優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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はじめての対魔練とはじめてのお料理

「…………」

「ヒロ〜、終わっうわびっくりした」

 

 ヒロに呼びかけつつ1人用更衣室のジッパーを開けると、月影ちゃんがすぐ目の前にいた。

 

「…………。こんにちは……」

 

 何故か少し間を置いてから挨拶される。なんだろ?

 

「こんにちは、月影ちゃん。これ邪魔だったかな?」

「(ふるふる)……事情、聞きました、ので……」

 

 1人用更衣室を横目に見ながら尋ねると、小さく首を振りそう言ってくれた。月影ちゃん優しい。

 

「ところで。その格好は、間違いなく蒼月さんの趣味だよね?」

「……?」

 

 月影ちゃんがどことなく不思議そうな顔をして、僅かに首を傾ける。可愛い。

 

 栄陽学園で指定されている服装は、制服のみだ。要するに指定の運動着はなく、公序良俗を大きく乱すような服でなければどんな服装で訓練に参加しても構わない事になっている。なので僕の服は、朝鍛錬で来ていたのと同じ組み合わせのものだ。

 

「予想通りだけど、やっぱミズ姉さんのカッコ、ユキさんとおそろなのね〜」

「うむ。色までは合わせていないがな」

 

 姉さんも僕と同じ組み合わせだけど、姉さんは青系が好きだから、パーカーとショートパンツの色がサファイアブルーだ。これは、姉さんが青系統が好きというより、一卵性の双子で瞳の色と髪の長さ以外瓜二つだから、すぐに見分けが付くように、らしい。

 

 ……僕としては、色もお揃いでも全然構わない、というかその方が嬉しいのだけど。それを馬鹿正直に姉さんに言ってしまうと、姉さんが大興奮して奇行に走りかねないので自重した。過去に前科があるしね。

 

 で。ちょっと話がそれたけど。月影ちゃんが着ていたのは、いわゆる昔の体操服だ。

 

 上は名札付きの白い体操シャツ、下は濃紺色のブルマ。こんなマニアックな格好を月影ちゃんが選ぶとは思えないので、蒼月さんのチョイスで間違いないだろう。

 

「……体操着のお約束はこれです、と、蒼月が……」

「まったくあの人は……」

 

 周りを見回し蒼月さんを見つけると、こちらに気付き小さく手を振って穏やかな笑顔を向けてきた。

 

 ……ちなみに、蒼月さんも月影ちゃんと同じ組み合わせだった。月影ちゃんはともかく、蒼月さんはそんな格好で恥ずかしくないのだろうか。

 

「あ、あの、優輝さん、私も使わせて?」

「え? ああごめんヒロ。どうぞ」

 

 開けたらある意味アブナイ格好の月影ちゃんがすぐ目の前にいたので、つい出るのを忘れて話し始めてしまった。

 

 僕が1人用更衣室から出ると、ヒロはそそくさと入り慌てた感じでジッパーを閉め、しばらくしてから衣擦れの音が聞こえて来た。やっぱりヒロも、これを使うのは恥ずかしい事は恥ずかしいらしい。

 

 早くに着替え終えた僕は、すぐに更衣室の出入口へと歩き出す。姉さんが「皆が着替え終わるまで待て」とか言い出したけど、目のやり場とかに困るから当然待たない。

 

 みんなには、歩きながら「着替え終わったのにいつまでもいたら他の人の邪魔になるから」と言い残し、返事を待たずに歩く速度を上げて1人更衣室を出たのだった。

 

 

 

 

 待つこと数分。授業開始約10分前に、雅を含めた友達みんなが一緒に固まってこっちに来た。

 

「んもぅ優輝ったら、すみっこにいれば邪魔になんてならないでしょうに」

1人用更衣室(あんなの)使っといて長々といられないよ。いくら場所取らないって言っても非常識な事してるし、目障りに思う人もいるかもだし」

「で、でも、着替え中直接ジロジロ見られないのは良かったから、えーと、瑞希さんありがとう?」

「私は優輝のために用意しただけだ、気にするな」

 

 まあ、助かったのは確かだからいいけど。結局ある意味目立っちゃってちょっと恥ずい。秘密がバレるよりは全然良いけど。

 

 それはともかく、友達全員着替え終わった訳だけど。姉さんと朝鍛錬組は同じ運動着だったから見たことある姿だけど、アキヒロの運動着はここで初めて見ることになった。

 2人の格好はお揃いで、白い体操シャツに赤のハーフパンツという、まあ普通の学校体操着スタイルだった。

 

