次の日は、魔神の襲撃があってあまり時間が取れなかったけど、幸い超越者に成り立てな上に粋がってるだけであまり強くはなかったので、割とすぐに倒せた。
とはいえ、午前が丸々潰れたので、昨晩仕込み始めた豚の角煮の調理の続きが午後からになってしまった。そのせいか、ちょっとだけフラストレーションが溜まっている。
ので、調理再開前に、リビングのソファーでしばらくぼーっとして精神的休憩をしていた……
「優輝様、こちらをどうぞ」
……していたら、静海が缶飲料を渡してきた。
「んー、ありがと」
何なのかよく確認せず受け取る。トマトジュースだった。わぁい、トマト大好き。
「機嫌がよろしくないようでしたので。そのような時は、好みの飲食物を摂取するのが良いかと」
「ふふっありがと静海」
その気遣いだけでだいぶ気分良くなれた。改めてお礼を言う……あれ? なんか既視感。
「どうした優輝?」
「んー。なんか前にも、静海とこんなやり取りしたような気がして」
「ふむ。静海と優輝が出会った当初のやり取りではないか?」
「あー、そうかも」
確認のため日記を開く……前回見た所の、ちょうど次のページ。つまり翌日の日記に、静海と初めて会った時にあった事が書いてあった。
――――――――――
「みんなおはよー」
「おはよー……また瑞希いないの?」
「うん、昨日のお昼にみんなと解散した後、すぐ出ていっちゃったからね」
「入学してもうすぐひと月だけれど。瑞希は週末、大体いないよね」
「そうだね」
村にいた頃も、首都へ行くと言って数日戻って来ないことはたまにあったから、僕としては珍しくは無いのだけど。ただ最近は、ちょっと気になる点がある。
なんか、首都からの帰宅時はいつもやつれていたけれど、最近は前以上にやつれているというか、物凄い疲れた状態で帰宅するのだ。今月に入ってからは、帰宅時の目の隈が酷い。
明後日くらいには元に戻ってるから、あえて聞いてはいない、というか教えてくれないから聞かないんだけど……僕のためになる何かだとしても、姉さんが無理し過ぎて体壊さないか、少し心配だ。
光曜日。その日の午後の自己鍛錬を終えて、学生寮に戻る途中。
「ん、あれは姉さん、と?」
寮の前に姉さんと、姉さんに侍るように横に立つ、長いストレートの黒髪にクラシックタイプのメイド服に身を包んだ女性がいた。
黒髪ロングでメイド服だから、最初はコスプレした蒼月さんかと思ったけど、違う。蒼月さんより髪の長さが少し短いし、色合いも、蒼月さん以上に黒が濃くて、墨を流したような漆黒だった。
「おおっ優輝じゃあないか! そうか鍛錬の帰りかはははお疲れ様だ!」
「ね、姉さん?」
いつになくテンション高めな姉さん。そしてやっぱり隈が凄い。
「また何徹かしたの?」
「確かにそうだが、私はそれだけでこうもハイにはならない!」
「まあそうだね、それはそれとして今すぐ寝なさい」
「まだ大丈夫だ!」
「はぁ……まったく、しょうがないなあ」
ここまでテンション高くはないけど、たまにするやり取りだ。けど……いつもよりおかしいから心配してるのに、もうっ。
「それよりもだ。コイツを紹介しよう!」
僕の気を知ってか知らずか、大声でそう言い、黒髪ロングメイドさんに手を向ける。
「自己紹介を許可する!」
って姉さんが紹介してくれるんじゃないのか。まあいいけど。
「お初にお目にかかります。わたくしは静寂の静に海で、「
そう言って、静海さんは綺麗なカーテシーをしてくれる。僕の咄嗟のなんちゃってなヤツとは違う、洗練されたお辞儀だ。
「あ、ご丁寧にありがとうございます。水城 優輝です、よろしくお願いします」
「優輝、敬語やさん付けは必要ない。私が静海の製作者であり、主人なのだからな」
「はあ……は? 制作ってどういう意味?」
「つまりは優輝も、今日からご主人様だ!」
答えになってないし、意味がわからない。
「瑞希様の言葉に、恐れながら情報を補足致します。わたくしは瑞希様に造られた、世界初の人型精霊剣に分類されます。また、瑞希様と契約しているので、二重の意味でマスターとなります」
「……ちょっとまってね」
言葉の意味は分かるけど、すぐに情報として頭に入って来ない。とりあえず、冷静に思考を巡らせよう。
(静海さんは、姉さんが造った人型精霊剣……うん、この時点で普通に考えてあり得ない、のだけど。姉さんガチで天才だしなあ)
普通の人には思い付きもしない事を始めるし、なんだかんだ成し遂げちゃえるのが姉さんだ。だから、静海さんは嘘をついてはいないだろう。
