「――チョコケーキを初めて食べた時の月影の表情は一生忘れられません私が映像に残した中でも1番な程で宝物で今でも定期的に最低月1回は鑑賞しています勿論映像データは大切に厳重に保管してありますしバックアップも7重にしてありますがやはり現実の月影が1番ですけど無い物ねだりしたところで仕方ないので映像を見るしかないですが私の渾身の出来の衣装を来た映像での――」
現実でも、蒼月さんの月影ちゃん可愛い自慢(重症ver.)が始まっていた。というかより酷くなってるなぁ。
まあ、月影ちゃんはいないから仕方ないね……蒼月さんとは違うけど、月影ちゃんがいない寂しさは僕も理解できるから、あまり中断はしたくない。
「優輝、蒼月の発作が自然に治まるまで最低でも20分はかかるだろう。話の続きでもして待とう」
「……そうだね」
さて。ティータイムまで話したから……
――――――――――
楽しい時間というものは、あっという間に過ぎる。時間は有限なのだから、これは仕方のない事。
だったら、何度でも繰り返せば良い。心から楽しいと思える事は、何度繰り返しても飽きない。
そして、嫌いなモノや人が少なければ、色んな出来事を楽しめる機会は増える。だから僕は、あまり「嫌い」は増やしたくない、んだけど。
「我が嫁優輝よ、先程の我の行動は貴様達への配慮に欠けていた。この場で詫びよう」
「お詫びの気持ちがあるなら嫁呼びをまずやめて欲しいかな」
「ふむ、それもそうか、まだ籍を入れていないしな」
「そうじゃなくてね?」
「まずはその尊大な態度をやめろ。偉ぶるなら最低でも優輝レベルの天才性を見せてみろ」
「ふははっ生まれながらの王者たる我が尊いのは当然だろう。当然の事を言うとは、瑞希は面白いな!」
ダメだ、やっぱり彼と話が噛み合う気がしない。姉さんに対してでさえコレだし、僕の台詞に対しては特にそうだ。傍迷惑な。
「全然反省してねぇわコイツ……優輝、頑張れよ」
「あはは……ありがと山本さん」
金堂先輩はまだ話が通じる方(仮)だけど、飯屋峰君は完全に自分の世界を形成してしまっている。迷惑度はこっちの方が上かな。
それでもあえて良い点を挙げるなら。飯屋峰君の嫁達にサチさんが含まれてないとこ、くらいかな……
何が言いたいのかと言えば。どうにも僕は、飯屋峰君だけは好きになれそうにない。
ティータイムが終わって現在時刻、4時35分。入学式の時と同じくクラスSから順に案内されているので、少し待たされる。
当然食事の時と同じテーブル、つまりは出席番号順なわけで。待ち時間に、こうして飯屋峰君に話しかけられる羽目になって、溜息を吐きたくなって来た……ネイ先生まだかなー……
「おまたせしました〜。本日最後の案内です〜」
待ち始めてから約15分。どうやって極力穏便に飯屋峰君を黙らせるか電撃がやっぱり1番有効かなとか考え始めたところで、ネイ先生がようやくやって来た。
「最後は、学生寮の案内ですね〜。ではっ早速移動しましょ〜」
「はい、到着で〜す。ここが、皆さんがこれからの3年間住むことになる、学生寮です〜」
食堂棟を出て通路を進み、徒歩約2分。位置的には食堂棟の背後の方に、学生寮はあった。
ここは学園都市。教職員用のアパートや外来用の宿泊施設、都市部で働く人用の集合住宅は学園都市内にあるが、普通の一軒家はない。つまり、基本学生は全員この寮に寝泊まりする事になる。
「寮の注意事項の内、重要な点を幾つか読み上げますねぇ〜。細かい規則とかはぁ、寮案内のパンフレットで各自確認して下さ〜い」
そう言ってから、入学前に郵送されていた寮パンフを掲げるネイ先生。
「はい、よろしいですか〜? では言いま〜す」
……少し長いので、告げられた内容を掻い摘んで挙げよう。
寮内放送で起床ベルが6時に鳴る。寮の門限は22時で、寮内完全消灯時間が23時半。
大浴場の使用時間は17時〜23時。自室のバスルームは特に時間指定はない。
食事は、基本朝夕は食堂棟で全員同じメニュー、時間は朝が6時半〜8時、夕が18時〜20時。
昼食は自由。食堂棟でランチセットを頼むも良し、購買でパンを買うも良し、調理室や寮の自室で個人的に作って食べるも良し。ただし、調理室を使う場合は料理部に入るか事前の許可が必要。
