マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

8 / 93
00000111_もう先延ばしにはできない

「おー! ちゃんと純正ロットだぁ。ありがたやありがたや」

 

 コンテナの中身から弾薬を補給しながらピンク髪の子が笑う。僕は手の甲の消毒液の痛みに耐えつつそれを見る。こういう擦り傷を作ったのはいつぶりだろう。

 

 本来ならばいろいろと手順を踏んでから弾薬の引き渡しや確認をとりたかったが、カタカタヘルメット団とやらとの戦闘でいったん共闘してしまった関係で、大きく出れなくなってしまっている。状況に流されているのはかなりまずい状況だ。

 

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、手当てをしてくれている子の顔が曇った。

 

「あ、しみますか? ごめんなさい」

「いや、こちらこそすまない。えっと……君が奥空アヤネさん、だね?」

 

 消毒液で湿らせた滅菌ガーゼを引き上げながら、赤いリムの眼鏡をかけた子を見る。この子もエルフ耳だ。この世界耳の形がいろいろあって面白い。

 

「はい、えっと……」

「アラタだ。アラタ・リョータ」

「アラタ先生、ごめんなさい。挨拶もろくにできず……」

「いや。大丈夫。気にしなくていい。……それよりも話し合うためにも自己紹介が必要かもね」

 

 大きい絆創膏を貼ってもらい、あとは自分でやるからと手を引く。

 

「いきなり戦闘で共闘になってしまったけど、連邦生徒会、捜査部顧問のアラタ・リョータだ。手紙ありがとう。かなりの緊急事態だと思ってもらってすぐ飛んできたつもりだったけど、待たせてごめん」

「いやいや、正直アヤネちゃんが手紙を出そうって言った時も、諦め半分だったし、ギリギリナイスタイミングだったよー」

「ホシノ先輩、相手は大人で先生なんですから、挨拶ぐらいはシャキッとしないと……」

 

 そう言ってどこか怒ったようなポーズを取るのは亜麻色の髪のミニガンの子。

 

「あはは、改めまして、1年生の奥空アヤネと言います。私たちは対策委員会といいまして、アビドス高校唯一の部活で、ここにいる全員で全校生徒です。それぞれ、1年生のセリカ」

「……どうも」

 

 バトルライフルを抱えた猫耳ツインテールの子がどこかぶっきらぼうに頭を下げた。

 

「2年生のノノミ先輩とシロコ先輩」

「よろしくお願いします、先生~」

「ん」

 

 亜麻色の髪をしたミニガンの子がノノミ、シロコとは自己紹介済だからかるく会釈で済ませる。

 

「そして3年生で委員長のホシノ先輩です」

「いやぁ、よろしくねぇ、先生」

 

 ショットガンシェルを盾の裏のラックに詰め込みながらピンク髪の子がへらっと笑う。

 

「対策委員会、というのはなんの対策なんだい?」

「このアビドスを蘇らせるための対策、です!」

 

 胸を張ってアヤネがそう言う。

 

「いろいろあって、ほかの生徒はアビドスを退学したりして、出て行っちゃったから。学校がこの感じだから地域の人もみんないなくなっちゃって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラの対策にも苦戦することになっちゃったんだけど」

 

 シロコはどこか不満そう。だが、なんとなく情報はわかった。

 全校生徒は5人。そうなると、5人のためにインフラを維持することになり、生活基盤としても限界という状況まで追い詰められているということだろう。コンビニでバイトしてたソラも『あそこってまだ学校あったんですか!?』と驚いていた。確かにかなりまずい状況に見える。

 

「でも先生が来てくれて本当によかったよー。ヘルメット団のせいでうかうか昼寝もできやしない」

 

 ホシノがそう言って伸びをするショットガン用のクイックローダーにもシェルを装填し終えたらしく、両手に持ったショットガンを空に掲げるようにしてストレッチを始めた。

 

