マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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「おー、やるねぇ」

 

 高く積まれたコンテナにノーモーションで飛び上がった部下を見てそう言うしかない。ジブちゃん以上に身軽だと思う。事前に「忍法!」とか叫ばなければもっといいと思う。

 

「気を付けてよ、絶対上張られてるから」

 

 今いるのはコンテナを迷路みたいに並べた迷路の丁字路の角で、こちらから見て正面は壁、つまりはここを曲がらないとどこにも行けない形になっている。対岸に渡ることもできないので情報がつかみづらいが、おおよその配置はわかった。さて、どう攻めるか。

 

「うひゃあ!」

 

 飛び上がっていた部下が今度は慌てた様子で飛び降りてきた。直後にコンテナに弾丸が突き刺さる耳障りな音がする。迷路になっているとはいえここは屋内。工場の上にはキャットウォークがある。おそらく見張り役がいて撃ち下ろされる状況だ。

 

「ホシノ殿! なんでもっと前に言ってくれないのですか!」

「だって注意の前に上がっちゃったじゃん?」

 

 相手はコンテナ二つ分向こうで待ち構えている。いい位置だ。使われているのは40フィート外航コンテナ、その二つ分ということは約25mの距離をとっていることになる。その距離から通路幅きっちり人をつめていて、6人が横一列になってこちらをうかがっている。コンテナの幅から見て、通路の幅は24フィート、おおよそ7メートル。機関銃を地面に置いて伏せているのが4人。残り二人がその機関銃部隊の護衛なのか、アサルトライフル……レッドウィンター製だろうか、ともかく無骨なものを持っている。

 

「でも、上も抑えられててここまでがっつり構えてるところをどうやって超えるのですか?」

《ホシノ先輩、お願いできますか?》

 

 無線に割り込んだのはオペレータ(O)オペレータ(O)のアヤネちゃん。

 

「ふふん、じゃあおじさんがお手本を見せようか。イズナちゃんたち……忍術研究部だっけ? まぁ3人は撤退に備えつつよく見てて。セリカちゃん、マキちゃん、バックアップお願い。私が陣形を崩すから二人で押し込んで。私が倒れたら回収よろしく」

「そもそも先輩が倒れる相手なら撤退一択でしょ?」

「買いかぶられてるねえ」

 

 セリカちゃんはリーダー気質ではないけど、サポーターとしては一級品だ。撤退戦になったら頼むしかない。

 

「本当に撤退になったらミチルちゃんの火薬で壁ごとドカンで離脱しよう。ちっちゃい子達は助けたいけど、ミイラ取りがミイラになっちゃいけない。ノノミちゃん、位置知らせ(アイデント)

 

 TITTYに位置情報が飛んでくる。コンテナのすぐ裏まで来てくれているらしい。

 

《レディです☆ さっきの射撃でキャットウォークの敵の位置判明してます。上の相手はこっちで受け持ちますね》

「おっけーおっけー、……じゃあ、いこうか」

 

 面体を確認して、飛び込む。シールドは展開しない。走るのに邪魔になるからだ。

 

「きたきたきたきた! 撃てぇ!」

 

 相手は腑抜けている。なんで私が飛び出した時点で撃ってこない。リーダーも号令の前の来たの連呼は余計だ。まあ、楽でいいけど。

 

 ノノミちゃんの制圧射撃が始まった。これで後続の攻撃も分散するはずだ。それを信じて前に飛ぶ。

 

 こういう時は上下に逃げるに限る。大きく地面を蹴ってコンテナの壁に足を掛ける。まだ撃たない。どうせこの姿勢で引き金を引いても当たらない。距離を詰めることを優先する。

 

 相手は地面に銃を仮託しているのが多い。つまり、俯角も仰角もとっさに取れない。それでも私を狙うからカバーのために飛び出したセリカちゃんやマキちゃんの脅威判定を見誤る。二人の火力投射が私のすぐ脇を突き抜ける。メインの火力部隊は伏せているから被弾面積も小さいが、ライフル持ちは違う。反射で下がろうとして私への視線が外れた。それが命取りになる。

 

 相手の頭上をとった。壁をそのまま蹴って構える。ショットガンに込めているのはダブルオーバック。散弾だ。相手のリーダーらしい、アサルトライフルを持った一人と目があった。

 

「迷ったな?」

 

