優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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 このサブタイだけだと意味不明過ぎますが、今話を読めば理解出来ると思うので気にしないで下さい。


エビフライから始まる絆崩壊(未遂)

「確かに優輝さんは、魅力に溢れていますものね……ふへへ」

「ありがと。その笑い方でなければ、もっと嬉しかったけど」

「これが私の魅力の一部ですので」

「残念な部分は魅力と言っていいのかな……」

「ものは言いようだな。まあいいんじゃあないか」

 

 興味無さげにそう言う姉さん。もう、また適当に相槌打って、しょうがないなぁ。

 

「さて、ご馳走様だ。静海、美味かったぞ」

「ベーコンの焼き加減なんかは絶妙だったね。僕らの好みの焼き加減、いつもありがとうね」

「美味な朝食、ご馳走様でした」

「お粗末様です、皆様。有難きお言葉、感謝の極みです」

 

 僕らの感謝の言葉に、静海は洗練されたカーテシーでそう返す。僕もあのお辞儀やった事あるけど、いつ見ても静海のは綺麗だなぁ。

 

「そういえば、2人は今日何をするつもりだ? 私は優輝とイチャイチャしたいのだが」

「僕は姉さんとイチャつく予定はないです」

「私は、昨日も言いましたが、新作衣装に関して少々行き詰まりを感じていまして……なので、しばらく気分転換でも、と思っていたのですが。優輝さんと瑞希さんのイチャイチャ、良いですね。是非観察させて下さい」

「だからしないって。僕は買い物に出るからね」

「ならば買い物先でイチャイチャだ」

「だから……姉さんついて来るの? 珍しいね」

「何でもいいから優輝と何かしたくてな」

 

 姉さんは普段、寝る間も惜しんで色々と忙しなく動き回って回って回って限界が来たら帰って寝る、て事を割とよくしている。静海と一緒に。集中力が持続する限り止まりたくないらしい。まあ精霊神剣からエネルギーを受け取り続ければ、ひと月は寝ないでも良いしね。精神疲労は溜まりまくるけど。

 

 ちなみに、姉さんが主に忙しく動いている理由の大半は、単なる趣味だ。姉さんの趣味は僕へ愛を送る事?だから、つまりは僕に関する良かれと思った何かをしている。姉さん大好き。

 

 まあそれはそれとして。姉さん、僕成分欠乏状態でかなり精神疲労が溜まってるから、イチャイチャはともかく一緒にお買い物くらいなら何も問題ない。

 

「姉さんが来たいなら、別に構わないけど。ほんとにただのストック食材の買い出しとかだよ?」

「うむ、イチャイチャ買い物デートだ」

「だから……ま、いいや」

 

 イチャイチャの語感がなんかちょっと恥ずいだけで、姉さんと一緒にお買い物は普通に嬉しいしね。

 

「せっかくだから、みんなで一緒に行こっか。当然静海もね」

「優輝様が望まれるのでしたら、どこへでも」

 

 というわけで、4人全員で一緒にお買い物に行く事になった。

 

 

 

 

 今日は複数人で出たので、いつも利用している近所のスーパーではなく、たまに利用する隣町の複合商業施設の大型スーパーに来た……美少女軍団だからか、1人メイド服を来ているからか、いつも以上に視線を感じるけど気にしない。もう慣れた。

 

「あ、伊勢海老だ。流石大型スーパー」

 

 今日の夕飯は海鮮系にしようかなと鮮魚コーナーを歩いていたら、水槽に高級海鮮食材の代名詞がいた。

 

「なかなか良いサイズですね」

「食い出がありそうですね。精が付きそうです」

「ふむ……そういえば、どこかで食べた事はあるけど、調理した事はあったっけかな」

 

 んー……流石にちょっと値段高いけど、たまになら良いかな。自分の手で調理してみたいし。

 

 にしても、高級海老、か。

 

「伊勢海老といえば。アキヒロにエビフライご馳走様した時の話なんだけどね……」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「そういや優輝、瑞希は?」

「もぐもぐ」

 

 朝食時、モグモグしている最中にアキにそう聞かれた。とりあえず口に物入ってるから飲み込んで……

 

