マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
OPR-K001_警察との付き合い方
「やぁ、カンナ」
「ここは……?」
ジブリールに案内されてきたカンナに挨拶をする。カンナは照明が控えめな部屋を見回している。
「クラフトチェンバーという設備らしい。最近使い方がわかったんだけどちょっと使って良いのか怪しいものだから相談したくてね」
「話というのはそれでしたか」
「フブキやキリノにも聞いてみたんだけど、適法かどうか判別できなくて。それで二人の推薦でカンナに直接見てもらおうということになった」
大きなキツネっぽい耳を揺らしながらカンナが僕の隣までやってくる。それを確認して僕はシッテムの箱をクラフトチェンバーに接続する。
「浮いている石柱……というのは珍しいですが……これがなにか」
「ちょっと待ってね」
アロナの支援も受けながら適当なパラメタを指定してデータを送信すると、すぐに石柱のすぐしたに紙切れが落ちてきた。それを覗き込むカンナ。
「映画のチケット?」
「うん。どういう原理か知らないけれど、いろんなものをここで製作、もしくは転送ができるらしい」
「……なんとまぁ、ファンタジーな」
獣耳が付いてたり、弾丸で死ななかったり僕にとってはキヴォトスも十分にファンタジーなんだけどね、とは言えない。
「つまり、これは物質の生成装置、もしくは転送装置ということですか」
「素直に受け取るならね。そして僕たちシャーレはこれに近いものに以前遭遇している」
「第13直轄地のオーパーツですね。報告書は読みましたが、それと同じものがこんな所に……」
「本当に同じかどうかはわからない。それでも同じルーツを持つ技術の可能性がある」
そうは答えはしたものの、これが何なのかが本当にわからない以上はそうとしか答えようがない、というのが本音だ。
「映画のチケットは……ペロロジラvsニコラ? 最近予告編が出たものですね」
「そうなのかい?」
「ただ……先行予約ができたかどうかは調べてみないとわかりませんが。……なるほど、先生はこれがある意味で
やはりカンナは頭の回転が速い。このあたりの先読みは得意なのだろう。
「これがここで本当に作られているならいいんだけど、売り物や誰かのものが転送されているとなるとまずいからね」
「さすがに私もこのあたりは門外漢なので……電源を落としておいた方がいいかもしれませんね。そもそも電源はあるんですか」
「機能を停止させることはできるらしいけど、現実的には無理だ」
僕と同じ結論に行き着いたらしいが、僕はそれに肩をすくめるしかできない。
「これがサンクトゥムタワーの権限管理システムと連動している……らしい。落とした瞬間にまた連邦生徒会が機能停止に陥るらしい」
「それはまた……厄介ですね」
「驚かないんだね」
思ったより意地の悪い聞き方になってしまったが、カンナはあまり気にしていない様子。
「驚きましたが納得もしてます。先生がやってきたタイミングで連邦生徒会が機能回復した。そして操作はその正体不明のタブレットからしている様子を見るに、先生がタブレットを通じてこれを再起動したのが機能回復のきっかけでしょうね」
やはりカンナは頭の回転が速い。説明してなかったんだけどな、これ。
「このタブレットはもともと連邦生徒会長の持ち物だったらしい。その連邦生徒会長はこれを僕に渡すようにリンに言い残したそうだよ」
「そして、失踪した。……ヴァルキューレ警察学校の監視網が張り巡らされているこのD.U.から、なんの痕跡も残さず。突然に」
カンナはそう言って顎に手を当てて考え込むような仕草を見せた。
「……このことを知っているのは?」
「キリノとフブキ、ミレニアムのウタハにアビドスのホシノ、あとはジブリールと君だ。連邦生徒会がどこまで知っているかはわからない」
「なるほど。では可能な限り他言無用でいきましょう。一応リン代行には一報入れておいた方がいいでしょう」
「わかった。カンナの判断を信じよう」
そう言うとカンナは僕の方をじっと見てくる。まさかこれで終わりじゃないでしょうといいたげだ。
「そういえば翼龍会のバックボーン探しはどうだい?」
