優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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トマト大好き優輝さん(模擬戦の結果? あー、まあ、うん……)

(はわわあ〜〜☆)

 

 ……嬉しくて思わず間抜けな歓喜の声を上げそうになってしまった。変な目で見られたくなかったから自重したけど。

 

 でもまあ仕方ないのだ。その日の夕食が、

 

白米、トマトたっぷりミネストローネ、トマト・レタス・ベーコン・クルトンのシーザーサラダ、チーズ入りハンバーグ角切りトマトとバジルのソースがけ・フライドポテトとアスパラ添え

 

とまあ要するに、僕の大好きなトマトざんまい、トマト料理づくしだったから。

 

 あ〜〜嬉しい嬉しい嬉し……っと危ない、気を抜くと顔がニヤけそうだ。変顔を晒した時の姉さんと友達の反応が怖い。し、しかし……ふふふふふふ……

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「あの……もしかして、優輝さんが言っていた、忘れもしないその日の葛藤って」

「あー、うん。夕食が大好きなトマトづくしで、内心狂喜乱舞してたんだけど。表に出さないように堪えるのに必死だったんだよね」

「もっと、人生に関わる重大な何かだと思っていました……」

「ああ、それなら、着替えの時にバレないかヒヤヒヤしたし、バレてたら人生終了もあり得たね」

「そんな取ってつけたように言われましても、説得力ありませんわ」

「まあ、その日1番の危機は回避出来たからね。日記にも「姉さんが丁度良いモノを用意してくれていて助かった」くらいしか書いてなかったし、葛藤の度合的には2番目かな」

「ふむ、さすが私だ。学生の時も優輝愛に溢れていたわけだ」

「……ある意味羞恥プレイだったから、そこはちょっと我慢が必要だったけどね」

「ふむ。優輝が真の意味で羞恥プレイなんてしていたら、学生の頃の私では理性が持たなかった恐れがあるな」

「えぇっ解りますわ!」

 

 2人してなに変なとこ力説してるんだか……というか、

 

「……何の話してたんだっけ?」

「その日の訓練のお話では?」

「その日の夕飯の、優輝の幸福に満たされた顔の話だな」

 

 少なくとも、僕がトマトに満たされている時の話はほとんどしていない。

 

「確かに、トマト料理を食べている優輝さん、いつもとても素敵なお顔をされていますよねー……それはそれとして」

「うん?」

「私はクラスが違ったので見学出来なかったですし、その日の夕食も、部活で遅くなってご一緒出来ませんでしたから、優輝さんと瑞希さんの組手稽古の様子を聞けなかったんですよね。なので今更ですが、教えていただきたいですわ」

「あー……」

 

 うーん。他の人の様子なら、まだ思い出せるけど。

 

「自分があの時どう動いていたかなんて、よく覚えてないなあ」

「うむ。いつも通りに訓練しただけだからな」

「確かに。いつも通りの事をしただけでしたら、客観視すら難しいですね」

「あえて言うなら、その客観だな」

 

 ふむ。あの時の組手について、別の視点、というか、周りの人――友人達はどう見ていたか、どんな感想を抱いたか。

 

 なんか言われた気はするけど……えーと……

 

 

 

 

       ――――――――――

 

 

 

 

「優輝可愛い!」

「っ! な、なに突然?」

 

 美味しい夕食に夢中になっていたけど、アキのその一言で我に返った。

 

「いやなんていうかね。さっきのレベルが違う組手見てから、優輝が別次元の人みたいに見えちゃってたのよね」

「はあ」

 

 僕が可愛いのとその事がどう関係があるのか、意味わからないけど。確かにあの後からみんな、微妙によそよそしいというか、一歩引いた位置にいる感じはしていた……飯屋峰君は逆にさらに踏み込んできて鬱陶しかったけど。

 

「僕、変な戦い方でもしてたかな」

「優輝、逆だろう」

「そだよー! 凄すぎて無意識に敬遠しちゃったっていうか!」

「無駄の無い動きで攻め続ける瑞希と最小限の動きで避け続ける優輝さん……二人共凄まじかったわ」

「ありがとサチさん。と言っても、綺麗に避けられたのはほとんどなかったし、掠ってあちこち赤くなってて、さっきまでいろんな箇所がヒリヒリと痛かったんだよねえ」

 

 まあ、組手中はアドレナリンドプドプだったからか、痛み出したのは授業後だけど。まあその痛みも傷も、自分で治癒術かけてすでに治ってる。

 

