さて。話題に出来そうな日記の内容は、残り僅か。いよいよ、あの話題に入ることとなる。
それは、三年生への進級式と、卒業式のあった日の話だ。
たった1日の話。だけれど僕にとってあの日は、とても濃厚な1日だった。それも、学園生活でもトップレベルの。
「というわけで、この日記を元にした思い出話、最後の話題になるよ」
「うむ、ついにあの話だな」
「ふふっ。とても騒々しくも、楽しい1日でしたね」
「期待を煽るねぇ。んで、何があったん?」
「その日は――姉さんの許可が降りた日なんだ」
――――――――――
さあ、いよいよこの日がやってきた。
姉さんの予測では、「この日までに周囲の信頼を十分得られていれば恐らく問題ないだろう」と、入学前に言われていた日。
「改めて聞くけど。姉さん的に、やっぱり今日なら問題ない?」
「うむ、すでにネイ先生殿に報告済みだ」
台詞がひとつ飛んでいる気がするけど。つまりは、姉さん判定で問題ない、という事だろう。
「了解……はあー。これで、だいぶ肩の荷が降りそうだよ」
「重荷だったか?」
「そこまでじゃないけど。それでも、みんなを騙してるみたいで、心苦しくはあったかな」
「信頼は十二分に勝ち得ている。それに、優輝は嘘は口にしてはいないのだから、騙してなどいないさ。常に品行方正だったし、バレるような行動もしていない。故に問題は一切ない」
「それでも何人かにはバレたけどね。言いふらすような人達じゃなかったから良かったけど。それと……」
「何か懸念があるのか?」
「……無いと思う?」
本来は、精々クラスで明かして他クラスの友達にも明かす、程度を予定していた。けど、生徒会長になってしまっている現状、全生徒に誠実さを示さないといけない。
今日の式の最後。生徒会長権限で特別に枠を取っている。
つまり。全校生徒に、僕は僕の秘密について公開する。姉さんでも予想外のトラブルが、起きないはずがない。
『これにて進級式・卒業式を終了致します。ですが式の最後に、生徒会長からの発表があります』
さて、ついにこの時が来た。どんな反応が出るか、出来るだけ拒絶されませんように……と考えながら、演壇に向かう。
『お世話になった三年生の方も、今日で卒業となりました。今後私と直接お会いする機会は少なくなる事でしょう。ですので今日この日に、私が秘密にしてきた事を公開したいと思います』
「秘密?」「秘密くらい誰にでもあると思うけど」「わざわざ全校で明かすって、なんだろ……?」
ザワつく中、そんな疑問の声が聞こえてくる。
『明かす前に。ここが栄陽学園であり、男女平等という国自らが特別に認めた治外法権的校則があるからこそではありますが、それを盾に行動したところもあります。ので、あらかじめ謝罪させていただきます。騙すような行動を取ってしまい、申し訳ありません』
事前の謝罪の言葉に、会場内はさらにザワつき、様々な憶測の声が上がる。聞こえてきた予想には惜しいものもあったけど……まあそれはともかく。
数秒置いて、深呼吸もして自身の気を鎮めてから、秘密を公開する。
『こんな
端的ながらハッキリと言い切り、お辞儀をする。
『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
……数十秒の長い静寂の後。
『ぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?』
割れんばかりの驚嘆の声が会場内に響き渡った。タイミングを見計らって手で耳を塞いだけど、それでも少し耳が痛い。
「え、冗談だよな?」「ドッキリ……じゃない!?」「ウゾダ……ウゾダドンドコドーン!」「でもユキ会長が嘘つくとは思えないし!」「いやでも女の子にしか見えないわよ!?」
続けて、さまざまな混乱の声が上がり、会場は混沌と化しかけたところで、
「だからなんですか! 男の子だろうと女の子だろうと、私は優輝さんが大好きです!!」
『!?』
一際大きなその声で、場は再び静寂に包まれた。
声の主は、ヒロだ。あの引っ込み思案だったヒロが全校生徒に対して堂々と啖呵を……と感慨深く思ったけど、
「ていうかほんと大好きです!! 私と恋人なお付き合いをして下さーいっっ!!」
「ヒロ!?」
続けての大胆過ぎる告白は、予想だにしてなかった。ヒロってばいくらなんでも度胸付きすぎじゃあ……
「わ、私だって大好きよ!! 結婚を前提としたお付き合いを申し込むわ!!」
「「サチさん!?」」
油断していた所にまさかの追撃! いやまあ二人が僕にそういう意味での好意を抱いてるのは気づいてたけれども。それでもこの展開は、予想外にも程が……
(……動揺し過ぎて逆に冷静になってきた)
ていうか、僕の驚きの台詞と丸かぶりだった声、金堂先輩だったな……去年卒業したはずなのになんでここにいるんだ。ストーカーかな?
