マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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「……す、すごいですね……」

「えへへ、アリスは力持ちですから。今日は遠距離デバッファーです!」

 

 偽装用に『イトウ企画』と書かれたトラックの荷台で呆然としてしまう。どう考えても潰れてしまうようなサイズの荷物を抱えて乗ってきたのはミレニアムサイエンススクール出身だというアリスさん。今回はアラタ先生の指揮下で同じくミレニアムのマキさんと一緒に行動するとは聞いていたけれど、それでもアリスさんが自分の身長と同じぐらいの大きさのコンテナを抱えてくるとは驚きだった。

 

「ちなみにこれ……なんなんですか?」

「説明しましょう!」

 

 ずいっと飛び込んできたのは涙袋のような副レンズがついた珍しい眼鏡をかけた元気いっぱいな女の人。

 

「この子はダライアス(D L I A S)ちゃん、指向性長距離音響照射装置の試作モデルで5キロ先に直径3メートルの範囲で騒音をお届けできる超指向性スピーカーです。フェムト秒レーザーを使ってプラズマを生成、そこに別方向からレーザーをあてることで高い指向性を持たせて強烈な騒音とオマケで強烈な閃光をお届けすることができます! 要は5キロ先から直線的に投射できるスタングレネードで、雑踏でも犯人だけをピンポイントで平衡感覚を喪失させることができます。デメリットとして恐ろしい勢いで電力を使うので、基本は車載兵器なんですけどアリスさんならバッテリーパックごと持ち出せるので携行兵器として運用可能なんですよ!」

「な、なるほど……?」

「はいはいコトリ、そんなにがっつかないの。ごめんねミコちゃん。いろいろうるさい荷台で」

「い、いえ……」

 

 ユウカさんが助け船を出してくれる。ぺこりと頭を下げたタイミングでゴーグルに通信が入る。これがTITTYというデバイスらしいのだが、シャーレは本当に装備が揃っている。信頼性を重視するという名目でお金を渋っている正義実現委員会とは大違いだ。ちょっとうらやましい。

 

《オペラハウスからジブリール隊、速度を落としてください。おそらく罠を張られています》

《了解》

 

 アヤネさんの声……副部長代わりらしいGLという役職の一人のジブリールさんが率いる部隊が再集合を開始した。先遣隊はここ2時間ほど分散してこのあたりに潜み情報収集を行っていた。ロジコマと本隊の装備は目立つため、突入開始直前に現地に入り、可能な限り迅速に犯罪組織を鎮圧するというのが大雑把なシナリオになる。

 

《ミドリさんとモモイさん、位置を変えましょう。ポイントS45N4のビルに移動してください。4階建てのビルの4階ならおそらく射角も十分とれます》

《わかりました。ここだと目立つしどうしようと思ってたところでした》

《わかった! でもここ倉庫を見下ろせるしいいと思うんだけどなぁ》

《作戦が始まったらおそらくアリスさんとマキさんがそこを使うことになると思います。ブービートラップには気を付けてください》

《あ、アリスの()()間に合ったんだね! よかった! 先に始めちゃってるから間に合わなかったらどうしようかと!》

《モモイさん、お祭りじゃないんですから美味しいところを取っておく必要は無いんですよ》

 

 アヤネさんは苦笑いをしたみたいな雰囲気。ちなみに「今日はアヤネの保険(バックアップ)だ」なんて言っていたアラタ先生はわたし達が乗っているトラックを運転中だ。運転しながら指揮はさすがにできないらしい。それを聞いていたユウカさんが無線を再オープン。

 

「ジブリール、アヤネがトラップって言ってるけど、作戦グループリーダーとしてどう思う?」

《おそらく外れていません。人が少なすぎます。ビルの中にいる可能性はありますし、ロジコマが突撃するタイミングで対戦車ミサイルを撃ち込まれる可能性もあります》

「そんなところに選抜射手(マークスマン)としてモモミドコンビを突っ込ませて大丈夫なわけ? いや、二人が排除してくれるなら願ったり叶ったりなんだけど」

《問題ないでしょう。私とホシノの二人掛かりで叩き上げたのですから、戦えなければ困ります。少なくとも逃げ切るぐらいの足の速さはあります》

《ふつうは『叩き上げ』って比喩で使うんだよ!? 本当にボコボコにするときは普通使わないの! 模擬弾とはいえもうこりごりだからねジブちゃんのブートキャンプ!》

《知りません》

《なら次はおじさんブートキャンプだねぇ》

《あっ、絶対ジブちゃんより厳しいヤツじゃん!》

「はいはい私語厳禁、うるさくしてると位置バレちゃうから」

 