「難航しています。規模から言って到底個人でできるものではないのですが、どこから物量を調達しているやら。……本当にこういうシステムでも使っているんじゃないかと疑いたくもなります」
「まだ一か月も経っていないんだから、物的証拠から追い込む訳にはいかないのかい?」
「ほぼ一か月も経っているんです。とっくに痕跡を消しているでしょう。……敵は、優秀です」
「そうか」
僕はそう答えるしかない。優秀。そうだろう。ホットラインがなければ届かなかった情報だ。この一件だけでも輸送機をチャーターしてビラをトン単位でバラまいた甲斐があったというものだろう。
「えぇ……優秀なんです」
目を伏せたままそう言うカンナ。ちゃんとカンナはフェアに動こうとしているようで助かる。僕がマッチポンプである可能性もちゃんと考えている。優秀な人間は貴重だ。できればカンナとは細く長く関係を続けたいものだ。
「良くないことを考えている顔をしています」
斜め後ろからじっとりとしたジブリールの声が聞こえる。
「そこから僕の顔が見えるのかい?」
「見なくてもそんな顔をしているのがわかります」
なんだか理不尽な答えが返ってきた気がするが、袖を控えめに引いているのが可愛いので言い返す気が無くなってしまう。ジブリールに甘いのは大概やめなければいけないとは思うのだが上手くいかないものだと思う。
「なんとか子ども達に銃を置いてもらう方法を考えているだけだよ」
そういったタイミングで聞き慣れない電子音がした。カンナが右のこめかみを押さえる。……そこに耳はない気がするのだが、そこを押さえて聞こえるのだろうか。
「仕事かい?」
「警備局がいろいろ騒がしいようですが……」
警備局だと大きな事故か事件か、そんなところだろうか。そこでカンナに通報が入るということは事件発生ということで間違い無いだろう。
「手伝えることがあれば言ってくれ」
そう言うもカンナは考え込む間を取った。
「いえ……これはできればこちらで解決したい内容です。貴方も半分当事者とも言える内容ですので」
「なるほど。じゃあ一応待機しておくからいつでも言ってくれ」
本当はもう少しカンナとすりあわせがしたかったが、向こうも忙しいのだろう。引き留めるわけにもいかない。
「じゃあカンナ、応援しているよ」
「それではこれで」
僕をかませたくない相手、ということは出動することはなさそうだ。後で報告書だけ確認させてもらえたらいいなぁ
――――ぐらいに思っていたのだが、わずか30分後にこの判断を覆されることになる。
「……で、ジブちゃんだけじゃなく私やキリノまで呼び出される、と」
「市民が困っている時に手をこまねいているわけにはいきません! 急いでいきますよ!」
キリノを抑え込んだジブちゃんを傍目に横のカンナ局長を見上げる。
「それで、先生の善意をかっこよく断っておいてこの状況?」
「……ずいぶん態度がでかくなったな合歓垣フブキ」
カンナ局長にギロリとみられる。まぁ面白くないのは、まぁ、それはそうだろう。
「まぁ連邦捜査部ですし? ……状況を教えてください、尾刃局長。うちの法務
「副官は大変だな」
「局長ほどでは」
なんだかんだ言ってカンナ局長が苦労人なのは知っている。それでも逃げ出さない強い人であることも。アビドス自治区におけるカイザーグループ幹部による傷害事件の時にそれを肌感覚としても思い知った。
「……まあいい。おい、中務キリノ。情報ぐらいはしっかり確保してからにしてくれ。そちらの新田ジブリールさんにお手間を取らせるな」
ジブちゃんはため息をつきつつキリノを開放。ジブちゃんはシューティンググラスタイプのTITTY越しにカンナ局長を見る。
「カンナ、あなたの説明はアラタにも共有されます。最新の情報をお願いします」
「10時間と25分前、現ヴァルキューレ警察学校第5演習場、旧SRT特殊学園校舎からヘリ一機と多量の弾薬や武装類、レーション等の物品が強奪された。その犯人はここ、ウサギが丘運動公園を占拠。SRT学園の復活を求めている」
「人数は?」
聞いたのはジブちゃん。
「4名。全員がSRT学園の元生徒でRABBIT小隊と呼ばれていた」
「あー……なるほど、シャーレを噛ませたくないわけだ」
名前は聞いたことがある。ミレニアムでドンパチしてきた時に救援に入ってくれた部隊だったはず。その戦闘に入っていたジブちゃんを見ると複雑そうな顔をしていた。
