マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
フルオートのまま指で正確に三発撃ち続ける女の子を横目に見つつ、僕はとりあえずロジコマにしがみつく。
「次の角左」
シロコの声は淡々としている。すごいな。本当に鉄火場になれている。
「左折後、30メートル左の横道に熱源あり、待ち伏せの可能性あり。速度を生かして突っ切る」
「ん!」
時速60キロオーバーで鋭角に角を曲がる。タブレットを肩掛けケースに入れておいてよかった。両手でハンドルを持っていないと振り落とされていたところだった。その間にもシロコは手りゅう弾のピンを歯で抜いている。丈夫な歯だ。すごいなキヴォトス人。僕は絶対できない。
交差点を曲がり切って路地に突っ込むと同時に手りゅう弾のレバーを落としているのが見える。一秒待って手りゅう弾を落とすと、路地と路地の小さな交差点に落ちる、その瞬間に一瞬見えたバイクヘルメットの集団が持ってるものを見ると同時にそれが建物の影に隠れた。すぐに発射炎が後ろを飛び抜ける。手りゅう弾の爆風でわずかに軌道がぶれたのか、最後尾を走っていたロジコマの防弾板だけをかすめて後ろに飛び抜ける。
「
外れた対戦車ミサイルが路地脇の建物に激突して大きな火の手が上がる。建物が一気に崩れ出すが、相手はこの路地からどうやって脱出するつもりなんだろう。いや、その前に自分たちの心配なんだけど。
頭上からコンクリートや鉄筋の切れ端が大量に落ちてくる前になんとか大きな道路に出て右折。
「このまま直進したら学校だからこのまま突っ切る」
シロコが怖いことをいう。廃墟なのかそうじゃないのかはわからないけども、ビルの上から撃ち下ろされるとか考えないのか。そう思ってたら案の定上から射撃が来た。ジグザグに走ることで回避しつつ周囲を見る。学校らしい建物まで目算で400メートルといったところだろうか。本来なら周囲の建物に一通り偵察をかけるか迫撃砲を打ち込んでから抜けるところだが、戦力も時間も足りていない以上妥協するしかないのが厳しいところだ。
地獄のような二〇秒が過ぎる。残り二〇〇メートル。
「シロコちゃん! ……ってありっ!?」
正門からピンク色の髪をした小柄な生徒が飛び出してくる。抱えてるのは白く塗ったショットガンだろうか。シロコの同級生だろうが、同時に銃を構えるのが見えた。シロコが自転車に乗っているのを知っているのかどうかはわからないけれども、友達が時速80キロオーバーで疾走するミニ戦車に見ず知らずの男と相乗りして登校してきたら、そりゃ混乱するよなぁ。
そんなことをどこか冷めたまま考えていたら銃口が僕からずれた。さらに後方を狙っている。片手でショットガンを頬付けした姿勢で構えつつ、腰に下げていたバッグのようなものを前に展開する。……あれ防弾盾だったのか。
「そのまま下がって」
「ん!」
すれ違いざまにそう言われる。ロジコマは急制動しつつ正門の合間に突っ込む。その動きに僕の握力が耐えきれなかった。ふわりと体が浮く。
どうするか? 逆らわず首と頭を守ることだ。頭の後ろに手を回して丸くなる。腹筋に力を入れたタイミングで地面に転がった。本当なら5点接地などの対策を取らないといけないのだろうが、そんな訓練を僕はしていない。無理せず横に転がった。手の甲などを擦りむいた感覚があるし、スーツもダメになったかもしれないが、死ぬよりましだ。
「4番機! 5番機! 正門に回れ!」
砂を吐きつつとりあえず指示出しをする。若干血の味がするが仕方がない。
「お、おおっとぉ……!」
一人で盾を張っていたピンク髪の子が驚いた声を上げる。その両脇に合わせて配置したロジコマが盾を広げたからだろう。そこにシロコが飛び込んだ。すぐに弾倉を交換し発砲音が響きだす。
「ホシノ先輩……って、えぇ……?」
「ちょ、なにこれ!? どうなってるの!?」
校舎の中から飛び出してきたのは、どこかふわふわとした雰囲気でミニガン片手にぽてぽてとやってくる亜麻色の髪をした女の子と黒い髪をツインテールにした女の子。今度は猫耳だ、相変わらずジャパニメーション万々歳な子たちがやってくるな。こちらはバトルライフルを持っている。
「ノノミちゃーん。ロボット君が盾になってくれるから焦らず用意してー。見たところ相手はいつも通り軽装だけどロケランの可能性もあるから注意ね。セリカちゃんはシロコちゃんと組んでー。今日は盾たくさんあるよー」
