マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる -   作:オーバードライヴ

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本当に遅くなりました、年度末&新年度対応で現在進行形で忙殺されていますがなんとか投稿です。

どこかでシュポガキを出したいけれども、かなり先の話になりそうだなぁ……。


OPR-K004_もう助からないぞ。

「これで全員か?」

 

 部下に取り押さえさせていた温泉開発部の人員をカウント。数は7人。ドリルから引きはがした人員も含めると結構な人数だ。

 

「それを私に聞くのかい? ヴァルキューレの狂犬、尾刃カンナにとって、この鬼怒川カスミは恐るるに足らずということかな?」

「御託はいい。質問に答えろ」

「おやおや怖いじゃあないか。そう凄まなくとも私はちゃあんと答えるとも」

 

 正面で手錠をかけた小柄な生徒がけらけらと笑う。

 

「結論だけ言えば、全員かもしれないし、全員じゃないかもしれない。残念だが私は答えを持ちえない」

「……ふざけているのか?」

「本当に把握しきれていないのだよ。今回のこれは……そう! ()()()()()()でね、白煙が見えたので温泉が自噴でもしたのかと慌てて飛んできたのさ。おかげで『手の空いている部員はこの運動公園を目指せ』というしかなかったのでね。本当にわからないのだよ」

 

 フェイクだ。白煙が見えたので、というのはおそらく先生たちシャーレが突入のために用いたスモークのことだろう。それを使ってからおおよそ3分少々。そんな時間で、目の前でスクラップになった巨大なドリルマシンを急派できるわけがないのだ。

 

「……普段なら答える気がないのなら取調室でゆっくり聞かせてもらいたいと言うところなんだがな」

「おや?」

 

 鬼怒川カスミの前でしゃがみこみ視線を合わせる。

 

「貴様がそう簡単に捕まるとは思えない。鬼怒川カスミ温泉開発部部長。何を考えている」

「逆に聞くが、私がそこまで思慮深く見えるのかい?」

 

 温泉開発部は温泉が湧きそうならばどんな条件も無視して開発という名目で爆破して回るテロリスト集団だ。少なくとも数十回のテロの実績があり、それだけの実績を積み重ねられるほどには手馴れた人物であるはずだ。少なくともそのトップたる少女、鬼怒川カスミはそのカリスマ性をもって組織を統制している。

 

「貴様は優秀だ。理性というものがないだけで、それそのものは優秀さを否定しない。だからこそ、そう易々と捕まっておいて何も意図がないとは考えにくい」

「ありがとうと言うべきかな。それでも残念、買いかぶりだよ。私は交渉するために来たわけでも略奪に来たわけでもないんだ。ただ温泉を掘りたい。それだけだというのに。だが……そうだな、一つ目的を話すのであれば」

 

 鬼怒川カスミがにやりと笑う。背にぞくりとしたものが走る。

 

()()()()……だな」

 

 直後――――――爆発音。

 

 慌てて振り返る。フブキたちが突入していった公園内の森で火の手が上がっている。

 

「人生において『熱』は不可欠だ。そうは思わないかい? 狂犬カンナ」

 

 するりと耳朶(じだ)にそんな声が滑り込む。

 

「貴様……」

「言っただろう? ()()()()()()()()()と」

 

 両手にかかった手錠の鎖をピンと張るようにして見せるカスミ。その目の奥には狂気が見える。

 

「選びたまえ、尾刃カンナ公安局長。私の言うことなら作業班長他の温泉開発部メンバーも言うことを聞いてくれるかもしれないぞ?」

 

 

 


 

 

 

《SC班、エコーバック、エコーバック、エコーバック。先生から緊急撤退命令です。撤退してください》

 

 ユズの声がする。(エコー)バックの3連送信は正式な命令としての撤退指示だが、今引くわけにはいかない。目の前には今回の制圧目標のSRT特殊学園を離反した生徒たちの本丸がある。あれを落とすのが今回の任務だったはずだ。

 

退()いてください。このままじゃ退路が……エイミさん」

 

 今回の班員のコタマの声。わかっているけれどここでは退けない。

 

「先に下がって。後は私でやる」

「エイミさん!」

 

 暑いのは嫌だが、こんな横やりで効率を乱されるのはもっと嫌だ。正面に出てきた火炎放射器女をなんとかすれば前方脱出も可能なはずだ。

 

「えっとー……ここからどうすればいいんだっけ。ま、とりあえず撤去すればいっか!」

 