「カンナはRABBIT小隊と話したことがありますか?」
ジブちゃんの問いにカンナ局長は首を横に振る。
「いや、プロフィールで顔を見ただけだ」
「では、カンナの顔をRABBIT小隊は知らないのですね」
「公安局長は自分で言うのもなんだが有名なポストだ。それなりにメディアへの露出もある。
「なるほど」
ジブちゃんはそこまで聞いて考え込むような間を取った。先生が文字通りに『絶大な信頼』を置くジブちゃんは敵に対してどこまでも冷酷だけど味方にはとても情に篤い。このままジブちゃんにリードを取らせるのは結構酷かもしれない。
同じことを多分考えたのだろう、キリノが会話のイニシアチブを取ろうと口を開く。キリノは射撃の腕こそからっきしだけど、こういうところの機微をつかむのは本当に上手い。
「それで、そのRABBIT小隊が
「比較的広い公園だからだろうな。自然保護のために森林部をわざと残した丘陵部もあって攻めにくく、サッカー用コートならヘリも下せる」
「なるほど……で、陣地化して籠城戦……と」
そう問えば頭をガシガシと掻くカンナ局長。
「おかげで投入した警備局人員の3割が負傷で離脱。公園を封鎖しているだけで手いっぱいで警備局長が自身の権限で公安局の人員まで呼び出して抑え込もうとしたが失敗」
「その状況になってからカンナ局長に泣きの一報が入り、今に至る……と」
「事態の収拾を急ぎ過ぎて装備も情報も足りない状況で動かしたんだ。警備局長ともあろうものがこれぐらい見通せると思ったんだがな……まぁ締め上げるのは後だ。締め上げるための手も足りないぐらいだ」
「警備局に新しく特殊部隊が設置されましたよね。強行突入班でしたっけ。もう投入したんですか?」
キリノの質問にカンナが首を横に振った。
「みんな詰め所に籠って出動を拒否している。なんでも『後輩を撃ちたくない』んだそうで、そっちはそっちで人事局が説得中だ。まぁこの状況だと出動されても困るが」
「そもそもSRTを解体した人員の受け皿としてでっち上げただけだもんね、そこ」
たしかにそれで背中を撃たれても困る、というのが本音だろうし、警備局と公安局はあんまり仲が良くない。尻拭いのために駆り出されたに等しいカンナ局長の下で動かすのが得策ではなさそうに思える。
そもそもSRTを潰した理由が『権限の関係でコントロール不能と判断されたから』であり、同じく連邦生徒会長の権限で設立されたはずの『連邦捜査部シャーレ』は外部からの監視付きとはいえ予算の増額と権限の強化が行われている。強行突入班の主幹要員となっている元SRTの生徒に出動しろというのは、心穏やかではないだろう。理論の建付けがよくないのも確かなのだ。
「その結果、動かせる人員が生活安全局かシャーレの二択になり、平和ボケした生活安全局員よりはシャーレにって考えて頼んだってわけ?」
「
もっと武闘派を呼んで来いという嫌味はとりあえず黙殺。
「ということだけど、どうするジブちゃん。あー、任務中だから新田GLって呼んだ方がいい?」
「どちらでも。カンナ、付近の住民の避難状況は?」
ジブちゃんの声はどこまでもフラットだ。こういう時に迷いのない声というのは本当に心強く聞こえる。
「公園に面するブロックの住人については避難を完了している」
「敵に補給等の増援の可能性は?」
「現状では考えにくいが、食糧等はかなり盗られている。4人なら3週間はたてこもれるだろう」
「包囲しつづけるのはどうですか? 相手は4人です。消耗戦に持ち込めば勝てます」
ジブちゃんの言い分は正論だ。少人数で立て籠るということは、少人数で警戒を続けるしかないということだ。夜間も当然警戒を続けることになるだろう。センサなどを仕掛けているとはいえ、警報を確認して迎撃をするとなると一人では対応できない。4人で回すなら一人あたり3時間寝られるかどうか、という状況になるはずで、膠着させることが相手に一番ダメージが出るというのは確かに筋が通っている。
でも、カンナ局長は首を横に振る。
「兵糧攻めができるほどの人員を長期間ここに張り付かせることはできない。ここにかまけてほかの場所を手薄にするわけにもいかない」
「突入しかないということですか」