 当然シャツに名札は付いていない。あったらコスプレ衣装みたいになってしまう…………

 

「どうしました?」

「……?」

「……いや、なんでもない」

 

 コスプレ衣装にしか見えない格好の蒼月さんからなんとなく視線を逸らす。月影ちゃんは違和感ないのに、なんでかなあ……いや、違和感ないのが違和感ある、のかな? なんだか哲学的に思えてきた。

 

「おぉ〜、みなさん早いですねぇ〜。うんうん、5分前行動、大事ですよね〜」

 

 授業開始のチャイムがなるより少し早めにネイ先生が来た。対魔練は基本クラスの担任教師が受け持つから、つまり1-Dの戦闘指導者は3年間通してネイ先生だ。

 僕らが小さい頃は、咲さんとネイ先生と、時々父さん母さんが加わって戦闘の指導をして貰っていたけど、僕らがある程度強くなるとネイ先生は本業である学園に戻ってしまい、帰郷した時くらいしか指導してくれなくなった。ので、ネイ先生の指導は久しぶりだ。ちょっと、いや、かなり嬉しい。

 

「さてさてみなさん、恐らく待ちに待った対魔練の授業です〜。と、言いたいのですが〜」

 

 うん? 何かあるのかな。

 

「日に2回ある訓練の授業ですが〜。午前は主に体力トレーニング的な事をするのでぇ、本格な戦闘の訓練は、午後の訓練からになります〜」

『ええ〜〜』

 

 クラスメイトの一部から不満の声が上がる。というか、他のクラスの人からも聞こえて来た。

 

「不満はわかりますが、体力トレーニングはとっても大事ですからね〜? 基礎が整えば整う程、戦闘訓練で得られるものが増えますので〜。そ・れ・に〜」

 

 そこで一度切り、イタズラを考えている子供のようなちょっと悪い顔をして、

 

「守護者仕込みの体力トレーニング。甘く見ない方が良いですよ〜?」

『…………』

「守護者仕込み! うおおぉ〜〜っすっげー楽しみです! 先生っ早く始めましょうっ!」

 

 その一言で、うちのクラスは静かになった。雅だけは騒がしくなったけど。

 

「ふふふ〜、嬉しい事言ってくれますねぇ〜。とはいえ、まずは必要事項の通達からです〜」

 

 

 ネイ先生はそう言い、訓練の基本的な流れを説明してくれる。

 と言っても特別な事は言われない。午前は準備体操に体力トレーニング。午後は準備体操に戦闘訓練、クールダウンストレッチ、の流れだと伝えられただけだ。

 

「それと、これは事前に伝えられていますが一応〜。午後は、自分の戦闘着が決まっている人は、運動着ではなくそれを着て来て下さいねぇ〜」

 

 戦闘着と聞いて、みんなが少しザワつく。

 

 対魔練の授業に関して、入学案内で簡単な説明があったのだけど。その時に、対魔練の授業には自分で用意した運動着を各自着用する事。そして、戦闘着が決まっているものはそれを持参・着用する事、と言われていた。

 

 戦闘着とは、読んで字のごとく、精霊剣士が実戦の時に着用する服の事だ。当然、戦闘スタイルは個々人で違うのだから、みんなそれぞれ違う服装や防具を用意する事になるだろう。軍隊ではないのだしね。

 とはいえ、実戦経験のある人は少ないだろうし、何よりみんなは学生だし、さらには入学して間もない。戦闘着がすでに決まっている人はごく少人数だろう。

 

「さて、これで以上です〜。さてさて、まずは準備運動っ始めますよぉ〜」

 

 ネイ先生の一言で、いよいよ対魔練の授業が始まった。といっても、1回目は体力トレだし、僕らは村でネイ先生の指導を受けたことがあるから、懐かしさは感じたけど新鮮味はなかった。

 

 

 

 

「ぅ〜つかれた〜」

「そうだね〜パフィンちゃん。でもちょっと楽しかったかも」

「……マジで? ヒロちゃん、めっちゃタフなんね〜」

 

 その日の昼食時。パフィンさんがテーブルに突っ伏して溶けていた。ヒロも相槌を打つけど、パフィンさんと比べると結構余裕そうだ。

 

 ヒロが楽しかったという体力トレの内容だけど……簡単に言うと、「個人の体力に合わせて何組かに分けて、組毎に足並みをそろえてランニングしつつ、しりとりゲームをする」というものだった。体を動かしながら同時に頭も働かせる事で、戦闘中に臨機応変な状況判断を下す事が出来るようにする為の訓練らしい。

