優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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優輝の秘密大公開・後

 会場に戻ると、壇上に咲さんと月影ちゃん、それに目的のネイ先生がいたので、すぐさまそちらに向かった。

 

「くすっ。行ったり来たり忙しいですね、優輝さん」

「……ん……お疲れ様、です……」

「ええまあ、予想以上に……」

 

 卒業生には、二年生だけど守護者(仮)になった月影ちゃんも含まれている。月影ちゃんも今日で学園卒業だから、新たな守護者の門出を祝福するため、咲さんも式に参加していた。

 

 それはそれとして。今の問題は、僕を賭けたバトルロイヤルとかいう、意味不明な催し物についてだ。

 

「待ってましたよ〜、優勝賞品さ〜ん」

「違います。ともかく事の経緯を教えて下さい」

「はいは〜い」

 

 ネイ先生の話によると。このお祭り騒ぎの原因は、なんとヒロとサチさんだった。

 

 事の発端としては、まあその……僕の性別について、議論が白熱したことによるらしい。

 

 

 

 

「結局のとこ、ユキ会長は本当に男の娘なのか?」

「ああ、口ではなんとでも言えるよな」

「男避けのための方便かもしれないし」

「となると……やっぱり直接確かめないと、だね」

「直接って?」

「そりゃあ……見せてもらうか、触らせてもらうか」

「……誰が?」

「…………」

「…………」

 

 

「「「「………………………………………………」」」」

 

 

「こっ! ここは親友代表として是非私がっっ!!」

「……抜け駆けさせると思う?」

「……立ちはだかると思いました、幸子さん。雌雄(しゆう)を決する必要がありますね……優輝さんの(メス)(オス)を確かめる権利のために!」

 

 誰が上手い事を言えと。じゃなくて。

 

 とにかく。そんな感じで、「水城 優輝は本当に男の娘なのか」を誰が確認するか、で対立が発生したらしい。

 

 で。

 

「優輝さんの初めては、私のモノですっ!」

 

 いや言い方。

 

「それはこちらの台詞よ、ヒロ。絶対に譲れないわ」

「いやあ、そこは男同士で確認すべきだろ! ぐへへ……」

「な、なんて卑劣な! 汚い野獣なんかにユキ会長の初めてを奪わせる訳には!」

 

 とかいう流れで睨み合いに発展したらしい。もうすでに頭痛い。

 

 そしてそれを見学していたネイ先生、閃く。

 

「ふむ、話し合いで収まる雰囲気ではないですね〜……ならばぁ〜! 優輝さんの初めてを賭けたバトルロイヤル! 開催しま〜す!!」

 

 

 

 

 いやいやどうしてそうなった。ていうかネイ先生の一言で開催されてるし。

 

「なんで止めるどころか後押ししてるんですか……」

「え〜、だってぇ、面白そうじゃないですか〜」

 

 この人教師です。まあ「栄陽学園の」って修飾語付けちゃうと、むしろ残当なんだけど……この学園、教師も生徒も自由過ぎる。

 

「優輝っなんだか面白……大変な事になっちゃったねぇっ」

「信頼され過ぎたのと、愛され過ぎちまった結果だよなー」

「ユキさん……くん? まぁさんでいっか〜。おっつ〜」

「あ、みんな。進級式お疲れ様」

 

 アキ雅パフィンさんが、連れ立って壇上に駆け上がりながら語りかけてきた。何かとお祭り騒ぎが好きな親友達だけど、内容が内容だけに、今回は非参加らしい。

 

 とはいえ、わざわざ目立つ壇上に来るのも珍しい。木を隠すなら森の中的な理論かな。

 それと、現在睨み合いに集中し過ぎて壇上に僕が戻ってきたのに気付いてる人がほぼいないから、今のうちに僕と話したかったのもあるかも。

 

「えっと、親友だから改めて。今まで男の子だって黙ってて、ごめんね」

 

 親友に拒絶されたくないな、という思いもあったし、下手にこちらからバラすと相手にその気がなくても話は伝播してしまうものだから、今日まで秘密にしてきたのだ。

 

「それでさ。僕の本当の性別を知って、アキ達はどう思ってる? 率直な意見を聞かせて欲しいな」

 

