マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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11000101_雑魚ワラワラ系中ボスの倒し方

「ケセドの発現ですか? えぇ、すでに観測しております」

「これも貴方の筋書きですか」

「ベアトリーチェ、私は秘密主義者ではありません。想定こそしていましたが、さすがの私でも引き金を引く前に連絡ぐらいはします。報連相は大人の常識ですからね」

 

 そう返せばベアトリーチェは苛立ったように舌打ちをした。貴女とは違って、という皮肉は通じたらしい。

 

「黒服、貴方は最近口数が増えたのではなくって?」

「そうかもしれません。私もここまでミーハーだったとは、私自身も驚いているのです。長く生きてみるのは、思っていたよりも悪くない」

「よく笑っていられるものね。デカグラマトンもあの工場も、貴方の研究対象でしょうに」

 

 ベアトリーチェは若すぎる。そう思ってしまうぐらいには老成してしまったのだろう。こういう無鉄砲な苛立ちは久しく覚えたことがない。

 

「キヴォトス最高の神秘の解明という貴方の研究課題(トピック)に口を挟むつもりはありません。ですがすでに貴方はあの狂人と二度取引し、小鳥遊ホシノのみならず、無名の司祭の遺産まで手放してしまった。破壊されたならいざ知らず、その力を手放してしまう姿勢には疑問を呈さざるを得ない」

「おや、貴女が私の心配をしてくださるとは珍しい。ありがとうございますとひとまずはお礼を申し上げるべきでしょう。ですがご心配なく。()()()()は支障にもなりません」

 

 互いの研究には干渉しすぎないことがゲマトリア内部のマナーになって久しい。もちろん協力を仰ぐこともあるが、互いに互いの研究分野については素人だからあまり口出しできないのだ。それを破ってでも言いたいことがあるくらいには、ベアトリーチェの神経を逆なでしてしまっていたらしい。

 

「少なくとも戦場で子どもを操ることに関して、リョータ・アラタほど卓越した人間はいません。無為に破壊されたり悪用されることはないでしょう」

「そうやって楽観できる貴方の気がしれないわ。あの男は危険であり、脅威です。このキヴォトスというシステムを破壊してしまうほどに」

 

 言いたいことは理解できる。戦争の才能を無理に善人というカタに押し込めた結果だろう。必然として生じた(ひず)みは『子どもたちを守るためなら国家を相手に戦争ができる』という行動規範として現れた。

 

「あの男は先生たる資格がない。『覚悟』もない」

「資格についてはそうでしょう。あの人は優しすぎる」

 

 欲求と呼べるものが子どもたちに安全な場所で教育を与えたいという願いぐらいしかなく、才能と呼べるものは戦争しかなかった。なにより最悪なのが、それをアラタ本人が自覚し、受け入れてしまったことだ。

 

 その彼のささやかな欲求を誰も満たせなかったので、彼は自らの才能を使って実現することになり、結果として大陸を跨いだ戦争にまでつながる紛争の火種になった。そして、血の海を敵兵の死体で埋め立てた後も懲りることなく、カイザーグループに対してすでに戦争を仕掛けている。

 

 そんな男だ。教育の資格があるかと言えばないだろう。なにより教育のための訓練を受けていない。そして彼もそれを否定しないだろう。

 

「ですが、覚悟についてはどうでしょう。貴女は覚悟がないという確証を得たのですか、ベアトリーチェ?」

「教育とは大衆の養成にある。学校も教育も社会を形作る歯車を製造し、よりよい発展のために最大効率を叩き出すための洗脳装置に過ぎないのです。それを知りながら、何故彼は行使しないのでしょう」

「あなたの言う覚悟とは、自覚的に子どもを利用することを指すのですね」

 

 そのような切り口でみるならば、なるほど確かにその『覚悟』はなかろう。筋は通っている。

 

「子供は大人の相似形ではあるけれど、大人ではない。神から生まれ落ちた人間がひとりでに神になれないように、人から生まれ落ちた子供はひとりでに大人になれるわけではないのですから、適切に管理、運用されるべきなのです」

「その理想形が、貴女の“アリウス”である、と?」

「そこに証明が必要ですか? 力は自覚的に、効率的に使われるべきだと信じているのですが」

 

 互いの研究課題(トピック)には基本不干渉だ。肩をすくめることで回答を拒否。

 

「そのような臆病者に我々の計画を邪魔されることは鼻もちならないのです」

「つまりは、貴女の力……アリウスに手を出させるな、と?」

「いいえ」

 

 解せない回答が返ってくる。

 

「アラタ・リョータがトリニティの救護騎士団から何らかの交渉を持ちかけられていることはつかんでおります。故にトリニティに、ひいてはエデン条約に彼が首を突っ込むのは必然。もはやアリウスとの衝突は避けられません。……もっとも、それまで生きていればの話ですが」

