午後の対魔練前の、長めの休み時間。今回も早めに出て、1人用更衣室で手早く着替える……着慣れてはいるけど、さすがに運動着よりは着替え終えるのに時間がかかるね……ん、ヨシ。
『おお〜……』
ジッパーを開けて出ると、みんなから感嘆の声のようなものが漏れる。
「じゃ、また後でね」
みんなが感想を言いたそうな顔をしていたけど、何か言われる前に素早く外に出た。
「んみゅっ! 優輝っ最高にカッコ可愛いよー!」
「優輝さん、素敵です!」
「ん、ありがと」
「当然だ」
「チョーカコカワだね〜。清楚なドレス風の服にゴツい鎧のミスマッチ感がイイカンジ〜」
「肩までのガントレット、格好良いなぁ。俺もガントレット装備するかな……」
「雅は太刀使いだから、手甲みたいなのの方が良いとは思うけどね」
僕の戦闘着は、友達に概ね好評だった。ちょっと恥ずいけど、嬉しい。
「見た目は良いけど……脛丈スカートって、戦闘での動きが少し制限されそうなのだけれど。優輝さん的にはどうなのかしら?」
「んー、まあ確かに最初は多少気になったかな。慣れれば普通に動けるよ」
「そうなのね。やっぱり何事も「慣れ」よね」
真面目なサチさんだけは、見た目の評価以外もしてくれた。それもまた嬉しい。サチさん好き。
さて。現在側にいる友達の評価も終わったので、僕の戦闘着について詳細を書こう。
深緑のドレス風の服、スカートは脛丈のミディサイズで、邪魔にならない程度にフリルが付いている。
両腕には鈍い銀色の、肩までのガントレット。僕は大剣使いなので、衝撃を和らげるために肩までのを装備している。
インナーとして、伸縮性の良い長袖の黒シャツに、下は同じ素材の黒タイツ。黒はシルエットを誤魔化せるから、僕のインナーは大体黒だ。
「にしても……瑞希は本当にそれが戦闘着なのん?」
「うむ、そうだが。何か問題があるか?」
「本人が1番動きやすい服装で良いのだから、瑞希が良いのなら私は多くは言わないけれど……」
みんなに心配される姉さんの戦闘着。別に昔の漫画やゲームの女戦士みたいなビキニアーマー的な痴女スタイルではない。とはいえ、見た目だけならある意味心配されても仕方なくはあるかな。
というのも、姉さんの戦闘着、この学園の制服の上に白衣を羽織っているだけにしか見えなのだ。強気な話し方も合わさって、よく知らない人が見たら13歳位の子が患う事のあるアレな患者と見られてもおかしくない。
「案ずるな、アキにサチ。こう見えて、彩光精霊石を使用したオーダーメイドの精霊防具だ」
「へ〜、そんなら安心……え、マジで?」
「マジだぞ」
姉さんの一言に、みんなが固まる。まあねえ……精霊防具に使用するのは、大体が並の精霊石だ。彩光精霊石なんて、普通は中級以上の精霊剣にしか使われない。それだけ彩光精霊石は貴重で高額なのだ。
「もしかしたら、と思ってたけど……水城ズって、かなり良いトコのお嬢様……?」
「そんなことない、とは思うけど……ただまあ、父さんとかが、そういうコネがある立場の人だから」
「コネ……コネかぁ……」
アキがなんか遠い目をしだした。
「……あ。優輝さん、「とか」って、咲様の事?」
「うん、そうだね」
ヒロ、なかなか鋭い。
「ふみゅ…………優輝」
何やら少し考え込んだ後、アキはぽんと僕の肩に手を乗せて、
「あたし達のもお願いねっ!」
実に良い笑顔で、僕のコネを利用する宣言をした。
「こうも清々しく頼むなんて……アキは大物ね。まあ、汚くないコネは利用するべき、かしらね」
「んも〜そんな褒めても今は何も出ないよ〜?」
「今の褒め言葉かな……まあ、サチさんの言には同意するけど」
とはいえ、彩光精霊石製を友達全員分は流石に……まあ、友達の生き死にに関わる事だし、交渉頑張ろ。
「みなさんこんにちは。午後も早いですね」
「……ん(ぺこり)」
戦闘着について話していると、蒼月さんと月影ちゃんが来た。
蒼月さんは、午前と違い弓道着のような格好だった。月影ちゃんの話では、蒼月さんの戦闘着はまだ完成していないらしいので、今のは仮の戦闘着なのだろう。
そういえば、2人の戦闘スタイルについては、月影ちゃんが護身術の達人という事以外はまだ聞いてないな……蒼月さんは、格好からして弓使いなのは確定かな。
で、月影ちゃんだけど……一言で言って、超可愛い。
「か、かわいー……! お持ち帰りしたーい……!」
「え。さ、サチさん?」
最初に月影ちゃんの今の格好に感嘆の声を上げたのは、意外にもサチさんだった。間延びしたトロけたような声を発したものだから、最初はパフィンさんかと思った。
まお、ちょっと驚いたけど、なんかサチさん「可愛い」にこだわりがあるっぽいから、琴線に触れた……のかな?