「大剣持ちが、短剣持ちの密着攻撃をあれだけ避けられる時点で、オカシイのよね……」

「だよなー」

「水城ーズマジ守護者最有力、て感じだね〜」

「んー……」

 

 姉さんはともかく、僕なんてまだまだ……と言おうとしたけど思い留まり、昨日のネイ先生の指摘を思い出す。

 

 謙虚に過ぎれば、嫌味に捉える人もいる。本心を相手に伝える前に、まず自分の実力・魅力を出来るだけ正しく認識する。

 

 以上の事を踏まえた上で、適切な言葉は。

 

「守護者の咲様に直接鍛えてもらってきたし、実戦経験もあるからね。咲様の名にかけて、無様は晒せないよ」

 

 こんな感じ、で良いかな? これでキチンと伝わったか、ちょっと不安だけど……

 

「ふみゅ……なるなる」

「それが、優輝さんの強さの理由なのね……参考になったわ」

「さすがだよな。俺が目指す理想の守護者候補だぜ、優輝は」

 

……よかった。少しクサいかと思ったけど、概ね悪くない反応だ。

 

 せっかくだから、調子に乗ってもう一言。

 

「一応言っておくけど。今日のはあくまで非殺傷な訓練モードだからね。真面目に本気でやったけど、全力では……ない、かもね……」

 

 と、不敵な感じで言い出した……けど、自意識過剰っぽい言い回しが途中で気恥ずかしくなってきて、最後尻すぼみになっていた。頬が熱い。

 

 なに言ってんだろ僕。自分の魅力を嫌味なく伝えるって、なかなか難しい……

 

「お〜……カワイイとカッコイイが合わさって、ユキさんの魅力がなんかヤバい」

「俺も、堂々とそう言える位、強くなりたいぜ」

「くすっ、真の強者にのみ許された台詞よね」

 

 何故か高評価だった。あれかな、中二病っぽい感じがカッコよく見えたとか……そう考えたら違う意味で気恥ずかしくなってきた……頭が熱い。

 

「戦闘中は強くて格好良いのに、トマトフルコースを幸せそうに食べてるの可愛すぎっ! さらには自分の発言で赤面しちゃってっ! んもー優輝ってば美少女力高すぎっ!」

「うむ、ギャップ萌えというヤツだな。ふふ」

「もぐもぐ……」

 

 僕の気を知ってか知らずか、アキは男性アイドルに黄色い声を上げる娘みたいに騒ぎ、姉さんは感慨深いとばかりな雰囲気でニヤニヤと、2人共変なテンションで僕を持ち上げる。そんな僕らを見て、他のみんなも優しげな笑顔になっていた。

 

 唯一いつも通りなのはヒロだけかな……食事中だからだけれども。

 

 とはいえまあ、なんにしても。

 

(組手後からの妙な空気がなくなったから、まあいっか)

 

 食事前までの僕の懸念(トマトづくしで忘れていたけど)がなくなったから、より夕食が美味しく感じられた。

 

 

 ちなみに僕らの攻防は授業終了時間まで続き時間切れ、ダメージ蓄積量が多かった僕の判定負けです。

 

 

「……流石に皆さん、食べ終えてますよね」

「ん……」

 

 僕の周りのみんなが大体食べ終えた頃、(例によってヒロだけおかわり食べてるけど)蒼月さんと月影ちゃんが夕飯を持って来た。

 

「おーいらっしゃい天王ズ。遅かったねぇ」

「その呼び方だと、違う人の名前に聞こえますわね」

「2人は服飾部帰り?」

「そうです。楽しくてつい遅くなってしまいましたわ、ふふふ」

「うん、わかる〜」

 

 料理部で1番何もしなさそうなパフィンさんが相槌を打つ。そりゃあ食べる係だし、楽しいだけだろうけど……まあ僕とアキの料理係も、存分に料理出来るから楽しいけれどね。

 

「とはいえ。楽しくて熱中すればするほど皆さんとの交友時間が少なくなってしまうのは、少し悩ましいですね」

「…………」

 

 その台詞に、月影ちゃんが何か言いたそうに蒼月さんを少し見つめ、視線をこちらに移す。

 

「……蒼月、座りましょう……」

「そうですわね。お邪魔致します」

 

 そう断りを入れて、2人のために確保しておいた席に腰掛ける。

 

「今日のお夕飯も、とても美味しそうですね」

 

 実際とても美味しかった……ふふ、幸せ……って、また月影ちゃんに見られてる。なんだろ?