「で、委員諸君! 先生のおかげで弾薬もきたし、謎ロボット君もいるわけだし、ちょっと計画を練ってみたんだけど……」

「えっ!?」

「うそっ……!?」

「……セリカちゃんもアヤネちゃんも、その反応はいくらおじさんでも傷ついちゃうかなぁー。たまにはちゃんとやるんだよ」

 

 たまには、と念押ししつつ背伸びをした姿勢からくるくるとショットガンを回し、肩に担ぐような持ち方に変えた。

 

「……どんな計画?」

 

 その雰囲気に気おされたのか、半分胡散臭いと思っているのかはわからないが、セリカが目を細めて言葉を待つ。

 

「これまで数日に一回のペースで攻撃してきたし、今回もそんな感じだと思うんだけどさ。それって相手にとっても『数日に一回しか攻撃できる余力がない』ってことでしょ? これまでは相手以上にこっちのスタミナがなかったから反撃もできなかった。だけど今日は先生が持ってきてくれた武器もある」

「なるほど、追撃か」

 

 そうつぶやくとホシノは我が意を得たりと笑った。

 

「向こうも疲弊してるし、ロボット君の迎撃で無茶な攻撃をした直後だからなおさらだと思う。相手の支配エリアもある程度つかんでるし、シロコちゃんがそのあたり偵察してくれてるしね。自転車の回収がてら、さくっと攻略しちゃおうか」

「えっと……理にはかなってると思いますが……先生?」

 

 ノノミが判断に困ってますというのが分かる笑みを送ってくる。

 

 さて、ここは僕が腹をくくるかどうか、という問題か。

 

 反射的にシロコを庇って以降、対外的に見て明らかに僕はアビドス高校サイドに肩入れしてしまっている。状況は手紙の内容とも合致している一方で、相手の対応はどうもちぐはぐだ。

 

 少なくとも、相手は対戦車ミサイルを所有し、使えるだけの機動力があることを示した。対戦車ミサイル自体高価であるし、学生がどれだけお金を持っているのかや、販売レートがどうなっているかはわからないが、拳銃弾のように大量に使えるものでもないし、輸送にも時間がかかるだろう。それを可能な集団を相手取るというのは、かなりのリスクだ。……まぁ、その肝心なミサイルの狙いとか使い方がイマイチだったけど、それだけのコストをかけて攻撃しようとしていることは確かだ。

 

「……相手が回復する前に押し出してしまうというのは軍事としてみるなら正解だ。継続的にちゃんと維持できなくても、相手をいったん叩いてしまうということには意味があると思う」

「なんか引っかかる言い方ね」

 

 セリカの矛先が僕に向く。ちゃんと気になることを事前に潰すという発想自体は悪くないし、この子たちにとっては必要なことだろう。

 

「対戦車ミサイルとかを配置してたのは僕がつけられてたということだろうからいいとして、それ以上の重装備が出てくる可能性がある。その時はどうする?」

「まー、そしたら撤退かなぁ。でもこれまでも出てこなかったし、あのミサイルで校舎ごと吹き飛ばす予定だったんじゃないかなぁというのがおじさんの見立て。ロボット君もいるんだし、ゲテモノがたくさん出てくる状況になったら逃げ帰ってきて籠城戦だね」

 

 それとも、と目を細めるホシノ。

 

「先生とはここでお別れとか言われるとおじさん悲しくて泣いちゃうよ?」

 

 そう言われため息をつく。

 

 限界、ぎりぎり、マージナル。ここが分水嶺だ。

 

 関わり続けるなら、この子たちにどこで銃を置かせるかということを考えないといけない。それを僕がどう背負うかを決めるしかない。

 

「そもそも、僕がいい悪い言わなくても、君は攻める気なんだろう?」

「あ、バレた?」

「あまり無茶をするなと言いたいところだけど、いろいろと大変そうなのはわかった」

 

 相手とどこかで停戦に向けた会話をしたいが、そのためにも一度テーブルにつかなければならない。だからまずはそこまで手を貸すことにした。

 