「んっく……姉さんは今学園にいないよ。用事で首都の方に行ったはず」

「へー、首都」

「もぐもぐもぐ」

「何をしてるのかは僕も知らないけど、昼には帰ってくるはずだよ。僕が料理作るからね」

「ふみゅ。つまりは優輝、半日は姉から解放されるんね」

「別に縛られてるつもりはないけど、まあそうだね」

「お昼の食材買いに出るんでしょ? あたし達も行くつもりだったからさ、一緒に行こうよ!」

「ん、そうだね。そうしよっか」

「やたっ! 優輝とデートだ〜!」

「もぐもぐもぐもぐ……♪」

 

 スーパーで一緒に買い物ってデートなんだろうか、とか思ったけど、アキが嬉しそうだからいっか……それはそれとして、ヒロがひたすら幸せそうにもぐもぐしてて可愛い。

 

 そんな訳で。アキヒロと一緒に、学園都市の食料品店に行くことになった。

 

 ちなみに他の友達も誘ったけど、荷解きやその手伝い、昨日に引き続き行われている部活見学に行く等、予定が合わなかったので来なかった。

 まあ、4人分の食材の買い出しだし、大人数で来る必要はないんだけど。断られたのは、ちょっとだけ寂しいかな。

 

 

 

 

「食材の目利きに関しては任せて下さい!」

 

 自信満々にそう言うヒロを先頭に、スーパーに入る僕ら。道中、ナンパらしき男子何組かに声をかけられたけど、その都度ヒロが、

 

「邪魔しないで下さい!」

「アッハイ」

 

と真顔でキッパリ断っていた。普段の男性恐怖症気味が嘘のようにキリッとしていた。本当に食べるの好きなんだなぁ。

 

 ちなみに僕らは、制服で外出している。外出する際は外出届を出す訳だけど、届出用紙に外出時の服装を書き込む欄があるのだ。

 制服or私服を選択するのだけど、私服を選んだ場合、服の種類やカラーを細かく書き込まなければならない。

 トラブル時に対処がしやすくなるからとか、色々理由があるらしいけど……書き込むのは少し面倒だし、まだ荷解きが完全に終わっていないのにオシャレな私服だけを引っ張り出すのも面倒だし。なので、制服で出る事にした。

 

 

 

 

「あ、龍海老(たつえび)だ」

 

 エビフライ用の海老を買いに鮮魚コーナーに着いたら、高級海老が売っていた。龍の名が付いている通り、食用にされている海老の中で最大級だ。

 

「おおっこれが龍海老の実物! テレビで見るよりおっきく感じるね〜……ていうかゴツい」

「確か、戦国時代の甲冑っぽいから甲冑海老って呼ぶ地方もあるとか」

「ふみゅふみゅ……しかしこれ、生きてるからって言うのもあるかもだけど、完全初見だと美味しそうには見えないよね。最初に食べた人は偉大だよねぇ」

「だね」

 

 そんな感じで雑談していた訳だけど……さっきまで意気揚々としていたヒロが静かだ。どうしたんだろ?

 

「……(じいぃぃ〜〜)」

 

 ……よく見たら、目を爛々と輝かせながら龍海老を見ていた。それはもう穴が開きそうな位に一心に。

 

「じゅる」

 

 ていうかヨダレを垂らしていた。美少女のだらしない顔に、龍海老まで引いているかのように静止していた。

 

「ヒロ〜。欲望ダダ漏れで、優輝が若干引いちゃってるよ〜ん?」

「はっ!?」

「いやいや、引いてはいないよ?」

 

 アキの台詞に我に帰り、慌てて手の甲でヨダレを拭う……けど、目は龍海老を見つめたままだ。

 

(ふーむ……龍海老も、海老ではあるよね)

 

 エビフライ用の海老を買いに来た訳だけど、これでも作れなくは……いやでも、こんな高級食材をフライに……いいかも……でもお高いし……買えなくはないけど……そもそも、龍海老は調理したことない……けど、知識としては知ってるし……美味しい海老、最高の、食べてもらう、笑顔、美味しい、最高のエビフライで、ステキなランチ――

 

「ちょっちょっと優輝、どしたの? なんか目がグルグルしてない?」

「ふふふ……最高の海老で、最高のエビフライを――」

 

 気がついたら、龍海老に手を伸ばしていた。

 

