

 

 電話の奥はのんきに悩んでいるような唸り声を上げた。せかしても答えは出ないだろうから、その間にC&Cのヘリの動きを追う。到着はネクスト01、18時01分。

 

《わかりました。RABBIT小隊を出します。いまから招集かけてヘリで飛ばしますので30分近くかかります》

「それでも十分だ」

《それなりの対価を期待しています》

「もちろん。鐘崎港のコンテナが夜中に1個運び出されて行方不明になっている件は僕と君だけの内緒だ」

《ちょっ!?》

 

 ユウカが頭を抱えたが無視して通信をカット。とりあえずこれで連邦生徒会の頭を押さえつつRABBIT小隊の指揮系統を取り込むことに成功した。対連邦生徒会という意味では悪くないタイミングだが、その対価がゲーム部の生命だとしたらあまりに高い買い物になる。

 

「鐘崎港のカード、ミレニアム(うち)の手札にもなってたんですけど」

「なら諦めてくれ。生徒を見殺しにする学園なんて悪評が立つよりはよっぽどマシだと思うよ」

 

 僕とゲマトリアで交渉をしたときに捕まえた連邦生徒会防衛局のスタッフは偽装も甘く陽動の可能性が高かった。さらに別動隊がいるのは想定のうちだったし、実際僕たちがコンテナターミナルを離れた後、トレーラーがなぜか1つコンテナを港から取り出したあと交通事故で跡形もなく燃えている。物証もなく、状況証拠も不十分だからどうしようもないが、僕はこれをカヤの手引きだと踏んでいた。

 

 そしてセミナーも僕と同じ結論に至っていたらしい。当然アリスの関連はミレニアム主体で技術開発を進めようとする以上、ミレニアムサイエンススクールにとっても、あのゲマトリアとの取引のシーンで聞き耳を立てていた相手はミレニアムにおける仮想敵、要は産業スパイ候補だったことになる。その切り札を今ここでシャーレに一方的に切られるのは、ミレニアムサイエンススクールにとっては面白くない事態だろう。

 

「これで最低限3小隊を確保したことになるが……RABBIT小隊の到着までの30分が長いか短いか」

 

 僕は短いに賭けた。応援までの遅滞戦闘をどこまでつづけることができるか、という話でもある。

 

「アロナ、SRT側の指揮系統の情報漁ってくれ。情報連結できるか試す」

「あの……もしかしてですけど先生?」

 

 ユウカがげっそりした表情で声をかけてくる。

 

「ミレニアムとシャーレとSRTというかヴァルキューレ、3つのシステムを一人で一斉にオペレートするつもりですか?」

「そうするしかなさそうだからね」

 

 そのためのアイパッチで、隠した方の左目のレンズにはシャーレ側の情報が集約されて表示されている。右目側のモニタは切って、ミレニアム側の情報を見る、SRTのシステムはヴァルキューレ警察学校のシステムに近いということだったから、アロナに情報を押さえてもらえば、シャーレ側と統合して表示できそうだった。アロナ様々だ。

 

「これしかないならやるだけだよ。これでも戦闘指揮の経験だけはあるんだ」

 

 そう答えたらユウカは盛大にため息をついて、僕の隣に椅子を持ってくる。

 

「ミレニアム側の情報は私が取りまとめます。3つも似たようなシステムを同時に使ったらオペレーションミスが出ますよ」

「なら、あのあたりの地形図って紙でないかな。情報共有のためにも書き込みながら使いたい」

「リオ会長。お願いします」

「え、えぇ……わかったわ」

 

 ユウカがリオを顎で使い始めた。力関係というのは難しいらしい。プリンターが動き始めたので、わざわざ印刷してくれるらしい。ありがたい。

 

《こちらSRT特殊学園RABBIT小隊長、コールサインRABBIT1です。連邦捜査部作戦管理担当者、応答願います》

 

 防衛室側の応援が異様に早い。なるほど、控えさせてたか、訓練明けか。情報はダダ漏れだな。

 

「こちら連邦捜査部、コールサインは“シャーレ1”」

 

 そんなことを思う間にも執務室にノアが飛び込んでくる。対応が忙しくなってきた。

 