 

 そう言ってベアトリーチェはすっと目を細める。

 

「戦争の使い方しか知らない男が、平和を使いこなせるとは思いません。その時が来たならば、私は必ずあの男を排除することになるでしょう。そうして私が恐怖と平和の正しい使い方をキヴォトスに啓蒙し、導くのです。その段になってから、最高の神秘が失われたなどと貴方に言われても困ります」

「なるほど。わかりました。私も止めはしませんよ」

「……警告はいたしましたので」

 

 そう返すとベアトリーチェは闇に消える。

 

「……戦争の使い方しか知らない男が、平和を使いこなせるとは思えない。面白いことを言いますね、ベアトリーチェ」

 

 つぶやいたところで届くまい。そして、届いたところで聞く耳は持つまい。

 

「実に残念ですよベアトリーチェ。もう少し貴女は聡明だと信じていた」

 

 持ちえない概念を適切に運用することなど不可能だというのに、手にしていない現実を制御することなどできないというのに、それを手駒(アリウス)で実現するという。

 

「――――――平和が実現したことなど、一度たりとも無かったではありませんか」

 

 戦場がフィールドであり続ける限り、彼はファンタジーであり続ける。それが不本意だとしても。

 

「実に、残念です」

 

 戦闘は、まだ続いている。ファンタジーは、まだ続いている。

 

 

 


 

 

 

「ファイア」

 

 ジブリールの号令に合わせて、モモイは射撃をしています。大量のターゲットは、通路の角から顔を出してすぐに倒れていきます。二人はパーティのしんがりで、ミドリとユズ、あと途中から合流したアスナというメイドは、アリスと一緒に廊下の途中にある部屋で身を隠しています。次の部屋は15メートル後方ですが、そこまで下がるには安全を確保しなければなりません。

 

「モモイ、残弾」

「15発! マガジンは3つ!」

「次の斉射完了と同時に後退」

 

 ジブリールは落ち着いています。アリスはジブリールがとても戦い慣れたアタッカーであることを理解しています。モモイやミドリと比べても、撃破率が高いのです。決してモモイやミドリのプレイングが下手なわけではありませんが、ライフルを使った戦闘についてはジブリールが上手です。

 

「んじゃ、ミドリちゃんも準備しようか」

「は、はいっ!」

 

 アスナというメイドがそう声をかけてライフルを構えます。遊び人みたいな胸をしたメイドですが、戦闘能力も高いようです。モモイの持っていたカートゥーンを読んだ限りでは、パワーがカンストしているタイプのメイドがトレンドのようでしたが、仮説は正しかったようです。このアスナもスカートを持ち上げる動作で手りゅう弾をばらまくでしょうし、そのうち金ピカの拳銃を持ったシスターが来てくれるに違いありません。

 

「ひ、広ければわたしも攻撃できるのに……」

「あはは、ユズちゃんもアリスちゃんもこの狭い廊下だとみんなまとめて吹っ飛ばしちゃうからね。なんていうんだっけ、適材適所?」

 

 ユズとアリスは範囲攻撃アタッカーのため、なかなか攻撃ができません。この狭い廊下をゆっくりと後退するように指示を出したのは、雑魚キャラが20体ほどポップアップしたのを確認した先生だそうです。RTAではなく、ターン数がかさんでも確実に撃破できることを狙うようです。

 

 本来ならモモイたちも先生の声が聞こえるようなアイテムを持っているはずでしたが、G.Bibleの確保に向けて隠密行動が必要だということでインベントリから外していました。なので、先生の声はアリスたちには聞こえません。なので通信機を持ってきているアスナと、眼鏡型通信機を隠し持っていたジブリールだけが先生の声を聴くことができ、その二人が号令をかける形でバトルフェーズが進行しています。

 

「後退!」

 

 ジブリールの声に合わせてアスナが廊下に飛び出して、ジブリールとモモイが下がる隙を作ります。ジブリールが入れ替わるようにアリス達の隣まで走ってきて、次の目標まで先導。モモイは一歩遅れて走ってきます。走りながら弾倉を交換しようとしていて上手くいっていないようです。ジブリールは一足先に次の目標のドアの脇に背を預けると、ライフルを腕に乗せるような形で両手を空け、手りゅう弾のピンを引き抜いていました。

 

「アリス」

「はいっ!」

 

 ジブリールの指示に合わせてドアを回し蹴りで開けます。開けゴマのような合言葉もなくドアが開いたのでステージ設計者はクソザコです。

 

