マージナル・アーカイブス - 子供使い、先生になる - 作:オーバードライヴ
出来てしまったので連日投稿します。よろしくお願いします。
敵のアイコンがポップアップした。ロジコマの赤外線カメラから読み取った情報をアロナが表示してくれている。
「よし。ようやく接敵したな。ロジコマ隊そのまま前進」
タブレットに表示したマップで目標地点をタップして誘導をかける。動かすのは1キロ近く先行させていた2機。想定していた市街地は大分通過して、砂漠との境界にかなり近い廃工場のような空間まで来て初めて相手を認めた。この状況は背後を取られていそうでかなり怖い。水の予備は多めに持たせているので、最悪の場合砂漠側を通っても離脱はできそうだ。可能ならやりたくないが。
元々工場と鉄道駅かなにかがあったのだろう。かなり広い空間に線路の跡が残っている。地図には『(株)ミヤサワ鋼板』とあるので鉄板を使ったなにかの工場だったのだろう。よくこんな街中に工場があったものだ。南北に沿った谷の底を線路が走っており、その引き込み線が工場に入っている。工場内に侵入させたロジコマは南から北に向かう方向だ。
ロジコマは線路を跨いで前進。相手はキルゾーンをかなり内側にセットしているのか撃ってこない。やはりロボットの指揮は楽だ。万が一撃たれたらとか考えなくてもいい。撃たれてから考えるでも間に合うのに慣れるともう戻れなくなる。
「中央はそのままロジコマを通す。シロコ、セリカ、ロジコマをそれぞれ1機ずつつけるから敷地には入らず左右を迂回してくれ。ホシノとノノミはさらに迂回して線路の先に回り込んでくれ」
《うへぇ、やっぱりランニングになるのかぁ……》
「親玉はそっちに行きそうだから頼むね」
ホシノの嘆きを適当になだめつつ鉛筆を手に取る。アヤネが用意してくれていた地図にマークを書いていく。どんどん書いていく。
「アヤネ。ドローンで今書くポイントを確認して欲しい。おそらく対戦車ミサイルを持った部隊がいる」
「は、はいっ……!」
一応赤外線カメラで確認するが、さっきの人影の他に低層に人員を配置していない。工場の中か、すでに工場を破棄しているか。多分後者だ。
うん、やっぱり敵はバカじゃない。話がわかるタイプの指揮官がいる。さて、どう出るカタカタヘルメット団の雇い主。
「う、撃たないんですか……?」
中央のロジコマの射線に入らないように撤退するヘルメットをドローンで捉えたのだろう。アヤネがそわそわしつつ聞いてくる。
「撃つ必要が無い。そのまま下がってくれるならそれでいい。僕たちの目標はこの拠点の奪取と相手の後退であって、痛めつけることではない。それに、相手は斥候も兼ねてる可能性が高い。そのままロジコマに食いついてくれた方が他の子達の生存率も上がる」
「は、はい。ごめんなさい……」
しまった、威圧してしまったかと後悔するがそれ以上は言わないでおいた。そういえば横に誰かをおいて作戦指揮するのも久しぶりのような気がする。いや、ミャンマーに中国軍が攻め込んで撤退するかどうかの時に右往左往したときはいたか。それでも横で聞いてただけで作戦指揮に直接関わる面々ではなかったしなぁ。
そんなことを考えていると、アビドスの通信システムにノイズが走った。
《先生の読み当たってるっぽい。廃ビルの5階あたりにヘルメット団と……なんか変なパワードスーツを着た人が一人見える》
シロコは西回りで回り込んでいる最中のはずだ。位置をアヤネの端末から盗み見る。思ったより早い、というより、ロジコマが追従してない。おそらく廃墟をショートカットして進んでいたな。
「おそらくミサイルか対物ライフルがある。シロコはビルに入らず後退してくれ。あと、窓から何人見えた?」
《パワードスーツが一人、ヘルメット団が三人》
「オーケー。セリカ、おそらくそっちのビルにも同じように人が居る。西側に狙撃部隊が展開している。上方と西側からの射線に注意」
《うっさいっ! シロコ先輩からの通信でとっくにわかってるわよ!》
シロコの声を聞いて地図上のビルに鉛筆でマルをつける。場所はわずかな高低差の上に立てられたビル。5階建てで上からなら工場のかなりの部分を見渡せる。一方でセリカの方はまだ確認地点まで行き着いていない。こちらは真面目に動いていたらしい。
「セリカ……」
横で頭を抱えているアヤネだが、別に何の問題もない。予測を自分で立てて動けるのは問題ないし、こんな短時間で信頼を得られるとも思っていない。子どもは元気が一番だ。
《こっちもなんかビルの上で光ったのが見えた》
「セリカ、どのビルだい?」
《指示のあったビル! 東側の6階建ての5階!》
