優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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女の子は甘味と紅茶と天才的な何かで出来ている

「ところで、1つ気になっていたんですが。入学当初の料理部の人員不足、何が原因だったんですか?」

「ん……こくこく」

 

 焼きメレンゲで甘ったるくなった口内を紅茶で相殺してから答える。

 

「えーと確か……料理長さんかな」

「料理長……ストゥルガノフ様ですか。問題を起こすような方ではなかったと思うのですが」

「ん、あの人が直接問題を起こしたとかではないんだよ。部長さんが言うには……」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「部員が2人しかいない理由か……情けない話なんだが、聞きたいかい?」

「話して問題ないようであれば」

「……今の料理長が素晴らしい料理人だから、だね」

 

 料理長さんが素晴らしいせいで部員が少ない? んー?

 

「んにゅ、どゆこと? なぞなぞ?」

「そういうわけではないんだけどね。彼は本当に魅力的な人なんだ」

「それは彼が、料理長として素晴らしいということですか? それとも人間的に?」

「両方だね。しかも男女共に受けが良い」

「んー……」

 

 答えが出そうで出ない感じ。モヤモヤする。

 

 少し悩み始めたところでサチさんが尋ねた。

 

「男女共に、なんですか? 今日の昼の反応的に、男子には受けが悪いように感じましたが」

「そういえば、なんか舌打ちされてたよな」

「確かに彼は物凄いイケメンだからね。でもしばらく接すれば、男女関係なく守護者候補である生徒を心から気遣ってくれている、素晴らしい人格者だと気付く筈だよ。余程鈍感でなければね」

 

 料理が上手くて気遣いが出来て男女から親しまれていて……何その完璧超人。まあ真に完璧な人なんていないし、欠点はあるんだろうけど……ともかく。

 

「なんとなく、わかったかも」

「おぉっさすが優輝。で答えは?」

「女の子からは、優しくて料理上手な素敵過ぎるイケメン。男子からは、親身になってくれて料理上手な頼れる大人の男。そう見られていたんだとすると……料理が本気の趣味でない人以外、わざわざ部活でまで料理しようとは思わないんじゃないかな、と思う」

 

 あくまで予測だけど。さて、正解かな?

 

「うん、大体合ってるね。運悪くというか何と言うか、ストゥルガノフさんという最高の料理人がいる上で料理部に入るほどの料理好きは、ここ数年は片手で数えられる程度しかいなかったらしい」

「んまぁ仕方ないよね〜。お昼のミニパフェもチョ〜美味しかったし! 少なかったけど!」

「ミニだからね」

 

 パフィンさんが指先をペロペロしながら話しに割り込む。

 

 ちなみに愛称呼びは彼女からの要望だ。キッシェンの響きがあんまり可愛くないから、らしい。

 

「そんなことより、ユキさんとアキちゃん入部するんしょ? ならあたしも入る〜」

 

 パフィンさんは親しくなった人を、男子以外はちゃん付けで呼ぼうとする。僕もちゃん付けされだしたんだけど……

 

 

 

 

「ごめんほんとダメ。ちゃん付け恥ずいからダメ」

「恥ずかしがって顔真っ赤な優輝めっちゃ可愛い!」

「アキちょっと黙って」

「えっあっはい」

 

 ちょっと強めの口調でアキを黙らせる。ちゃん付けだけは本気で我慢出来ないから、茶化されるのも嫌だなのだ……困惑させちゃってごめん、アキ。

 

「え〜なんで〜? ユキちゃんチョ〜可愛いんだもんいいじゃん〜」

「優輝はちゃん付けだけは本気で嫌がるからな。諦めろ」

 

 姉さんがフォローをしてくれた。好き。ただちょっと……

 

「諦めないならお前の口にハバネロソースブチ込むぞ」

 

……年々内容が過激になってきてるのが気になるけど……まあ、実行したことはない、はずだけど。

 

「む〜……か、辛いのは平気だし〜?」

「ほうそうか。では濃縮したセンブリ――」

「ラジャーミズ姉さん」

 

 真顔で了承するパフィンさん。辛いのは耐えられても、苦いのは無理らしい。

 

 

 

 

 そんな訳で、僕と姉さんだけはさん付けだったりする。と、話を戻そう。

 