「はーい!」
「わかったけどこのおっさん誰!?」
猫耳ツインテールの子からあんまりな呼び方をされるが、この子たちから見たら十分僕はおっさんだろう。素直に受け入れるしかないだろうな、これは。名乗る前にピンク髪の子が会話を畳みに入った。
「いいからいいから。今はとりあえず前に出る! アヤネちゃーん、ドローンの用意ができ次第上げて。うん、そう、それ、その赤い奴。シロコちゃんのも起動かけといてー。なんか相手さん本気だよー。はいはいはいはい、状況開始ですよぉ」
ピンク髪の子がリーダー格の子らしい。マイク越しに指示を出していたアヤネという名前でとりあえず手紙の差出人と合流できたことを確認できた。これがいいのか悪いのかについては判断を迷う。
バッテリー切れで落ちる寸前だが、偵察ドローンから確認する限り、ある程度戦略的に配置されているように見える。地上で撃ち合っている敵……といっていいのかわからないが、それが9人。ビルから撃ち下ろしてきた相手の数は不明だが、おそらく合計で45人といったところだろうか。
とりあえずちゃんと立って、校門の裏手に移動。ここならピンク髪の子に声が届きやすい。
「シロコちゃんが連れてきたってことはお兄さん、とりあえずの所はおじさんたちの味方ってことでいいんでしょー?」
「おじさんって……間違いなく僕の方が年だと思うけど」
「あはー、それを言われると痛いなぁ……で、どうなの? 連邦捜査部の人でしょ?」
「とりあえず緊急避難的に支援する。撃ってきてるのが手紙にあった暴力組織?」
「自称《カタカタヘルメット団》。足止めはラクだけど、なーんか動き怪しいんだよね。……で、お兄さんはどう攻める?」
逡巡。1秒。
「相手は対戦車ミサイルを使ってる。本命はそっちだ。ミサイル隊はビル内に配置していると思うが、狙撃ができそうなのは?」
「おあいにく様。今アビドスに狙撃手はいなくてねぇ。距離次第だけどノノミちゃんのリトルマシンガンⅤが多分一番精度が出るよ。あとはシロコちゃんの攻撃ドローン。でもどうやって位置を割り出すのさ」
「僕があぶり出す。今の二人には攻撃用意を」
「シロコちゃん、ノノミちゃん、聞いてたねー? ハイ準備! アヤネちゃん、シロコちゃんのドローン上がった? 上がったね。おっけー」
「ん。確認した」
タブレットから1号機と3号機のコンテナをパージする。少しでも軽くして機動力を上げる。
「おっけーですけど、正面の攻撃は……」
「
カウントはそれだけだった。大回りで飛び出したロジコマが二機、一気に距離を詰めていく。機関砲のセーフティを解除。ハイサイクル過ぎてブザーのようにも聞こえる発砲音が響く。その音だけで、地上にいる相手は頭をあげることができなくなる。
ビルの窓から発射炎。三つ。左から二つ、右から一つ。二発は外れて地面をえぐっただけ。もう一発はヒットしたが、ロジコマの方が防弾板の角度を正確に調整し、真正面から受けきった。えらいぞロジコマ。エンジニア部の装甲部なら対戦車ミサイルくらいなら堪え切れるというセールストークは嘘ではなかった。
「左撃ちまーす!」
「じゃあ私は右」
それぞれ1斉射で対戦車ミサイルは黙った。
「シロコ、そのままビルの間をゆっくりドローンを往復させて確認してくれ」
「これ、あんまりカメラの性能よくないんだけど」
「それでもいい。……この規模なら、あと1発か2発あるはずだ」
指示を出す間にも1号機と3号機が地上の相手を制圧していく。対戦車ミサイルを真正面から受けきったロジコマがゆっくりと進軍するだけで周囲は恐慌状態だ。アレより強力な兵器は持ってきていないらしい。真正面から受けきれないことがわかっている敵が、じりじりと距離を詰めてくる状況は僕だって遠慮したいが、戦闘行為は相手の嫌がることをするのが基本になる以上、そこはあきらめるしかない。
カタカタヘルメット団、恨むなら僕を恨めよ。
「じゃあ、こういうことだよね」
ひゅんと、ピンク髪の子が正面に飛び出すと同時に発射炎。
「ちょっ!」
「ばっ!?」
ちょっと、と止める間もなく飛び出していく。おとりになる気か。同じく止めようとした猫耳ツインテールの子も間に合わず、銃を構え直した。
