マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
たぶん『一騎当千』というのは、あの人たちのためにある言葉なんだと思う。
「なんなんだ、なんなんだお前ら……っ!」
犯罪組織が拠点にしているという廃倉庫の敷地に真っ先に飛び込んだのがホシノさんとジブリールさん、まさかの指揮官二人組だった。部長のホシノさんはもちろんのこと、GLのジブリールさんは『作戦行動スペシャリストとしてのナンバーツー』らしく、作戦行動中は『平時のナンバーツー』であるユウカさんよりも指揮継承権が上だ。二人いっぺんに吹き飛ばされて指揮系統が空白になるとか考えないのだろうか。
遅れてノノミさんのロジコマ君と一緒に飛び込んだが、門の中は駐車場だったらしく、廃材のバリケードが複数設置されていた。完全に待ち構えられていた構図で一気に銃弾の雨が降る。ノノミさんはロジコマの装甲を頼りに中央にのりつけた。小型とは言え自律戦車が飛び込んだことで一気に注意がこちらに集中する。装甲の裏で小さくなりつつなんとか銃を構えるが、身体を出そうとした途端に弾丸の雨あられ。到底撃てる状況じゃない。火力の量だけで言えば相当なものがある。翼竜会はどれだけの戦力を抱えていたのだろう。
《アリス、
アラタ先生の指示がフラットに飛ぶ。アリスさんを呼んだってことはあの大きな音響兵器だ。さっと背後を見ると、三階建てぐらいの廃屋の屋上でナニカがキラリと光っている。もうあんなところに配置されてるのか。
弾が来ないと信じてそっと防弾盾の横から様子を流し見る。犯罪組織の人の一人が頭を抱えている。他の人が笑ってたり、怒ってたり。これが攻撃だとは気づかれてないみたい。
《攻撃だと気づかれないのはやはりよくないね。アリス、
アラタ先生がそう言う間にも掛けていたTITTYに表示が現れる。敵位置のマッピング、攻撃対象がマークされる。つまり、攻撃指示だ。
しっかり頬付け、ちゃんと狙って、撃つ。銃の構え方が甘いと肩に衝撃が突き刺さって当たるものも当たらないしなにより痛い。イチカ先輩にいろいろ教えてもらって大分ましにはなったが、それでも体力も体格も劣っているわたしは、しっかりと構えるだけの時間と余裕がいる。それだけの時間を得られているのは、多分ジブリールさん達が同時に突っ込んだりいろいろして相手が混乱しているから。
その間にもブザー音の様な連続した射撃音。ノノミさんのマシンガンが面制圧を加えていく。彼我の距離は20mくらいだろうか。そんな距離でマシンガンを喰らえばたまったモノではない、相手がバリケードの裏に隠れる。
それはつまり、その間ホシノさんやジブリールさんへの攻撃が止むということだ。
「ほいっと」
軽いテンションのままホシノさんが飛び込んでいく。その遮蔽物の裏側をカバーできる位置、すなわち即時に応援が出せる位置の敵にはジブリールさんがこちらも至近距離に飛び込んで発砲音が連続で響いた。たった二人で飛び込んだ先で、相手の陣形がどんどん崩れていく。
《ロジコマ隊、前進させます……っ!》
ユズさんの声。わたしたちで確保した橋頭堡から一気に戦線を押し上げていくようにロジコマが前進していく、脚の防弾板の裏にはシャーレの部員達がロジコマを盾にしつつ前進している。戦車というのはそれだけでインパクトがあることと、対抗するための銃座にホシノさんやジブリールさんが飛び込んでしまったせいで組織的な抵抗ができなくなっている。
つまり、総崩れになる。
「こ、これ本当に私たちいります……?」
「ついていくだけで精一杯ですね……」
そんな声が聞こえた。さっと見ると先遣隊に入っていた青色というか、紫色というか、ともかく派手な髪の色。
「レイサにスズミじゃないっすか」
名前を聞いて思い出す。自警団所属の二人で、シャーレが人員募集を公に呼びかけたときに加入したメンバーだったはずだ。侵入のためにこのロジコマとかを盾にしながら追いかけてきたらしい。普通はこの速度が普通なのだ。指揮官二人が速すぎる。
「うえっ!? どうして正義実現委員会が!?」
「視察中っす。がっつり戦闘っすけどね。後でヒアリングさせてもらうっすよ~」
なんというか、イチカ先輩はどこか余裕そう。余裕そうだったけれど、その頬の横を弾丸が突き抜けた。
「先輩っ!」
「焦らないのミコちゃん」
すぐにイチカ先輩は銃を構えて撃った。イチカ先輩の銃声は一発だけ。
「……ちっ、小心者っすね。誰か追えるっすか?」
《ミドリさん、
アヤネさんの無線。銃撃の音は遠かった。
《排除成功です》