外泊の際は必ず届出をする事。別の寮生の部屋にお泊りする場合も同様。
……まあこんなとこかな。
「最後にひとつ。異性交遊は一応禁止されていませんが、学生らしく守護者候補生らしく、普通の交際を心がけて下さいね〜……ぶっちゃけちゃうと恋人との夜の営みオーケーですが、流石にデキちゃったら退学です。皆さん、分かりましたか〜?」
『……は〜い』
まばらに返事が上がる。まあ反応に困る内容だしね……
はい。教師が堂々と生徒に不純異性交遊を許可するのは異常だと思うでしょう。うん、それは精霊国の一般常識的に言っても正しい。けどここ、栄陽学園はかなり特殊だったりする。
この学園では『守護者候補』を育成する事を目的としている。それは実情、世界を滅ぼしうる一騎当千の猛者を大量に生み出しているようなものだ。
ただしそれは、他国に侵略するためではない。自国を――いや、世界を守護するためだ。
守護者の咲さんと守護省の発表によると、かつて世界を窮地に陥れた『魔神』の封印が、10年以内に効力を失うらしい。
封印されている2人の魔神。咲さん曰く「直接戦ってはいませんが、恐らくどちらも今の私と互角かそれ以上」らしい。
咲さんが「神性解放」を全力ですれば、国を物理的に消滅出来てしまうらしいので、それが2人……と考えれば、戦闘をこなせる守護者候補や精霊剣士は1人でも多いに越したことはない。
とはいえ、全力解放はデメリットが大きいらしく、魔神でも滅多な事ではしないらしいので、そこまで心配しなくて良いらしいけど。
まあそんな訳で。守護者候補である生徒には、極力ストレスフリーでいてもらいたいというのが学園の指針らしい。そのため、学園都市内の娯楽施設はかなり充実しており、男女交際等も常識的な範囲内でなら許可されているのである。
「は〜い、これにて本日の予定は全て終了です〜。何か不明な点、不安な点ありましたら、気兼ねなくネイ先生に言って下さいね〜。ではっ解散で〜す」
「はぁぁ〜……疲れたぁ。主に精神的に……」
寮の自室に入って早々、椅子に座りキッチンテーブルに突っ伏す。今日から3年間過ごす部屋なんだーとかの感慨は取り敢えず湧かない、ほんとに疲れてるからそれどころじゃない。
「うむ、お疲れ様」
姉さんが短く一言労ってくれる、のは嬉しいけど。
「……今日の僕の精神疲労、半分位姉さんが原因なんだけどね」
姉さんにジト目で見ながら皮肉で返す。
「理解しているさ。その上で優輝が私の趣味嗜好に合わせてくれていることが何より嬉しい。大好きだぞ」
「……喜んでくれて何より。僕も大好きだよ、姉さん」
む〜……その笑顔はやっぱり卑怯だよ姉さん。本気で嬉しい時の裏表のない笑顔だと知っているから、ソレを見せられちゃうとつい許してしまう。僕も大概チョロいなあ。
ちなみに、寮は基本2人一組の相部屋で、僕のルームメイトは姉さんだ。事前に申請していれば相方は決められる形式で、アキとヒロも事前に申請していたらしく、ルームメイトだそうだ。
「あ、大丈夫だったとは思うけど、一応姉さんの意見も聞くね」
「ん?」
テーブルから起き上がり、居住まいを正してから姉さんに問う。
「僕、どう見ても女の子だったよね?」
「可愛い女の子に見えない奴が居たらソイツは精神異常者か眼の病気の疑いがあるな。ウルトラスーパー可愛い超絶美少女だったぞ、現在進行形でな」
自信満々ドヤ顔で、親指を立ててそう評価されてしまった。
「あはは……ありがと……うん、ありがと……はぁ」
小さくため息。なんか朝にも、姿見で自分を見て似たような反応した気がする。
ちゅっ
「突然何さ?」
するりと近付いた姉さんが、頬にキスして来た。
「感謝の気持ちと応援の気持ちだ。まだ1日は終わってないぞ」
「……そだね」
夕食はまだだし、お風呂もまだだ。何にしても、就寝にはまだ早い。
「就寝前、部屋の鍵をかけるまで油断は禁物だ。優輝の尊い着替えシーンや入浴シーンを覗きに来る不届き者がいないとも限らん」
「自室のお風呂使うし、そこまで警戒しなくてもいいんじゃない? それに、姉さんが見張っててくれるんでしょ?」
「それは勿論。だが、入浴中のリラックスしている瞬間は、私と言えど多少は気が緩む。優輝も気を抜きすぎない事だ」
……ん?