 目元のゴーグルを弄りながらそんなことをいう赤毛をポニーテールにまとめた火炎放射器女。火炎放射器を使うのに耐火スーツも使わず、ほぼ下着のようなチューブトップで胸丸出しなんてバカみたいではないか。もっともそもそも温泉開発部らしいゲヘナ生に理論や安全策を説くことそのものがナンセンスだろうが。

 

「というわけで、やけどしないうちに逃げて? なんだか面倒だし」

「それはこっちのセリフ」

 

 そう言いつつこちらも踏み切る。下草が燃え始めて煙がかなり出ている。相手の火炎放射器の射程は()()。火炎放射器から噴射されたゲル化ガソリン(ナパーム)はすぐには消えてくれず、どんどん火が付いた場所が増えていくことになる。故に長時間の戦闘は不可能であり、相手に可能な限り燃やさせないようにしながら片づける必要がある。

 

「おっとぉ!」

 

 火炎放射器女がこちらの動きに合わせて武器を振ってくる。火炎放射器は方向を変えてから実際にその方向に火炎が飛ぶまでのタイムラグがある。火の付いた燃焼剤が前に飛ぶ速度はそこまで速くない。

 

――――つまるところ、懐に飛び込めるのだ。

 

 前を開けっぱなしにしているジャケットを腕から引き抜き相手に向けてぶん投げる。投げる勢いで裾が広がって相手の視界を一瞬奪ったはずだ。

 

「うわっ!」

 

 火炎放射器女の驚いた声。それを気にせず銃を腰だめに構える。マルチタクティカルは12ゲージのショットガンシェルをたたき込める。この距離なら確実にダメージを入れられる。

 

 セミオートで引き金を引くと、顔に覆い被さるようになった上着を引っぺがしている途中の火炎放射器女にダブルオーバックが突き刺さった。

 

「いっ……たいなぁ!」

 

 好き放題撃たれるよりはと突っ込んできたらしい火炎放射器女をすんでのところで躱す。すれ違いざまにとりあえずで背中を蹴り込む。背後には鉄製のタンクとそこから伸びるチューブ。メーカー名は見えない。おそらく自作か改造か、そんなところだろう。危なっかしいものを使っていると思う。

 

 セミオートならばわざわざポンピングする必要も無い。この隙を逃すわけにはいかない。発砲。

 

「防弾……!」

 

 ま、あたりまえか。少なくとも片方には可燃物が入っているのだし防弾ぐらいはするか。

 

「せいっ!」

 

 しかたない。

 

 横薙ぎに振るおうとしたらしい火炎放射器を左手の甲で殴り返す。直接熱せられている部分では無さそうだが、高温になっている金属をもろに手で受けるのも危険すぎる。剥き出しの皮膚でそれを受けてしまうとそのまま肉が焼け付いてしまい戦闘が困難になる。可能な限り接触時間を短くするようにし、万が一焼け付いてしまっても勢いで跳ね返せるには、強く殴り返すのが一番良い。

 

 手の甲が痛い。深いところまでは熱は入っていないだろうからあまりひどいことにはならないだろう。ヒマリ部長に後でいい皮膚科かどこかを教えてもらおう。

 

 殴り返したことで火炎放射器女の腕が上方に弾かれ、相手のトルソーが無防備に晒される。その隙間に銃を突き入れるように突き出す。相手の鳩尾に銃口を叩き込み、身体がくの字に折れたところで引き金を引く。さらに数歩たたらを踏んでこちらに後頭部を差し出す形になった相手。その首の後ろに肘を叩き込んで今度こそノックダウン。

 

「うげ……」

「……あなた自身に用はないの。さっさとどこかに消えて」

 

 そう言い残して相手の本丸に飛び込む。……まぁ、こうなっていることは予想できていたが、もぬけの殻になっていた。

 

「……交通壕、こんなものまでいつのまに……」

「さぁねぇ……」

「フブキ? とっくに逃げたんじゃなかったの?」

 

 ススにまみれた制服で隣までやってきたのはフブキだった。安全なところに隠れておくといっていた彼女だが、なんだかんだ真っ先に戻ってきている。ぼーっとするのが好きな仲間だと思っていたのだが、真面目な子だ。

 

「逮捕権限あるの私とキリノだからね。止まるのを知らないイノシシねーちゃんだらけだとこっちがもたないの。これっきりにしてよまったく……で、飛び込むの? ここ? 絶対ブービートラップだらけだよ?」

「ほかに手がある?」

「だよねぇ……公務員って楽しいなぁ」

 

 フブキの嘆く声。そのタイミングを見計らって無線がオープン。

 