 そう声をかけつつ、天地逆転の姿勢で引き金を引く。そのリコイルで体が回り出す。つま先から相手の背後に着地。シールドを展開しつつその質量でもう一人のライフル持ちの肩口を殴り飛ばす。弾かれた相手がコンテナにぶつかって倒れ込んだ。こんな距離でまだフルサイズのアサルトライフルを振り回せると思うのが間違いで、この距離なら殴った方が早い。せめてサブマシンガンかハンドガンを予備(セカンダリ)として持っておくべきだったろうに、なんだかちぐはぐだ。

 

「リーダ……うぐっ!?」

「投降するかそっちの二人みたいにシバかれてから捕まるか。3秒で選んで。3,2……」

「投降する! 投降するから!」

「はいお利巧さん。みんな来ていいよー」

 

 残りのメンバーを呼び寄せつつさらに後方をクリアリングしていく。

 

「お手本って……この動きマネできる気がしないんですが……」

 

 ミチルちゃんが苦笑いしつつそんなことを言っている。まぁ、おじさんでもできたんだからいつかはできるようになってほしい。

 

「まぁ、追々ね? この子達サクッと縛っちゃって。っと……」

 

 ワイヤートラップが後方に掛けられているのがわかる。この様子だとどこかに即席爆弾(I E D)がある。見え見えの遅滞戦術。そもそもいま戦った子達も使い捨てか。かわいそうに。そりゃ戻っても地獄だろうから投降を選ぶよね。

 

「アヤネちゃん、見えてる?」

《はい。おそらく何かを待ってますね。……増援でしょうか》

「多分脱出までの時間稼ぎだよ。ばれてないと思ってるルートがどこかにある。多分地下だ。トンネルの可能性は?」

地下水路(カナート)がちょうど真下を通ってるからたぶんそこだね。大丈夫、出口は押さえてる》

 

 先生の声。TITTYに表示が送られてきた。カナートの地図。出口は3か所。空気穴からちょうどアリスちゃんが飛び込むところだった。ロジコマが各一機ずつ出口に配置済み。下流の川との合流地点がかなり近い。そこにはユウカちゃんとシロコちゃんが向かっているようだった。

 

「さっすが」

《そもそもこの倉庫が破棄された理由が地下水のせいで地盤が沈下したかららしいよ》

「もうそこまで情報入ってるんだ?」

《アコの調査のおかげだね》

《コホン、風紀委員会の情報収集能力を舐めてもらっては困ります》

 

 ()()風紀委員会のアコかと思うといろいろ考えるものがあるが、解決した話題をいつまでも引っ張るわけにもいかない。そう思っていたら先生の声が入ってくる。

 

《気になるのは子どもたちの居場所だ。まだ一人しか保護できてないわけだけど、ジブリール。そっちはどうだい?》

冷凍(リーファー)コンテナの中から大量の内臓を発見しました。あと、コンテナの中で一人気絶している女の人を保護しました。情報的にさっきのトァンかと》

「どういう状況? ジブちゃん視界映像もらうよ」

《見て楽しいものではありませんが。レイサが青い顔をしていますし》

 

 視界情報が送られてきたけれど、たしかにこれはあまり見たい情報じゃない。コンテナの中には透明なビニールでパックされた状態で保管されている内臓やら皮膚やらがラックに詰められている。

 

《磁場下過冷却凍結保存されたヒト臓器……かな。ユウカ、わかる?》

 

 情報支援担当のチヒロちゃんの声。無線がドンドンつながっていく。

 

《見ただけじゃわかんないけど、氷点下で保存してるならそうでしょ。これ大病院じゃないと使えないでしょうに、なーんでチンピラがこんな高級設備もってるかな》

《その話はイヌワシの作戦が済んでからです。アヤネ、アラタ、指示を》

 

 ジブちゃんが話を畳みにはいった。まぁそりゃそうか。アヤネちゃんより先に先生が無線を開いた。

 

《アヤネ、ジブリールとホシノの隊を後退させてロジコマと入れ替えよう。相手の本隊は高度に統率された集団だと思うべきだ》

《先生! でもまだ子どもたちが見つかってないんですよ!?》

 

 かみついたのはユウカちゃん。

 

