優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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ヒロの「好きな食べ物」を強制追加してみた

 おやつに焼いたクッキーをサクサクしながら、ふと思いつく。

 

「そうだ。明日の夕飯は、豚の角煮にしよう」

「……唐突ですわね」

 

 僕もそう思う。一応、理由はキチンとあるけど。

 

「今日の買い物中に、アキのリクエストでエビフライを作った話ししたよね」

「ああ、そうだな」

「エビフライはアキのリクエストで、それ程仕込みに時間もかからないから選んだ訳だけど」

「ふむ」

「……なるほど。確かヒロさんは、豚の角煮をリクエストしていましたわね」

「そうそれ。ヒロは何でも好き嫌いなく美味しそうに食べてくれるけど、逆に、これが一番好きっていう料理はない感じだったんだけれど」

「だけれど、ですか」

「うん。豚の角煮のリクエストも、本当にたまたま食べたい気分だったんだと思う。でもまあ、リクエストされた訳だし」

 

 そこで一旦区切り、笑顔でこう言った。

 

「せっかくだから、ヒロの一番の好物にしてみたくなったんだよね」

 

 

 

 

      ――――――――――

 

 

 

 

 今日のお昼はアキが、アキヒロの寮の部屋でご馳走してくれた。

 

「うん、美味しい……やっぱりトマトとチーズの相性は抜群だよね」

「美味しいですよねーもぐもぐ」

 

 ちなみにメニューは、コールスローサラダトマト入り、カボチャの豆乳スープ、トマト・ナス・挽肉・チーズのラザニアだった。

 

「ふむ、悪くない」

「ん……美味、です……」

「あははっお粗末!」

 

 ちなみに、台詞で判るとは思うけど。ご一緒してるのは、招待してくれたアキヒロは当然として、僕と姉さん。そしてなんか、毎回必ずと言っていいほど月影ちゃんが一緒にお昼を共にしてくれている。

 

 月影ちゃんとはクラスが違うし、どうしてもクラスの友達と比べて接する機会が少なめなので、正直嬉しい。蒼月さんとも、その内お昼ご一緒したいな。

 

 

 

 

 食後に、クッキーとほうじ茶で一息つく。

 

 月影ちゃんは本を読み始めていたけど、僕がココアクッキーを取り出すと一旦読むのをやめ、今は夢中でサクサクしている。可愛い。

 

 ちなみに月影ちゃんが読んでいた本は、僕が貸してあげた1番のお気に入りの本だ。料理本だけど、月影ちゃんはここ数日こればかり読んでいる気がする。気に入ってくれたみたいで嬉しい。

 

 それにしても月影ちゃん、本当に本ならどんなジャンルでも読むんだなあ……料理自体にも興味持ってくれると嬉しいな。

 

「次のお昼は、土曜で優輝で良いかな?」

「そうだね、特に予定が入らなければね」

「何作るか決まってる?」

「うーん、考え中」

 

 美味しそうにクッキーを頬張る月影ちゃんとヒロを眺めながら、そう答え……あ、そだ。

 

「アキ、ちょっと耳貸してー、取り外さなくても良いけど」

「取り外せる訳ないじゃんっ」

 

 アキが律儀にツッコミを入れつつ、近付いてくれる。

 

「確か最初の時、ヒロは豚の角煮をリクエストしてたよね?」

「んにゅ? あーそうだった気もするねー」

「違うとは思うけど、一応確認するね。それがヒロの1番の好物ではないよね」

「違うねぇ」

 

 即答された。まあ予想通りだ。

 

「ていうか、ヒロは食べられるモノなら多少の好き嫌いとか食べ合わせとか気にせず、なんでも食べるからねー」

「その言い方だと、まるで悪食みたいにも聞こえるけど……そういえば、有名な毒キノコのベニテングタケの毒って、美味しいらしいね」

「いやーさすがになんでも食べるヒロでも、美味しいからって毒キノコまでは食べないよー」

「だよね……いつだったかヒロが「美味しいから大丈夫」とか言ってた気がするけど。毒とわかってるモノはさすがに食べない……ないよね?」

「ないない! ……多分!」

「友達歴長いアキにそう言われると、不安になってくるんだけど……」

「まっまぁヒロの食材の目利きは凄いから、大丈夫!」

「そうだよね。それに、僕らが怪しげな食材を扱わなければ良いだけだしね」

「そーそー!」

「……とりあえず、毒の話をしたかった訳じゃないから、話戻すね」

「んにゅ、どーぞ」

 