 ユウカさんはそう言って会話を切る。

 

「となると、本当に防衛ラインを後ろに引いたみたいね……なんでここまで戦い慣れてるんだか」

《なんだか嫌な感じだね。……ユズ、ロジコマのセンサはどうだい?》

 

 声をかけたのはアラタ先生。

 

《赤外線の反応は……ない、です。カメラを仕掛けられてる可能性は、あります、けど……》

「コタマ、無線のスキャニングできる?」

 

 トラックの荷台の際奥に固定されているコンソールに掛けたヘッドセットを付けた女の人がキーボードを叩く。

 

「できますがおそらく携帯電話を使っているので時間がかかります。本命に当たる前に突入した方が早いかと」

「盗聴のスペシャリストのコタマでもそうなの?」

「単純に数が多いんです。通信を割ろうと思えば割れるんですけど、一個一個潰すわけにもいかないので」

 

 盗聴のスペシャリストというのは物騒すぎないかと思ってしまう。ミレニアムって怖い。

 

「携帯電話が問題ということは、つまりほかの帯域(バンド)はクリアなのね?」

「今のところは……っと、言ってたら今怪しいのが出ました。Xバンド帯……おそらく衛星通信」

「Xバンドって公的機関(ガバメント)占有帯じゃない。そんなのを犯罪組織が使ってるなら違法よ違法」

「その周波数帯が使える無線機ぐらい山ほど闇市で流れてるっすよ?」

 

 会話に割り込んだのはイチカ先輩。

 

「それよりも問題はそのバンド帯で衛星通信を飛ばせてることじゃないっすか? 少なくとも受信側(くち)が開いてるってことは衛星側の規格をかいくぐってるってことっす。アヤネちゃん」

《はい、今ヴァルキューレ側に緊急通報飛ばしました。……犯罪組織に莫大な資金を投下したのが()()の可能性がありますね。考えたくないですけど》

《まったくだ》

 

 アラタ先生はそこで間をとってから全員に注意喚起のコール音を鳴らした。

 

《みんな、聞いてくれ。状況に変更はない。いつも通りいこう。訓練と同じようにがんばって、訓練と同じようにみんなで帰るんだ、いいね?》

《アラタが望むなら、そうなります》

 

 打てば響く、というのはこういう時に使う言葉だろうか。ジブリールさんが間髪入れずに答えた。

 

《よし、それじゃあ始めよう》

《イヌワシのために》

《お、ジブちゃんのそれいいねぇ。――――イヌワシのために》

 

 ホシノさんの茶化すような空気から一変、祈るような言葉が続いた。そこから何人か、同じような言葉が続く。

 

《頼むから僕のためなんかに戦わないでくれ。僕は君たちのために指揮をする。君たちは、いつか君たち自身が道を拓くその時のために戦ってくれ。それが僕の願いなんだ》

 

 アラタ先生はそう言って反論がないことを確かめるような間をとってから続けた。

 

《10秒後に本隊停車。展開準備だ。コタマは僕のサポートを頼む》

「わかりました」

《ユウカはネゴシエーター、セリナは現地での検傷分類責任者(トリアージオフィサー)として前進。シロコ、二人の護衛を頼んだ》

《ん、わかった。あと30秒で追いつく》

 

 車が停車、後ろのドアが開く。夕暮れまで行かないけれど、なんとなく陽が傾き始めたのがわかる。ちょっと眩しい。

 

 降りたタイミングで4つ足のロボット戦車みたいなのがやってきた。ロジコマ、というらしいこのロボットは後ろに大きなポッドがあって、なんだかクモみたいでちょっと不気味。シャーレのみなさんは速度を落としたロジコマの両脇のハンドルにひとりずつつかまって止まることなく前進していく。

 

「はーい、イチカさーん、ミコさーん! おまたせしました~☆」

 