「パフィン君は先程料理は面倒と言っていたが、作れはするのかな?」

「ホットケーキの粉買って焼いた事はありま〜す。でもなんか上手く膨らまないんよね〜。んで全然出来ないんで〜、作るんはメンディーなった感じ?」

「あ〜、あれはちょっとコツがあるからねぇ」

「ふむ、一応焼けるなら料理音痴ではなさそうか……ならまあ及第点か。他の入部希望者はどうかな?」

「私は優輝とセットだ」

「わ、私もゆ……じゃなくて、アキちゃんとセットみたいな感じです」

「僕は料理が出来るかどうか聞いているんだが……」

「い、一応、炒め物とかオムレツとか、簡単なのは出来ます」

「ふむ、オムレツ作れるなら基本は十分か」

「私は、必要を感じないので作ったことはない」

 

 そういえば、確かに姉さんが料理してるの見たことないなぁ。僕が料理してるのを眺めているのはよくあるけど……ああ、それなら。

 

「でも、姉さん作れるよね」

「まあ、やろうと思えばな」

「作ったことはないのに作れるのん?」

 

 アキが当然の疑問を溢す。

 

「姉さん、僕や母さんが料理してるのを見てたからね。だから作れるよ」

「えー……」

 

 腑に落ちないと言った顔をするアキ。なんかもう昔からの友達な気がしてきていたけど、やっぱりアキとは出会ったばかりなんだな、と思った。

 

「見ていただけで作れる訳はない。それは料理好きの君ならわかるはずだけど。その君が作れると断言する理由は何だい?」

 

 まあ言いたいことは解るし、常識的に考えれば誰もがそうだろう。けれどそれは、姉さんには当てはまらない。

 

 姉さんを知らない人からしたら、ただの身内贔屓にしか聞こえないだろうけど……一言で表すなら。

 

「姉さんは天才なので」「私は天才だからな」

 

 姉さんと台詞が被った。ちょっと嬉しい。

 

『…………』

 

 その場にいたほぼ全員に、「え、本気で言ってるの?」な顔をされてしまった。うんまあ、予想はしてたけど……ちょっと悲しい、というよりスベったみたいでちょっと恥ずい。

 

「そうなのか! さすが瑞希だな!」

「ふっ、当然だ」

 

 唯一、雅だけは驚きと賞賛を送ってくれた。雅の天然なとこ好き。

 

「とはいえ、皆がそのような顔をするのも当然ではあるか。言うは易く行うは難しと言う言葉もある。つまり、先程の優輝とアキが行なって見せたように、私も同じ事をすれば良い訳だな」

「え、姉さんが料理するの!?」

「……なんで妹の優輝さんがそこまで驚いてるのよ」

「いも……いや、姉さんが料理することなんて一生ないと思ってたから」

「うむ、このような話の展開にならなければ一生しなかっただろうな」

「どんだけ料理したくないのよ……」

「したくない、は少し違うな。私にとって優輝の料理以上のモノはないから、私が料理する気がないというだけのことだ」

「あー……」

 

 何故だかサチさんに同情の視線っぽいのを送られてしまった。姉さんがそう思ってくれてるのは、僕としてはただ嬉しいだけなんだけど。

 

「まあ今日はもう無理だが」

「え、なん――あ」

 

 姉さんの一言で気付き、ケータイの時計を確認する。時間は――

 

「現在、3時29分だ」

「ケ〜〜〜〜〜〜キ!!」

「うわビックリした」

 

 パフィンさんが唐突に悲鳴を上げる。お菓子作ったり食べたりでマッタリしてたから油断してた。

 

「落ち着け。ケーキ配布はわざわざ教師から伝えられた情報だ。全員確実に食べられるだろう」

「数種類あるかもじゃん! 人気なのはすぐ無くなっちゃうかもじゃん!!」

「と言っている間に30分になったな」

「んお〜〜!!」

 

 愉悦顔でパフィンさんを煽る姉さん。まったく……

 

「すいません桜部長さん、食堂でケーキ頂くので今日はこれで。入部届は地曜日に持って来ます」

「ああ、了解だよ」

「ユキさんハリーハリー!」

「うんうんわかってる。お騒がせしましたー」

「ああ、待っているよ……女子はやっぱり甘味に目がないな……」

 

 最後に一言、寂しそうな部長の呟きが聞こえた。その呟きに対して、僕は心の中で一言呟いた。

 

(性別は関係ないと思います。さ、ケーキケーキ♪)