《エイミ、フブキも。北口側への撤退は困難だ。N32P3へ転進しSA班と合流してくれ》

 

 相手は先生。いつもと同じ速度、同じテンションで声をかけてくれる。このあたりのコントロールについて、これまで出会ったどんな人よりも先生は上手い。何を考えているかわからなくて怖い。

 

《もう命令無視はやめてくれよ。作戦指揮所(オペラハウス)担当全員の心臓に悪いんだ》

「了解」

「はいよー。キリノも心配だしそっちに回るよ」

《あと、ユズにはちゃんと後で謝っておくようにね》

「そちらも了解。あとで直接謝りにいくよ」

 

 そう答えてなんとか思考を切り替える。

 

《温泉開発部の人員は?》

「逃げられた」

 

 逃がした、の方が正しいんだけど、と口にしつつさっきまで戦っていた方向を見る。もうそこにはあの火炎放射器女の姿はなく忽然と消えている。おそらく彼女は実行犯に過ぎず、情報は持っていないだろう。

 

 姿を消したのは、おそらく時間稼ぎが終了したから。計画的な犯行と見るべきだろう。おそらくは先生も同じ事を考えている。

 

「……さて、第二ラウンド、いこうか」

 

 

 


 

 

 

 殴り合いには何が必要か。答えは簡単――――『眼』だ。より正確に言うならば、攻撃の初動を掴んでダメージを喰らわないようにできる観察眼とそれを見落とさない視野の広さだ。

 

「ちぃっ!」

 

 左ひじを取られるのを半ば力づくで相手を殴りかかるような動作で解除。相手の重心を崩すが、リカバリーのために相手もすぐに引きさがる。

 

(この子、異様に戦い慣れている……!)

 

 戦闘に必要なのは、眼。そういう意味でこの新田ジブリールという少女は無類の強さを発揮している。個々のスキル、例えば撃ち合いになった時の精度や拳銃のハンドリングの確実性といった面ではこちらに分があるものの、それをカバーできるだけの判断の速さがある。

 

 相手は飛び上がるような無駄な動作が一切ない。飛び上がっている間は身体のコントロールが効かない。狙い放題になるような間を作らず、地に足をつけ、正確に身体をコントロールしているジブリールは、さすがシャーレの先生が重用するだけあるということだろう。

 

「ちょ! ジブリール! 援護するこっちの身も考えてよね!」

 

 背後に回り込もうとしているらしいツインテールの子の声が飛ぶ。一瞬視線がそちらに持っていかれた瞬間、まつ毛を掠める位置をマチェットが飛び抜けた。ちゃんと峰の方から振ってくれているあたり、頭を輪切りにするつもりはないのだろうが、気分のいいものではない。

 

 その勢いのままバック転して間合いを外す。1ポイントスリングで吊っているRABBIT-31式短機関銃を引き寄せようとしたら射撃が飛んでくる。ツインテールの子からの射撃だ。数発喰らったが、セラミックプレート入りの防弾ベストに賭けてさらに飛ぶ。短機関銃が弾き飛ばされ怖くて使えない状況になった。

 

(2対1は分が悪い……!)

 

 さらに飛びのく。―――方向は、ツインテールの子の方だ。

 

「こっちにくるんかいっ!」

 

 勢いをのせて懐に飛び込み、相手の小銃のレシーバを上からつかむ。そのまま肘を相手の頬に叩き込み、銃をむしり取る。相手は抵抗らしい抵抗ができずにそのまま倒れた。綺麗に脳を揺らしたからあと5分は起きてこないはずだ。

 

「セリカ!」

 

 ジブリールが誰かの名前を呼ぶ。そちらに奪った銃を振り直す。ジブリールもライフルを構えていた。そのままお互いに動けず、沈黙が落ちる。遠くで木の燃えるぱちぱちという音がする。まだここが火の海になるには若干の余裕があるだろう。

 

 弾倉のインジケータを見るに弾丸は15発以上20発以下。この『セリカ』というらしいツインテールの子の弾倉まで(あらた)める余裕はなかった。刺さってる弾倉分しか撃てないが、何とかなるだろう。

 

《ほ、他の二人と合流しました、あとは、ミヤコちゃん、だけ……! 急いで撤退を……!》

 

 通信にそんな報告が入る。ミユの声が焦ったような声色になっている。こちらが見える位置にいるのだろう。大丈夫、ここで戦った意味はあった。

 