「解決を急ぎたい。というのはもっと上の意思だ」
ここでその『上』の名前を出さないあたり、察しろという範疇なんだろう。管理職は大変だ。
「盗まれた武器にロボット兵器は?」
「自走地雷が」
「どのような見た目ですか? 数は?」
ジブちゃんはカンナ局長に矢継ぎ早に質問を投げかける。人数差を埋めてくる要素を警戒しているのだろう。
「これくらいの円筒形をしている。6機入りのケースが8ケース奪われているから48機。そのうち12機は既に使用されている。スマートフォンで操作できる上に飛び込んできて破裂するから事前に爆破できない」
「わかりました。ほかには?」
「ヘリの武装でロケット砲があるが、今のところ地上に降りたままだから飛ぶ前に対策できる。あとは
「爆撃や放火をするわけにはいかないのですか?」
「ジブリールちゃん!?」
キリノが止めようとするが間に合わなかった。さらりとえげつないことを真顔で言うジブちゃんにカンナ局長も目を剝いている。
「地雷も爆弾も事前に爆破処理するのが一番安全です」
「言語道断だ。周辺への被害を許容できない」
「ではどこまでなら許容するのかを教えてください」
ジブちゃんがさらりと爆弾を投げる。治安維持組織としては完全にライン越えの発言なのだが、先生が止めないというのが答えだ。おそらくアラタ先生はジブちゃんとダイレクトラインを繋いでいる。法務ユニットの二人が慌てふためくのをわかって爆弾を投げた。最初から爆撃や放火による炙り出しは選択肢には入っていないとしても、ヴァルキューレが許容できる限界の被害のラインを探っている。
そもそも、先生が爆撃なんて
「……公園内の施設の破壊は許容する、ただし公園外に被害の出る可能性が高い火炎放射器や爆撃は許容しない。あと、言うまでもないが、必ず生かして捕らえろ」
「わかりました。では、突入しましょう。戦力を集めます。30分ください。―――Opera-House,This is Jibril Speaking」
《はわっ! えと、オペラハウス、ジブリール、ゴーアヘッド》
そんなことを考えている間にも案の定ロジコマが24機手配される。敵一人あたり6機。大盤振る舞いだ。ついでにジブちゃんが試験運用中だった兵装も持ってくる流れになっている。生徒で招集できたのは4人だけ。チームのリーダーにはエイミさんが指名されている。あとはハレさん、セリカちゃんにコタマさん。本当に『ロジコマサポートチーム』な人員構成になっている。
……の割にはジブちゃんは前線に出る気満々だ。ジブちゃんとバディを組むことになるのはセリカちゃんかキリノかどっちかだろうが……ひたすらに指名されないことを願う。ジブちゃんの相手は機動力がないと本当にきつい。
「キリノ、おそらく敵も情報連結されています。カメラや無線を探してください。フブキ、周辺に非戦闘員が残ってないことを確認してください。カンナは警察側で包囲網に抜けがないことを確認してください。私は狙撃手の位置を割り出します」
そう言ってジブちゃんは手に持っていたバトルライフルにマガジンを差し込む。
「狙撃手狩り? 一人で?」
さすがに危険すぎるでしょとは言わないけれど、十分伝わったはずだ。ちゃんと察してくれたのか首を横に振るジブちゃん。
「狩り出すわけではありません。ですが相手にはある程度こちらの脅威に備えてもらう必要があります。私たちが動き出したことを、メッセージとして伝える必要があります。……この中でRABBIT小隊と直接面識があるのは私だけです。私が適任です」
ジブちゃんはゆっくりと目を閉じ、開けた。
「始めましょう。――――――イヌワシのために」
動き始める。できれば早く終わらせてドーナツでも頬張りたい。そんなことを思いながら周囲の確認に取り掛かることにした。
というわけで予定通りカルバノグ編第一章に入ります。感想返信等含めのんびり投稿になりますがよろしくお願いいたします。
次回 あのバカ来やがった
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誤字報告大変助かっております。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。