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「それが食堂にバタバタとやって来た経緯でしたか」

「まあね。そういえば蒼月さん達も同じくらいに来たけど、特に慌てた感じはなかったね」

「瑞希さんの意見と同じですわ。1年生全員分用意しているでしょうから急ぐ事もない、と」

「僕らは、姉さんに煽られたパフィンさんに急かされたのが理由だけどね……ケーキといえば、さっきの野菜ケーキ。美味しかったねえ」

「悪くはなかったな。少々物足りなさは感じたが」

「そう? あーまあ、普通のケーキと比較するとそうかも。僕は野菜ケーキだって意識して食べてたから特に気にならなかったかな。と、紅茶が切れたね」

「ご用意しております。蒸らし時間終了までもう少々お待ち下さい」

「ありがと静海。そういえば学食の紅茶も、結構本格的に淹れてたよね」

「その代わり、朝のうちに予約する必要がありましたけどね。その分美味しかったですが」

「うむ、そうだったな。優輝や静海の淹れたものには敵わないがな」

「ふふ、愛情は最上級のブレンドですからね。ああ、紅茶とケーキといえば……あの時までは、月影はお茶のみだったんですよね。懐かしいですわ」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

 ケーキは、ガトーショコラ・チーズケーキ・ラズベリームースケーキ、3種のミニケーキと紅茶のセットだった。

 

「やっぱり姉さんが言った通り、急ぐ必要はなかったね」

「はぁっはぁっ……けっ結果論、じゃんっ。ふぅ……」

「……ふぅ」

 

 ケーキセット受け取りの列に並び、息を整えるパフィンさんとヒロ。ヒロはもう落ち着いて来てるけど、パフィンさんはまだ荒い。

 

 ちなみに僕含め、他のみんなは特に息は乱れていない。

 

「瑞希さん、インドア系かと思ったけど、結構体力あるのね」

「いや、私は紛れもなくインドア系だが。インドア系=運動不足ではない、というだけの事だ」

 

 サチさんにドヤ顔でそう言う姉さん。姉さんは表に見せないだけで、天才を自称するだけのスペックも豪語するに見合う努力もしてるのだ。

 

「けどよ、ここまで大した距離でもないよな。パフィンさん、ちょっと体力なさ過ぎじゃないか?」

「だって頑張るのっふぅ……疲れんのやだし、ふぅ……」

「甘い物が関わる時だけ全力出す感じかしら。せっかく本校に入れたんだから、もう少し体力つけましょう? 私でよければ付き合うわよ」

「ふぅ……ま、そだね〜……あんがとサッちゃん」

 

 お互い苦笑いを浮かべなが談笑するサチさんとパフィンさん。新しく友情が芽生えた瞬間を見た気がして、なんか嬉しくなる。

 

「ご機嫌よう、皆さん。やっぱりケーキと紅茶の魅力には引き寄せられますよね」

「……(ぺこり)」

「ご機嫌よう。2人共さっきぶりです」

 

 そう挨拶しながら、天王寺姉妹が僕らの後ろに並ぶ。

 

「私は初めましてね。クラスDの塩谷 幸子よ」

「ども〜、パルフェ・キッシェンで〜す。気軽にパフィンって呼んでね〜」

「……ツノメドリ……?」

「んぅ? なにそれ?」

「……ん……」

 

 月影ちゃんがタタタっとケータイをいじり、一羽のペンギンに似た鳥の画像を見せてきた。

 

「なにこれカワイ〜! あ〜この鳥がツノなんとか?」

「……(こくり)」

「確か、ツノメドリの通称がパフィンだね」

「へぇ〜そなんだ〜。ま、アタシの方がダンゼン可愛いけど〜」

「人間への可愛いと小動物への可愛いは全くの別物だから比較するのはお門違いよパフィンさん解ったかしら?」

 

 突然サチさんが早口で捲し立てるように語り出した。どうしたんだろ?

 

「うぇ、お? あ〜うん、多分?」

「……多分?」

「か、可愛いにも種類があるって事っしょ〜?」

「ええそうよ」

「ほっ」

 

 パフィンさんの答えに満足して、サチさんのちょっと怖い雰囲気が和らぐ。どうもサチさん、「可愛い」に拘りがあるらしい。

 

 

 

 

 そんなこんなで雑談しているうちに、僕らの番が回って来た。ケーキの皿、空のティーカップ・1人用ポットを受け取り、テーブルへとみんなで向かう。

 

 ちなみに今、雅はいない。一緒に並んでたけど、男子のグループに誘われて行ってしまった。まあさすがにこの人数の女子に男子1人は肩身が狭いだろうし、仕方ないね……僕もあっち行きたかったかな。