 

「そうでした。そうそう、月影が今日のお昼をご馳走になったそうで。とても美味しかったそうです、瑞希さん、ありがとうごさいました」

「気にするな、大したことではない」

「まあ、初めての料理でそう言って退けられるのは、姉さん位なものだろうけど」

「……初めてで、月影が私に高評価を告げるとは……やはり天才ですわね」

「それもあるが。やはり優輝の料理の腕が素晴らしいからな。私はそれをトレースしただけだ」

「それはそれで素晴らしい事だと思いますが。いつか私もご相伴に預かりたいです」

「うむ、いつか機会があればな」

「私も今日は、剣術部に用があったから、瑞希の料理食べれてないのよね」

「俺も同じくだ。よければ今日の昼に俺のも作ってくれないか?」

「いやいや。雅さっき夕飯食べたでしょ?」

「ツッコむとこおかしくない!?」

 

 僕のボケ返しに、アキがツッコミを入れてくれる。そしてみんなが笑顔になる。アキのツッコミ、やっぱり好き。

 

「ところで、昼食は何を作られたのですか?」

「オムライスだが……月影から聞いていないのか?」

「……月影?」

「……美味、でした……」

「くっ……これは是非いただかなければ!」

 

 なんか妙に悔しがる蒼月さん……オムライス大好きなのかな?

 

 それに対して月影ちゃんは、その話をそれ以上語るつもりはないというかのように視線をソッポへ向ける。

 

 ちなみに、後で聞いた話だけど。蒼月さんは大の卵好きで、自分の知らないところで月影ちゃんが卵料理を食べた場合、どんな感じだったか事細かに説明させようとするらしい。

 特に好きなのはだし巻き卵らしく、内緒でだし巻き卵を食べたのがバレたらかなり面倒な事になるらしい。

 

「夕食……トマトたくさん、です……」

「うん、そうだね。ふふっ」

 

 さらに、オムライスから話を反らすかのようにそう呟く月影ちゃん。視線は未だソッポ……いや、献立表を見てるっぽいかな……んー?

 

(月影ちゃん、何を言いたいんだろう?)

 

 口下手な月影ちゃんだけど、ただ話題を反らすだけのためにそんな発言はしない気がする。

 

 献立……トマトトマトトマトトマ……ん?

 

「なんで夕食、トマトづくしだったんだろ」

「えっ?」

「そういえば……」

「ふむ」

 

 次の1日の学食メニューは、前日の夕食時に学食に張り出される。月影ちゃんの視線の先にある張り紙がそうだ。

 献立表には、使用する食材も細かく記載されているんだけど。確か今朝確認した時は、ここまでトマトづくしではなかったような。

 

「学食のことは、料理長殿に聞けば良いだろう」

「えー……」

 

 あの人とは、あまり接したくないんだけど……貞操の危機的な意味で。

 

「顔もハートもイケメンなスト様の事嫌うの、ユキさんくらいよね〜。狙ってるアタシんとってはありがとだけど〜」

「嫌ってるとも違うんだけど……まあ、苦手なんだよ」

 

 とはいえ、事情を確実に知っているのは彼だろうし。

 

 

 

 

「というわけで」

「ということで!」

「トマトづくしの理由を聞かせてください」

「さ〜い」

 

 と、厨房にいるストゥルガノフ氏に話しかけてみた。

 

 一応、前回と違ってまだ学食に生徒はだいぶいるので、目立ち過ぎないように僕と姉さん、アキとパフィンさんの4人だけで訪ねた。

 

「いらっしゃい、お待ちしていました」

 

 僕らが来る事を予測していたらしく、嬉しそうな顔でカウンター越しにすぐに応対するストゥルガノフ氏。内心ちょっとビクついた。

 

「しかし、そうですか。意図には気付かれませんでしたか……」

 

 何故か残念そうに眉根を寄せてそう言われた。なんだろ?

 

「優輝の気を引くため、もとい、初の訓練でクタクタな優輝を労うために、優輝が大好きなトマトをふんだんに使ったレシピに急遽変えた」

「え?」

 

 姉さんが唐突にそんな事を言い出した。それって、トマトづくしの理由の予想?