「わかった。工場はトラップでほぼ決まりだ。工場に入ったロジコマはこのまま暴れさせる。相手を引きずり出すぞ」
工場に入ったロジコマが攻撃を開始。カメラの画像を見ると機関砲の攻撃から逃げるヘルメット団の子達が見える。4……5、6、7、7人か。戦術単位Sといったところ。武装は軽装備だが散り散りに逃げている。奥に引き込むように逃げるものだと思ってたのに読みが外れた。奥に引き込んで工場ごと爆破というほど派手には爆薬も用意していなかったか。
《肩打ちのミサイルが見えた》
「セリカ、そのまま撃たせていい。ロジコマなら避けられる。おそらく数発撃ったらビルの外側にヘルメット団が逃げてくるはずだ。もしそれがヘルメット団だけだったらそのまま下げさせていいけど、パワードスーツか、明らかにヘルメット団じゃないのがいたら足止めしてくれ」
《なんでよ》
「そのパワードスーツがおそらくカタカタヘルメット団の
「あ!」
アヤネの声が横から耳に突き刺さる。
「ドローン落とされちゃいました。ポイント……E8の北東象限」
「E8NE了解。四号機防御陣形、シロコを守れ」
「え?」
アヤネの困惑より先にシロコにつけていたロジコマが前に出た。防弾板を展開すると同時に赤外線レーダーに反応。ロックオン警報。
アヤネの操作するドローンを相手が落としたかったのはシロコがマークしたビルに接近したからだ。こちらの動きが向こうに知られる。接敵から3分45秒、思ったより遅い。相手はこちらの戦力をアビドス高校の側で知っているはずなのに対応がちぐはぐだ。
《攻撃を受けてる》
「シロコ、適度に打ち返せ。四号機はそのまま盾にしていい。無理なら下がっていい」
《わかった》
「ノノミ、ホシノ、移動ポイントを変更する。シロコがマークしたビルが相手の
《あいよー》
《はーい》
無線の背後にハイテンポな発砲音が乗る。適度に打ち返しているが弾幕がキツい。工場に突入させたロジコマを一機派手に動かしてシロコの居る西側に寄せようとしたらロックオン警報が鳴る。セリカがマークしたビルから煙が伸びる。機動力を活かして回避しつつ、スモークを炊く。
「セリカ、撃つな」
《でもシロコ先輩の方が》
「撃つな。シロコ、そのまま45秒耐えろ。ノノミが射程に入るまでそのままだ」
《45秒ならおじさんたちも本気で走らないとだめだねぇ。無線切るよ》
釘を刺して正解だった。相手は工場に突入したロジコマと、司令部らしきビルに向かっていたシロコに夢中でセリカを認識出来ていない。しばらくそのまま伏せておきたい状況だ。
飛んでくるミサイルは散発的だ。おそらく在庫は潤沢ではないがそれでもしっかりと罠にはまって欲しい。というところだろうか。ミサイルの出所はセリカがマークしたビルだけ、というのも気になる。
《おまたせしました~!》
ノノミの声と共に大量の弾丸がシロコをピン止めしていた司令部の5階の戦闘員に突き刺さる。ミニガンの破壊力は絶大だ。思わぬ方向から射撃された相手は頭を下げるしかない。つまりその瞬間、シロコはノーマークになる。
「シロコ、そのまま西側に回れ。敵は撤退に入るはずだ」
《なんでそう言い切れるのよ!》
「相手は罠を外した。ここに拘る理由もない以上撤退するだろう。セリカ、そっちもそろそろ来るぞ》
《だからなんで、って、毎回当たるの気持ち悪いんだけど! 戦闘開始ッ!》
スパイじゃないでしょうね! と言われて苦笑いを浮かべるが、それと同時に五号機との通信が切れた。盛大に工場が爆発している。うん、やっぱり仕込んでいた。生徒を突っ込ませなくてよかった。
「先生はこうなるって、わかって……?」
「本当に爆破してくるかは自信なかったけど」
そう言うとアヤネの顔が青ざめている。まぁ、窪地にある工場で周囲に見下ろすビルがあれば当然警戒するだろう。そういえば僕がタジキスタンで無職になった時の戦闘もこんな立地だった。その時は僕たちが撃ち下ろして攻撃する側だったからその経験が活きたのかも知れないと今更ながら思う。
そんな感慨にふけってる余裕なんて無く戦闘は続く。セリカはなかなか筋が良い。玄関からのこのこと出てきたヘルメット集団を一掃している。裏口からおそらく何人か逃げているだろうが、そちらはまぁ、逃がせばいいだろう。
《はいはい、先生。あのパワードスーツは
「無茶はするな。もう少しでシロコが背後に回る」
カリッというマイクのオンオフのノイズ、おそらく了解の意味でホシノが無線機を鳴らした。ロジコマを使ってヘルメット団の人員とパワードスーツを引き剥がす。引き剥がされたヘルメット団の人員はノノミが一掃した。シロコが追いつく。パワードスーツはシロコとホシノがそれぞれの射線に入るように移動し一瞬牽制しホシノの方に何かを投げつける。ホシノはそれを受けずに横に避けると赤いスモークが広がった。