 親友達の性格から言って、あからさまに拒絶したりしないのは、十分承知してるけど。それでもやっぱり、生の声を聞きたい。

 

「んーみゅそだなー。優輝がお風呂一緒してくれなかったり生着替え見せてくれなかった本当の理由がわかって、なんかスッキリしたっ!」

「男だろうと女だろうと、優輝さんは優輝さんだしな。俺にとっては変わらず、学園1、2を争う超強い自慢の親友だぜ」

「いや〜、ユキさん男の娘って早めに知ってたら、マジマークしといたのにな〜。もぅズッ友って気持ちの方がつよつよだから、しないけど〜」

 

 ……ふう。肯定的な意見で安心した。

 

「じゃあみんなは、僕が男の子だって信じてくれるんだ?」

「伊達に親友やってないもんね!」

「優輝さんがそんな変な嘘言う理由もないしな」

「ユキさん元からキャワワだから、問題な〜し」

「あはは、ありがと」

 

 うん。やっぱり持つべき物は親友だね。

 

 さて、そうなると。

 

「あっちで対立してる親友は、どうしたものかなー……」

「ヒロとさっちゃんはあぁなるのも仕方ないよね。優輝にガチ恋してたしねぇ」

 

 アキはすでに諦めてるっぽい。まあ、ヒロとサチさんの方がアキより強いから、どっちにしてもアキじゃあ止められないか。

 

「どうせだしぃ、おもっきしやっちゃえばいいと思〜う。てか、あたしは前からさっちゃん応援してたし〜」

「だよなー。中途半端にしとくのもどうかと思うぜ」

 

 そもそも、3人とも止める気はさらさらないらしい。

 

「はあ……僕がなんとかするしかないかな……」

 

 とはいえ、どうすれば円満に収められるか……うん?

 

「…………」

 

 気が付いたら、なにやら月影ちゃんが、どことなく難しそうな顔をしていた。いつも無表情に近いのに、珍しい顔だ。

 

「どうしたの、月影ちゃん。何か妙案でも思い浮かだ?」

「ん……結局の所……昔からの知り合いではなく……尚且つ、発言力のある人物が、性別を確認すればいい……ということです……」

「まあ、そうなるかな…………、え?」

 

 いやいや、まさかね。シャイな月影ちゃんに限ってそんな、流石にそこまで思い切った事は出来ないだろう――

 

「てあれっ? 月影ちゃんどこに――」

 

――という考えは、あまりにも甘かったらしい。

 

 唐突に姿も気配も消える月影ちゃん、とほぼ同時に僕のスカートが捲り上げられる感触。

 

「へ?」

「あらあら」

 

 咲さんの声に、そちらに顔を向けるかスカートの現状確認をするか、ほんの一瞬迷った結果。

 

ぷにぷに

 

「あうんっ!?」

 

 僕の不可侵領域に未知の衝撃!

 

 思わずぷにぷにされた所を押さえようとすると、スカート越しに人の後頭部に触れているかのような感触。

 

「「「「!?!?」」」」

 

 思わず上げてしまった声に、会場中の視線が壇上の僕……の下半身に集まる。僕自身も視線を下に向けると……まあ、予想通り。

 

「つ、月影、ちゃん……?」

 

 僕の膨らんだスカートから、銀髪が垂れ下がっていた。

 

 まさかの状況に、会場全体がフリーズしていた。

 

「…………」

 

 ゆっくり僕のスカートから這い出てきた月影さんは、ハンドマイクを持っていたネイ先生に向かって歩き……マイクを受け取り、

 

『対象を確認……水城 優輝さんの、性別に関する発言に、虚偽がないことを……守護者の名の下、宣言します……』

 

淡々と事実を述べる。ただ、いつものクールな顔ながら、若干頬が赤い。無理しちゃって可愛い、と益体もなく感想を抱いた。

 

 いやまあなんていうか。パニくり過ぎて逆に冷静になったからそんな感想が出てきたんだよね。

 会場は変わらず静まり返ってるけど、みんなして静かにパニくってるのだろう。

 

「…………。……つまるところ……バトルロイヤルは、中止です……」

「「「「………………………………………………」」」」

 

 今しばらく続く沈黙。それを破ったのは、ヒロだ。

 

