マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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今回のパート、全ボツにするか悩みましたが、勢いで投稿します。


11000100_月が上る前に

 まもなく日没。ナイトビジョンを使うかどうか迷う時間だ。早く終わって使わないまま終わればいい。航空管制はウェイポイント・ロータスまでの直行を許可した。そこから先は現地の統合末端攻撃統制官(J T A C)に従えとのこと。

 

 JTAC、ちゃんと居るんだ現地管制官。そんなことを思っていると機内無線が入る。

 

《どう思う?》

《どう思う……とは?》

 

 質問したのはRABBIT2のサキ、応えるのは隊長でRABBIT1のミヤコ。ミヤコは情報端末から顔を上げてないんだろうなぁというのは操縦していてもわかる。今回狙撃手のRABBIT4、ミユはヘリでの武装サポートになるだろう。場合によっては飛行中のヘリから狙撃という離れ業をしてもらうかもしれないが。

 

《今回の出動だ。あのシャーレという組織が出てきて、ユキノ先輩たちが姿をくらませて……、そして今度はそのシャーレの使いっ走りで出動だ》

《動けるのが私たちだったから動いた、それ以上の意味はありませんよ。それに命令ですから、従わない理由はありません》

《任務に不満があるわけじゃない。それでも、思うところがないのかと聞いてるんだ》

 

 サキの方からそういうのは珍しいと思うけど、操縦中の私が口を挟むのも別の話だ。

 

《引っかかる面もあります。連邦生徒会長不在の今、七神リン代行ですらSRT特殊学園を持て余していることも、不知火カヤ防衛室長ですら、SRTの問題については、深く関わろうとしていないことも》

 

 パタン、と乗ったノイズは手帳型のスマートフォンケースのものだろうか。隣のコパイロット席でどこか所在なさげなミユも聞き耳を立てている。

 

《SRTとは正義です。そしてその正義を成すための力として、私たちの武力があります。それが求められるならば、私たちは飛ぶ。それだけでしょう?》

 

 ミヤコの台詞は正論だけど、サキはとっくにその次元は超えているところで疑問を呈している。ミヤコだってそれはわかってるだろうに、なんでだろう。

 

《そうだったな、そういう奴だった》

 

 ギスギスしたところで無線が入ってくる。慌ててミユがヘッドセットを押さえる。

 

《RABBIT-Flight, this is SCHALE1, keyhole in effect, Echo point is November Sierra one nine eight one, proceed Alpfa ten, hold 05. You are the only aircraft on station》

「えっ……キーホー……?」

 

 ミユには聞き取れなかったんだろう。男性の声、ハイスピードな通信だし、キーホールテンプレートなんて航空支援の専門でもない限り語彙にない。

 

「おっけ、私が取るよ。アイハブカンパニー」

 

 ミユをカバーしつつトークスイッチを押す。

 

「SCHALE1. RABBIT-Flight, Willco. Go direct Alpha10」

 

 指示にはキーホールテンプレートを使用。中心となるエコーポイントの座標はNS1981。キーホールテンプレートは統合末端攻撃統制官(J T A C)、今回はシャーレ1を名乗っているJTACの居場所となるエコーポイントを中心とした座標がプロットされていて、北から時計回りにアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタと座標が切られる。今回のオーダーは前線管制をしているシャーレ1から見て北10マイルのアルファ10への直行を指示された。高度は現在の5000フィートを維持。空域はクリア。他に作戦に参加するヘリや戦闘機はなし。小型ドローンはわからないけど、少なくとも管制が必要なトラフィックはなし。

 

《RABBIT-Flight send your full check-in》

 

 JTACが間髪いれずにチェックイン、すなわち認証手順(Authentication)の実施コール。今回はお手軽な(as fragged)チェックインをすることができず、フルセンテンスでの認証が必要だ。単純にダルい。

 

 それもこれも今回の出撃区分が統合航空支援要請(J T A R)の#1、すなわち非常事態のためつべこべ言わずに現地にかっ飛んで行って、地上で戦闘状態になっている生徒の支援のために空中からボコボコにしてこいという雑な命令のせいだ。だから計画書(A T O)とかが全部後回しになって、最前線の指揮官に張り付いて航空支援をとりまとめているはずのJTACに情報が回ってない。