 10機ぐらいいただろうロジコマの最後の機体にはノノミさんが乗っている。大きなポッドの代わりにノノミさんのガトリングガンがマウントされた銃座があって鉄パイプにクッションを巻いただけみたいな椅子……というよりサポーターに体重を預けているらしい。

 

「両脇にハンドルとステップがあるのでつかまってくださーい。移動開始しまーす」

『お待たせしましたー!』

「わあ、この子喋るんすね」

「そうなんですよ。とってもいい子なんですよ」

『えへへ、ありがとうございまーす!』

 

 合成音声だけど、無機質に聞こえない声。これもミレニアム製品らしい。シャーレはミレニアムとアビドスのメンバーが多いと聞いていたけれど本当みたい。そんなことを聞いていたらゆっくりと速度が上がっていく。モーターの音、路面は砂とか砂利が浮いているのにあんまり揺れない。

 

ノノミ班(Nonomi)指揮を開始する(Follow my order)チャンネル4番に無線切替(Push channel 4)ジブリール班の支援を想定してくれ(Expect to assist Jibril Unit.)

了解です(Roger that)☆」

 

 先生は無線を英語に切り替えた。先生が英語で指揮するのは定番らしく、だれも疑問に思っていないのがなんだかすごい。トレーニングされてるんだなぁと今更ながら思う。

 

 今使っているチャンネル1番は作戦指揮所(オペラハウス)のアヤネさんが管理するから指揮が錯綜しないように移動した形になる。ゴーグルには全員の位置がプロットできているから無線を切り替えても連携が取れなくなることはない、ということらしい。

 

「ジブちゃんの支援だと結構突っ込まないといけないかもですけど、お二人は精密射撃は得意ですか?」

「わ、わたしはあんまり……」

 

 そう聞かれて自信がなくなる。確かに一人でトレインジャックに巻き込まれたときはなんとかできたが、結構まぐれだったと思うし、そのあたりを『自信をもってできます』というには経験値が足りない。

 

「ミコも私も人並みにはできるっすよ?」

 

 イチカ先輩が勝手にわたしが超えるべきハードルを上げていく。あわあわしてたらノノミさんがくすりと笑ってくれた。これから戦闘なのになんだか自然体でびっくりする。

 

「じゃあ、ほどほどに行きましょう。相手の射撃はこの子が耐えてくれるので安心していきましょう」

『えっへん!』

 

 ロジコマ君……というのがいいのかわからないけれど、どこか男の子っぽい声で答えるその子を撫でてみる。多分感覚はないのだろうけど、触れた部分の色が少し変わった。そういえば表面に少し電気が流れてて色を変えているんだっけ。触れたところで電気の流れ方が変わったから色がちょっと変わったのかも。手を外すとすぐに色が戻った。ちょっと面白い。

 

 そのタイミングで電子音。現実に引き戻される。一斉コール。ゴーグルに表示された発信者は『Yuka/ALI-GL』。コールに参加すると自動的にマイクミュート。

 

《……マは音響解析お願い。通報出ます。はい、戦線離脱(エバキュエーション)ホットライン》

《ガキが電話したのはお前らか》

 

 変声機を通した声。状況を飲み込むのにちょっとだけ時間がかかった。

 

「通報者が見つかっちゃったんすね……」

 

 イチカ先輩の声が下がる。こういう事態に備えるための前進だったはずだけど、一歩間に合わなかったか。

 

《翼龍会の方ですかね。初めまして、連邦捜査部の早瀬ユウカよ》

《お前らがしようとしていることは無駄なことだ。これ以上こっちに関わるならお前らが痛い目に遭う》

 

 その間にも解析結果が画面に恐ろしい勢いで書き込まれていく。通話の文字起こしもあって視界が文字でいっぱいだ。

 

 発信場所特定完了、移動なし。そこにいる――Chihiro/Int-SL

 広い部屋。天井高い。倉庫?――Kotama/IntS

 C1,Jibril, STBY――Arata/SCHALE1

 

《痛い目に遭うとはあいまいな表現ね。具体的に何をしてくれるのかしら》

「いきなり挑発っすか……」

 

 普段は交渉役として重宝されているイチカ先輩が苦笑いしている。

 

《アンタらがこっちのテリトリーに入ってることは知ってんだよ。ここはホットすぎてお行儀のいいやつらが来る場所じゃねぇんだ。どてっぱらにヒンノムベーストンネルばりの大工事をされたくなければさっさと帰りな》