「コンディオレンジ発令って何が……って、先生?」

「ノア、部屋を借りてるよ。ゲーム開発部がアリスを連れて第13直轄地に侵入した」

《RABBIT1よりシャーレ1、現在本小隊はD.U,中央空港よりヘリによる緊急展開の準備中。離陸予定はネクスト01。状況及び今後のアクションプランを展開願います》

「RABBIT1、多数のドローンによる波状攻撃の可能性が高い。RABBIT小隊はそのままヘリにて第13直轄地へ向かってくれ。想定のランディングポイントのマップコードはM32S-23T3P、RABBIT1はリードバック」

《シャーレ1、RABBIT小隊はヘリにて第13直轄地へ急行、ポイントはM32S-23T3P、RABBIT1》

「確認した。RABBIT小隊には――――」

 

 割り込みで通信。本当に忙しい。C&Cの突入まであと30秒を切ろうとしている。

 

「ブレイク。交通室どうぞ」

《たったいま緊急のフライトプランを手順ガン無視で差し込んできたのシャーレだよね? 交通室長の由良木モモカでーす。フライト優先で通した方が良い?》

「生徒の安全に関わる事態になりそうなんだ。優先対応をお願いしたい」

《りょーかい。交通室よりRABBIT1、ヘリオペレータに今から言う番号4桁を無線識別装置(トラポン)に入力させて欲しいんだけど》

《RABBIT1より、交通室、どうぞ》

《2502、2-5-0-2》

《2502、入力しました》

《あい、交通室でも反映確認したよ(チェックオンモニタ)。先生、今度から交通室にも一声かけてね》

「わかった。ありがとう。急を要するので埋め合わせはまた今度」

 

 紙で出てきた地図を受け取りながら通話をカット。ジブリールのTITTYにはまだ敵性と思われる情報が上がってこない。どこまで奥に行く気なんだろう。

 

「チャーリーゼロワン、降下用意」

《できてるっ!》

 

 無線に風切り音がなる。それを聞きながら鉛筆をとり、ランディングポイントを転記しつつ、ユウカが出してくれているミレニアムの管制システムを見る。高度は8500とある。単位はおそらくフィート、おおよそ2500メートル。降下に必要な時間はおおよそ90秒と言ったところか。

 

「降下」

 

 C01のアイコンがH01から分離した。ほぼ同時にRABBIT小隊を乗せたヘリが離陸。到着まで12分。彼女たちが攻撃レンジに入れるのはやはり30分はかかる。ノノミのTITTYから通知、エイミが無事合流できたらしい。エイミが持ってきた懐中電灯が空中に向けて八の字を描き出す。それを目標にして残りのC&Cの面々が降下する。

 

 結局僕は、子どもをつかって賭けをしている。呪いたくなるが、それより先にやるべき事がある。

 

 

 


 

 

 

「……っと!」

 

 パラフォイルが壊れた天窓に引っかかる前に取っ手(ドローコード)を引いてパラシュートをパージ。地面に下りると同時にしっかり五点着地を取って勢いを殺しつつ立ち上がる。反射でセーフティを弾いて撃ちかけたけど、そこにあるのは壊れて山になっているロボットだけで動く気配も何もない、ちょっとつまんない。

 

「ゼロワン、エントリーしたよ! クリア!」

《信号を信じるなら、今の君から150メートル南側に保護対象がいるはずだ。合流を急いでくれ》

 

 すごくフラットな男の人の声。ものすごくフラット。ドキドキとかワクワクとかそんなものとは無縁そうな声がする。

 

「南? ここえっと……北にしか出口がないっぽい。迂回していくからちょっと時間掛かるかも」

《わかった。急ぎつつ、安全第一でいこう》

 

 ロボットを飛び越えて袋小路になっているらしい通路に向かう。ドン詰まりで上をみるとぽっかりと開けているので壁のケーブルガイドを頼りに飛びついてよじ登る。

 

「先生? 保護対象との高度差わかる?」

《チャーリーゼロワン、5秒待て。そうだウタハ。1機でいい。急ぎで出してくれ。チャーリーゼロワン、保護対象との高度差は1メートル。そちらの端末にリアルタイムで位置情報を転送する》

「はいはーい」

 

 ウタハ、というのは確かエンジニア部だったっけ。なんかすごい急いでるっぽいけど、ここまで必要なのかな、というのはちょっと気になる。

 