 

「SCHALE1, this is RABBIT-Flight, Mission number 2502, 1 by MH-60L DAP, currently 10 NM north of LOTUS,block 05-06」

 

 編隊は1機のみだが、ウェイポイント・ロータスの北10マイルの位置を5000フィートで飛行中。今乗っているMH-60Lは特殊作戦用ヘリコプターとしては型落ち機だが、良い機体だ。電子チャートもレーダーもカラー液晶化していて見やすいし、なにより武装が積める。

 

「1000 rds 7.62 mm, 76 by M255E1, selectable time fuse on M255」

 

 武装は7.62mm機関銃を2門ドアガンとして搭載。外部搭載支援システム(E S S S)には19連装ハイドラ70ロケットランチャーを4機搭載。詰まっているのはM255E1、1発につき1100本のダーツ型のフレシェット子弾を詰め込んでいる。要はソフトターゲットもしくは軽装甲を相手にした面制圧特化のセッティングだ。発射前に信管の時間設定をしてあげる手間こそあるが、空中でばら撒かれたフレシェットが非装甲のターゲットを地面に叩き付ける様は快感だ。燃料の残量を見てざっと頭の中で活動時間を計算。

 

「We have 40 minutes time on station. CAT II coordinate generation capable and micro-GRG 15-17 onboard. Timber Sweet, VDL code 4927. Abort code Whiskey - Romeo - Yankee, Ready to copy your updated SITREP.」

 

 マイクロGRG誘導装置やリンク16が使えることや、作戦中止時の符号があることを伝えて、チェックインは完了。これでボールは向こう持ちだ。

 

《RABBIT-Flight do you have hoist aboard? Can the operator be dropped before CAS?》

《Affirmative》

 

 どうやら空中支援の前にサキ達を合流させる算段らしい。対空兵器がなければできるだろうが、ロケランが飛び交うところで悠長にホバリングはさすがにご遠慮願いたい。

 

 トントンとヘッドセットを叩く。機内無線が繋がっているので、キャビンに乗っている二人にもこのノイズは聞こえたはずだ。口論になりかけていた二人の声が止む。JTACの無線を機内無線に直結した。マイクは私だけのをオン。

 

 この後流れてくるはずのSITREP――――シチュエーション・アップデートは最新の情報が流れてくるはずだからだ。どういうタイミングになるかは別として、最前線に降下することになるはずのサキやミヤコは身の安全に直結する。聞かせておいた方が良い。

 

《RABBIT-Flight, current surface-to-air threat is not found. Target is light armored 3 company. We're trying to lure them out to the open air. Friendlies are 2 Squadron, one in a factory and the other in a blocking position to the east》

《この声、さっきのシャーレの先生ですね》

 

 トンデモ情報が飛び出した。どうやら離陸前にミヤコが話した相手らしい。指揮官と話をつけたといったけど、今管制をしているJTACが先生なら、前線指揮をしながら航空管制をしていることになる。本当ならバケモノじみた情報処理能力だ。

 

 何はともあれ情報アップデート。ヘリ接近にともなう脅威は確認されず、標的は軽装甲の三個中隊。友軍は二つに分かれていて、工場の中で敵を誘引している部隊と外で足止め用の陣地を構築した部隊に分かれている。

 

《SCHALE1 has control. Winds on the deck are 5-10 knots out of the northwest, I have a videoscout, but no laser. I plan on using you to disrupt the light armor after operator hoist down, advise when ready for game plan》

 

 管制はこのままシャーレ1が行う。風は北西から10ノット以下、映像観測装置はあるが、爆弾などのレーザー誘導は不可。ヘリは小隊メンバーを前線にドロップした後、武装を用いて軽装甲の敵対象を排除してもらいたい。ゲームプランの受信用意ができ次第知らせ。……この内容なら確かに合理的だ。もちろん敵対空兵器がないという前提があるが。

 

「Go ahead」

《RABBIT-Flight, Type 2, bomb on target, M255, simultaneous impact; advise when ready for 9-line》

 

 攻撃メソッドはタイプ2。これはJTACが敵目標を直接目視できない状況で、友軍が近くにいたりするから火器の使用に制限がかかり、攻撃ごとに許可が必要なめんどくさい奴だ。使用武装はハイドラ70ロケット弾。ヘリから敵を観測できる状況下での攻撃を想定。CASBrefの用意でき次第知らせ。