「さすが、って話す余裕があるってことはこっちも大体片付いてるっすね」
《というより、裏に逃げてる感じ。ここからだとミドリの狙撃も届かないかも》
答えたのはモモイさんというらしい。無線を聞いてたらしいアヤネさんがチャンネルオープン。
《出口も外周もユズさんがロジコマで封鎖済ですから、ジブリール隊は気にせず倉庫内部の捜索に移りましょう。建物に逃げ込んだ集団がおそらく敵本隊だと思われます。こちらは2グループに分けて中を探索しましょう。ジブちゃん》
「スズミ班は私と、イズナ班とマキ班はホシノとです。アラタ、ノノミ班を貸してください」
《わかった。指揮権をハンドオフする》
「お、認めてくれるんすね」
イチカ先輩の軽口にはどこか不機嫌そうに鼻を鳴らして応えるジブリールさん。
「イズナ班とマキ班ってことはおじさんたちが追い立てる感じかなぁ?」
「はい。盛大に追い立ててください。私たちで罠を張ります」
「んじゃ。後は流れで」
肩に担いだショットガンを手の中に戻しながらホシノさんはそういう。
「んじゃ、いこうか。アヤネちゃん、誘導を」
《はい、ホシノ班は正面入り口でスタンバイ、ジブリール班の配置と同時に突入しましょう。中には人質もいると思われますので、彼我の確認は念入りにお願いします》
作戦は第二段階へ、ジブリールさんが走り出すのに合わせて移動を開始する。
《アヤネ、スタンバイです》
「ジブリール班スタンバイ了解しました。内部は複雑に入り組んでいる可能性があります。火災、ガス等発生に備え、面体マスクのクロスチェック実施、班での確認が完了したらレディをコールしてください」
ボタンを押すことで無線が繋がるプレストークスイッチに指をあてながら考える。普段は先生が使う統合管制卓を預かるというのは、やはり緊張する。
「……あの」
声を掛けてきたのは花岡ユズさん。実質的な彼女専用ブースとなっているロジコマ制御卓から振り返ってこちらを見ている。
「多すぎませんか……?」
正面のモニタに映っているのは作戦図やロジコマの映像、高所をとっているアリスさんやモモイさん、ミドリさんの映像だ。映像で確認できた相手は32人、おそらく4人で1グループにして防戦に入ろうとしていたところがロジコマに押されて潰走に入ったように見える。
「……ですね」
「ということは、これ全部時間稼ぎのために雇われた『バイト』ってわけだ」
チヒロさんがユズさんの隣のコンソールを叩きながらそんなことを言っている。
そう。人数が多すぎるし、想定よりも瓦解するのが早かった。訓練がまともに行われていない。チヒロさんの言う通り、おそらく日雇いで集めた感じだろうか。にしても金払いがよくないとこの人数は集まらないだろう。
「……そんなに儲かるんですかね、麻薬って」
「末端価格は1グラムで数十万だろうからね。儲かるとはおもうけど解せないんだよね」
「解せない、ですか?」
チヒロさんの手が止まる。
「金は麻薬を売ったで解決できる。場所も不法占拠で解決できる。輸送ルートは今から探すとして、なんで2か月も子どもを監禁し続けたんだと思う? 身代金要求だってなかったんだよ?」
「それは、そう……ですね」
「じゃあ、なんなんでしょう……」
ユズさんが裏門に集めたロジコマのスモークディスペンサを起動させながらそう言った。スモークディスペンサに詰まっているのはワイヤーネットを固めたもので、暴徒鎮圧キットとして用意されていたものだ。逃げようとした子達を正面からからめとってそのまま地面に引き倒す。正直銃で倒すよりもよっぽど効果がある。
可能性は、おそらく一つ。
「……人身売買」
「だよね。……先生、医療班の増派を進言。多分ここ、人身売買の拠点だ」
チヒロさんが私の指示より先に先生への無線を開いた。
《本当に教育に悪いね。了解だ。チヒロ、
「わかった。ハナエさんとチナツさんをヘリで急派、セリナが
《あとメンタルケア要員が必要だ。
「えーっと、ココナ教官が
《頼む。アヤネ。メンバーを頼むぞ》
「お任せください。皆さん無事に帰してみせます》
これは意地だ。私の意地。ここまで引き立ててもらった、イヌワシの雛としての、私の、小さな意地。
《ホシノ班、レディ》
面体マスクの装着が終わったことをホシノ班が伝えてきた。ジブリール班はまだ。そちらにはミコさんとイチカさんがいるから、おそらく装着を手伝っているせいだろう。
《ジブリール班、レディ》
「スタンバイ」
突入待機の指示。工場の中の図面はない。今どうなっているかわからないという状況で、みんなを飛び込ませる。
「イヌワシのために、イヌワシのように」