「ん……どうも、です……」
そう感謝を述べ、静かな動作でカーテシーをする月影ちゃん。確かに全てがとても凄く超絶可愛い。
「ふっふふ……真っ先にお分かりいただけたのは塩谷さんでしたか。素晴らしいでしょう……月影の! 最強装備時の! 可愛さ上限突破な姿あはぁ〜〜!!」
「うわ」
語っている途中で唐突にヘブン状態になった蒼月さんにちょっと引く。
そんな、サチさんが思わずトロけ顔になっちゃったり蒼月さんがさらなる残念さを露呈させちゃったりした月影ちゃんの可愛すぎる格好は、いわゆるゴスロリ服だ。
白と黒で構成されたゴスロリ服は、月影ちゃんの美しい銀髪にこれ以上ないくらい似合っていて、物凄く可愛い。本当に、等身大のビスクドールにしか見えない。
だからまあ……要するに僕も、ちょっと引いちゃったとはいえ、2人が自失しかける程に興奮するのも少し解る。
「……ふむ。良いセンスだ。月影の魅力を最大限に引き出している」
「さすが瑞希さん、そう言って下さると思っていましたわ。ふふふ」
そう言って蒼月さんは、聞いてもいないのに月影ちゃんの戦闘着についての詳細を語り始めた。
ヘッドドレスのデザインがどうだとか、ジャンパースカートとボレロの色合いと月影を引き立てる豪奢過ぎないレースとフリルの使い方に苦労したとか、他にもコルセットが精霊石がパニエがドロワーズがブーツが……
(3人共生き生きしてるなあ)
……最初の方は何となく理解出来ていたから聞いていたけど、途中でテンションについていけなくなり聞き流す事にした。
「瑞希はまあいいとして。さっちゃんがあの専門用語飛び交う会話についていけてる事にビックリだねぇ」
「僕も、単語自体はわかるけど、あの熱量にはついていけそうもないなあ」
「アタシも〜」
「で、でも、熱中出来る趣味があるって、素敵だと思う、かも」
「あー、そうだな。俺の趣味は自己鍛錬くらいだし、確かに凄いよなって思うぜ。ああ言うのなんていうんだっけ。同じ穴の狢だったか?」
「それは微妙に違うかな。この場合は同好の士か、同人だね」
静かにヒートアップする月影ちゃん可愛いの会話を眺めながら雑談していると、いつの間にか月影ちゃんが僕らの近くにいた。やっぱり気配消すの上手いなあ。
「えっと……なんかお疲れ様、月影ちゃん。その戦闘着、とっても似合っていて可愛いよ」
なんだかんだで感想を言いはぐっていたので、蒼月さんから聞き飽きてるだろうけど僕も褒めた。
「ん……(こく)」
ほんのり頬を染め、小さくお辞儀する月影ちゃん。凄い可愛い。
「そういえば。このゴスロリ服、精霊防具?」
蒼月さんの台詞の中に、精霊石が云々てあった気がしたので、聞いてみた。
「……火の彩光精霊石を使用、だそうです……」
「んへぇ」
アキが奇声を出してるけど今はスルーしておこう。
「あ、あの、気になってたんですけど。優輝さんの戦闘着も、もしかして」
「ああ、うん。使われてるよ、彩光精霊石」
「ぐべぇ」
「んほぉ」
再び奇声、というかひとつ増えてる。パフィンさんかな? まあスルーする。
「インナー以外は、彩光精霊石入りの神霊石を使用してるって聞いてる。父さんと咲さんが、知り合いに発注した特注品らしいんだけどね」
「こういう事聞くの、不躾かもだけど。その、お値段は……」
「うん、まあ。高級車が1、2台買えちゃう、らしいよ」
僕も姉さんから聞いただけだから、本当に聞いた値段が正しいかはわからないけど。彩光精霊石の貴重度を考えると、嘘ではないんだろうなあ。
『………………』
3人共黙ってしまった。沈黙が辛い。
まあ、3人の気持ちはよく分かる。僕も今でも、親からとはいえこんな良い物仕立てて貰っちゃって申し訳ない、とか思ってるし。
「優輝さん……愛されて、いるんですね……」
「……月影ちゃん?」
初めて、月影ちゃんから話題を振られた気がする。
「……私と、蒼月。本当の親の顔を、知りません……今の父様は、あまり、家にいません……」
「…………」
いきなりちょっと重めの話が始まったけど……もしかして、僕を気遣ってくれているのかな?