 

「ちょ〜うまそ〜だねヒロちゃ〜ん……」

「うんそうだね〜パフィンちゃ〜ん……」

 

 パフィンさんとヒロの目と声がうっとりとろんとしてる。可愛い。

 

「ん〜確かにどれも美味しいそうだねっ。優輝は何から食べる? あたしはラズベリー!」

「ん、そうだね……チーズ、ガトー、ラズベリーの順かな」

「ふみゅ、理由は?」

「最後に酸味が強めなので口をさっぱりさせたいからかな。単純に好きな順でもあるけど」

「なるほど〜。瑞希は……優輝と同じ?」

「うむ」

 

 アキもだいぶ姉さんの思考パターンが判って来たみたいだ。ちょっと嬉しい。

 

「…………」

 

 僕らが雑談している内に、月影ちゃんが座らずに紅茶を淹れて蒼月さんに渡していた。

 

「ふふ……月影、ありがとうございます」

「……ん。……(じー)」

 

 そして、自分の分……はまだ淹れずに、隣に座っていた僕の方を見る。これは……

 

「僕も月影ちゃんにお願いしようかな」

「ん……失礼、します……」

 

 短く断りを入れて僕のポットを受け取り、カップに注いでくれる。

 

「ありがと月影ちゃん。もしかして、これもお近付きの印かな?」

「ん……(こくり)……(じー)」

 

 小さく頷き、今度は姉さんに視線を向ける。

 

「ならば私のも頼む」

「あっもしかして、みんなのやってくれるのん?」

「……迷惑で、なければ……」

「ん〜、それはこっちの台詞かな。月影ちゃんが迷惑にやりたくてやってるなら、断る理由なんてないよん」

「可愛い給仕さんに入れてもらった方が、もっと美味しく感じられるだろうしね」

「だねっ!」

「……っ……」

 

 僕とアキの台詞に、視線を逸らしてほんのり頬を赤らめる月影ちゃん。超可愛い。

 

 月影ちゃんは頬を染めたまま姉さんのそばに行き、紅茶を淹れ始める。

 

「月影は昔からお茶を淹れたがるんです。理由は聞いても教えてくれませんが」

「そうなんだ?」

「てか、ツキちゃんドールみたいでチョ〜可愛いねぇ。抱っこした〜い」

「そうね」

「ふふ……可愛い可愛い月影の写真、ご覧になりますか?」

「お〜、見して見して〜。んでもまずケーキと紅茶。食べた後で〜」

「わ、私も見せてもらっても?」

「ええ、是非」

 

 蒼月さんがまた月影ちゃん可愛い布教を始める中、月影ちゃんが友達全員のを淹れ終えて戻って来た。自分の話題で盛り上がってるからか、まだ頬が赤い。

 

 月影ちゃんは自分のを淹れてから席に着き、本を取り出し……んーこれ聞いていい事かな……うん、気になるから聞こう。

 

「ところで。月影ちゃんはケーキ食べないの?」

「……」

 

 本を開いたところで動作を止め、こちらを見る。月影ちゃんがカウンターで貰って来たのはポットとカップだけで、ケーキ皿は貰って来てない。

 

「……読む時、お茶以外を口に入れると……没入出来ない、ので……」

「ティータイムの時に限らず、月影はほぼ間食をしないんですよ」

「そうなんだ?」

「というか、特に甘味を避けている気がしますわ」

「えマジ? 甘いの食べないなんて人生9割損してるようなもんじゃ〜ん……はむはむ」

「言いたい事は分かるけれど、9割は言い過ぎじゃないかしら」

「甘味は強い……脳内に余分な情報が入り込みます……」

 

 話は終わったとでも言うように、本に視線を落とす月影ちゃん。

 

 今の月影ちゃんの台詞から言って、本を読むのに集中出来ないからってだけで、甘味が嫌いな訳じゃないっぽいけど……んー……

 

「月影ちゃん。この3つの内、食べた事ないのある?」

「……?」

 

 まだ口をつけていなかったので、僕のケーキ皿を月影ちゃんの目の前に出す。

 

「……ガトーショコラ……チョコレート自体、ないです……」

「ふむ」

 

 多分、チーズやラズベリーはケーキとして加工してない状態のは食べた事ある、のかな? で、チョコはまったく口にしたことない、と。

 

 ……ちょっと興味が湧いて来た。

 