ハードターゲットを突破できないのであれば、ソフトターゲットを狙うしかない。その対策のために3機を手元にのこしておいたのに、ピンク髪の子が飛び出したタイミングでその子めがけてミサイルが降ってくる。
頭はいいけどいろんな勘定から自分自身を抜くタイプかこのピンク髪の子。
射角の確保が間に合うのは4号機だけ。フルオートで全弾撃ちきる。同時に猫耳ツインテールの子が引き金を引いていた。ピンク髪の子が盾を構えた瞬間、被弾多数のミサイルが爆裂する。目の奥の残像が眩しい。ロジコマに爆風から守ってもらえたが爆音で耳がくらくらする。鼓膜敗れていないだろうか。
「ロジコマ、攻撃中止。様子を見る」
指示出しをしつつ目と耳が戻るのを待つ。これで相手が突っ込んでくるなら掃討するしかなくなる。ロジコマの耐久力と補給物資があるので持久戦になるが、相手はそれだけのスタミナを持っているだろうか。
「ふぃー……セリカちゃんありがとー」
「飛び出すときぐらい声かけなさいよ!」
「かけたし、それでもセリカは間に合ったでしょ?」
「それ結果論だかんね!?」
ピンク髪の子と猫耳ツインテールの子が言い合う声がする。とりあえず、耳は無事のようだ。少なくとも言い合うだけの余裕は稼げているらしい。
爆発の余波が落ち着いて視界に残像が残っている状態ではあるがある程度目も使えるようになると、地上の相手が路地の方に撤退していくのがちらりと見えた。悪くない判断だ。
それにしても、対戦車ミサイルの攻撃を直撃ではないとはいえ至近距離からくらって無事。キヴォトスで常識は通用しないとはわかっていたつもりだったけれど、ここまで常識外なのか。すごいなキヴォトス。ユウカが『生徒を部員として抱えた方が早いし安いし使い勝手がいい』というのも納得だ。一人ひとりがここまでタフなら確かに歩兵をロボットで代用するより、ロボットにしかできないことに特化する方向で発展するはずだ。
「まぁまぁ、セリカちゃんもおちついて。ホシノ先輩も一人で戦ってるわけじゃないんですから、次から気を付けてくださいね?」
「ふんっ」
「ノノミちゃんに言われちゃしかたないなぁ……」
それにふわふわした物言いの子も、どう考えても車載で使うサイズのガトリングガン――――おそらくミニガンのカスタムだが、それを抱えて撃てるんだからとんでもない。そもそもミニガンの駆動にはバッテリーと大量の弾薬が必須だ。肩掛けにしているバッグからコードが伸びているのでそこにバッテリーパックと予備の弾帯を入れているんだろうが、それだけでもめまいがするような重さになるし、反動で軽自動車ぐらいなら余裕でバックできる反動を受け止めてなお、立射できる体幹と筋力は想像するに恐ろしい。
「アヤネちゃーん……うん。こっちでも見えてる。撤退だけは手際いいよねー、ヘルメット団。うん。とりあえずはこれでいいよー。ちょっとしばらく上空でドローン待機させとこうか。オートコントロールでいいよ。んで、アヤネちゃんも救急箱もって降りてきてー。ん? みんな無傷だよー。必要なのは……大人のお兄さんのほうかな?」
目の残像がようやく落ち着いてきてきたタイミングで、ピンク髪の子がへらっと笑っているのが見えた。
「ありがとねー、まさか本当に連邦生徒会から来てくれるなんて思ってなかったからさ、なんの歓迎の準備もないけど、アビドスへようこそ、
機械油由来らしい煤を頬からこすり落としながら、ピンク髪の子はそんなことをいう。
「落ち着かないかもしれないけど、のんびりしてって、ね」
のんびりという言葉とは裏腹に、その目の色がどこか歓迎していないように見えて、僕は彼女に答えを返せなかった。
「落ち着く前に、状況を簡単に整理したい。……それに、相手の動きと装備に気になるところがある」
僕は喫緊の課題になりそうな話題を出して、ピンク髪の子の言葉を打ち切った。
お気に入り登録200件超えありがとうございます……!
クロスオーバー作品でここまで伸びるとは……といった感じなので本当に驚いています。
初動で力尽きてもアレなので、投稿ペースを落とします。週に二回から三回だせればいいなぁぐらいのテンポになるかと思います(とはいえ、出せるようになったら出しますが……)。気長にゆるっとお待ちいただけますと幸いです。
次回 自己紹介と状況整理と
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これからもどうぞよろしくお願いいたします。