 さて、どこまで話したっけ? 確か、ヒロは豚の角煮が一番好きという訳ではないのをアキに確認した、までかな。

 

「ヒロが豚角煮をリクエストしたのって、ご飯が進むから、かな」

「そうだろねー。ご飯とかパンとかの炭水化物と、それに合う料理が好きって感じかな。あーそうなると、ヒロが好きな食べ物は、ある意味白米なのかもねぇ」

「ふふっ、食べるのが好きなヒロらしいね」

「あははっだねー」

 

 なんだか微笑ましくなって、2人笑い合う。

 

 まあそれはそれとして。僕が言いたかった事はそこじゃない。

 

「でもヒロは、白米単体が好きって訳じゃないよね」

「んまぁそだね。あくまで白米とそれに合うオカズ、のセットだね」

「その、オカズに関してなんだよね」

「んにゅ?」

 

 話の意図はまだ伝わらないらしい。まあ、ここからが話の本題な訳だけど。

 

「ということで」

「という訳で?」

 

 さらにアキに近付き、声量を絞ってヒロに聞こえないようにして、提案する。

 

「豚の角煮を、ヒロにとっての「1番の好物」にしてみない?」

「……ふみゅ。面白そうだね」

 

 

 

 

「今日はアキちゃんがあんまり構ってくれないので、少し寂しかったです」

「……優輝さんと……何やら計画、していますが……」

「そうなんですよね〜……もぐもぐもぐ……ごくん。楽しそうだから、そこは良いんですけど」

 

 次の日の夕食時、1食目を食べ終えておかわりを持ってきたヒロが、拗ねたような口調で料理本を読んでいる月影ちゃんと雑談しながら合間に食べていた。2人とも何気に器用だなあ。

 

 ここのところお昼を必ず一緒しているからか、月影ちゃんとヒロは、よく会話している気がする。

 

 対人恐怖症気味(主に男子に対してではあるけど)なヒロと、口数が少なくて内向的な感じの月影ちゃんとは、何気に相性が良いのかもしれない。

 

 まあ、アキは月影ちゃんとは真逆な感じだけど、ヒロの昔からの親友だし。どっちかというと月影ちゃんが「キチンと自分の内面を見てくれそう」だから、仲良くなれたのかもしれない。

 

「悪だくみ、ではないはず……なので、その……待ってみましょう……」

「うーん、そうですねー……もぐもぐ」

 

 そう言いつつ、どこか不満げなヒロ。

 

「気になるなら、直接聞いてみてはいかがでしょう?」

「そうね。少なくとも、ヒロに嫌な顔したりはしないわよね」

「いやいや、ヒロに秘密で計画してるんだから、聞かれても答えられないよ?」

「月影ちゃんの思ってる通り、悪い企みはしてないしねぇ。にゅふふ」

 

 最後にワザとらしく、悪だくみしてそうな笑い方をして場を和ますアキ。可愛い。

 

「じゃあ、瑞希さんに聞いてみたらどうだ?」

「優輝の楽しみの邪魔を私がする訳ないだろう、というか計画の内容を私は知らん」

「そうか〜。じゃあ待つしかないんじゃないか?」

「うむ」

「てゆかぁ、料理好きの2人が、ヒロになんかしよって企画してるんだし、食べ物関係しょ〜……スイーツならアタシも呼んでね〜?」

「まあ、スイーツではない、とだけ言っておくよ」

「これ以上は企業秘密だぁっ! まぁ期待しててよ、ヒロ!」

「アキちゃんがそう言うなら……もぐもぐ」

 

 釈然としない顔ながら、食べるのを再開するヒロ。

 

 ふふふ。明日はどんな顔を見せてくれるかな?