「月影ちゃん。ガトーショコラ食べていいよ」

「……??」

 

 ケーキをじっと見てから顔を上げ、僕の顔を見ながら僅かに首を傾げる。頭の回転が速い月影ちゃんも、流石に僕が何を考えているのか判らなかったらしい。

 

「一口だけでも良いよ。食べてくれたら、僕の1番お気に入りの本を貸してあげる」

「いただきます……」

 

 本と聞いて即答する月影ちゃん……本の虫だなぁ。

 

 僕から皿とフォークを受け取り、一口分……よりもさらに小さく、欠片程度切り分けて口に運ぶ。

 

「……はむ」

 

 ゆっくり咀嚼する……何か新鮮な反応してくれないかな〜と思いながらその様子を眺める。

 

「…………(じー)」

 

 飲み下してからしばらく、ガトーショコラを見つめ続ける……ん、若干頬が赤い?と思った瞬間、再びケーキにフォークを伸ばす月影ちゃん。

 

 これは……ふふふ。

 

「気に入った?」

「……っ」

 

 僕の声にピタッとフォークを止める。

 

「…………ん」

 

 数秒ケーキを眺めてから席を立ち、カウンターへ向かい厨房へ何か話しかけてから戻って来た。手にはケーキ皿。

 

「…………」

 

 席に座ってから、僕が渡したケーキ皿からチーズケーキとラズベリームースを、今持って来た皿に移し替えて返して来た。

 

「ガトー、好きになった?」

「……苦さと甘さが絶妙、です……素敵な味……」

 

 そう答え、座ってガトーショコラを食べ始める月影ちゃん。

 

「はむ……♪……」

 

 先程より大きく取ったガトーを口に入れ、フォークを咥えてモムモム動かす。頬は赤く、目はうっとり……まるで恋を知った少女のような雰囲気を出しながら、夢中で味わっている。

 

(凄い可愛い。ずっと眺めてたい……ん?)

「ふへへへぇ♪」

「うわ」

 

 気が付いたら、蒼月さんがビデオカメラを構えて月影ちゃんを撮っていた。まあそれはまだ良いけど……表情がヤバイ。

 うっとり、じゃない、ねっとり蕩けたと表現した方がしっくりくるような……まるで変質者のようだった。大和撫子系美少女が台無しだった。

 

「はっ!?」

 

 突然サチさんが頬を軽くぺちっと叩く。

 

「ど、どしたのサチさん?」

「いえ……私も、今の蒼月さんみたいな危ない表情なのかしら、と思って……だ、大丈夫だったわよね?」

「あー……ま、まぁ、大丈夫だったんじゃないかな」

 

 と思う。自分も見惚れていたから、そう思いたい。

 

「あのさ優輝」

「え、なにアキ」

「他人事みたいに言ってるけどさ。自分も蒼月さんにあの顔される対象だって憶えてる?」

「……」

 

 なんとなく上を見る……えーーと……

 

「…………」

 

 なんとなく下を見る……5つのケーキが視界に入る。うん。

 

「そんなことよりケーキを食べよう」

 

 なんだかんだでまだ一口も食べてなかった。

 

「現実逃避ね」

「だね」

「うむ」

 

(それは違うよ、喜んでくれるならまあいいやと諦めてるんだよ)

 

 口に出すと某2人の行動がエスカレートしそうだから出さないけど……いやまあ諦めてるってことは現実逃避と大差ないかなまあいいやとにかくケーキ食べようケ甘いの大好き。

 

(そういえばケーキ、5つあるんだよね)

 

 月影ちゃんがくれたから、チーズとラズベリーが2つに増えていた。食べれなくはないけど、さっき部室でもおやつ食べたし……うん。

 

「チーズとラズベリー食べる人は手――」

『はい!』

 

 即座に2人手を挙げる。当然、ヒロとパフィンさんだ。

 

「どうぞー、あ、言っておくけど1つだけだからね」

「わ、わかってます、そこまで食い意地張ってないです」

「……うん」

 

 ヒロは顔を赤らめ、パフィンさんは残念そうな顔で答えた。

 

「パフィンちゃん、半分こしよ〜」

「お〜、おっけ♪」

 

 うん、2人共すっかり仲良しさんだ。嬉しい気持ちが溢れてくる。仲良きことは美しきかな。

 

 

 そんな感じで、僕らはそれぞれ素敵なティータイムを過ごした。

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介情報更新

天王寺 月影

好きな食べ物:特になし→ビターチョコレート
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