 

 ヒンノムベーストンネル、というのは聞いたことがない。たぶんゲヘナかどこかのトンネルなんだろう。

 

 そんなことを思う間にも、もうボイスチェンジャーが無効化されている。音声解析開始。すぐにレスポンス。須頭(すがしら)エリヤ。ゲヘナ学園を2年前に退学になっている。失踪人届も出ている。

 

《奇遇ね。私もあんまり長居はしたくないと思ってたところよ。とはいえこっちもお仕事でね。はいそうですかと手ぶらでは帰れない》

 

 ここの交渉の文句はおそらくアラタ先生の《相手が譲歩できるラインがあるか探りたい》というメッセージを受けてだろう。

 

《あなたたちがするべきことは簡単よ。誘拐してきた子がそこにいることはわかっているの。その子達をこれ以上痛めつけることなく開放して、あなたたちは撤退する。どう? 簡単でしょ?》

《バカか? そうホイホイと手放すかよ。それともあれか、交渉ができるとでも思ってるのか?》

 

 次に響いたのは高らかな笑い声。笑ったのはユウカさん。イチカ先輩がドンドン青ざめていく。イチカ先輩の気持ちはよくわかる。このタイミングで犯人を煽るのは得策ではないはずだ。

 

《勘違いしないでよね。お願いしてるんじゃないのよ。命令》

 

 テキストが流れてくる。

 

 地面はコンクリート、屋内、子どもの泣き声の反響音、謝ってる。おそらくミチちゃん?――Kotama/IntS

 C1,RDY ――Jibril/OP-GL

 

 ノノミさんが頭を抱えるようなしぐさをした。たぶんRDYは配置よし(レディ)の略。わたしたちは全然『よし』じゃない。ようやく目標の廃倉庫が見えてきた。

 

「ちょっと急ぎましょうか。通話終了と同時に突入になりそうですね。優先制御(オーバーライド)リクエスト、武装管制システム起動(マスターアーム・オン)

『あい・あいさー! マスターアーム・トゥ・オン! 女王蜂(QueenBee)にコントロール・オーバーライドをリクエスト! リクエストアプルーバル。ノノミさん、ウェポンコントロール、コンファーム?』

「コンファーム、アイハブウェポン」

『ユーハブ』

 

 ノノミさんが答えると、前脚の一部が横に開く……これ、盾だったんだ。

 

「クイーンビー?」

『ロジコマの管制官(コントローラ)のコールサインです。今はユズさんですね』

 

 ロジコマ君はのんきに答えるけれど、こっちはそれに応えるどころじゃなかった。移動速度が上がる。

 

《私たちは違法行為を止めに来た。残念ながらここに超法規的措置なんてないのよ。須頭エリヤ、たった今、未成年者略取の疑いと違法薬物製造の疑いであなたに逮捕令状が下りたわ。そして今、現時刻1523をもってヴァルキューレ警察より連邦捜査部に逮捕権が委譲された。どういう意味か分かるわよね?》

 

 正式に逮捕権が下りたロジコマの色が都市迷彩のグレーから、真っ白に変わる。連邦捜査部のロゴが明るい青で浮かび上がる。

 

《最終警告よ。おとなしく投降しなさい。連邦捜査部シャーレは、こんな犯罪を許容しない。私たちは銃をもって子どもを脅し、傷つけることを強いるような仕組みを、そして、それを運用する者を、決して容認しない。あなたがそれに組するというのなら、私たちは、私たちの意思をもってそれに抵抗する》

 

 返答は銃声で返ってきた。倉庫の高い塀から1ブロック離れた位置で待機しているのはジブリールさんたち。鼻と口を覆う黒いマスクをしてゴーグルタイプのTITTYを装着しているとなんだか特殊部隊みたいだ。

 

《黙って聞いてればぬけぬけと、口では何とでも言えるんだよ!》

《そう。残念だわ。なら後で会いましょう。逃げるなら逃げなさい》

《オペラハウスよりジブリール隊、エントリー、エントリー、エントリー》

 

 アヤネさんの指示でジブリールさんが飛び出した。タイマースタート。銃声が大きく響き始めた。




またユウカが大暴走してるよ……

次回 僕はイヌワシになって

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