 

 僕らが村でした時はしりとり以外にも、「あ行」の食べ物を挙げ続ける、じゃんけんをしながらと言った遊び要素のあるものから、暗算をしながら、素数を数えながら等、数学を取り入れたヤツとか色々あった。まあ多分、その内学園の授業でもやると思う。

 

「お腹すいたぁ〜。料理マダ〜?」

「そうだね〜私もお腹ペコペコ〜。マダですか〜?」

「ヒロって食が関わるとちょっと性格変わるよね。学食じゃないんだし、すぐには無理だからね?」

 

 今居るのは、学園の調理室。部活見学の時の約束通り桜部長に入部届けを渡し、今は姉さんが食材の確認をしているところだ。

 

「んで、瑞希は何作るのん?」

「オムライスだ」

 

 卵を手にしてそう答える姉さん。

 

 今日は、見学時に言われた入部条件である「料理音痴でない事」を証明するため、姉さんが人生初の料理をする事になっていた。

 つまり、今日のお昼は姉さんの手料理だ。初めて姉さんの手料理を食べる訳だから、ちょっと、いや、かなり楽しみだった。

 

 まあ敢えて言うなら。間違いなく「僕の作った料理」が出てくるから、新鮮味があまりないとこは残念かな。

 それでも、「姉さんが作ってくれた」というスパイスがあるから、自分で作ったより美味しく感じるんだろうなあ……ふふふっ。

 

「えっと……瑞希、ガチで生まれて初めて料理するんだよね? オムライスってちょい難易度高めだよ?」

「大丈夫だ、問題ない。何度か見ている、私はトレースするだけだ」

「……料理しようとしてるんだよね?」

 

 で。はじめてのお料理な訳だから、助手を付ける事になった。最初は僕が助手になろうとしたのだけど、姉さんが「優輝が助手だと、私の実力だと判断されないだろう」と言い出し、アキを指名した。ちょっと寂しい。

 

 それにしても、「トレース」ね。予想通りの単語も出たし、これでほんの1ミクロン程あった不安もなくなった。

 

 

 

 

「みんな、出来たよ〜ん」

「待たせたな」

 

 待つ事約20分。8人分のオムライスが2人によって運ばれてきた。僕と姉さん、アキヒロ、部長副部長、そしてパフィンさんと月影ちゃんだ。

 

 今いない友達のうち、雅とサチさんは剣術部に入部届けを出した後、学食に行くらしい。

 

 蒼月さんは、入部した服飾部に用事があるので今日のお昼は別行動、と月影ちゃんから聞いた。月影ちゃんは部活には入るつもりはないらしく、食事と読書以外には予定はないらしく、誘ったら来てくれた。

 

 そんな月影ちゃんだけど、蒼月さん、というか服飾部の人に、「入部しなくても良いから時々衣装モデルになって下さい!」と頼まれたらしく、何でも良いから本を貸してくれるのを条件で了承したらしい。やっぱり月影ちゃんは本の虫だね。

 

「いただきます」

『いただきまーす!』「……いただきます」

 

 僕の音頭の後に続いてみんなが復唱して、食事が始まる……何故か僕が、みんなのまとめ役で定着してしまった。まあ良いけど。

 

「……美味しい……」

「はふはふっはむっムグムグモグモグ……ん〜♪」

「うんまっ。チョーんまいよ〜ミズ姉さ〜ん!」

「ふ、当然だ」

「うーむ、美味ですぞ。これに合う漬物は……」

 

 うん、美味しい。さすが姉さん。みんなにも好評なようで、とても嬉しい。

 

「んにゅ、美味い。普通に、じゃなくてかなり美味い……解せない」

「ああ……そうだね。誰が食べても、初めて料理した人のものとは思わないだろうね」

 

 アキと部長さんも美味しいと言っているけど、その表情は複雑そうだ。まあ、初料理でこんな、料理を作り慣れた人レベルのを目の前で作られたら当然か。

 

「まあ、僕が作ったからね」

「……どう言う意味だい? 今日君は、手伝うどころか助言の1つもしなかったはずだけど」

「この前言った通りです。姉さんは天才なので、数回作る工程を見たら、その動作をトレースして同じものが作れちゃうんです。だからこのオムライスは、僕が今から作ったとしても、まったく同じ味のものが出来上がりますよ」