《わかっているけど、これだけの設備をそろえた相手の遅滞戦闘だ、捨て駒にされている子どもたち以外の動きは筋が通っている。ここまで時間を稼ぐと言うことは翼龍会の幹部クラスもしくは資金提供者の脱出を待っている可能性が高い。脱出されたら、倉庫ごと爆破の可能性がある。ユウカ、アリス、そっちが本命だ》

《はい! アリスもスーパーノヴァも準備万端です!》

 

 地下水道でレールガンなんて撃ったら崩壊すると思うけれど、そのあたりはアリスちゃんに追いついた才羽姉妹にハンドリングしてもらうしかないか。まぁ、無事だと信じたい。

 

《ユズ、今増援で到着したロジコマの16台のうち12台を追加で預けるから、建物の探索に当ててくれ。赤外線モニタに注意。生体反応を見逃さなければ何をしてもいいし、ロジコマの被害は無制限で許容する》

《わかりました……! アイハブです》

《ユーハブ。アヤネ、ジブリール班とホシノ班の撤退指揮を。僕は地下水路に潜った面々の指揮に入る》

《了解しました。ではホ―――》

 

 アヤネちゃんの指示を注意喚起ブザーが叩ききる。鳴らしたのはユウカちゃんだ。

 

対象と接触した(ボギーコンタクト)

 

 

 


 

 

 地下水路の点検通路は両側にあった。そのうち敵が正面に来る側の通路、つまりアタリを引いたのは私の方だった。対岸の壁の中に消えていく土管の中に隠れていたシロコに合図。

 

「止まりなさい」

 

 声をかける。相手の銃がこちらを向き、迷ったように先頭を歩かせていた小さい女の子に向け直された。とっさに逃げようとしたその子の首に腕が回って私たちの盾にするように押さえつけるのが見える。後ろに3人ほどいるのが見えた。後ろばかり警戒していて正面からくるとは思ってなかったらしい。

 

 なのに人質を先頭にして歩かせている。トラップ用の露払いに使っているということか。

 

「くそっ!」

 

 後ろのが構える前にシロコが発砲。二人が倒れる。背後のもう一人は私が処理した。ロジコマが水路を進んで投光器で相手を照らす。

 

「……止まるのはそっちだ、この子の目玉が吹き飛ぶぞ」

 

 大ぶりな拳銃が子どもの顔の横に突きつけられる。息を飲むような声がする。コンタクトタイプのTITTYに人物照会結果が送られてくる。十河ミチコちゃんの特徴に96%マッチ。背後でミチコを押さえているのが脅迫電話をかけてきた須頭(すがしら)エリヤだ。整形手術でもして学生証の登録の顔からは変わっているが、眼の幅や耳紋は変えられない。

 

「残念だけど、私やそっちの彼女を止めたところで逃げられない。すでに包囲しているし、あなたが私たちを打ちのめしてここを突破できたとしても、私たち連邦捜査部とヴァルキューレ警察学校の広域手配が待っている。顔を変えても、声を変えても、あなたを追い詰めることができるのよ、須頭エリヤ」

「……その恰好、ミレニアムか? なんで私の名前を知っている」

 

 その言いぐさに笑いそうになる。やっぱりシャーレとしての制服の制定ぐらいは必要だ。

 

「次はAI任せのボイスチェンジャーじゃなくて、ちゃんとハードから揃えて使いなさい。そこらへんのネズミにも情報抜かれる弱いセキュリティだから通話中に特定されるのよ……さて、おしゃべりの気は済んだ? ミチコちゃんを開放して」

 

 名前を呼ばれて泣きはらして赤くなった瞳と視線が合う。笑いかけ、銃を正面に構えた。エリヤが、自身のバイタルゾーンをミチコで覆うようにして盾にしたので苦しそうにミチコの顔がゆがむ。

 

「……ミチコちゃん、私は連邦捜査部のおまわりさんよ。すぐ助けてあげる」

 

 正確にはおまわりさん……ヴァルキューレ警察学校の警ら学生ではなく『連邦生徒会第一千八百二十三号決議を踏まえ連邦捜査部が実施する不良生徒等の保護に関する特別措置規則第十四条に基づきヴァルキューレ警察学校より権限を与えられる生徒』なのだが絶対に通じないのでそう答えておく。

 

「この銃はね、特別な弾丸が装填されていて、後ろの怖い人を一発でノックアウトできる。そして私なら後ろの怖い人にだけ確実に当てることができる」

 