 

《少なくとも、まともな指揮官のようだな》

 

 そんなことをサキが言っている。確かに手順通りの指示が続いているが、その中身と実施している相手が全然まともじゃない。これを指揮官本人が指示出ししているとしたら、その間前線はどうなる? 副官がとても優秀で現地で陣頭指揮を執っているのかも知れない。というより、そうじゃないと理屈が合わない。

 

《使用するのはハイドラだけ……ではRABBIT4も降下しましょうか》

「は、はいぃ……」

 

 ミヤコの指示にミユが隣の席から離脱する。ここからは操縦と無線を全部一人でやることになる。……まぁ、これまでもだけど

 

「SCHALE1, ready」

《Hasty BP, center grid Novenber Sierra one nine nine two, 700. Elevation, 450, enemy personnel, 350 meters south of friendly position. No mark, South 350, Egress, back to Lotus, block 05-07. Advise when ready for remark》

 

 流れてきたのは9ライン、もしくはCASBrefと呼ばれる攻撃方法の伝達テンプレートだ。仮設攻撃地点(B P)はNS1992を中心とした1キログリッド、攻撃対象までの距離は700を想定、高度は450。攻撃はソフトターゲットの人型目標で、友軍の350メートル南方に攻撃地点をセット。攻撃地点を示すマーカーは使用しない。友軍の巻き込みに注意。離脱時はウェイポイント・ロータスまで5000フィートから7000フィートの間で退避する。

 

 しかもご丁寧に備考(リマークス)入りだ。

 

「ご搭乗の皆様へ。もうすぐインバウンド。降下用意、降下用意、降下用意」

 

 後ろがにぎやかになるが、無線と外に集中しないといけない。まもなくAlpha10、戦闘エリアへの突入(インバウンド)だ。

 

「Remark ready」

《This will be a danger-close fire mission. Final attack heading 300 through 325. Request IP inbound and IN with heading calls, read back》

 

 友軍の至近距離でロケット砲をぶっ放すデンジャークロース攻撃ミッション。攻撃は方位300から325の間から。敵は友軍から見て南側なので、友軍の頭上をロケット弾が通過するのを避けたいということだろう。すなわち個人的には()()シチュエーションだ。

 

「RABBIT-Flight, 450 feet, 350 meters south of friendly position, final attack heading 300 through 325. This will be a danger-close fire mission」

《Good readback,RABBIT-Flight, report when IP inbound》

 

 電子地図ではまもなく第13直轄地。攻撃地点まで、まもなく10マイル。

 

 

 


 

 

 

「降下」

 

 指示を出しつつ飛び降りる。地面に足が着くと同時に降下に使ったワイヤを切り離す。ほぼ同時にRABBIT2,4が着地。ヘリオペレータのRABBIT3はこのまま近接航空支援(CAS)につく。一度後方に下がりつつ射点まで移動することになっている。

 

 降下地点をマークしてくれていたミルクティー色の髪をした生徒が駆けてくる。

 

「SRT特殊学園、RABBIT小隊小隊長、RABBIT1、月雪ミヤコ他3名、ただいま現着いたしました」

「連邦捜査部デルタ分遣隊(S D)、リードの十六夜ノノミです。協力感謝します」

 

 敬礼を交わすくらいの余裕はあるらしいがすぐに対象となる攻撃地点に向けてノノミさんが走り出す。それについていきながら聞き耳を立てる。

 

「状況は?」

「とりあえずミレニアムのエンジニア部の奮闘でおおよその陣地構築は完了しました。あと3分で誘引していたA隊が建物外まで退避してきます」

 

 若干見下ろす位置になるが、4本足のロボットが盾を並べるようにして立ち、その50メートル向こうには有刺鉄線のバリケードが2重で展開されている。中央に幅5メートルほどの切れ目がある。意図的に用意された突破口。あそこにむけて火力を投射し、一網打尽にするための仮陣地、といったところか。4足歩行のロボットが土嚢替わりとは贅沢だと思う。

 

