好感度MAXのウマ娘たちがお気楽トレーナーを落とす話   作:渚 龍騎

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申し訳ありません、体調不良でこの数日間大分やられておりました。
これにてメジロラモーヌのお話は終わりになります。

あとついでに宣伝です。ナリタトップロードがトレーナーの為に夢を叶える話を短いながら書いた新作です。最終回間近なので是非読んで行って下さい。
あなたとなら、きっと超えられる


あの遠い夜の宙で

 

 

 

「姉様、誕生日おめでとうございます」

 

 

 

 美しい装飾のドレスを身に纏ったメジロアルダンが、今回のパーティーの主役であり、自身の姉であるメジロラモーヌに祝いの言葉を贈る。すると、メジロラモーヌはゆっくりと振り返って微笑んだ。

 振り返る所作の一つでさえ、あまりにも美しい。妹でもあるメジロアルダンでさえも、思わず見惚れてしまった。

 呆けてしまっていたメジロアルダンの頬に手を添えて、メジロラモーヌは「綺麗ね」と声を漏らした。

 

 

「ありがとう、アルダン」

 

 

 そう言って、メジロラモーヌは踵を返す。その背中はどこか寂しげで、儚いものがあった。それの正体を分かっているからこそ、メジロアルダンには辛くて仕方がない。

 

 

「姉様、どこに……?」

「少し風に当たって来るわ。酔いが回って来てしまったのね」

 

 

 そんな訳がない。あの姉が酔ったなど、天と地がひっくり返っても有り得ないことだ。自分の限界も、自制心も理解しているからこそ、酔うことは有り得ない。

 明らかな嘘である。妹に見抜けないものですらなかった。

 

 

「姉様……」

 

 

 メジロラモーヌの後を追いかけ、メジロアルダンは彼女の横に立つ。大きく開かれた窓の縁に体重を預けて、メジロラモーヌは淡く昇った月を見上げた。

 

 

「私、本当に弱くなったわ」

「そんなこと、ないですよ」

 

 

 珍しく弱気になっている。いや、初めて見た。事情を知っているメジロアルダンにだけ見せている、メジロラモーヌの弱さだった。

 それだけ彼という存在は大きなものだった。彼がフランスという舞台に行ってしまってから数年──彼が帰ってくることもなければ、連絡すらもない。恋する乙女にとっては、大ダメージだ。

 

 

「でも連絡すらないのよ?」

「仕方ありませんよ。トレーナーさんは凱旋門賞で快挙を成し遂げるほどの人になりましたから。忙しくて返す暇がないのですよ」

 

 

 彼は、大きな人になった。

 私の中だけでなく、世界に注目される人となった。

 それだけ彼は、偉大で、手の届かない存在になってしまった。

 人は、自分の存在が大きくなると過去の小さなことを忘れてしまう。人は傲慢で貪欲な生き物だから。さらに大きな欲望を求める。

 もう、彼の眼中や心に私という存在は消えてしまったのかもしれない。そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられた。

 

 

「はあ、彼が嘘をつかないというのは分かってる。けれど、あの日々が忘れられなくて、ただ愛惜(あいせき)の念が溢れていくばかりだわ」

 

 

 淡い月光が、メジロ家の屋敷を照らす。パーティーの灯りから逃れた二人の影は月夜に映され、少し肌寒い空気がお互いの体温を撫で去った。

 なんて声を掛けるべきなのか、メジロアルダンには分からなかった。

 

 

「初めてよ、こんな無力感を味わうのは。私にできることはなにもないのかしら」

 

 

 声色こそ平然を装っているが、月を見上げる表情が哀しさを物語っている。メジロアルダンはメジロラモーヌの横に並び、彼女の置く手に自身の手を重ねた。

 

 

「トレーナーさんを、好きでいることもできませんか?」

 

 

 妹が僅かに首を傾けてそう言った。

 メジロラモーヌは目を伏せる。そんなこと、彼を想い始めてから一度も変わったことがない。寧ろ、あの日の約束からこの想いはより堅牢なものになっていた。

 いまさらメジロアルダンとは慚愧する仲でもない。反駁するわけでもなく、メジロラモーヌはふるふると首を振った。

 

 

「それは、できるわ……」

「できること、あるじゃないですか」

 

 

 メジロアルダンはそう微笑んだ。

 その笑みを見て呆気に取られたメジロラモーヌは、この日初めて心の底からの笑いを溢した。そこにあったのはいつもの精悍な表情(カオ)ではない。本心から笑う姉の星のような笑みだった。

 

 

「本当に、あなたも変わったわね」

「私はただ、姉様には笑っていて欲しいんです」

 

 