「って買う気!? 1万近いよ!?」

「で、でも、絶対美味しいし、エビフライだし」

「はい絶対間違いなく美味しいです!」

「あ〜もうっ! ヒロはともかく優輝まで……ぷっ。あっはははは!!」

「え……アキ?」

「アキちゃん?」

 

 突然笑い出したアキに驚く。ていうか僕、今何してたんだっけ? 確か、エビフライ用の海老を……

 

「……あぅ」

 

 くだらない事で変に悩んで、正気を失いかけちゃっていたようだ。物凄く恥ずい。

 

「あ〜もうっ顔真っ赤にしちゃてコイツ〜! 可愛すぎかっ!」

 ぎゅ〜っ

「てちょっ、いきなり抱きつかないでってば!」

 

 というか、ここスーパーの一角な訳で……普通に目立っていた。周りの視線が暖かなものだったからまだ良かったけど、普通に羞恥プレイだ。

 

「とりあえず取り乱してごめん、それから離れて恥ずい」

「え〜いいじゃんイケズ〜……とまぁ悪ふざけはこんくらいにして」

 

 そう言い、あっさり離れるアキ。アキ体温高めだから、温もりがなくなってちょっと寂しい。

 

「優輝、変に気を使いすぎないでよ。確かに龍海老使ったら超絶美味しいエビフライを作れるかもだけどさ。あたし今日は、普段優輝が作ってるエビフライが食べたいよ」

「……そうなの?」

「うん、そーなのっ! それに、普段の優輝のエビフライレシピ、教えてもらいたいしねっ」

「……そっか」

 

 うん。アキの言う通り、変に気を使いすぎるとこだった。気を使う場面も適切な時と場所があるものだよね……反省、反省。

 

「さっそうと決まったら、普通の海老を買おう! ほらヒロ、出番だよ〜」

「え……でも龍海老」

「ってまだ見てたの……今回は諦めなさい、財布的にも」

「うぅ……わ、わかった」

「ふふっヒロはほんと可愛いね」

 

 渋々龍海老から離れるヒロがなんか可笑しくて、つい笑ってしまった。

 

「と、突然なんですか? よくわからないんですけど……あーえっと、エビフライ用の海老でしたよねっ」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように他の海老の品定めをし出したヒロの姿に、僕とアキは顔を合わせて微笑み合った。

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「当時は伊勢……龍海老は買わなかったようだが。今日買った龍……高級海老はどう調理するつもりだ?」

 

 一々言い直すのが面倒になったのか、途中で高級海老呼びで通す姉さん。気持ちは分からないでもないけど、そんな面倒がらなくても。

 

 さて。昔買い渋った反動で、衝動的に伊勢海老5尾も買ってしまったけど。何料理にするかは決めてない。

 

「そうだね……まだ生きてるし、お刺身は外せないかな。後はお味噌汁でしょ。他には……」

 

 少し悩む。エビチリ、姿焼き、天ぷら……トマトパスタもいいなぁ。んー……けどやっぱり。

 

「昔出来なかった龍海老フライは、やっぱり作りたいかな。アキヒロがいないのが残念だけど」

「うむ。優輝なら最高のエビフライを作れるだろう。まあいつものエビフライも最高なのだが」

「優輝さんのご自由になさって下さい。料理をしている優輝さん、素敵なお顔をされていて好きなのです」

「ん、了解」

「優輝様、お手伝い致します」

「いつもありがと、静海」

「勿体無きお言葉」

 

 いつもすぐ手伝うと言ってくれる静海に感謝を告げる……料理の手伝い、といえば。

 

「そうそう、あの時のお昼の調理中の事だけど……」

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「お〜、結構片付いてるねぇ。早い早い」

「昨日の夜、母さん達が手伝ってくれたからね。雑談しながらやってたから、日付変わる位の時間まで夢中でやっちゃった」

 

 買い出しから部屋に戻り、現在。アキヒロがそのまま僕の部屋に買った食材を持って来て、室内の感想を述べた。

 

「優輝の私室覗いて良い?」

「ダメ」

「だよね〜……ちぇ」

「別に面白いものはないよ。何よりまだ整頓途中だし」

 

 それに何より。途中だからこそ、僕の秘密がバレる何かを発見される確率が高い、はず。リスクは少しでも省かなきゃね。

 

「さて、もうすぐ11時だし。下処理を始めようか」

 