「ので……本の知識、ですが。良い親は……大切な我が子に、良い贈り物をしたいと思うもの、らしいです。ので、その……」
そこまで言って、迷うように視線を彷徨わせてから蒼月さんに視線を向ける。
「蒼月とも……血は、繋がっていません。蒼月は、親代わりではなく、姉のような、なのですが……普段から、気を使い過ぎないで欲しい、と……」
言いたい事が上手く言語化出来ないようで、蒼月さんと今自分が着ている服とに視線を彷徨わせる。
でも、月影ちゃんが何を言いたいのかは、何となく伝わって来た。要するに。
「んっと。子を大切に思う親からのプレゼントなんだから、申し訳なく思う必要はない。てことかな?」
「……ん……(こくり)」
月影ちゃん……ほんっと、よく気遣いが出来る良い娘だよね……大好き。
「そうだね。ありがとね、月影ちゃん」
「……ん(ふい)」
僕が感謝を告げると、頬を赤らめ恥ずかしがるように視線を逸らした。凄く可愛い。
(申し訳なく思う必要はない、か)
溺愛されているとはいえ、親が何でも用意してくれるのが当然とは思わないし、そんな子供にはなりたくない。
とはいえ。時には少しくらい、甘えても良いのかもしれない。時々なら、ワガママを言っても良いのかもしれない。うん。
「というわけで」
「ということで?」
「どこまで要望が通るかわからないけど。みんなの戦闘着のデザインとかコンセプトとかが決まったら、教えてね。僕らのコネで、みんなの戦闘着を用意してあげちゃうから」
「え、いいのっていうか大丈夫なのん? さっきのは冗談っていうか……さすがに高級車が買える金額をポンと払えるほど、うちは裕福じゃないよ?」
さすがに戸惑うアキ。そこではっきり冗談だったって言えるアキは、やっぱり良い子だ。
「期待されすぎても困るけど。サチさん曰く、汚くないコネは使うべき、らしいし。友達の戦闘着だもん、出来るだけ良い物使って欲しいからね」
友達のための戦闘着だ。友達の命を守る事になるかもしれない精霊防具だ。
それなら――少しくらいワガママを言っても、いいよね?
「あー」
「イミよくわかんないんだけど……」
「うーんとだな」
「えっと……」
「……」
月影ちゃん意外の4人が、何やら言いたそうに数秒口籠る。と、
「とりあえず。ありがとうお友達っ!」
「……ユキさん太っ腹過ぎない?」
「ああ、良い人過ぎるな」
「……惚れちゃいそうです」
なんか優しげな笑顔で、口々に感想を告げてきた。
キーンコーン……
「あら、時間ですね」
「ですね……天王寺さん、後で月影ちゃんのゴスロリ写真下さい」
「ええ、勿論」
「……ん? どうした優輝?」
「いや、なんでもないよ。さ、行こっか」
反応に困る反応をされて、どう返そうかと思っていたところで時間切れになった。けどまあ。
(みんな嬉しそうだったし、このままでいっか)
あまり気にしない事にした。
さて。いよいよ午後の対魔練開始だ。本日最後の授業でもあるし、頑張るぞー。
「は~い、午後の対魔練の時間ですが~。始める前に、軽く「敵」に関して復習しましょ~」
準備運動後、先生がそんなことを言い出した。
「では、そうですね~……巻さんっ。私達の「敵」とは、なんでしょうか~?」
「えっ、私っすか!? えっとですね……魔神と魔獣っすね」
「はい、その通りです~」
――魔神。
異世界からこの世界へと侵略してきた悪意ある者達。守護者と同じく、神話級精霊剣と契約し、不老となった超越者。
――魔獣。
魔神勢がこの世界に放った不定形の謎の生物、通称「魔物」に取り込まれ、正気を失い無差別に生物を襲うようになった野生動物の総称。
――魔物。
RPGでいう所のスライムのようなゼリー状の生物。半透明でどこにでも潜り込めるので、未だ全体数を把握出来ていない。
つまり、今現在も存在しており、そのせいで時折魔獣が発生してしまうので、定期的に見回り・駆除をする必要がある。
簡単に説明するとこんな感じだ。この事はまあ、この国に住む者なら一般常識レベルで知っている。さらに詳しい内容は、多分座学で学ぶだろう。
ちなみに魔獣は、主に魔神の封印地付近で発生しやすく、封印地から一番近くにある村……僕の住んでいた故郷の村の事だけど。常に村の者が周囲を見回っており、咲様を筆頭に戦える者が発生次第駆除している。