 そうか、RABBIT2と3がRABBIT4に合流できたというのは、文字通りの朗報と言って良いだろう。最低限の成果を上げることには成功したわけだ。

 

「もう少し運動をしていたいもので―――っ!」

 

 こちらの会話に乗らずにいきなり射撃してくるジブリール。慌てて飛びのくが、この子は背後で倒れる味方の安全確保とか考えないのだろうか。

 

「話ぐらい聞きなさいっ!」

「後で嫌というほど聞いてあげます」

 

 セレクタを操作して撃てる状況へ。ゼロイン距離がわからないが、この距離ならゼロインもへったくれもない。

 

 向こうがこちらに駆けながら、小銃を撃ってくる。突撃兵のような動き。こういう相手は嫌いだ。

 

 相手の肩口に弾が突き刺さる。それでも相手は止まらない。ストッピングパワーが足りてない? いや、おそらく気合でなんとかしているだけか。無茶をするものだと思う。

 

「こういうのはしたくなかったんですけど、ねっ!」

 

 非殺傷性グレネードに手を掛ける。ピンを抜かせまいと激烈に反応するジブリール。

 

 彼女の優先順位が分かった気がする。

 

「優しいんですね、あなたは」

 

 伸びた手を取り、そのまま背負い投げの要領で自分の足元に投げ落とす。その額に奪った銃を突きつける。

 

「……このセリカさんが爆風に暴露することを恐れましたか。貴女はコントロールできない力を恐れている」

 

 ジブリールにとっては、自身でコントロールできる銃撃よりも、反撃させることで銃口の向きをコントロールできる相手の銃よりも、全方位に拡散する爆風を恐れたのだ。

 

 グラスデバイス越しの透き通った瞳と視線が交差する。相手は無表情だった。

 

「人は反射的に脅威判定をする。相手の警戒心を利用すれば、相容れない相手でもコントロールすることは容易です。……特にあなたのように()()()訓練された相手ならなおさら」

 

 相手の銃を蹴とばし武装解除。ジブリールは諦めたのか抵抗しなかった。

 

「……あなたの言う通りですね、ミヤコ」

 

 ガラス玉のような目でそういうジブリール。

 

「人は反射的に脅威判定をする」

 

 パシン、という軽い音がした。反射でよけようと重心を後ろに回そうとして、足が動かないことに気が付く。そのまま後ろに倒れ込む羽目になった。

 

「当たった!?」

「キリノ、遅いですよ」

 

 足元で誰かが跳ね起きるような気配。慌てて体を起こそうとして、ふくらはぎが何かに締め付けられるような痛みが走る。抵抗する前にうつぶせにひっくり返されそのまま抑え込まれる。

 

「私もこれで警備局への道が!?」

「おそらくないでしょう」

「う……ジブリールさん毒舌……」

「そもそも、人質用のターゲットに百発百中なのですからさらに励みなさい」

 

 気の抜けた会話をしながらやってきたのはヴァルキューレ警察学校生活安全局の恰好をした警ら学生。

 

「……ボーララップですか」

 

 火薬でワイヤーを飛ばし、相手の手足に巻き付いて行動能力を奪う遠距離武装だったはずだ。そもそも銃を使うのがおぼつかないような幼稚園生や小学生低学年用の自衛武器に毛の生えたような装備で、それを正式採用している組織なんて聞いたことがない。

 

 声を出したことで気が付いたのか、生活安全局の生徒がこちらを見る。

 

「月雪ミヤコさん、あなたが最後です」

「……どういう意味です?」

「残りの3人は既に捕縛済です。……無線で確認されますか?」

 

 そう言われるも信じられない。じゃあ、あれは……

 

「RABBIT4」

《……ごめん、ミヤコちゃん……! あ、――――――はいはいミユちゃんはそんなベソかかないの。とりあえず、()()RABBIT小隊小隊長月雪ミヤコ学生はそのままおとなしくしてほしいなぁ。お互いめんどくさいのいやでしょ?》

「……RABBIT4に無理やり架電させましたね」

《そういうこと。いつかお詫びにドーナツでも差し入れるからさぁ》

 

 まるで世間話でもしているようなテンションでそう返される。銃を回収したジブリールが私を見下ろして静かに言う。

 

「詳しいことは取り調べ室で聞きます。アラタがあなたと会話したいと言っていますから」

 

 そうか、私は失敗したのか。

 

 そんな感慨がやっと浮かんできた。




ボーララップはリコリス・リコイルで時々出てくるあのワイヤーガンです。あんな連射できないけど……。

次回 結局のところ温泉開発部とはなんだったのか

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