多分、最近毎週首都に出かけていたのは、静海さんの完成に目処が立ったからなんだろう。というか、ここ数年父さんとたまに首都に行っていたのも、同じ理由かな。
(精霊剣、人型か……そう言われてみれば、人間とは違うというか、映画とかのアンドロイド的な雰囲気かな)
静海さんを色んな角度からじっくり観察してみる。
髪色は、不自然に思えるほどの漆黒。顔立ちは、月影ちゃんレベルに人形的というか、整いすぎている。肌の色は、血色が悪いと言って良いほど異様に白い。
そして、喋り方というか、声のトーンに感情が感じ取れず、どこか機械的に感じる。まあ精霊剣らしいし、判り辛いだけで感情はあるだろうけど。
(それらの特徴を総合的に見るなら、確かにアンドロイドでも合ってるかな)
というか、アンドロイドって「人のカタチをした人ではないもの」を指すはずだから、人型で人間と遜色ない思考能力を備えている精霊剣なら、それはアンドロイドと言っても過言ではないはず。
(んー。静海さんの特徴がアンドロイドっぽいなら、月影ちゃんにもあてはまるような……まあ、流石に月影ちゃんには生気があるけど)
月影ちゃんの感情の起伏もわかり辛いけど、身振りや視線そらし、赤面などである程度は判別可能だから、静海さんよりは読み取れる。
まあそれはそれとして。
「そういえば、もうじきお披露目出来る企みがあるって言ってたよね」
「うむその通り! 静海こそが、私が今まで優輝にすら秘密にしてきた計画の集大成! 今まで私は自身を天才だと公言して来たが、静海の完成によって! 私は今後! 大・天・才!! であると、大手を振って公言できるのだあははははは!!」
「嬉しいのはよーく伝わるけどやっぱりテンションおかしいよ姉さん、部屋に戻ってすぐに寝なさい」
「まぁだ語り足りない!!」
「はあ〜〜……んー……」
まあ、姉さんが大をつけても良いほどの天才なのは、僕も意義はない。徹夜でなくともテンション上がっていたとは思うし、姉さんが嬉しいと僕も嬉しい。
そう。それ自体は、なんの不満もない。
(姉さんが今まで秘密にしていたのは、僕を驚かせて喜ばせる、サプライズ精神もあるのだろう。けど、多分……いや、間違いなく姉さんは、かなりのリスクを侵している)
何故なら、「人と会話出来る程の心を持った精霊剣」なんて、世界に数えられる程度しか確認されていないからだ。
理屈は解明されていないけど、すべての精霊剣は、感情ーー心を持っている。
10級〜6級の下級精霊剣はなんとなく気配を感じるか、精々小動物程度。
5〜3級の中・上級は、知能の高い動物か、小さな子供程度の知能を持つと言われ、触れた者の精神に直接意思を伝えたりする個体もある。
そして最上級、1級2級ともなれば、普通の人間とほぼ変わらない精神を持っていて、趣味嗜好を持っているらしい。
最上級なんて世界的に見ても十数本しか確認されていないし、僕も触れた事はないのであくまで伝聞情報だけど……まあ、咲様の神話級精霊剣の『金剛』さんと会話?念話?したことあるから、上級精霊剣に人間レベルの精神があってもおかしくはないのだろうけど。
要するに。静海さんが本当に精霊剣なら、感情の起伏が読み取れないとはいえしっかりと考えて受け答え出来ているので、まず間違いなく心を持っている。つまり静海さんは、1級か2級だ。
そんな最上級精霊剣だけど。それを作ろうとしたら、全国の名だたる天才精霊剣鍛治師達と、最高純度の彩光精霊石を使用した最上級の神霊石を用意する事が最低条件と言われている。
それだけの人材・物を集めても、最上級に至るにはかなりの運が必要らしい……うん、つまりは普通に国家プロジェクトレベルだ。まあそこは、我が家にはコネがあるからプロジェクトの立ち上げ自体は不可能ではない。
とにかく。そんなとんでもない代物なわけだから、大天才の姉さんであっても容易に生み出せるものではない。
けれど、双子の片割れである僕は誰よりもよく知っている。姉さんは「運」だとか「偶然」に頼るのが大嫌いな性格だっていう事を。どれだけ困難に見える道でも、必ずゴール出来るルートを選び取れる大天才だと。
ならば。静海さんを造り出すための「運」の代わりに、姉さんは何を使ったか。
(姉さんが静海さんを――最上級精霊剣を造って契約まで済ませてる理由なんて、「僕のため」以外にない。姉さんは、僕のためなら冗談抜きになんでもしちゃうし、出来てしまう。それこそ、必要に迫られれば自身の命を削る行為だって――)
……。自分の中で答えは出たけど。今まで僕に心配されたくなかったから秘密にしてきたのだろうし、姉さんに直接聞いてもはぐらかされるか。
なら……うーん、いけるかな?