「協力するよ。ただし、無茶はなし。危ないと思ったらこちらから口を出すから、その指示には優先して従ってほしい」

「もちろん。これでアヤネちゃんも楽になるねぇ。オペレーター作業ずっと一人でだったもんね」

 

 ホシノはそう言ってアヤネをひじで小突く。アヤネはどこか困り顔だ。

 

「シロコちゃん、偵察結果は?」

「ん」

 

 どうやら僕は偵察中だったシロコと遭遇していたらしい。さっきの会話が正しければ、ヘルメット団は定期的にアビドス高校を襲撃しており、周期として今日あたり来ることを予測していたのだろう。なのに攻撃が来なかったからシロコを斥候として動かした、といったところだろうか。もっともそのヘルメット団はミニ戦車みたいな見た目をしたロボットを5機つれてやってきている僕を発見して、戦力を割いていた、とみるべきだ。

 

「ここから30キロほど西の廃墟群の中に補給基地らしいものがある。そこ以外はだれかが出入りしたらしい雰囲気もない。もともと昔は住宅街だし、営業中の店とかもないからほぼ間違いない」

 

 30キロ……車やドンキーをつかえばすぐだし、ゲリラ戦法としては悪くないが、それだけの距離をおいておく理由はなんだろう。もう少し近くても問題はない気がするのだが、補給集積所としての後方基地で、戦闘員などはもっと小規模で分散させておいているのだろうか。

 

「じゃあ、そこを叩けばよさそうだねー。んじゃ、それでいってみようか」

 

 よっこいしょ、と言いながら盾を担ぎ直すホシノ。

 

「委員会メンバーはいつも通り、シロコちゃんとセリカちゃん、ノノミちゃんが私と一緒に出撃。後方支援兼お留守番はアヤネちゃん。先生はどうする?」

「後方で支援にあたる。前線に出てもあまり役に立たないからね。ロジコマはさっき被弾した3号機だけを残してそっちに随行させる」

「おー、じゃあ盾には困らないねー。じゃ、それで行こうか」

 

 そんな軽い宣言で、共同戦線が開始された。

 

 

 


 

 

 

 アヤネに案内されたのは生徒会室の看板にアビドス対策委員会という紙を貼っただけの部屋。『先に入っててください』と一声残して、紙の地図を取りに走っていったアヤネを目で追ってから部屋に走る。見慣れたパイプ椅子と長机。ホワイトボードには補給物資の管理表だろうか。水や食料などの残量と、桁の大きな数字が羅列されていた。962,352,528。座標か、金額か。

 

「先生お待たせしました。すいません。汚くて」

 

 その正体を考える前にアヤネが戻ってきた。振り返って迎える。

 

「いや、僕がいたところよりもきれいだよ」

「え? シャーレってそんなに大変なんですか?」

「その前の話。僕もずっと先生だったわけじゃないからね」

 

 そう言いつつ使っていい場所を聞いてパイプ椅子を借りる。その間に紙の地図を取ってきたアヤネが長机に広げた。

 

「シロコ先輩の話だとこの水谷地区ってところらしいです。もともとはアパートとかもあった住宅街ですが、15年以上前に廃棄されています」

 

 その地図を見ながら考える。地図からして土地利用図のようなものらしく、建物の形と階数、高さも書いてある高精度なものだった。おもったよりいい地図が出てきて驚く。これと分厚いノートパソコンで位置情報とカメラの情報を統合して情報支援をしていたらしい。

 

 地形としては谷の底といったところ。谷といってもなだらかなくぼ地と言った方が正しく、坂らしい坂もない。なんでこんなところを補給地にしているのだろう。上から撃ち下ろし放題だろうに。数メートルとはいえ、高低差はバカにはできない。

 

「うーん。陽動のためのカモフラージュっぽいなあ。いや……単純に歩兵狩りしか考えないならありなのか。高台に観測所を別に持ってるか……」

「そ、そうなんですか?」

「低地に作るメリットがないからね」

 

 今回の相手はどうもちぐはぐだ。うまいところと下手なところが極端すぎる。指揮官は有能だけど、実行犯は日当いくらで不良を買い叩いたらこんな形になるだろうか。いや、それにしては対戦車ミサイルをちゃんと撃ってきてるんだよな。