僕と姉さんも村にいる間は、魔獣駆除には結構な回数参加していたりする。実際にこの手で魔獣にトドメを刺した事も何度もある。
「魔獣への対策ですが〜……ここはやはり、経験者に聞くのが1番でしょうか〜」
……うん、まあ。話の流れ的に。
「水城 優輝さん。魔獣と戦う時の注意点を述べて下さい〜」
だよね。クラスメイトが少しザワつくけど、当然の反応かな。ほとんどの人は、戦った事があるどころか生で見た事すらないだろうし。
「一人で戦おうとしない事。完全に活動停止するまで油断しない事。体色が変わるまで目を離さない事、です」
魔獣になった生物は、不自然な程真っ黒か真っ白になる。取り付いた魔物が離れるか死亡すると自然な体色になるので、それがトドメの基準になる。
「はい、正解です〜。では次に、今挙がった答えですが。その理由を水城 瑞希さん、お願いします〜」
「1番目は、安全を確保するため。2番目は、魔獣はまともな生物ではないため。3番目は、魔物が生命活動を完全に停止したかを見逃さないため」
「はい、だいたいそんな感じです〜」
うん、無難な解答だ。多少大雑把ではあるけど、必要最低限は答えている。
「魔獣に関しては、今はこのくらいにしまして〜……とりあえずみなさん、出席番号で、前後の人と2人1組になって下さい〜」
言われた通り、みんなツーマンセルになり整列し直す。僕は番号的に姉さんとだ……魔獣駆除の時も姉さんと一緒だし、いつも通りだけど。
「天井君よろしくねー!」
「あ、ああ、よろしく頼む」
「よろ~。ん~と……名前なんだっけ?」
「北だよ……ああ、やっぱり俺はモブなんだなぁ……」
「うっほラッキー! 鯨井さんよろしくぅ!」
「よっよよよよろしくおねがいしままま」
「落ち着きなさいヒロ。大丈夫よ、ちょっとでも変な事しそうになったら息の根止めるつもりで叩き斬るから」
「それ俺が大丈夫じゃねえよ!」
「……あの、塩谷さんと組むの俺、だよな?」
「わかってるわよチェーン君、無視したわけじゃないから。ただ、コイツに一言釘刺しとかないと、絶対偶然を装って痴漢行為するだろうから」
「佐藤、お前……するつもりなのか?」
「しねぇよ! ……多分」
「ネネネネっネイ先生ぇ~……」
「ふふふ~、今日だけでも我慢しましょうね~」
「巻さん、よろしくな!」
「よろしくっす。でも私、戦闘より治癒術の方が得意なんで、間崎君の役に立つかわかんないっすけど」
友達の声に聞き耳を立てていたけど、ヒロと佐藤君の組以外は問題なさそうかな。
助けに行きたいけど、ネイ先生も今日だけ、といっているし。授業を妨げてまで助けに行くのは、色々とよろしくないだろう。
頑張れヒロ。いつでも誰かが助けてくれるとは限らないのだから。
「さてさてみなさん。組になって頂いたのは、先程の注意点、「一人で戦わない」の実践です~。詳しくは座学でやりますが、とりあえず……飯屋峰君、ツーマンセルで動く利点の具体例を1つ、挙げてください~」
ふむ……まあ、姉さんが言った「安全を確保する」は、抽象的で具体的ではない。姉さんは、面倒臭がってワザとそう言ったんだろうけど。
「うむ。我の素晴らしき力を喝采す」「違います」
即行で否定された。
「ヌムッ!? 何が違うと言う」「違うとはいえ1つ挙げたので黙って下さい。それとも、黙らさせられたいですか?」
「む……ふん、まあ良い」
笑顔で教育的指導はらパン予告をされて黙る飯屋峯君。ほんと、俺様系だなぁ。
「塩谷さん、挙げてください~」
「は、はい。一人が攻撃、もう一人がサポートに徹する事で、生存確率・討伐確率共に上げられます」
「はい、良い答えです~」
唐突に振られたけど無難に答えられたからか、安堵した顔をするサチさん。
「今日はツーマンセルにしましたが、それが最低限の人数だと思って下さい~。理想はスリーマンセル、多くてもフォーマンセルですね~」
理想とされるスリーマンセルの各人の役割は確か、1人が攻撃、1人が後方からの指揮と援護攻撃、1人が治癒術や防御結界などの補助だ。
フォーマンセルの場合のもう1人は、攻撃役を増やすか、臨機応変に動けるオールラウンダーが理想、だったかな。
「戦闘隊形についてはこのくらいにしまして。いよいよ訓練開始ですよ〜」
やっぱりイマイチ緊張感が出ない声だけど。ようやく、戦闘訓練開始となった。