 

「私ならそうするが。違うか?」

「正解です」

「えー」

 

 合っていたようだ。つまり、夕食がトマトづくしになったのは、僕が原因らしい。

 

「初日のチキンステーキトマトソースがけを、とても美味しそうに食べていましたので。トマト好きなら、これで気を引けるかと思いましてね」

「……愛されてるね〜ユキさん」

 

 パフィンさんが、ジト目で僕にそう呟く。そんな目で見られても。

 

「僕としては、有難迷惑なんだけど」

「えー」

 

 さっきの僕の声を真似するように、ストゥルガノフ氏がそう声を漏らす。若干ムカつく。

 

「えーじゃないですよ。僕だけ贔屓するのは良くないです。今後はやめて下さいね」

「まぁ、仕方ありませんね。好感度もそれ程上がらなかったようですし」

「というか、ある意味対抗心が湧きましたよ(料理人的な意味で)」

「おや? むしろ下がっていますか?」

「上がっても下がってもいません」

「そうですか! チャンスはまだありそうでなによりです」

「……はあ」

 

 やっぱりこの人苦手だ。悪い人じゃないだけ、ある意味質が悪い。

 

「1つ伝えて置こう。優輝はほとんど誰にでも優しいが、落とすとなると誰よりも難しいと思え」

 

 僕の感情を読み取ったのか、姉さんがそう釘を刺してくれる。

 

「……そのようですね。お姉さん的には、優輝さんの理想の恋人について、どうお考えですか?」

「優輝の事なら誰よりも知っているが。そこだけは、私にもわからん」

「僕にもわからないけどね。月並みだけど、僕が好きになった人が、僕の理想の人だよ」

「まあ、優輝が選ぶ相手なら、私に匹敵する素晴らしい人物なのは間違いないだろうな」

「そうですか……なら、優輝さんに好きになって頂けるよう、今後も切磋琢磨しなければなりませんね」

「……多分、僕の気持ちは変わりませんよ?」

「未来は誰にもわかりませんよ?」

「……」

 

 これ以上はあえて何も言わない。というかもう聞きたいことは聞けたし、離れたい。

 

「ふみゅ……優輝、ガンバ」

「……どういう意味かな?」

「色んな意味で!」

「そだね。では僕らはこれで」

 

 妙に疲れた。解散する上手い言い訳を考えるのも面倒になり、適当に別れの挨拶をする。

 

「はい。またいつでもいらして下さい」

「……はい、気が向いたら」

 

 良い笑顔で見送るストゥルガノフ氏に、一応笑顔でそう返す……さらに疲れた気がする。

 

 

「う〜。やっぱりユキさん強敵だ〜」

「だから、僕は敵じゃないから」

「じゃスト様攻略の協力して〜」

「それはお断りします。彼とはあまり関わり合いになりたくないし、何より僕は、恋愛に関しては素人だしね」

「う〜」

「……ふみゅ」

 

 ……なんかアキが意味深な目つきをしている。

 

「アキ、今変な事考えてない?」

「別に〜? ただ、ヒロにも目はあるかな、と思ってね」

「……なんでそこでヒロ?」

「「好きになった人が理想の人」なんでしょ?」

「まあ、そう言ったけど」

「あたしは応援するだけだけどねん」

「はあ」

 

 アキは主語を抜かして言う事があるから、よく意味は伝わらなかったけど。とりあえず、今すぐ変な気を回す事はない、のかな。

 

 

 

 

 その後、ヒロもご馳走様したので、少し雑談した後解散となった。ここ数日ではかなり早い解散となったけど、みんな初の対魔練で疲れてるだろうしね。

 

 解散前に、みんなと自分自身に一言。

 

「みんなお疲れ様。今日は初の授業で疲れてるだろうから、早めに休んでね。それじゃあまた明日、よろしくね」

「優輝の気遣いがなんか染みる。ヤバイ」

「あ〜、母性を感じる〜……ママ〜」

「優輝さんは素敵で出来てます……」

「……やっぱり、男だったら惚れてるわ、うん」

「ああ、また明日な!」

「ふへへっ、捗ります!」

「……ん(ぺこり)」

「ちょっとまった。なんか雅と月影ちゃん以外の反応がオカシイ」

「気にするな!」

「気にするよ!」

「あははっ! また明日ねっ!」

 

 誤魔化すようにアキが大きめな声で挨拶したのをキッカケに、今度はみんな普通にまた明日をして解散となった。

 

(僕は、ママにはなれないのになあ)

 

 とか思ったけど。当然、口には出さなかった。

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