「姉さん、僕と一緒に入るつもり?」
「当然だ」
「えぇ……うんまあ、家ではいつもの事だけどさ。学生寮でも一緒に入浴するのは……」
「ふふ……仲の良い百合姉妹という噂が広まると良いなぁ」
「良くないよ!? そもそも百合じゃあ……というか、姉さん広めるつもり?」
「つもりはないが、噂というものは何気ない事がキッカケで生まれ、広がるものだ。大浴場に一度も行かず姉とだけ入浴を続ければ、そう妄想する者は必ず現れるだろう」
「必ずなんだ……」
「必ずだ」
えー……うーん、じゃあどうすれば……って。
「いやいや、そもそも姉さんとお風呂一緒しないといけない決まりなんてないじゃない」
「……チッ、さすが優輝、ラブコメ漫画の主人公のように鈍くはないな」
あれ、なんか本気で悔しがってる?
「もしかして、お風呂云々本気で言ってた?」
「ははは冗談に決まっているだろう」
「ああそう……」
どうやら半分真面目に言ってたらしい。僕離れの出来ない姉だこと。
「実際問題、風呂に関しての諸々はどうするつもりだ? アキの奴なんかは間違いなく大浴場に誘って来るぞ?」
「だね。まあそれに関しての言い訳は――」
コンコンコンコン
「瑞希に優輝! 遊びに来たよ〜ん!」
「開いてるからどうぞー」
「お邪魔しまーす!」
「お、お邪魔します」
噂をすればでアキが来た。ヒロも一緒だ。
「ふみゅ、あたし達の部屋とあんまり変わんないねぇ」
「それはまあね、まだ荷解きもしてないし」
時刻は17時半。食堂棟の開放時間が45分からだから、後15分。5分前に出るつもりだから少し時間がある。
「そういえば、アキの部屋もキッチン使用許可、当然出してるよね?」
校内の調理室もだけど、寮の自室で料理したい場合も許可が必要だ。まあ火を使うわけだし、変な事しない子がいないとも限らない。
調理室は料理部に入るか、都度許可を得ないといけないけど、寮は一度許可を得れば問題を起こさない限り3年間使用可能だ。
「モチ! やっぱ自由に料理したいもん。ヒロもいるしねぇ」
「毎日アキちゃんの料理が食べられるから私、それだけで満足です」
「ん? アキ達はお昼毎日作るつもり?」
「ん〜、料理長さんのランチも食べたいから、一日置きくらいかな〜」
「まあ、だよね」
そんな感じで雑談してれば、10分はあっという間に過ぎた。
40分に部屋から出て戸に鍵をかけたところで。
「そいえばお風呂何時に行く? あたし達は20時半位に行こうかって話してたけど」
やっぱり来たかこの話題。言い方からして僕らも大浴場行く事前提で話してるね。
「僕らは大浴場には行かないよ。内風呂使うから」
「ナンデ!?」
アキに絶望顔された……そこまで残念がらなくても。
「んー、色々と理由はあるけど……」
さて、ここがポイントだ。アキが大した理由ではないと判断したら、改善案出してきたりゴリ押しして来たりすると思われる。
「まず、人に素肌を晒すのに抵抗があるからかな。その……小さいし」
「確かに2人共お胸慎ましやかだねぇ。ヒロがおっきぃから余計にそう感じるってのもあるけど」
「……お、おっきくても良い事ないよ。肩凝るし、運動に邪魔だし、変な目で見られるし」
「持っているモノにしか解らない事があるように、持たざるモノにしか解らない事があるんだよ……」
「あー、わかる」
「な、なるほど……?」
アキも大きいとは言えないし、理解してくれただろう。でもこの理由だけじゃ弱い。
「もう1つ。姉さんが見せたがらないから」
「それは……やっぱり優輝のを、だよね」
「うん。姉さん、自分の裸は誰に見られても構わないみたいだけど、僕のは絶対見せたがらないよね」
「うむ、当然だろう」
「ふーみゅ。過保護過ぎない?」
「そうか? 優輝自身が見せても問題ないと判断した相手にのみ見せるように、と家族で言い聞かせているが。何か変か?」
「家族揃って過保護なのねー……」
「世間一般の価値観などどうでも良いからな」
ちなみに、家族からそんな事を教え込まれた覚えはない。姉さんが僕の話に合わせて上手く嘘を織り交ぜて補足してくれているだけだ。
まあ姉さんと父さんが僕の素肌を他人に見せたがらないのは事実だし、母さんからも気を付けるように言われてるから、完全な嘘では……あれ? 半分嘘だと思ったけど、実質全部事実なような……まあいいか。
「でも、気持ちは分かるかも。優輝さんも瑞希さんも、女の子から見ても凄い可愛いくてお近付きになりたいって思うし」