 先生はC&Cだけじゃなくて、SRT学園の戦力を後詰めとして用意しているらしいし、エンジニア部となると、おそらくドローンか何かを用意している。かなりの戦力だ。まぁミレニアムのすぐとなりとはいえ、学区外の連邦生徒会直轄地にドロップしてくる時点でかなり大変なのは確かなんだけど。

 

「えっと、こっちかなー……」

 

 内部情報があまりないのもあって、合流ポイントまでの経路は()()()()()で選ぶ。それ以外に手段がないのだが、これが結構当たるから侮れない。

 

「とりあえず合流するまでは戦闘は避けないとだよね」

《そうだね。そうしてくれると助かる》

「あっ、マイク切り忘れてた。ごめんごめん、ひとりごとだった」

 

 先生だというこの男の人の声はどこで息継ぎしてんのかわかんない位高速で話し続けている。聞きたいけど、忙しいところを邪魔するのは良くない。特に今回はセミナーが依頼主だけど、その指揮を移されたというのがこの先生なので、いわばこの仕事の間は『ご主人様』だ。メイドとしてもご主人様の仕事の邪魔はしちゃいけない。

 

 アカネがエイミたちと合流したのが無線でわかる。どうやらシャーレのオペレータだというノノミという子が居るらしい。多分アカネが持ってた資料をちゃんと読んでればどういう人かはわかったんだろうけど、残念、そんな時間がなかったんだな、これが。

 

 今度はマイクをしっかり切っている事を確認して周囲を見回す。

 

「どうしてこんな所に来るんだろうね、ゲーム部のみんなは」

 

 先生は意図してだろうけど、ゲーム開発部という名前を私たちに意図的に伝えてないみたい。まぁとっくにこっちは知ってるんだけど。さっきのロボットの山も、昨日のお昼に突入して、調べた結果らしい。シャーレの投射火力もえげつないんだろうなっていうのも見ればわかる。ネル先輩がいればまぁ問題なさそうではあるけど。

 

 曲がり角は鏡を使って確認しつつクリアリング。鏡を見て撃ってくるような相手は良い敵だ。間抜けな敵よりよっぽど良い。保護対象の位置情報はまだ遠いから鏡に映った相手はそのまま敵で良いだろう。位置情報がわかるだけでもかなり楽な仕事だ。

 

 そんなことをしていると遠くで爆発音。さてはアカネが耐えきれずにどこかの扉を破壊したな。

 

《……チャーリーゼロスリー、次からは破砕の前に声をかけてくれると助かるね》

 

 無線越しで聞いてしまったらしい先生からやんわりと注意されている。背後でユウカの声も聞こえるあたり、セミナーも先生に協力しているらしい。アカネが一応謝っているが、それを軽く流して先生はRABBIT小隊の誘導ポイントまでのヘリの指示を出し始めた。聞いている限り、空域のショートカットの許可が出たらしい。さっき交通室とも話していたし、結構いろんな所にパイプを広げているように見える。

 

「そ、そうは言っても、急に保存媒体なんて……! 『ゲームガールズアドバンスSP』のメモリでも大丈夫!?」

「……なんだかものすごく不満そうだけど」

 

 遠くから声。おそらくゲーム開発部のモモイとミドリだろう。可愛い子達じゃん。

 

《ジブリール、そちらに応援が一人先行して到着する。受け入れ用意を》

《はい》

 

 そんな無線を聞きながら廊下を進む。どこか緑っぽい光が廊下の向こうで漏れている。

 

「これからも味方であって欲しいけどねぇ……っと!」

 

 反射で銃口を向けようとしてそれより早く銃が突き出された。

 

《撃つな》

 

 先生の声と同時に銃口が外れてハイレディの位置に。一瞬で上がった心拍数がすぐ戻る。

 

「あなたがアラタの言う『おうえん』ですか」

 

 なんというか、ガラスでできたナイフみたいな子だった。髪をすっぽり覆うように巻いた赤いスカーフが目立つが、それに負けないぐらいシューティンググラス越しの視線がものすごく印象的だ。銃はおそらくHK416のカスタムだろう。たしか似たようなのをゲヘナのテロリスト集団も使っていた。素人が手を出すにはかなり()()()銃を持っている。腰の両脇に釣っているのはナタというべきだろうか、物騒な物を持っている。おそらく背中にセカンダリの拳銃を釣ってる。バチバチの戦闘装備だ。