 ジブリールは握っていた手りゅう弾のレバーを外して1.25秒待ってからドアの向こうに後ろ手に転がしました。床に手りゅう弾がぶつかってカラカラと音がする頃には、右手がライフルを握り直しているあたり、やはりジブリールのランクは高いです。銃口がアリス達を向かないように下に向けつつボディの向きを変え、ドアの脇から飛び出せる姿勢を整えます。ストックを肩の上に乗せてコンパクトに銃を構えたジブリールは、光学サイトではなく、物理サイトを使うことを選択したようです。

 

 ドン! という音と同時にジブリールが突入してクリアリング。その間にモモイが次に身を隠せる場所を探して廊下の奥を警戒しています。敵影無しを確認してジブリールが戻ります。

 

「クリア」

「はいはーい! ミドリちゃん、合図したら先に後退して!」

 

 アスナの声が聞こえて、すぐにミドリが下がってきます。ミドリの武器はスナイパーライフルなので、接近には向いていません。

 

「これまでどれだけ倒したっけ……」

 

 ミドリはげっそりしながら弾倉を取り換えています。その間のサポートでジブリールがポインティングしています。

 

「はい! アリスがカウントしている限り、ジブリールが28体、アスナが21体、モモイが8体、ミドリが7体なので64体です!」

「それだけ倒してまだ出てくるの? ……っていうより、前も100体ぐらい倒したよね……」

「いつまでたっても終わんないよこれじゃあ……」

 

 モモイまで泣きそうになっているのでヒーラーが必要ですが、残念ながら今のパーティにヒーラーはいません。まずいです。

 

 ですがジブリールはそれを気にせずに淡々と指示を出し続けます。多分ジブリールは自己回復バフ持ちなんだと思います。

 

「モモイ。まもなくノノミたちが合流します。間違えて撃たないように」

「応援っ!? 助かった! ノノミさんって先生とよく一緒にいるガトリングのお姉さんだよね!? わかった!」

 

 モモイの『先生とよく一緒にいる』のあたりでジブリールは眉をしかめていました。なぜなのかアリスにはわかりません。モモイが『今度ギャルゲーもやってみよう』と言っていたので、それをやればわかったのでしょうか。

 

「お待たせしました!」

 

 そんなことを考えていたらすぐにノノミが合流しました。初めましてのメイドが二人と、黒い水着スキンを身に着けた遊び人みたいな恰好の桃色の髪の人も合流です。

 

「はい、ユズちゃん、アリスちゃん、これ付けてください」

 

 そう言ってノノミがポケットから取り出したのは、ジブリールが付けているのと同じデザインの無線アイテム。アリスが入手するのは初めてです。

 

「先生とつながっています」

 

 ユズがうなずいてそれを付けています。アリスもつけるとすぐに声が頭に響きました。

 

《エイミ、アスナを援護しろ。ユズ、アリス、オンラインを確認した。ここからは僕の指揮に従ってくれ》

 

 先生の声がします。マップ情報が更新されて表示されていきます。熱源反応はすでに400を超えているようです。多分アリス達の攻撃ターンで撃破できている数より、敵の召喚数が多いのです。

 

《現時刻をもってSC班とSA班を解体、再編成する。ジブリール、SA班としてモモイ、ミドリ、エイミをつける。ゆっくりと後退しつつ敵を工場の外まで引きずり出してほしい。予備のTITTYの手配が間に合わなかったからモモイとミドリの情報連結ができない。引き続き統制を頼む》

「はい」

 

 ジブリールは戦闘をエイミというらしい水着の遊び人やメイドたちに預けて弾倉を交換しながら返事を返しています。

 

《C&Cの3人でSC班。アカネは炸薬設置を急げ。アスナ、カリンはそれを護衛しつつ退路を確保しろ》

 

 メイドたちはC&Cというようです。大きな板を持った眼鏡のメイドが頷いていました。

 

《ノノミはSD班としてユズとアリスを連れて一度後退して、SA班が引きずり出した敵を撃破するための態勢を整えよう。敵に背後を取られる前に急いで離脱だ》

「はいっ!」

 

 先生は遠距離戦闘ができるマップまで私たちを誘導するようで、すぐに移動経路が転送されてきました。

 

《あと5分でSRT特殊学園の応援が到着する。目標はそのタイミングだ。急いでくれ》

 

 先生の指示に従って動き出します。

 

「アリスです。先生はアリスを遠距離アタッカーとして使うつもりですか?」

《そうだ。今ウタハがスーパーノヴァのオプションパーツを乗せたドローンと一緒に急行している。後退したらオプションをセットしてもらう算段だ》

 

 先生は淡々とそう言って、ランデブーポイントを転送してきました。

 

《アリスには敵本体を遠距離から破砕してもらいたい》




???「これが私の覚悟です」

次回 蟻地獄を叩く

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