「静海さん、ちょっと側に来てください」
「出来るならば、命令としてお願い致します。優輝様も、わたくしの主人マスターですので」
「えー……うーん。どうしても、ですか?」
初対面の……えーと、まあ人型だから人で良いか。初対面の人にいきなり命令は、ちょっと気が引けるんだけど……
「…………」
……そこは譲れないとでも言うかのように、無言で僕を見つめ続ける静海さん。
「……じゃあ命令として言いますね、静海さん」
「口調とさん付けも変えて頂ければ幸いです」
注文の多いメイドさんだなあ。考えを曲げない我の強さは、やっぱり姉さんが
「えっと……じゃあ静海、側に来て耳貸して」
「……了解しました」
一拍置いてから、近くに来てくれる。砕けた話し方にしてみたけど、これでOKらしい。僕らのやり取りを見ながら、なんか姉さんは満足そうに何度も頷いていた。
さて、本題に入る前に少しあったけど。静海は答えてくれるだろうか。
姉さんに読唇されないよう口元を手で隠して、声量も絞って聞こえないようにしてから、静海に尋ねる。
「姉さんが静海を造るために使ったものに、姉さん自身の「血液」があるよね」
「はい、その通りでございます」
答えは即返ってきた。
「……聞いた僕が言うのもなんだけど。そういうの、姉さんは秘密にしておきたかったと思うんだけど。答えちゃって良かったの?」
「優輝様から質問されたなら、包み隠さず全て答えるように仰せつかっておりますので」
……今回は仕方ないとはいえ、不用意に何か聞いたら、誰かのプライベートな秘密を知ってしまう事もあり得るかも。気をつけよう。
それはそれとして、質問の続きだ。
「その血液量ってどのくらい?」
「毎回の量でお答えした方が良いでしょうか、総量でお答えした方が良いでしょうか」
そう来たか。んー。
「とりあえず、毎回の量で」
「約900mlです」
「えーと……」
姉さんの体重は50k位だったはずだから……記憶が正しければ、一度の出血量でショックを起こさない限界は……多分、800mlが限界ギリギリ、体調次第では、それくらいでも出血性ショックを起こす恐れがある、かな。凄腕の治癒術士がすぐ側にいるなら、900mlでもショック死はしないだろうけど……
うん。急激に頭が冷えて来た。つまり、今僕は、物凄い感情が昂ぶっているのだ。
怒りで。
「ど、どうした優輝?」
珍しく姉さんが狼狽えている。まあ当然か、僕がここまで怒気を発した事は、今までないはずだし。
思考は冷静そのものだけど、怒りの感情自体は静まらない。少し吐き出さないと。
「静海に聞いたよ。姉さん、かなり危険な事していたらしいね」
「ぬっ……」
言葉に詰まる姉さん。やっぱり秘密にしておきたかったという事だ。
「姉さん、僕の事は必要以上に気にかけるくせに、自分の事は無頓着過ぎるとこあるよね」
「し、しかしそれはだな。私の行動のすべては優輝が何より大切だからでーー」
「それは知ってる。ありがとう、いつも感謝してる、心からね」
「うむ」
「でも、僕にも限界があるみたいだから。姉さんが秘密にして来た今回の事は、ちょっと簡単には許せそうにないよ」
「むう。しかしだな、静海は確実に、優輝の今後に役立つーー」
「僕はメイドさんが欲しいなんて言った事ない」
「…………」
前回がいつだったか覚えてないくらい久しぶりに、しょんぼりする姉さんの姿を見た。
(……しまった、失敗した)
間違った事を言ったつもりはない。けど、少し言い過ぎたかもと反省する。やっぱり、怒りの感情は制御しないとだね……
(あ。僕、静海に酷い事言っちゃったかも……)
メイドさんを必要としていなかったのは確かだけど、彼女を否定したかった訳じゃない。
「ごめん静……あれ、静海?」
謝罪をしようと振り返ると、いつの間にか静海の姿が消えていた。
辺りを軽く見回すと、早歩きで近付いてくる静海を見つけた。なんか缶ジュースらしき物を持っている。
「どうしたの、それ?」
「飲料の自動販売機に行って購入してきました。優輝様、こちらをどうぞ」
「え? あ、ありがとう」
反射的に缶を受け取る……トマトジュースだった。わぁいトマト、僕トマト大好き。
「機嫌がよろしくない時は、好物を摂取するのが良いと教育されました。優輝様の好物はトマトという野菜だとうかがいましたので、すぐに入手可能なトマト使用製品を購入してまいりました」
「そっか……ふふっ。気遣いありがとね」
「ふむ、さっそく与えた知識を役立てたか。さすが、私の静海だ……」
「お褒めに預かり恐悦至極にございます」
相変わらずの姉さんの態度に少しムッとしたけど、静海の気遣いを無駄にする訳にはいかない。まだまだ言いたい事はあるけど、感情が落ち着いて、情報を整理してからにしよう。
「……そろそろ良いかしら?」
「うん? あ、サチさん」
サチさんが、こちらに歩み寄りながら話しかけて来た。一緒に鍛錬していて少し前に別れたばかりだけど、何かあったのかな?