 そう言い、清涼感のあるエメラルドグリーンのエプロンを手に取る。入学に合わせて購入した新品なので、今回が着るのは初めてだ。

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

 と、アキが鼻歌を歌いながら背負っていたリュックの中を開け、エプロンを取り出した。茜色が鮮やかな、アキによく似合う色だ。

 

「アキ、手伝ってくれるの? というより手伝う気満々で来たんだね」

「そだよ〜。あっもしかして優輝は、全部自分1人でやりたいタイプだったり?」

「そういう訳じゃないけど。母さんを手伝ったり手伝ってもらったりしてたし」

 

 ただ、ご馳走するつもりの人に手伝わせるのはどうなのかなーとちょっと思っただけだ。

 

「じゃあ遠慮しないでよ〜。さっきレシピ教えてくれる約束したんだしさっ」

「ん、そだね」

 

 という事で、一緒に作る事になった……のはいいんだけど。ちょっと予想外の事態になった。

 

 

 

 

「…………」

 

 今は、海老の方の下処理が済み、タルタルソースの材料を刻んでいるのだけど……アキがちょっとムスッとしていた。別に喧嘩した訳じゃないんだけど……

 

 

「ん? アキ、海老の尻尾の尖ってる部分切り取ってない?」

「えっ切るの? そのままでいいじゃん」

「切り取っておいた方が調理中とか食べる時に怪我しにくいし、油ハネ防止にもなるらしいよ」

「ほー」

 

 

「じゃ、海老揉み洗いしといて」

「ほいほいって何この粉……片栗粉?」

「そうだよ」

「これも使うの? 塩だけで良くない?」

「塩だけより汚れや臭みがとれて、美味しくなるよ」

「ふーん」

「お酒を使うのも良いらしいね。うちは姉さんがお酒の匂い好きじゃないから、あんまり使わないけどね」

「……あたしは、洗った後にお酒振ってるよ」

「……? うん、いいと思うよ」

 

 ……こんな感じで、僕の普段のやり方を教えながら仕込んでたんだけど、なんか途中からアキの機嫌が微妙に悪くなって来ていた。

 

 

 で、現在。黙々と作業を続けてくれているけど、何かが気に入らないのか納得出来ないのか、アキにいつもの笑顔はない。

 

 そしてアキの機嫌が悪いから、ヒロが不安そうな顔でオロオロし出した。僕とアキが仲違いしないか気が気でないのだろう。

 

(大丈夫、怒ってないよ)

 

 声に出してヒロに伝えるとアキがさらに不機嫌になる気がするので、笑顔を向ける。それを見たヒロは、不安そうながら頷いた。

 

 何にしても、この状況は良くない。料理は楽しく!

 

(うーん。理由は……レシピが違うから、かな)

 

 多分だけど、僕のエビフライレシピがアキのとかなり違うんじゃないだろうか。あたしならこうするのに、とか、手間かけすぎ、とか思っているのかも。

 

 つまり。アキ自ら僕のレシピを知りたくて手伝いを申し出たのに、それが原因で機嫌を悪くするという、なんとも奇妙な事になってしまっていた。

 

 何故そんな事になっているのか。多分だけど、僕とアキとで料理に対する思い入れとうか、方向性が違うからだろう。

 

「僕が料理好きになった理由は、僕の料理を食べて、笑顔で美味しいって言ってくれた人がいたからだよ」

「……優輝?」

 

 アキが怪訝な顔で僕の名前を呼ぶ。

 

「アキが料理好きになった理由、改めて聞かせて欲しいな」

「えっ? まぁいいけど……美味しいものを自分で作れれば良いなって思って……あっ。あーあー!!」

 

 怪訝そうに答え出したと思ったら、突然大声を出した。

 

 これも多分だけど、アキ自身何で機嫌悪くなっていたか分からなかったんじゃないかな。理由がわからないからモヤモヤしてさらに機嫌が悪くなって、て感じかな。

 

「ごめん優輝、ちょっと自意識過剰になってたかも」

「そうなんだ?」

 

 別に気にしてないよとでも言う感じにアキにそう答えると、アキはやっと笑顔になった。

 

「あたし、料理の腕に自信あるんだよ。ヒロはいつも美味しそうに食べてくれるし、自分でも、実際美味しく作れてると思ってるしね。それ自体悪い事とは今も思ってないけど……」

 