 心からの言葉だった。

 妹としても、姉には笑っていてほしい。だからこそ、メジロラモーヌの恋を影ながら応援していた。だが、今回はそれだけが理由ではない。もう一つ、姉には隠していた理由があった。

 メジロアルダンはメジロラモーヌの目を見て「それに」と微笑んだ。

 

 

「トレーナーさんと会うなら、笑っていないとダメですよ?」

 

 

 きょとん、と音が鳴った気がした。

 呆気に取られるメジロラモーヌ。鮮やかに笑って見せるメジロアルダンが、ゆっくりと人差し指を立ててそう言うと、メジロラモーヌの背後に立った。

 視線をメジロアルダンへ、彼女は背後で何かを隠すように姉の前に立っている。そしてゆっくりと横に避けた時──メジロラモーヌは目を見開いた。

 

 

「ど、どうして……ここ、に……」

 

 

 そこには、彼が立っていた。

 いるはずのない彼──トレーナーが立っているのだ。約束を交わし、フランスに旅立ったはずの彼。その彼が、綺麗な装いをして微笑んで立っていた。

 困惑を隠し切れていないメジロラモーヌは、自分の口を手で隠した。ゆっくりと歩み寄り、横に立ったトレーナーの姿を確かなものだと理解しながら、感情の箍が外れていくのを感じた。

 

 

「ただいま、ラモーヌ」

 

 

 その言葉で、一気に感情の波が溢れた。

 飛びつくようにトレーナーを抱き締める。それに驚いたトレーナーが「おおっと」と声を漏らすが、直ぐに彼女の背中に手を回して優しく抱き留めた。

 胸の中で、メジロラモーヌが啜り泣く声が聞こえた。

 

 

「まったく、遅いわよ……っ」

「ごめんね」

 

 

 今まで溜め込んで来た感情が、一気に外へ流れ出す。ずっと押さえ込み続けて来た想いの波を、トレーナーは正面から受け止めた。

 メジロラモーヌの頭に手を乗せ、美しい青鹿毛の髪を柔らかく撫でる。宥めるように、そしてあやすように。

 

 

「そんなに俺が恋しかった?」

 

 

 久しぶりの再会ではあるが、彼女の弱さを改めて見ることができた。それの所為で悪戯心が芽生えてしまい。そんな言葉が出てきた。

 うるさい、そんな言葉が返ってくるかと思った。

 だがメジロラモーヌは、トレーナーの胸の中でゆっくりと頷いた。

 弱さを見せてくれる彼女の姿に微笑み、トレーナーは後ろの方で立っていたメジロアルダンに視線を向け、感謝の意を伝える。すると彼女は笑顔を浮かべ、口パクでなにかを言った。

 

 

 

 ────あとは、ご自由に。

 

 

 

 と、それだけを伝えてメジロアルダンは屋敷の中へと消えた。 

 ここからは本当に二人の時間だ。

 拓いてしまった二人の数年の寂しさを、これからを掛けて埋める。胸の中で静かに鼻を啜るのが聞こえ、トレーナーは抱き締める力を僅かに強く込めた。するとメジロラモーヌはトレーナーの胸で口を開いた。

 曇った小さな声に耳を傾け、言葉を待った。

 

 

「なぜ、連絡をくれなかったの?」

 

 

 それは空白の数年に対する不満と疑問だった。

 トレーナーは嘘偽りなく彼女の尋問に答えた。

 

 

「君のことしか、考えられなくなるから」

 

 

 背中に回された彼女の腕に力が入った。

 

 

「もっとマシな嘘を言いなさい」

「至って真面目な答えだよ」

 

 

 額をぐりぐりと押し当てられる。だから、メジロラモーヌの後頭部の辺りに手を添えて受け止めた。

 次から次へと吐露される彼女の言葉をすべて抱き留める。ぽっかりと空いてしまった心の穴を埋めるように。傷ついてしまった心を癒すように。彼女の為に心身を捧げた。

 ずっと寂しかった。

 ずっと会いたかった。

 ずっと話したかった。

 メジロラモーヌから告げられる想いすべて頷きながら、彼もまた同じ想いを馳せていた。

 

 

「ラモーヌ」

 

 

 永久に感じる時間をかけて、トレーナーはゆっくりと彼女を離す。互いの顔が認識できる距離まで離れた時、メジロラモーヌは慌てて自分の顔を隠した。

 

 

「なんで隠すの?」

「見せられないわよ……」

「──()()()()()()()()()

 

 

 かつて、初めて弱さを見せた時の言葉。メジロラモーヌは目尻に浮かんだ大粒の雫を拭って、ゆっくりと顔を上げた。

 淡い月光に照らされた彼女の頬は仄かに朱に染まっていて、寂しさが辿った軌跡がまだ残っていた。そこでトレーナーはゆっくりと歩み寄り、片膝をついてメジロラモーヌを見上げた。