《うわっぷ! なんだこれ》
「有毒の可能性がある。距離を取れ。シロコ、援護」
《わかってる》
その間にものすごい速度で走って逃げるパワードスーツ。すごいな、60キロ以上出てるぞ。砂漠を走ってどこに行く気だとは思うがシロコにつけてたロジコマを射撃させつつ前進させる。すぐに弾倉が空になったがとりあえず前進させようとするが、砂漠の入り口で止める。本格的な砂漠で高速度の追撃戦をやるにはロジコマのタイヤでは無理だ。エンジニア部に今度オプションをなんとかできないか聞いてみよう。
「ホシノ、大丈夫かい?」
《たぶん胡椒かなにか、催涙弾かなこれ?》
「水でしっかり薬剤を流して。抗生物質もあるから腫れるようなら手当てしよう」
《そこまで大げさじゃないけどねぇ。セリカちゃんの方はどうなった?》
《無傷! だけどごめん、スーツっぽい影が見えた気がするけど逃しちゃった》
そちらにもいたか。それに少し驚く。パワードスーツが即時撤退した以上、アレが情報を持ってる別組織の人間だと思ったが、別の場所に分けている理由は何だろう。少し考えるが思いつかなかった。
「砂漠にスーツね。目立ちそうだけど、何をしにきたんだろうね」
《それ先生が言う?》
セリカに突っ込まれた。……まぁ、僕も似たようなものだな。うん。
「でもまぁ。とりあえず怪我がないなら良かった。とりあえず戻っておいで」
《ふぃ~。無駄足だったねぇ》
ホシノはそんなことを言う。
「そうじゃない。相手の目的はわからないけど、手段はわかった。こっちの被害はロジコマ1機全損で済んだんだ。とりあえずはヨシとしよう。いろいろ確認しなきゃいけないことがある。もどってきてもらって、校舎で直接話したい」
《りょうかーい。じゃあ、戻ろうか》
「ホシノは顔をしっかり洗ってからだ。帰りを待ち伏せされている可能性もある。十分警戒してほしい」
《はいはーい》
無線が切れたのを確認してため息をつく。なんだか久々の感覚で目元が凝ったので揉んでいると、横で息を吐く音がした。そちらを見るとなぜかキラキラとした視線を向けてくる女子高校生が一人。
「大人ってすごいんですね……ドローンが落ちてからロジコマちゃんのカメラしか情報無いのに……」
「そうかい? 僕の場合は良くも悪くも慣れてしまったからね」
そういいながら情報を整理する。
「相手の指揮官の頭は悪くないみたいだ。今の指揮官がずっと相手だといいんだけど」
「え? 敵の頭が良い方がいいんですか?」
「少なくとも戦争をするにはね。頭が良い敵ほど良い敵だ。ちゃんと交渉ができるから被害を最小化できる」
そう言って肩をすくめる。とはいえ、だ。
「どうも敵の動きがちぐはぐだ」
「ちぐはぐ……というと……」
「練度もバラバラ、攻撃には一貫性があまりないように感じる。ロジコマが2機しか突っ込んでこない時点で迂回されていることを考えるし、そうなればシロコやセリカはもっと早い段階で見つかるはずだ。でもそうならなかった」
アヤネの頭上に大きな「?」マークが浮かんでいるように感じる。
「戦術的に不合理な動きをしている場合、敵に何か制約があると考える。ヘルメット団が使えたかは別として、火薬の量は潤沢だった。補給の問題が除外されれば、情報連携の問題か、政治的な判断か……」
アヤネの方をじっと見る。焦った様子のアヤネの視線はホワイトボードに向いた。補給物資の一覧と、謎の数字。
「……何か、話してないことはないかい? アビドス高校が攻められるに足る、なにか。心当たりはあったりしない?」
「えっと……。ごめんなさい。ホシノ先輩達が戻ってから、話します」
「君の一存では話せない事なんだね? わかった。ありがとう」
「ごめんなさい。でも……私たちには、ちゃんとしたオペレーターが、先生が必要なんです」
そう言って目の端に涙を貯めるアヤネ。あぁもう、死後の世界でも子どもを泣かせるのか僕は。
「あーアヤネ、そういうときはオペレーターでも先生でもなくて、大人が必要だって言うんだ」
僕が
その時も確か、こんな戦いをした後だった。
生徒をいまいち使いこなせない先生と、先生をいまいち信頼し切れていない生徒たち。
この先多分子どもにだだ甘になるアラタ先生しか出てこないだろうから今は許して……
次回 襲撃の表と裏と
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