「ふみゅふみゅ……かなり楽しそうな一日だったみたいだねぇ」
僕の学園最後の思い出を聞いたエリスは、ニヨニヨと愉悦心の混ざった笑顔でそう感想を返した。
「……んー。改めて考えると、大変ではあったけど、確かに楽しかったかも。秘密を明かせて肩の荷が降りた気持ちだったしね」
「おぅ、意外な反応」
エリスは羞恥を煽って、僕のあたふたする様子を見たかったのかもだけど、簡単には乗ってあげない。その笑顔に、若干イラッとさせられたからね。
「それでさ。かなり今更は話だけど、結局なんで優輝さん。女子の制服着てた……着させられてたのん?」
あーうん、まあ。やっぱりその疑問は残るよね。
「それは当然。可愛いは正義だからだ」
「なるほど確かに!」
「いやいや、ちゃんと理由あるから…………世間一般的な意味でちゃんと、かどうかって疑問はあるけど……」
女子制服を着る事に了承した理由は、姉さんからどうしてもと頼まれたからだから、キチンと説明してもらうために目線を送る。
「うむ」
1つ頷き、姉さんが引き継ぐ。
「私は、宇宙的美少女であり、宇宙的大天才だ」
「唐突だしツッコミ所はあるけど、まぁ割と事実なんだよねぇ」
「優輝は私の一卵性の双子だ。つまるところそれは、私のあり得たかも知れないもう一つの姿、もう1人の私だ」
「いつか聞いた理論ですね」
「いくら私が畏怖すべき大天才だったとしても、人1人が一度に出来る事にはどうしても限界がある。まあ、やろうと思えばある程度の高水準で何でも出来るが、全ての道を極めるとなるとさすがに厳しいし、酷く疲れる。そして極めたい道が複数ある場合、それぞれの極みへの道のりが遠くなるのは、どうしても避けられん」
「ふみゅふみゅ」
「ならばこそ、役割分担だ。せっかく愛すべき大天才には片割れがいるのだから、最低でも二つの道が極められる」
「二つというと?」
「私は「宇宙一の大天才」担当、優輝は「宇宙一可愛い」担当。それが究極へと至るための、ベターな選択だ」
「少しふわっとしていますわね。具体的に言うと?」
「私は精霊神剣について極めて究極の超越者になり、優輝は多くの者から愛される究極の美少女になる。そしてその2人が合わされば、私達は2人で1つの
「……改めて説明されても、やっぱ意味不明、なんだけど……なんだかんだで実現させちゃってるから、瑞希が宇宙的大天才だってのを否定できないんよねぇ」
「ですわね」
「まあ僕も、姉さんの真の最終目標に関しては、その領域に到達した瞬間にに聞いたんだけどね」
「あ、そうなん? ……うーん? それで結局、優輝さんが女子制服を着た理由って?」
「それは勿論。可愛いは正義だからだ」
「なるほど確かに!」
会話ループしている。
「台詞に確信がこもっているせいで、納得してしまいそうになりますが……意味がよくわかりませんわね」
姉さんに説明させても、思考が大天才過ぎてみんなには伝わらないか……ちょっと失敗。
「えっとね。簡単に言えば、着ないと姉さんが物凄く残念がるから、かな。まあ僕自身、可愛い服を着慣れちゃってて、男子制服を着るのに違和感があったからいいんだけど」
「……見事に瑞希さんに毒されていると言いますか、刷り込み成功していると言いますか」
「あはは……みなまで言わないで欲しいかな……」
でも、仕方ないのだ。僕が男っぽい格好しようとすると、姉さん本当に心底残念がる……を通り越して、絶望して死んだような状態になってしまうのだ。
僕が反抗期に一人称を「僕」に変えた時もだいぶ落ち込んだ(一人称に関しては「逆に考えた結果アリだと思うようになった」とか言っていたけど)し、髪の毛を男の子みたいに短くしちゃった時なんかは「丈夫な輪っかの作り方」を検索し出したので、僕の反抗期はあっという間に終わったのだった。
プライドなんかより、家族が大事。換えが効かない存在だからね。
さて。最近思い出話に付き合ってくれていた蒼月さんとエリスだけど、また何か用事が出来て再びこの家をしばらく離れることになるかも知れないし、逆に僕と姉さんが家を長期間開ける事態もある。
ならば、この話を切り出すなら出来るだけ早い方が良いし、ちょうどこの家にみんなが集まっている今がベスト。