「俺も好きだ!」「まぁ中性的なとこあったし、ユキ会長なら許せるわ」「似合ってるから問題ないな」「ユキ会長だったら男でもイケるわ!」「リアル男の娘ヤッターー!!」
続々と肯定の声が上がった。
内容は……まあ、うん。十人十色ってこう言う事だよね。あはは……
会場の興奮がなかなか収まらないので、僕とついでに姉さんは、緊急脱出ルートを使って生徒会室へと避難した。
その間、校内放送でネイ先生が、
『昔から優輝ちゃんの事を知っている、私が保証します〜。間違いなく彼女、いえ、彼は、男の子です〜』
と、僕の公開内容に嘘偽りがない事を保証したり、学園長先生が、
『彼は大変模範的な生徒であり、校則を違反した事はありません。校則には男子が女子用の制服を着てはならないという記述は一切なく、当学園ではすべてのレストルームが――』
長いから割愛するけどこんな感じに、僕が学園生としても生徒会長としても問題行動を起こしたことのない模範的な生徒だと擁護する放送をしてくれた。
「姉さんの目論見……もとい、予想通り、否定的な人はほとんどいなかったね」
「うむ。これまで優輝が生徒会長として築き上げてきた信頼ゆえだ」
それでも、少数ながら拒絶の意を表す人もいたけど、それもまあ当然だ。本当の性別を隠していた……とはちょっと違うのだけど、バレないように振る舞っていたのは事実だし。
しばらくして。
「いやぁマジビックリしたわー。私達の卒業に合わせてとんだサプライズをしてくれたものね、優輝さん! ロックだわ!」
「中性的だとは思ってたけど〜、やっぱり信じられない気持ちは、あるかな〜」
まず、元生徒会役員組で今日で卒業の真貴さんまひるさんがやって来て感想を言われた。
「私は結構前に気付いていましたし、いつかみなさんに明かすとも思っていましたが……今日を選ぶとは思いませんでしたわ」
「ユキ会長はとってもとってもお優しいから大好きです! だから、男だろうと女だろうとミク的には問題なしっですです!」
さらにしばらくしてから、現生徒会メンバーも来た。
「ユキ会長! ご意見ボックスが!」
そう言ってジョシュア君が持ってきたご意見ボックスは、投書がパンパンに入っていた。当然、僕が明かした秘密に対する投書だろう。
さて。どんなご意見が寄せられているやら……すぐに外の騒動は収まらないだろうし、時間潰しもかねてさっそく開票してみる。
「せっかくだから手伝わせてよ、学園生活最後の思い出としてさ」
「マッキーに同じく〜」
「ありがとうございます、じゃあお願いしますね」
という訳で、どんな意見が来たか手分けして確認して、内容で分類分けもしてもらうことにした。
ご意見ボックスの投書用紙に書く欄は、学年、性別、要望内容の三つだ。名前まで書く人もたまにいるけど、大体の人は匿名で出している。
今回仕分けした中で、名前が書いてあったのは一通のみ。
「飯屋峰 王者。性別など関係なくお前は我が第一夫人だ、婚……」
そっ閉じして、机の端にやる。
さて。投書の内容は大まかに分けて3種。否定的なもの、男子の肯定的なもの、女子の肯定的なものだ。
その内否定意見は少数で、約10通程だ。
えーと……
「俺を騙していたんだな!」……ごめんなさい。
「生きる意味を失う」……いやいや重いな。
「最低」「変態」「痴漢」「女装野郎」「生徒会長辞めろ」
など……うん、まあ。こういう意見が全然なかったらむしろ怖いから、ちょっと安心した部分もあるけど。それでも攻撃的なものを見ると、やっぱりちょっとグサリとくる。
でも、大多数は受け入れてくれる内容だった。
男子の意見は、
「ユキ会長が、実は男の子。何の問題ですか?」「何の問題もないよね」……筆跡が違うから別人なのに、なぜ会話になっているのか。
「全然使える」「変わらず使う」……何に?
「男の娘大好きなので俺と付き合って下さい」「ついてる方がお得」「触診せねばならぬ」「結婚したい」「心太」「舐めたい」
などだ……なぜ男子からなのに身の危険を感じるモノが半数近くもあるのか、コレガワカラナイ。
ホントナンデカナー……(遠い目)
女子の意見は、
「女の子が好きなんだけど、ユキ会長ならイケる。試してみたいわ」……何を?
「女の子から見ても、見た目も言動も女の子にしか見えないから問題ないです」「裸を見た事ないし、見た目完全に女の子だから気にならない」……複数人から言われると、一応男の子だから複雑な気分……
「更衣室で1人用テントで着替えてたし、こっちの裸も見ないように気遣ってたの知ってるから、許せます」「視線がその辺の男子と違ってエッチくないのが好印象」……はい、その辺りはかなり気を使ってました。
「男の娘大好きなので私と付き合って下さい」「裸を見ないと確信できないから是非見せてください」「触診しなければならぬ」「襲いたい」「結婚しよう」「舐めたい」
など……男子程じゃないけど、こっちも身の危険を感じるものが結構あった。ヤダコワイ。
そして、男子女子両方の半数を占めていたのが、
「可愛いは正義」
だった。
「つまりは優輝は最強、ということだ」
らしい。
「ほんと、ありがたいことだね……ふう、信頼を得られてて良かったー……」
姉さんが保証してくれていたとはいえ、やはり見える形で来るとより安心出来る。
……なんというか。ここまではまだ大人しめでよかったんだけど……問題はこの後起こった。
『お呼び出しします〜。生徒会長の水城 優輝さ〜ん。至急訓練棟までお越し下さ〜い』
……ネイ先生から校内放送で呼び出しがかかった。まあそれ自体はいい。問題は場所だ。
例年通りなら、卒業生含む多くの生徒は、訓練棟で在校生との別れを惜しんで雑談に興じているだろうし、今日は僕が爆弾を落としたのでちょっとしたお祭り騒ぎになっている可能性がある。
その予想通り、ネイ先生は続けて言った。
『続けて、卒業生含む全校生徒にご連絡です〜。今から約10分後、優輝さんを賭けたバトルロイヤルが開催されます〜。参加希望の方は、是非いらして下さ〜い』
「……。は?」
いや、ちょっとどころじゃなく、かなり予想と違った。ていうか、どうしてそうなった。