 向けられたその双眸は、月夜の灯りを塗り潰すほどの覚悟が輝いていた。

 

 

「どうしてここに、って君は言ったよね」

「それは、貴方がここにいると思わなくて……」

 

 

 そう、咄嗟に出た言葉だった。

 だがトレーナーは、そんな反射的に発せられた言葉にさえも覚悟を見せる。ポケットから小さな白い箱を取り出し、それをメジロラモーヌに向けて開いた。

 

 

 

「──君を退屈から、救いに来たんだ」

 

 

 

 箱の中には、指輪が入っていた。

 かつて言われた言葉に、メジロラモーヌは思わず口を抑える。トレーナーの見せた覚悟の意味を理解した時、押し込んだはずの感情が波のように溢れ、涙となって軌跡を描き始めた。

 声にならない声が、抑えた指の隙間から漏れた。

 トレーナーは照れ臭さすらも見せない。それだけ彼の想いはより堅牢なものとなり、覚悟として昇華していた。だから、もう既に彼の心に迷いなど存在していなかった。

 

 

 

「──俺と、結婚してください」

 

 

 

 彩りもなく、飾ることもなく、彼なりの真っ直ぐな言葉で、数年間も抱き続けた想いを吐いた。彼の表情は驚くほど優しい笑顔だった。

 嬉しさを堪え切れずに、メジロラモーヌが自分で抑えた口元の手に涙が流れ続ける。嗚咽すらも空いた口から漏れ始めて、メジロラモーヌは顔を覆った。

 

 彼からのそれ以上の言葉はない。ただ、待っている。メジロラモーヌが自分のタイミングで、自分からの言葉を発するのを待っている。だから、メジロラモーヌは何度も涙を拭った。

 深呼吸を繰り返して、早鐘を打つ鼓動を落ち着かせる。彼の覚悟に毅然とした態度で答える為に。彼が覚悟を見せてくれたように、自分もまた覚悟を示さなければならない。

 

 それでも、嬉しさは隠し切れなくて────、

 

 

 

「──ええ、喜んで」

 

 

 

 左手を差し出すと、更に口角を上げて微笑んだトレーナーが左手を取って、その白魚のようなしなやかな薬指に指輪を嵌める。サイズはぴったりだった。左手薬指に嵌められた指輪に触れ、メジロラモーヌは思わず笑みを溢していた。

 トレーナーは横に並んで、メジロラモーヌの手を握る。そして互いに顔を見合わせると、二人は約束を交わしたあの日と同じ月を見上げた。黎明の如き輝きを灯した月が、夜空で一際大きな存在となっている。無数の星々が花のように咲く中で、夜闇を切り裂く光があった。

 

 

「あ、流れ星だ」

「珍しいわね」

 

 

 幾つもの星が、光の尾を引いて降り注ぐ。それは人々が願いを乞う銀色の流星。星降る夜から視線を落とせば、メジロ家の庭が一望できる。色鮮やかな花々が、夜空の星に負けず咲き誇っていた。

 天と地、星と花。星が花に降り注ぐ──そこはまるで、花と星を繋ぐ(そら)のようだった。

 二人は互いに手を握り締める。かつて小指で結んだ約束は、指輪となって薬指に結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 抱いていたその想いを、君に捧ぐ。

 待っていたその未来を、貴方と共に。

 

 

 

 

 




これにて『好感度MAXのメジロラモーヌがお気楽トレーナーを落とす話』は終わりになります。
長い間、本当にありがとうございました。
半年以上の期間が空いても日間ランキング5位まで上ったりと、本当に皆様には感謝しかありません。これを終わらせられたのは皆様のお陰でございます。
このラモーヌの話を終わらせることができて本当に良かったと安堵しています。デアリングタクトを出してみたりと色々。
本当にありがとうございました。


そしてアンケートの話になりますが、思っていた以上の声があり、こちらの方もありがとうございました。これからどうするのかはまだ悩んでいる次第です…他の好感度MAXのウマ娘を書くのも良いなと思う反面、アンケートでもあった別に分けた方が良い気もしています。
なので『続けて欲しい』という声が多かったらタイトルを変えて続けようかと思います。ただ、誰をやるのかは私の好きなウマ娘になってしまいます。そこをご了承ください。

ここまでで満足って方は、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。またいつの日か出会えたら、読んで頂けると嬉しいです。
それでは皆様、『好感度MAXのメジロラモーヌがお気楽トレーナーを落とす話』は完結でございます。ありがとうございました。

感想評価があればぜひ。
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