「料理は初めてだったが、愛する優輝が普段やっている作業なのだ。何度も見てきた姿だ、寸分の狂いなくトレースするのは容易い。まあ、優輝の動きだからこそ、だがな。例えば料理長殿の動きならば……完璧にトレースするには、優輝の1.5倍はかかるか」

『…………』

 

 絶句する2人。僕を含め、凡人に姉さんの事を分かりやすく伝えるならやっぱり。

 

「姉さんは天才なので。あまり深く考えない方が良いですよ?」

「う、うん、そだね」

「まあ、なんだ。この腕なら、瑞希君の入部に異議を唱える者はいないだろう。瑞希君、美味しい料理をありがとう」

「ありがとう!」

「そこはありがとうじゃ……あー、まいっか」

 

 2人は完全に納得はいっていないようだけど、深く考えるのはやめたようだ。

 

 

 

 

 食事後、と言ってもヒロはまだおかわり食べているけど……ちなみにおかわりは僕が作った。それを一口味見したアキと部長さんがまた複雑な表情になったのは、まあ仕方ないね。料理人として当然の反応だろう。

 

 それはそれとして。今は午後の訓練、というか、午後に着る人は着るであろう「戦闘着」についての話題になった。

 

「おおっ優輝と瑞希は戦闘着決まってるのねん」

「2人のはどんな感じなんかな〜? やっぱおそろ?」

「それは――」

「午後の訓練まで秘密だ」

「え〜もったいぶらなくてもい〜じゃ〜ん。ま、運動着もグッドセンスだったし、戦闘着もかぁいいんだろな〜」

「そんな期待する程のものじゃないと思うよ。僕は別に、今話しても良いし」

「あまり謙遜するな優輝。とても似合っていて格好良く、そして可愛いぞ」

「ほほー、それはそれは。期待しちゃうよー?」

「もう姉さんたら、あんまりハードル高くしないでよ〜」

 

 僕の戦闘着は、僕の戦闘スタイルに必要な装備を選んだだけだ。センスは人並み程度だと思っているし、本当に謙遜はしていない。

 

 ……あまり僕の話題ばかりなのも気恥ずかしいので、少し話題をずらすことにする。

 

「それよりもっ」

「どれよりも?」

「僕としては、月影ちゃんの戦闘着が気になるかな」

「……?」

 

 本を読んでいた月影ちゃんが、名前を呼ばれて顔を上げ、少し首を傾ける。可愛い。

 

「んにゅ? 月影ちゃん、戦闘着決まってるのん?」

「…………。恐らくは……」

「恐らく?」

「……蒼月が作った、らしいので……」

「作ったー!?」

「アキ、そこ大袈裟に言うとこ?」

「なんとなくっ!」

 

 まあ、アキらしいリアクションだ。元気っ娘可愛い。

 

「ま、自作衣装を月影ちゃんに着せた写真を見せびらかしてるし、意外ではないよね。ちなみに、蒼月さん本人の戦闘着は?」

「……まだ、らしいです……確か、今月中には仕上げる、と……」

「ふむ。月影のを優先し過ぎて自分のは遅れた、とかだな」

「ふみゅふみゅ……水城ズと天王寺ズ、やっぱ似た者同士だよねー」

「そうか? 私は一応、自分の戦闘着は決定済みなんだが」

「一応って言ってる時点で似た者同士だと思うよ?」

「ふむ?」

 

 アキにそう言われても、まだ姉さんはピンと来ないらしい。

 

 確かに、姉さんは自分の戦闘着をすでに決めている。けどあれは、何というか……うん。

 

「確かに、姉さんと蒼月さん、似てる部分多いかもね。戦闘着に関しても」

「そうか。優輝がそう言うならそうなのだろうな」

「ミズ姉さん、なんか納得の仕方おかしくない? これが重度のシスコンってヤツなん?」

「そうだよーパフィン」

「なんでアキが言い切るかな?」

「私はシスコンではない。優輝コンだ」

「姉さんそれ言い方変えただけだからね?」

「いや、似て非なるものだ」

「いやいや、同じだから」

「いやいや」

「いやいや……まあそれでいいや」

「うむ、それでいいのだ」

「マジで超仲良いね〜」

 

 そんな感じで和やかに雑談して、楽しく昼休みを過ごした。

 

 

「ガールズトークで肩身が狭い……」

「ですな……」

 

 

 途中、2人のそんな呟きが聞こえて来た……なんかごめんなさい。

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