 

 そしてそれ以上に驚いたのが、角から飛び出す時の反応速度だ。誰かが来ている事がわかって構えていたとしても初動が早すぎる。動き方をわかっている人の動き。これはめんどくさいタイプだなぁ。ネル先輩が好きそう。

 

「Cleaning & Clearingの一ノ瀬アスナ。嬢ちゃんは?」

「アラタの子、ジブリール」

「わーお、先生と同じ名字じゃん。よろしくねージブちゃん」

 

 そう言うとなんだか不機嫌。

 

「その破廉恥な格好で戦闘ができるのですか」

「え~? メイド服は掃除の基本だよ? あとバニースーツとかもあるけど」

「バニー……なんですか?」

《ジブリール、今はその話をしなくて良い。チャーリーゼロワン、その子はまだ言語トレーニング中の留学生だ。あんまり変な言葉を教え込まないでくれ》

「ふふーん? なるほど」

 

 ジブリール、と先生に声をかけられた途端に、この子の目に色が付いた。なるほどなるほど。

 

「わかった。()()()()の言うことには従わないとね」

「アラタ、帰ったら大切な話があります!」

《奇遇だね、僕もだ。あとアスナ、からかうのはやめよう》

「あはっ、名前で呼んでくれるんだ」

《それよりも集中してほしいことがあるからね。……ジブリール、残りのメンバーは?》

 

 先生はどこかほっとした様子で声をかける。ジブリールちゃんが視線を送った方向を覗き込むと、意気消沈している桃色のヘッドセットをつけた子、多分『燃え尽きたぜ、真っ白に』という表現はこういうときのためにあったらしい。その子の2Pカラーみたいな緑色のヘッドセットをした子もいて、こっちをみて驚いている。

 

「め、メイド部……!」

「やっほー。はじめましてかな、ゲーム開発部のみんな」

 

 怖がっている赤色っぽい髪の子が真っ青な顔をしているが、そんなに怖がらなくてもいいと思う。何かわかってないらしい青い長い髪の子、アリスだけが真顔でこちらを見ている。

 

「同じミレニアムの生徒同士仲良くしようよ? ね?」

 

 そう言って近づこうとしたタイミングで警報が発報された。出所は先生。ほぼ反射でしゃがみ込んでライフルを構えたジブリールちゃん。頭を壁につけた、というより、耳を壁につけたらしい。基本通りの動き。私が反対の壁に張り付いて銃を構えるのとほぼ同時だった。

 

「アラタ、工場の動く音がします」

《発電工場が全力稼働を始めた。脱出用意。用事は済んだのかい?》

「モモイ、タイムリミットです。G.Bibleは回収しましたか?」

「私の汗と涙の結晶が消えたけど……」

「確保したのかを正確に答えなさい!」

「はいっ! しましたっ!」

 

 ジブリールちゃんの声にシャキッと返す桃色ヘッドセットの子、成程、あの子がモモイなら、緑色のヘッドセットの子がミドリ、青髪がアリスなら消去法でこのおどおどしてるランチャー持ちの子がユズか。勝手に髪の色を黄色で考えてたからちょっと意外。

 

「G.Bible確保しました」

《脱出を急ぐぞ。アロナとヴェリタスが同時に謎のプログラムのロードを確認。……たった今、犯行声明を受け取った》

「犯行声明? この子達がなにかしたんじゃなくて?」

 

 そう言うとすごく不満そうなモモイと目が合った。いや、状況だけならどう見ても犯人じゃん。

 

《きっかけを作ったのはそうかも知れないけど、どうやら違う相手だ。ロードされたのは未知のAIプロセスで『慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者』を自称している》

 

 なにそれかっこいい。と思う前にズンと足下が揺れた。

 

《そのAIの自称を信じるなら名前は『ケセド』、おそらくまともな相手じゃない。交戦は可能な限り避けつつ後退しろ》

 

 けっこう切羽詰まっているっぽいのに、先生の声はびっくりするくらいフラットだった。




ということで、まともにやってたらこのタイミングで出てくるはずのない相手が出てきました。緊急クエスト開始です。

次回 質量には質量で

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