 だけどね、と続ける。

 

「あなたが動いてしまうと、あなたに当たってしまうかもしれない。だから絶対に動かずにいて」

「……ひぅ」

 

 泣きそうなのをこらえる声。それが耳障りだったのかエリヤがこちらを睨んでくる。

 

「うっ……ぐすっ……」

「大丈夫。あなたならできるわ。勇気をだして……」

 

 ゆっくりとセーフティを解除。おかげで音は最低限で済んだ。

 

「一番大切なひとの顔を思い浮かべるの、そしたら勇気が湧いてくるわ」

 

 しっかり狙う。トリガーガードから引き金に指を移す。

 

「……おねえちゃん」

「そう。強い子ね、ミチコ」

 

 徹底して声をかけつづける。半歩前に足を出すと、エリヤが半歩下がった。

 

「おねえちゃん。おねえちゃん、おねえちゃん……」

「そう、そのままよ」

 

 ミチコは恐怖に耐えるように目をぎゅっとつぶった。私は左目を一回ウインクし、合図を送る。そうして―――先生からの、実行指示。

 

 ずっと犯人を照らしていたロジコマのライトが、()()()()()()()()。セーフティを掛けて走り出す。

 

「えっ?」

 

 犯人の間抜けな声。そしてエリヤの背後からいつもの全力全開の出力からは考えられないような細い光が瞬間的に瞬いた。二人の影がぐらりと揺れる。ずっと持ち上げられるような姿勢になっていたせいで、ミチコが水路側に投げ出される。

 

「間に合えっ!」

 

 半ばスライディングするような姿勢で何とか抱き留めるが、そのまま水路に落ちる。下水の匂いはしないがヘドロのようなにおいが鼻を突く。ロジコマが足だけ浸けて走れる程度とはいえ、水深は30センチ程度はある。パニックになったら容易に溺死できる水深だ。ミチコが溺れないように何とか持ち上げる。

 

「無事ね?」

 

 こくこくと頷いているミチコをぎゅっと抱きしめて安心させる。服が泥だらけになったとはいえ、これが成果ならクリーニング代ぐらい安い出費だろう。

 

「ユウカより全隊。十河ミチコさんを保護、重要参考人と思しき人物4名を確保」

 

 通信で報告している間にロジコマが再度照らしてくれた。

 

「お手柄よ、アリス」

「ユウカが時間稼ぎをしてくれましたから! アサシンとしてのスキルポイントがたまったのでアリスも大満足です」

「道中大丈夫だった?」

「エンカウントしましたけど、装甲がクソザコナメクジだったので黙らせてきてます!」

「……そう」

 

 ついてくるはずのモモミドコンビが来れてないのはこれが理由だろう。遭遇した相手を出会いがしらに殴り飛ばした挙句、拘束と残党処理をモモミドに押し付けて飛んできたのだ。相手には本当に同情する。交通事故よりひどい。

 

「それよりも、早く上がった方がいい。風邪ひくよ」

 

 シロコが両手を伸ばしてくれたのでミチコを預ける。私も続けて上がった。

 

「ユウカはこの子を連れて下がって。ロジコマでの確認が完了し次第私たちも確認に入るから」

「わかった。お願いねシロコ」

「ん」

 

 そんな会話をしながら、ミチコの頭を撫でる。

 

「よく頑張ったわね。ミチ」

「……あ、ホットラインのおねえちゃん……?」

「必ず助けるって約束したでしょ?」

 

 そう言うと感情の堰が決壊したらしく、声を上げて泣き始めるミチコ。それをもう一度優しく抱き留める。

 

「大丈夫。もう大丈夫よ」

 

 泣きじゃくる子を抱きかかえて用水路の外の方に向かう。

 

 戦闘そのものはここから一気に片付くだろう。だけど、大変なのはここからだ。前線のための膨大な事務や気の遠くなるような調整が待っている。それでも、子どもを一人守れたのなら、そのコストはペイできる。

 

「大丈夫。私たちが、シャーレがついてるわ」

 

 大丈夫と呼びかけ続ける。その呼びかけをウソにしないために、きっと私は頑張るしかないのだろう。そんなことを思った。




あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。

ということで戦闘終結ですが、メインストーリー合流まであと2話ほど続きます。

もう少しだけお付き合いください。

次回 それでも居場所を作るから

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