という訳で。
「みんなに、話があるんだ」
日記を読み返しながらの思い出話が終わった翌日の昼食後に、話を切り出した。
「今回、僕が発掘した学生時代の日記で思い出話したわけだけどさ。日記を書かなくなったのは、二年生終業式の数日後の4月に入ってから。つまりはあの日からなんだよね」
「うむ、そうだな」
なんで姉さんが相槌を打つのか。まあ今はいいや。
「僕が日記書かなく……書けなくなってから今日までも、僕らの人生という名の物語は続いてきたじゃない?」
「おっ、なんか詩的だねぇ」
エリスがちょっと茶化すような感じでそう言うけど、割と真面目に話してるので今は聞き流す。
「これまで色々な――本当に色々な経験してきたからこそ、「今の僕ら」があるんだよね」
「……。そう、ですわね……」
蒼月さんが、感慨深げに呟く。蒼月さんにも、深くは聞いていないけど色々あったようだしね。
「嬉しかった事、楽しかった事、感動した事があった。それと同じくらい、身が引き裂かれそうなほど辛かった事や苦しかった事、決して忘れちゃいけない最悪な事も、いくつもあった」
「……そ、だね。うん、そうなんだろうね……」
さっきは茶化すように言っていたエリスも、かなり真面目な話だと気付いたのか、真剣な表情で頷く。
「けどさ……人間って、忘れる生き物じゃない。全部は忘れてなくても、所々記憶が朧げだったりとか、気付かずに美化しちゃってたりとか、少なからずあると思うんだよ」
「私は優輝に関する事なら鮮明に覚えているが」
「それでも、良い事より悪い事の方がすぐに思い出せるとか、ない?」
「ふむ、そうだな……キングを根切りしたい」
「わかる」
そこはあえて無視する。
「今回日記を読み返して、当時を振り返ってて、強くそう思ったんだよ。日記を見ながらなのに、すぐには出てこない思い出が結構あるなあ、てね」
「確かに、そうでしたわね……」
「だからさ。日記に書かなくなった期間の事を、出来る限り詳細に文章に起こして保存すべきなんじゃないかって思ったんだ」
あの時の決意を忘れぬために。
あの時の悲しみを薄れさせないために。
それをいつでも振り返る事が出来るように。
そして――未来を間違えないために。
「ふみゅ、なるなる。真面目な話、なかなか良い試みなんじゃない?」
「それは、日記調で書き留めるということでしょうか。それとも、自叙伝風に?」
「どちらかと言えば後者かな。でもそれなら、わざわざみんなに話さず一人で書き始めれば良いし」
「ふむ。私達の記憶同士をすり合わせて、より正確な歴史の記録として書き残す、ということか」
「そんなとこ。さらに言えば、書き続けるモチベーション維持のためと、読み返す時にサラッと読めるように、硬い表現をなるべく割いた……いわゆるライトノベル風の書籍にしようかと思うんだ」
「ほえー、色々考えてるねぇ。それだけマジにやるってことなのね!」
エリスが関心したような声を上げ、うんうん頷く。
「というわけで!」
「ということで?」
「みんなしばらくは、どうしても外せない用事とか、ないんだったよね。いい機会だし、帰郷して咲さんやサチさんの記憶も合わせたいと思ってるんだ」
「おっいいねぇ! 私も久しぶりにさっちゃんに会いたい!」
「となると、ロールさんにもお伝えした方が良いでしょう。後は……癒円さんと……」
……そうして僕の提案は満場一致受け入れられ。僕らは早速、各地に散っている他の同郷メンバーへと連絡を取り始めた。
「ところで優輝」
「うん?」
「ラノベにするなら、タイトルは決めねばなるまい」
「そうだね……んー、一応候補はすでにあるんだけど」
「む、そうなのか。それで、どんな名だ?」
「僕らの通り名を、そのままタイトルにしちゃえばいいかなって」
「ふむ、あれか」
僕らがこれまで歩み続けた道筋をラノベ風に書き起こした、その本のタイトル名は。
『両極の破壊神 星屑のミュー』シリーズ
『前日譚・優輝の日記 国立栄陽学園での日常』 完
『両極の破壊神 星屑のミュー』シリーズ
『旅立ちの章・精霊国戦記 第二次魔神大戦』
へと、続きます……ここまでのお付き合い、ありがとうございました……