 一度区切り、考えを整理するかのように数秒目を閉じ、

 

「優輝、あたしのレシピより手間かけててさ。そんなに手順多くしなくても美味しいの出来るのに、とか考えてて」

「うん」

「そう考え出したらそればっか考えちゃって。でもそっか、料理好きになった理由が違うからかぁ」

 

 なんか納得したようで、うんうんと頷くアキ。

 

 アキは、美味しいものが好きで料理好きになった。僕は、美味しいと言って貰えるのが好きだから。

 

 好きになった理由、キッカケで料理の腕に差が出るとは思わないけど、学んだり教わったりした環境次第で、レシピが変わるものだ。

 

「という訳で」

「という事で?」

「アキのレシピ、教えて。話し合って教え合って、一緒に美味しいもの作ろ?」

 

 そう提案してみた。話し合い、大事。

 

「……優輝、ほんっと良い娘! あたしをこれ以上大好きにさせてどうする気っ!?」

「うーん、そうだね。親友になりたいかな」

「もうすでに親友だよ〜!!」

「もう、だからいきなり抱きつかないでってば」

 

 またガバっと抱きつくアキ。今回は予測出来たのでされるがままにされたけど。

 

「優輝さん、ありがとうございます……!」

「ん、こちらこそありがとうだよ、ヒロ」

 

 仲違いせずに済んで安心したのか、笑顔で感動を伝えて来たヒロに、僕も笑顔でそう返した。

 

「さ、そろそろ調理再開しよ? 生海老は鮮度が落ちやすいしね」

「んにゅ、りょーかーいっ!!」

 

 

 その後は特にトラブルもなく、賑やかに和やかに料理は進んだ。うん、楽しい。

 

 

 

 

「よっし、完成っ!!」

「だね」

「はあぁ……とっても美味しそうですー……!」

 

 全ての海老を揚げ終え、お皿に盛り付けてからアキが大声でそう告げた。と同時、

 

「ただいまだ。うむ、ベストタイミングだな」

 

 玄関の扉を開け、姉さんが入って来た。入るタイミング見計ってたな、これ。

 

「お〜おかえりっ! 瑞希は何してたのん?」

 

 出会い頭、いきなり聞き辛い事を直球で尋ねるアキ。流石の積極性だ。

 

「最愛の優輝にも秘密にしているのに、アキに言う訳がないだろう」

「だよね〜……さすが瑞希、いきなり聞けばポロっと言うかな〜って期待したんだけどな〜」

「私に油断はない」

 

 アキの奇襲質問にもいつも通り冷静にあしらう姉さん……だけど、なんかいつもより上機嫌みたいだ。

 

「だがまあ、そうだな。もうじき、とだけ言って置こうか」

「んも〜気になる言い方しないでよ〜」

「へえ……」

 

 機嫌が良いのはそれか。天才の姉さんの行動は、双子の僕でも全ては理解出来ないけど、何らかの企みが実を結ぶ目処が立ったのだろう。

 

「ま、今はいいや、エビフライ冷めちゃうし。けどさ、どんな悪巧みしてるか知らないけど、ほどほどにね」

「悪巧み、ではないがな。ともかく、目に見えるカタチでお披露目する事になるさ……ふふ」

 

 悪巧みではないと言いつつ、悪巧みしているとしか言いようのない含み笑いをする姉さん。でもまあ。

 

「もう、姉さんったら……ありがとね」

「ふ、気にするな。私の趣味だからな」

 

 姉さんがしている事は、間違いなく僕に有益な何かなのは理解出来る。だから、とりあえず先にお礼を言って置いた。

 

「なんか……良いね、それ。短い言葉だけで分かり合えてるって感じ、とっても素敵……」

「……アキ?」

 

 唐突にアキが、憧憬のこもった視線と声で呟く。

 

 その雰囲気に何となくだけど、僅かな「壁」を感じた。

 

「さっそんな事より出来立てエビフライだぁ! ヒロがヨダレ垂らして待ってるだろうし、早くいただきますしよ〜!」

 

 一瞬の、別人のような寂しそうな顔は何処へやら。いつものアキらしい元気いっぱいの声と笑顔で、そう催促した。

 

 ……ちなみにヒロは、本当にオアズケを命令されている犬の様にヨダレを垂らして待っていた。可愛い。

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