小さく、無線に乗せずにつぶやいて、息を吸う。指揮官にとっての引き金であるトークスイッチを押し込む。
「ホシノ班・ジブリール班、エントリー、エントリー、エントリー」
自分の意思で引き金を引いたのだ。もう戻れない。
《エントリー・エントリー・エントリー》
「ジブリール班、エントリー」
鍵代わりの鎖を事前に破壊しておいたドアは、すぐに音もなく開いた。建物の廊下に飛び込むと空気がひんやりとする。直射日光が防げるだけにしてはやけに冷えているということは、たぶん電気が通っている。突入した段階で誰かの泣き声がする。幼い泣き声。相手の電話と同じものか。
《警察だ! おとなしく投降しろ!》
対岸から叫び声が聞こえるのは、らしくないホシノのもの。こういう時に演じられるのは彼女の強み。一方で私の班は静かに待機する。
「くそ! こっちだ! そのガキは置いていけ!」
そんな声がして、隠す気もないバタバタとした足音、こちらに向かってくる。レイサに指示を出し、アルミの薄いドアを静かに開けさせる。廊下の向こうから見えない位置で待機。
「スズミ、フラッシュバン」
「用意ヨシ」
「合図でドアの奥に転がして」
足音で距離を測る。そのまま待機。足音が近くなってきた。
「投げて」
カラカラ、と小さい音がたち、皆が直視しないように隠れる。マイクミュートと同時に目を瞑っててもわかるぐらい明るい閃光が走った。それを合図に飛び込む。事前打ち合わせ通り、廊下に入って壁沿いに飛び込む。
案の定いた。数は6。先頭には充血した目でこちらをぼんやりと見ながら唸ってる大柄な女の人。飛び掛かってきたので喉に当てないように胸の中心を銃床でぶっ叩く。弾丸を当てるより殴った方がダメージが入るおかしな世界だ。飛び込めるなら飛び込んで肋骨の1本は折った方が相手は黙る。ヤクザキックを決めて後ろに押し出したタイミングで横をレイサが飛び抜けた。
「どりゃああああああ!」
水平二連ショットガン、とでもいうんだろうか。至近距離で相手の体幹めがけてショットガンを叩き込んでいる。あれは痛いだろう。実際胃液を戻してしまっている相手もいる。なるほど、レイサを単独で突っ込ませて後から追いかけるような形で使うのはいいかもしれない。ショットガンの武装の検討はあとでアラタに伝えておこう。
4人を瞬く間にノックアウトしたレイサ。イチカとミコが
「え……、あ……こないで……」
唯一レイサも私も攻撃しなかったのは首輪をつけられたボロボロの女の子。涙を貯めながらへたり込んでいる。この集団が言っていた「ガキは置いていけ」の「ガキ」なんだろう。
「ノノミ、環境測定は?」
「正常値です」
それを聞いて面体を外す。ほかの人が外そうとするので、それを止める。
「ミコ、イチカの二人は外してもよいです」
指示をだしながらしゃがみこんだ。小銃は膝の上に乗せるようにする。
「ミチさんにお願いされて助けにきました」
「みっちゃん……が……? 本当に、助けに来てくれたの?」
「はい。ここから出してあげます」
まずは水が入ったパウチの封を切ってから腕を伸ばす。少なくとも歩いてこれているということは外傷はない。
「帰れる、の……?」
「はい。私たちはそのために来たのです」
涙を浮かべる女の子が震える手でパウチをとった。ちらりとノノミを見ると、傍までやってきてくれた。
「失踪人リストでヒットしました。ミチさんと同学年の子で、同じ事件で誘拐された子です」
「はい。……イチカ、ミコ、この子を連れて離脱、本隊のユウカとセリナに引き渡してからこの出口を守りに戻ってきてください。スズミ隊とノノミは私と奥へ。さっきのフラッシュバンでこちらの動きもばれている状況でしょう。罠を正面から突破しますよ」
「了解」
「はいっ!」
立ち上がろうとしたら、ぐい、と手を引かれた。助けた子だった。信じられないぐらい指先が冷えている。
「あの、悪い人をやっつけにいくの?」
「はい。ほかのお友達を助けにいくついでに」
「トァンは悪くないから。トァンだけは許してあげて」
その声を転送すると、すぐにアヤネが反応した。
《トァンという名前はヒットしません。詳細を聞けますか。手短に》
「わかりました。トァンさんは悪い人ではないのですね。どう見分ければいいですか?」
「赤いバンダナで髪を縛った女の人。緑っぽい目。私たちにご飯くれたり、隠れて携帯を使わせてくれたの」
「わかりました。やってみましょう。私たちはもう行くので、トァンさんが誰なのかとか、あとで教えてください。それまではこっちのミコとイチカがあなたを守ります」