「RABBIT小隊の皆さんにはA隊の撤退支援をお願いします。無線では4名のメンバーのうち、二人がすでに弾倉を使い切っており、スタミナ的にも限界です。向こうの出口からこのロジコマたちの背後までの400メートル。遮蔽もない一本道ですが、なんとか連れて下がってもらいたいのです」

 

 ロジコマ、というのがこの土嚢替わりのロボットの総称らしい。有刺鉄線のあたりがキルゾーンの前縁で、ここで足止めする間に相手を吹き飛ばす寸法だが、ここの体制を作るために時間稼ぎをする部隊がもうすぐ孤立する。そういうことらしい。

 

「わかりました。RABBIT2、私と前進、4はロボットの陰から狙撃用意」

「あと、RABBITの隊長さん」

 

 ノノミさんがシューティンググラスを差し出してくる。

 

「一個しか間に合いませんでしたが、連邦捜査部の指揮端末です。通信規格を合わせる意味でも、お渡ししておきます」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 RABBIT小隊のものから自分だけだが付け替える。シューティンググラスに見覚えがある端子があったので、RABBIT小隊の無線機にも接続すると、通信の内容などがちゃんと転送され始めた。これでなんとか皆が同じ規格で戦えることになる。

 ホログラムウィンドウが自動で立ち上がり、情報支援が開始される。テキストが打ち込まれ、ノノミさんと同じ内容の指示が来る。SAとナンバリングされた部隊がアイコンとして表示され、工場の中をかなりの速度で撤退しているのが見える。これは武器もかつかつなんだろう。

 

「RABBIT小隊移動開始」

 

 無線に吹き込みつつ。サキと前進する。無線の内容は自動でAIが文字起こししているらしい。テキストが非常に高速で流れている。

 

《SD、ユズ、です……! と、とりあえずロジコマの方はオンラインです。先生、本当にこれ全部わたしが操作していいんですね……?》

《ウタハだ。今衛星とのリンクが確立したから、スーパーノヴァの砲撃まであと5分ほどかかる。電力供給ライン調整中。敵コアの観測データは動いてないね? わかった。エンジニア部よりユウカ、EMPハザードの発報をリクエスト。範囲は今アリスがいる位置から8キロ圏内》

《了解よ。セミナーよりオールステーションズ。EMPハザード情報を発表します。エリアはミレニアム街区22番から34番。当該地域の生徒は今すぐ電子機器の電源を切り、屋内に退避してください。ミレニアム治安要員および情報要員、電磁保護プロシージャE02号を即時実施せよ》

 

 ものすごい勢いで情報が処理されていく。そのすべてに対してArata/SCHALE1というユーザーが認証や指示出しを行っているのがわかる。SCHALE1はJTACとしてヘリを誘導していた人物のコールサイン。

 

「……化物か」

 

 隣を走っていたサキも同じ結論に行きついたらしい。Arataとマークされた指揮官はここにいない。ここから8マイルほど後方にいる。これはヘリの誘導に使ったキーホールテンプレートからわかる。そこから俯瞰し、細かく前線に指示を飛ばし続けている。

 

 つまりこの指揮官、遠隔で陣地作成と人員の投入から撤退までのすべてをリアルタイムで逐一管理していることになる。正気の沙汰ではない。

 

 なんとか建物の脇まで行きつく。RABBIT-31式短機関銃のセーフティをオフ。走ってくる足音。それに被るように無線が入る。男の人の声。

 

《SA班はそのまま後退。出口の脇に応援が到着済だ。RABBIT1,2、SAの後方15メートルにバンディット。排除してくれ》

 

 この男は間違いなく世紀に一人いるかいないかの狂人だろう。

 

 サキにアイコンタクト。サキもRABBIT-26式機関銃をハイレディに構えていた。

 

「RABBIT1」

「2」

 

 コールサインだけを名乗るのは了承の証だ。飛び出す。

 

「作戦を開始します」




ということで、やっとRABBIT小隊が合流しました。

今回はもう少しでロケット『団』を出すところでした、誤字こわぁい

ヘリの管制については聞きかじりなのでいろいろと間違っているところがあるかと思います。それでも書きたかったので書いてしまいましたが、間違いとか矛盾が多々あるかと思います……。どうかご容赦くださいませ。

次回でケセド戦決着……のはず! 頑張ります。

次回 月はいつもそこにある

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これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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