 

 情報がなさすぎる。強行偵察という意味でも今回の行動は悪くない。そのために僕はまた子供を前線に送り出している。次死んだら今度こそ地獄に送ってくれよと思いつつ、なんとか情報を得ようと地図を見る。

 

「通信機に位置情報を連携できたりはしないのか……」

「一応そういう機材もあるらしいですけど、アビドスはお金もないので……」

 

 あはは、と笑うアヤネに悪い質問をしたと反省しつつ、こちらもタブレットの画面を呼び出しヘッドセットを付ける。

 

「僕がぼそぼそいろいろ話してると思うけど、タブレットへの音声入力だから気にしないでね」

「わ、わかりました……!」

 

 情報連結用のアプリケーションを作るためにハレと話してわかったことだが、音声認識で使っているアロナの声は、僕以外には聞こえないらしい。リンもアロナのことを把握できていなかったしそういうものなのかもしれない。

 

「アロナ、今から詳細な地図をカメラでスキャンする。ロジコマのセンサーの情報を統合し、差異をリアルタイムで投影してくれ」

『了解しました! 可能な限りリアルタイムで!』

 

 アロナの声を聞きながら図表を見る。移動にロジコマを使っているので、既に道行きの1/3程は来ているようだ。アヤネが操作するドローンを見る限り、廃墟といえども良く建物の形も残っている。この方向はまだ砂の影響は少ないと見るべきか。

 

《いやぁ、このロジコマだっけ。これアビドスでも欲しいねぇ》

《ホシノ先輩。これ先生のところの備品ですし、お出かけ中なんですから乗りながら寝ないでくださいね》

 

 アビドスの通信システムからそんな会話が聞こえてくる。スピーカーに繋げてもらった無線のやりとりを聞きながらロジコマの位置情報を見る。それぞれの機体に乗ってもらっている状況だが、さて、彼女たちとロジコマをどこで分離するか。

 

『地図のスキャン確認しました。通信確認、反映開始します!』

 

 アロナの声が聞こえると同時にタブレットの表示が切り替わった。うん。アヤネのドローンと印象は当たり前だけれども変わらない。

 

「さっきの戦闘の情報がもう伝わってるなら、ロジコマが出てきた段階で対戦車兵器を出してくる。というより、それを前提に動いているとみるべきだ」

「さっきの今で、ですか?」

「それを言うなら、さっきの今で、対戦車ミサイルを学校の側のビルに運び込んで待機していたんだ。敵は間抜けじゃない」

《問題は、その間抜けじゃないはずのヘルメット団が徒党を組んでたのに5人程度を落とせない事だと思うけど?》

 

 ホシノがあくびを飲み込んだような声でそういった。

 

「その通り。おそらく手を抜かれている。もしくは、君たちの実力を上方修正した」

《……腹立つわね》

《でもカタカタヘルメット団をこれで追い出せれば一旦一段落ですねぇ》

 

 セリカやノノミの声がする。それには答えられない。おそらく僕が思う通りだとしたら、カタカタヘルメット団が別の組織に変わるだけだろう。確証がないからまだ口に出せないけれど、ほぼ間違い無く裏にカタカタヘルメット団以外の誰かがいるはずだ。

 

「もう少しでおそらく戦闘域に入るだろう。全員降車。ロジコマを先行させて張ってるだろう罠を可能な限り動作させつつ前進する」

 

 それでも僕は、子供達の味方でありたいと思うのはエゴだろうか。

 

 エゴでも良いと信じてロジコマに前進を指示した。

 




お気に入り登録250件越え、ありがとうございます。本当にここまで早く伸びるとは思ってなかったので感無量です……!

下手なものは書けないと土日に改めてストーリー見直したんですが、こいつらずっと戦闘してるな?

ということで、次回もまたまた戦闘回。

次回 アビドス対策委員会の実力

感想・評価などはお気軽にどうぞ
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。