 

 

 

 

 翌日昼。土曜で学園が休みなので、午前中から仕込みを再開出来る。豚バラブロックは、昨日の授業終了後に超特急で買いに行っており、夜のうちに仕込みを開始していた。

 

 日課の朝鍛錬を終えて朝食をいただいたらすぐ部屋に戻り、調味液と下茹でして冷蔵庫に入れておいた豚肉と大根を鍋に入れ、弱火でじっくり長時間煮る。

 

「ふむ……いつもと匂いが若干違うように感じるが」

「アキと話し合って決めた、ヒロ特効カッコカリの味付けだからね」

 

 姉さんと雑談しながら火の番をしていると、

 

「ちょい早いけど来たよん」

 

アキが来た。1人で。

 

「いらっしゃい。ヒロは?」

「部屋で月影ちゃんとおしゃべりしてるよー」

「ふふっ。あの2人、すっかり仲良しだね」

「だよー、ちょっと妬けるくらいにね。ホイこれ」

「ん、ありがと」

 

 楽しそうにそう言いながら、大きなタッパーを渡される。アキ特製の煮卵だ。今回の角煮に使ってる調味液と同じ配合の液に漬け込んであるらしい。

 

「なんかやる事ある?」

「火の番するくらいだし、特には……ふむ。せっかくだから、菜っ葉のお浸し作ってくれる?」

「おー、りょーかーい」

 

 角煮完成少し前にやろうと思ってたのを、アキに任せる。

 

「そういえば、アキは豚角煮とかの長時間煮る料理、よくやる方?」

「んにゃ、あたし基本せっかちだから、あんまりやらないねー。だから計画通りにいかなくても、ヒロは大喜びしてくれるよ、間違いなくね!」

「そっか、それはなにより。んー、ヒロが豚角煮リクエストしたのって、その辺りもあるのかな」

「あーそーかも」

「ふむ。煮込み料理なら、優輝の作るホワイトシチューが特に好きだが。シチューやカレーなどはどうしている?」

「フライパンで作る時短レシピだねー。1時間以上はあんまりかけたくないかも」

 

 そんな感じで雑談していたら、いつもはもう少し長く感じる煮込みもあっという間だった。

 

 

 

 

 11時30分頃。ヒロと月影ちゃんが一緒に来た。

 

「すんすん……やっぱりこれは、豚の角煮!」

「第一声がそれか」

「まぁ瑞希さんや、ヒロはそんだけ嬉しいのよ」

「ふふっ、いらっしゃい2人とも」

「こんにちはお邪魔します!」

 

 元気に挨拶を返してくれるヒロ。やっぱり性格変わってるよね……アキの性格が混じった感じかな。

 

「……こんにちは……本日も、ご相伴に預かりまして……ん、大変感謝……」

 

 月影ちゃんはいつも通りのテンションだけど、いつもより深々とお辞儀をする。分かり辛いけど、ヒロにつられて何気にテンション上がっているのかもしれない。

 

 

 

「それじゃあ、いただきます」

『いただきまーす!』「……いただきます」

 

 僕が音頭を取り、食事開始。さて……

 

「はうー、見た目からして最高の照り具合……絶対美味しいヤツです!」

 

 ご飯の上に乗せた豚角煮を眺めながら、感嘆の声を上げるヒロ。

 

「ではっ実食!」

 

 ご飯と一緒に角煮を頬張る。ドキドキ……

 

「もぐもぐもぐ…………、!!!!」

 

 いつも通り目を細めて幸せそうにもぐもぐし出した、と思ったら、カッと目を見開き輝かせ、一気にご飯をかきこむ。

 

 凄い勢いでご飯が減り、

 

「――ふぁっ!? ぎょはんぐぁにゃい!!」

「ちゃんと飲み込んでから話しなさいっ!」

「ん、こくんっ……ご飯がないです!」

「そりゃあ、食べたらなくなるよね」

 

ヒロの茶碗に山盛った一杯目のご飯は、あっという間に消失した。まだ豚角煮1個目だ。

 

「おかわり下さい! 美味しすぎます!」

「はーい、ちょっと待ってね」

 

 ……これは大成功なんじゃないかな、まだ答えは出てないけど。

 

「……優輝は優輝で、凄い嬉しそうな顔でご飯盛るねぇ。めっちゃ可愛いっ」

「うむ。良い笑顔だ」

 

 2人がなんか言ってるけど気にしない。

 

「……ん」

 

 僕らのやり取りを眺めていた月影ちゃんも食べ始める。相変わらず一口が小さくて可愛い。

 

「……ん、とても美味……」

「ふふっ、お粗末様です」

 

 脂身の塊な豚バラが月影ちゃんの口に合うか少し不安だったけど、好評なようだ。

 