「ふ、ふふふ……まさか、月影さんに裏切られるとは思いませんでした……」

『……? 事実確認を、しただけ……』

「それでも! 優輝さんの初めてを奪ったのに、違いはありませんっ!!」

「いやいや大袈裟だから! 下着とスパッツ越しだし!」

「優輝さんは黙っていてくださいっ!!」

「なんでさ!?」

 

 ヒロの発言をきっかけに、場は再びカオスと化した。

 

「ユキ会長! 俺にも確認させてくれぇ!」「あたしもあたしもー!」「なめたい」「ユキ会長こんな時に場所も選ばずごめんなさいっあなたのことがずっと好きでしたつき合って下さーいっ!」「俺も大好きだー!」「結婚しよっ!」

 

 具体的に言うと。バトルロイヤルは、集団大告白会と化した。なぁにこれぇ?

 

「…………」

 

 そんな状況にしてしまった月影ちゃんは、マイクを持ったまま再び黙考していた。

 

 数秒後。静かにマイクを床に置いた月影ちゃんが出した結論は。

 

「……優輝さん……」

「なにかな」

「……しばらく、隠れましょう……」

「そだね」

 

 逃げの一手。

 

 

 

 

 月影ちゃんの提案通り、僕は再び会場から避難したのだけど。二度目なので、生徒会室へのあらゆる道はすでに僕を探す人で半ば封鎖されていた。

 

 ので。駆け巡った末、灯台下暗し……もとい、上明る過ぎて逆に見落とす、ということで。僕らは訓練棟の屋根に避難していた。

 ……遮るものが何もないから、春とはいえ若干日差しが熱い。

 

 これより高い場所でここが見えそうなのは校舎の屋上くらいだし、屋上は基本立ち入り禁止だから、ここなら姉さんぐらい僕らの行動を熟知していなければ見つからない、はず。

 

 ……そう、僕らだ。何故か月影ちゃんも、僕と一緒に逃げていた。

 

 まあ、ある意味月影ちゃんは、学園で僕以上のアイドルだし。会場での大胆行為もあるしで、逃げる理由はある。

 

 けど、月影ちゃんは気配を消すのが大の得意だし、やっぱり僕と一緒している意味はあんまりない気がする。

 

 なので、尋ねてみた。

 

「月影ちゃん、どうして僕と一緒にかくれんぼしてるの?」

「……その……最後、なので……ゆ、優輝さんと、思い出のようなものを、と……」

 

 最後、か……やっぱり、親友の中で1人だけ先に卒業することに思うところがあるのだろう。

 

「それって、さっきの大胆行動も含めて?」

「……っ(こくり)」

 

 顔を真っ赤にして頷く月影ちゃん超可愛い。ていうか、やっぱり無理はしていたらしい。超可愛い。

 

「……その……怒っています、よね……」

 

 それも束の間、唐突にどことなくシュンとしたようゆ俯く、そんな横顔も超可愛い。

 

「怒った、のとは違うかな。思わず呆然としちゃうくらいには驚いたけどね」

「……申し訳、ありません……」

「怒ってないんだから、謝らないでいいよ。それに月影ちゃん、争いが終息すると思って、あんな思い切ったことしたんでしょ? なら、怒るなんて出来ないよ」

 

 怒ってないと証明するために、そっと月影ちゃんの頭をなでなでしてあげる。

 

「ありがとね」

「……ん」

 

 どことなく気持ち良さげに目を細める。超可愛い。

 

 そんな可愛い可愛い月影ちゃんとの学園生活も、今日で最後かあ……いや。

 

「いつでも遊びに来ればいいじゃない」

「……?」

「契約者のいない精霊神剣はまだまだ存在しているし、全部が契約済みにならない限り、学園はこれからも守護者候補を募る。なら、月影ちゃんは後輩候補の指導だとかなんだとか言い訳つけて、堂々と出入りしちゃえばいいじゃない」

「……それは……」

「それに。僕も必ず、守護者になるよ。遅くとも、魔神が復活する10年後までにはね。だから、それまでちょっとだけ待っててね」

「…………。ん……優輝さんと瑞希さん、なら……必ず精霊神剣と契約、出来ます……」

 

 姉さんを含め、必ず、と断言してくれる月影ちゃん。これさ期待に応えないと!