「あ〜まぁそだねぇ。ふみゅ、確かに身内だったらつい過保護になっちゃうかもねん」
……よし。これでヒロは納得しただろう。
さて、次で〆だ。
「最後にもう1つ。最悪僕が死んじゃうから」
『死んじゃう!?』
うん、死んじゃうんだ。社会的に。
まあ姉さん父さんが全力で死ぬ気でガードしてくれるだろうから、本当に最悪の場合だけども。
「死ぬって何よノロイにでもかかってんの⁉︎」
「えーと……これに関しては深く聞かないで欲しいな。特殊な理由があるんだよ……はぁ〜〜……」
その特殊な理由を思うたび、自然と溜息が出てしまう。
「な、なんか妙に重い溜息だね……余程の事情なんだよ。アキちゃん、残念だけど諦めよう?」
「はぁ、楽しみにしてたんだけど……そだね」
……2人にこうも残念がられると、さすがに罪悪感が湧いてくる。でも無理なんだ、ごめんね。
「お詫びと言ってはなんだけど、明日のお昼ご馳走させてよ」
「おぉマジ!? ヤッター!」
「あれ、良いの? アキちゃん明日のお昼2人にご馳走したいってさっき」
「あっ……あ〜う〜どうしよ〜」
頭を抱えて唸り出すアキ。どうやら僕と似たような事考えていたらしい。なんか嬉しい。
「お風呂一緒出来ないお詫びも兼ねてるから、今回は僕にご馳走させて欲しいかな。そのかわりじゃないけど、何かリクエストあったらご自由にどうぞ?」
「エビフライー!」
「早っ。好きなの?」
「なんとなく!」
ふむ。好きではあるけど、無茶苦茶好きという訳でもなさそうかな。
「アキお前、自分の名前に海老が含まれてるというだけで選んだだろう」
「おっ瑞希さすが、正解だよん」
「ふふっそうなんだ? ヒロは何か食べたいのある?」
「わ、私は、優輝さんが作ってくれるのなら何でも食べたいです。好き嫌いないし。あえて言うなら白飯に合いそうな……今の気分は豚の角煮ですね」
ふむふむ。やっぱり2人共自己紹介通り「美味しければなんでも好き」で「これが何より大好き」って料理はなさそうかな。
「豚角はさすがに仕込み時間的に厳しいかな。なのでエビフライで決まりね。タルタル必要?」
『当然いります』
「あははっ了解」
「話がまとまったか。45分過ぎている、移動するぞ」
おっと、玄関前でつい話し込んじゃった。
「配膳開始まではまだあるし、焦らず行こ?」
「うむ」
「そだね〜」
「ふぅ、お腹ぺこぺこです」
ということで、僕らは雑談しながらのんびりと食堂棟に向かった。
――――――――――
「ふふっ、確かにかなり特殊な理由ですわね」
「あ、戻って来てる」
いつの間にか正気に戻っていた蒼月さんが話に割り込んで来た。
「ご安心下さい優輝さん、私はその「特殊な理由」も含めてあなたが好きですよ。むしろだからこそ一目惚れしたようなものです」
「そういう話してた訳じゃないんだけど……まあ、ありがとうお友達」
取り敢えず感謝は大事だ……「好き」の理由が多少不本意だけど。
「こちらこそです。あなたと学生時代に出会えたから、今現在私はここに存在出来ているのですから」
「……ん。それは多分、僕らもかな」
「…………」
「…………」
……何故かしんみりした雰囲気になった。
「そういえば、話は食堂棟に夕飯を食べに行った所までした訳だが。優輝、そろそろ現在でも夕飯の仕込みした方が良くないか?」
姉さんが雰囲気を変えるかのように別の話題を振った。
「ん、もうこんな時間かぁ」
時計を見ると、17時50分だった。やっぱり楽しい時間はあっという間に過ぎるね。
「蒼月さん、夕飯はウチで食べるでしょ?」
「そのつもりです。そうそう、今日からひと月位は新作衣装のアイデア集めと製作以外に予定ないです」
「しばらく趣味に時間が取れるという事か。うむ、趣味の時間は大事だ」
「姉さんは趣味のみに生きてる気が……まあそれは昔からか。とにかく蒼月さんは、しばらくウチでご飯食べる気なんだね」
「ええ。よろしくお願いします」
「うん、任せてよ。腕によりをかけて作っちゃうよ」
蒼月さんが長期間ウチで過ごすのは久々だ。自然と気合が入る。
「じゃあ今からお料理してくるね。今日は大根と白菜のお味噌汁に白菜サラダ、メインは鮭のムニエルだよ」
「ふふ、楽しみですわ」
「優輝様、お手伝い致します」
「ん、ありがと。じゃ、話の続きはお夕飯の時にね」
そう言い残し、僕らはキッチンへ向かった。