「……脂身なのに、その……脂っこくないです。なので……食べやすい……」

「そうなんですよね! いくらでもご飯が食べられちゃいそうではぐはぐはぐはぐ」

「もうちょい落ち着いて味わって食べなよー」

「もぐもぐごくんっ味わってるよーもぐもぐ」

 

 飲み込んで話し始めたと思ったらもうもぐもぐしていた。ふふふ、可愛い。

 

 

 

 

 食後。豚の角煮は少し残ってるけど、多めに炊いたご飯の方は空になってしまった。ヒロはいつもの3倍は食べてたし、いつもは軽めに盛った一杯しか食べない月影ちゃんもおかわりしていたからだ。

 

「いつもより若干濃いめの味付けに感じたが、美味かったぞ」

「ん、ありがと」

 

 そして、姉さんにも合格をもらえた。嬉しい。

 

 まあそれはそれとして。

 

「ヒロ〜、今日の豚の角煮はどうだったー?」

「今まで食べた中で間違いなく1番美味しかったよー……はふー……」

 

 そう言い、幸せそうにため息をつく。それを見て、僕も幸せを感じる。幸せスパイラルだ。

 

「ふみゅふみゅ……そういえばヒロってなんでも食べるけど、「1番の好物」って言うのはなかったよね」

 

 アキが露骨に本題に入る。僕としては、自分で提案しといてなんだけど、ヒロがたくさん食べてくれて幸せそうにしてくれているからその辺どうでも良くなってきていたけど。

 

「今日のだよ」

「んにゅ?」

「私が1番好きな食べ物は、2人が作ってくれた、今日の豚の角煮だよー」

 

 こう言われて、嬉しくないはずがない。

 

 アキと顔を見合わせる。アキはすでに笑顔満面だった。まあ多分、僕もだ。

 

「計画通りぃ!」

「やったねアキ!」

 

 アキとハイタッチする。

 

「ふむ、そうか。「豚の角煮をヒロの好物にする」計画か」

「あーそうだったんですねー。こんな豚角煮だされたら、そりゃ計画通りに行きますよー」

 

 嬉しいこと言ってくれるなあ。1番の好物に認定される一品を作れて、本当に良かった。アキにも後で、改めてお礼しないと。

 

「……」

「……うん?」

 

 視線を感じて目を向けると、月影ちゃんが本から顔を上げ、何か言いたそうにこちらを見ていた。

 

「…………。私も……」

 

 僕と視線が合うと一言呟いてから少し視線を彷徨わせ、再び本に目を落とす。なんだろ?

 

 ちょっと気になったけど、それ以上話す気は無いようで、月影ちゃんは本を読むのに集中し続けた。まあ、月影ちゃんの性格的に無理に聞いたら可哀想だから、話したくなるまで待つことにしよう。

 

 そんな感じで、その日のお昼は和やかに過ぎていった。

 

 

 

 

      ――――――――――

 

 

 

 

「とまあそんな事があって、ヒロの餌付けは完了したのでした」

「最初のエビフライの時点で餌付けは完了していた気がするが」

「まあ、最終調整完了って事で」

「食べる事が大好きなヒロさんは、最高の友人に恵まれましたね」

「あー、うん。それだけなら良かったんだけどね……」

 

 ため息混じりにそう呟く。

 

「何を嘆く。優輝の自業自得……もとい、優輝がああまで世話を焼いたんだ、当然だろう」

「ですわね。捗ります」

「……ま、今更だけどね」

 

 半ば諦めてるしね。

 

「それはそれとしてだ。今夜の夕飯はなんだ?」

「今夜は、キノコの味噌汁にピーマンの炒め煮、メインは鯖の味噌煮……」

 

 んー……今、好物の話で盛り上がってるし。材料は……足りないから、この後豚角煮の材料と一緒に買いに行こ。

 

「……それと、だし巻き卵を追加しよう」

「優輝さん大好きです!」

「私も大好きだ!」

「ふふっ、僕もだよ」

 

 っと、おやつのクッキーもなくなったし。

 

「食材買いに行ってくるね。2人はどうする?」

「私は、衣装のアイデア浮かびそうなのでしばらく籠ります」

「私は昼寝している」

「ん、了解」

「優輝様、お供致します」

「ありがと静海。じゃあ2人で行ってくるね」

「ああ」

「いってらっしゃいませ」

 

 さて……豚角煮かあ。

 

 噂をすればで蒼月さんが来たし。もしかしたら、来るかな?

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