 ……まあ、僕にはアテがあるし、姉さんもほぼ確定みたいなものだしね。10年以内じゃなく、もっと近いうちに必ず追いついてみせる。

 

「――優輝さ〜ん……? どこにいったんですか〜……!」

「――はしゃぎ過ぎたわ〜! ――せめて謝罪を〜……!」

「――我が嫁ぇ! 水城 優輝いぃ! 好きだあああぁ……!」

 

 遠くから、ヒロやサチさんやその他声が聞こえて来る。みんなまだ興奮してるっぽいから、しばらくはこのままかな。

 

「……あ、あの……私は、いつまで撫でられ続けて、いれば……」

「んー……僕が飽きるまで、かな?」

「……」

「月影ちゃんの髪、日差しで輝いて、本当に銀の糸みたいでキレイ……サラサラの手触りだし、飽きそうにないなー」

「…………(ぽふっ)」

 

 照れでさらに顔が赤くなる月影ちゃんは、やっぱり超可愛かった。

 

 

 

 

 夕暮れ時。姉さんが訓練棟屋根に現れるまで、僕らは2人きりを満喫し、月影ちゃんが持ち歩いていた本を2人で読んだり雑談したりしていた。

 

 もうすぐ夕飯の時間だ。今日の夕飯が、月影ちゃんが学園生として最後にいただく学食となる。夕食後に、月影ちゃんは単身実家に帰る予定だ。

 

「でもまあ。昼間にも言ったけど、いつでも遊びに来てね、月影ちゃん」

「うむ。学園出身の守護者なら、顔パスで自由に出入り出来るだろう」

「……ん」

 

 ということで。3人で連れ立って学食へ向かった。

 

 

 学食にて。

 

「本当に、ほんっとーに申し訳ありませんでしたっ!!」

「誰に憚る事なく優輝さんと恋人になれるかもって思ったら、自分を抑えきれなかったの。優輝さんの意思を無視するような事をしたわ、本当にごめんなさい」

 

 正気に戻ったヒロとサチさんから、涙目で平謝りされた。

 

「あははっ大丈夫、怒ってないよ。びっくりはしたけど、それだけ」

「「ほっ……」」

 

 笑顔で怒ってない旨を伝えると、心底安堵した顔でため息をつく2人。可愛い。

 

「我が嫁よ、かくれんぼはおしまいか? ならば今宵は我との初夜――」

「「落ちろ」」

「グワーッ!?」

 

 競い合い、さらに友情とライバル心を高めたヒロサチによるツープラトンのサンドイッチラリアットにより、現れて即退場となった自称キングがいたりしたけど。だいたいみんな落ち着いたようだ。

 

「ユキ会長はやっぱり可愛いなぁ……」

「あれで男かあ……」

「あんな可愛い子が、女の子のはずがないんだよなぁ」

「可愛いわ正義よ」

 

 ……好奇の視線は相変わらず来てるけど。まあ、性別明かす前と大差はないから大した問題はない。

 

 それよりも。

 

 今日この日の告白のために、これまで信頼を積み上げてきた訳だし。日記にも書く予定だけど、ここらで一度、今日の自分の行動を自己評価しよう。

 

(予想以上に騒がしくなっちゃったけど……一応無事「僕の秘密大公開」は完遂した、よね。はあ……お疲れ様、僕)

 

 さて。友人達が揃っているし、月影ちゃん同様最後の学食を楽しんでいる卒業生もいる。今後、ここにいる人達が一堂に会する機会は、どうしても減るだろう。

 

 だから、最後に改めて。

 

「僕は水城 優輝。こんなナリだけど、男の子です。これからもよろしくお願いします!」

 

 僕の心機一転の挨拶に、

 

「うむ」

「んみゅっ!」

「はいっ!」

「おう」

「よろしくね」

「よろ〜」

「今後とも、よろしくお願い致します」

「……」

 

友人達は、笑顔を返してくれた。月影ちゃんだけは相変わらず無表情だけど、きっと心では笑顔を返してくれているだろう。

 

 

 

 

 愛すべき良き友に出逢えた事に。これからの僕達の歩む道に、幸多からん事を。

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