大丈夫、という意味も込めて。手袋越しだがその手をとった。震えている。なるほど、あの人が解決を急ごうとするわけだ。
「また会える?」
「あなたがいい子であれば、必ず」
そう言って手を放す。今度は袖を握られなかった。面体を付け直す。
「レイサ、先頭を引きなさい。次位に私がつきます」
「はいっ!」
このレイサという子、自意識過剰だったり不必要なぐらい謙遜したりと情緒的に忙しい子ではあるのだが、戦闘技術はしっかりしている。ポイントマンとしては優秀だ。ホシノみたいに防弾盾を持たせると化けるかもしれないが、少なくとも屋内の遭遇戦に強い人員は貴重だ。
「突入」
もう一枚の扉を蹴り破るようにして入ると、弾丸の雨が降ってきた。
目の前には広い空間、東西に長い形をしていて、東の壁の端の方からエントリーする形になった。足元には木箱やらコンテナやらが散乱している。ほかにはコの字型のクレーンが何台か。撃ち下ろされたのはそのさらに上。東西の向きにキャットウォークが伸びている。なるほど、キャットウォークか。撃ち下ろされるのは分が悪い。
《ジブリール班はその位置で待機、ユズさんの支援攻撃を待ってください》
アヤネの声。こちらの動きに合わせてくれている。ユズを呼んだということはロジコマによる支援攻撃だ。
《着弾まで、2、1……》
パシッ。という音の直後に爆発音。庇もあるだろうによく当てるものだと思う。おそらく迫撃砲の弾丸を時限信管で叩き込んだのだ。キャットウォークがぶっ壊れると同時に悲鳴が降ってくる。このタイミングで一気に飛び出した。
「Go,Go,Go,Go,Go!!!」
全体をせかしつつまだ上でしぶとく残ってるのを移動しながら狙っていく。数は15人くらいか。落ちた相手はがれきもあってまともにまだ動けてない。今のうちに残りの人員を可能な限り潰しておきたい。
首の横を弾がかすめる感覚があるが、この身体になって恐怖心が麻痺している。よくない兆候だ。少なくとも、あの人はそれを良しとしない。
「……クリア」
抑えきるのに被弾はなし。掠ったのは2発くらいだろうか。この世界に慣れ始めている。銃が当たり前で、銃よりもワイヤーネットの方が恐れられるこの世界に慣れ始めている。この世界はあの人に活躍を強いるだろう。そして、あの人はこれを見て悲しい顔をしながら、指揮を続けるのだ。
「クリア」
「クリアッ!」
「はい、クリアです☆」
ノノミの回答までそろったことで安否確認。そこまで悲惨な状況にも見えない。
「子供たちがいませんね。ホシノ、こちらは1名保護しました。そちらは?」
《収穫ゼロだねぇ……ノノミちゃん貸してくれない? めちゃくちゃ強固に固められてて進めないから、横から叩いてほしい》
「了解しました。アヤネ」
《
アヤネの誘導で離れていくノノミを見送る。スズミがその間にどんどん相手に拘束をかけていく。それを後目にレイサに合図。手分けしてこの空間の探索をしていく。
「……これってなんなんですかね」
レイサが割れた鏡や電気コンロなどが乱雑に置いてある場所をのぞき込みながらそんなことを言っている。
「おそらく麻薬の加工台です。さわらないように」
釘をさしつつ、銃を構えつつクリアリング。この広場にはなにもない。ように見える。
「アヤネ、ここには……」
《ジブちゃん……?》
呼びかけて止まる。しゃがみこんで床をみるためについた手がやたらと冷たい。
《どうしましたか? ジブちゃん?》
《ジブリール》
あの人の声も入ってくる。
「……異様に水滴のついたコンテナがあります」
銃を構える。
《状況を詳しく》
「壁が冷たいです、扉には外付けの鍵……、南京錠? があります」
《ジブリール、おそらくそれは冷凍コンテナだ。なにか電源ケーブルがないか? あれば接続を切ってから中身を見てみよう》
「はい」
あの人の指示を実行する。ケーブルを切って、南京錠を銃で破壊する。鎖を外す。
「スズミ、レイサ、万が一に備えて待機を」
位置を調整して、扉を開ける。
「な……!」
息を飲むしか、できなかった。
戦闘は次回で終わりかな……ラストスパート頑張ります。
次回 勇気をだせとは言えないけれど
感想・評価などはお気軽にどうぞ。
誤字報告大変助かっております。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
本年はありがとうございました。なんとかここまで行きつくことができました。
来年もスローテンポにはなると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。