「僕らに用事?」
「用事というか、ね。周りの人を見なさい」
「周り、の人?」
言われて周囲の人……人だかりが出来ていた。
「あー……」
ここが寮の目の前だと言う事を忘れて喧嘩してしまっていた。まあかなり怒っていたし、場所を忘れて言い争うのは仕方ない、と思おう。
なんにしても。かなり目立っていたらしい……
「メイドだ」「メイドさんだ」「美人さんだ〜」「なめたい」「黒髪ロングメイドさんはジャスティス」「水城さんちのメイドさん?」「水城姉妹にメイドさんを添えて」「やりたい」「絵になる3人だな」
……双子美少女に美人なメイドさんが揃っていたら、喧嘩とか関係なしに目立つか。
「教えてくれてありがと、サチさん」
「どういたしまして。みんな、彼女達は見世物じゃないわ! 解散しなさい!」
サチさんの台詞で、野次馬さん達は徐々に散っていった。
「サチさん、……ありがとね」
つい、感謝の気持ちから「サチさん好き」とか「サチさん素敵」とか言いそうになったけど、それを飲み込んで、再び感謝だけを告げる。
「気にしないで良いわよ。それより、色々聞きたいところだけれど……瑞希の顔色がだいぶ悪いから、早く部屋で休ませなさいな」
「……そうだね」
さっきは隈が酷いだけだったと思うけど、今は顔色からして重い貧血の人っぽい感じになっていた。まあ血を抜いてるらしいから、実際貧血なのだろうけど……さらに悪化したのは、僕からの精神攻撃が原因かな……反省。
「じゃあ僕らは行くね。っとその前に。静海、サチさんに手短に自己紹介して」
「了解致しました。サチ様、わたくしは瑞希様と優輝様よりシズカと呼ばれております。お二方を主人とするメイドでございます。以後お見知り置きを」
「シズカさんね、覚えたわ。私は塩谷 幸子、友人からは主にさっちゃんと呼ばれているわ。よろしくね」
「はい、よろしくお願い致します、サチ様」
それに対して、サチさんも手短に自己紹介する……ちょっとおかしな部分もあるけど気にしない、たまに聞く台詞だし。
「……貴女もさっちゃんとは呼んでくれないのね」
なんか呟いてるけどそれも気にしない、たまに聞く台詞だし。
「改めて、ありがとサチさん。詳細は夕食時にでも話すよ」
「ええ、わかったわ。瑞希、お大事にね」
「ああ……」
そう言ってサチさんと別れ、寮の部屋に3人?で戻って行った。
その後、夕方の食堂開放時間少し前に姉さんが起きたので、改めて静海に関する詳細を聞いた。
静海は、姉さんが立ち上げた、精霊剣作成の計画『
……他にも、常人が思いつかないような内容だったり思い付いても実行に移すのにハードルが高すぎたり、とにかくトンデモワードがどんどん発せられて頭が疲れた。後でまとめよう。
「身内にも容易には明かせない国家プロジェクトに関わっていたのは十分に理解出来たし、姉さんのサプライズ精神はとっても嬉しいけどね。でもやっぱり、姉さんの命に関わるような計画なら、前もって相談して欲しかったよ……あんまり心配させないでよね」
「……うむ」
出来るだけ穏やかな口調でそう言い聞かせたので、僕の心情は伝わったはず。
ということで。姉さんが大きな計画を実行する場合のルールを決めた。
「僕のためでも、命の危険の伴う計画を勝手に計画・実行しない事。どうしてもしたいなら、必ず僕と相談する事。姉さんの事だから、リスクと同時に十分な保険をかけていたのだろうけど……それでも心配なんだから。ね?」
「ああ、了解した」
「後で父さんにも伝えないとだなぁ」
……思えば、首都から帰ってきた次の日の朝鍛錬に必ずと言って良い程参加しなかったのは、貧血でその余裕がなかったからなんだろうなあ。
その後、夕食時にみんなにも静海を紹介した。
「静かの海で、シズカと申します。瑞希様と優輝様のメイドとして仕えせて頂いております。皆様、以後お見知り置きを」
「よろしくでーす!」
「よっよろしくお願いします! ……うわー美人さんだー……」
「ああ、よろしくな!」
「よろ〜」
「私も改めて。よろしくね」
「よろしくお願いしますわ……良いメイド服ですね、捗ります!」
とはいえ、さすがに友達でも、国家プロジェクトの内容を安易には明かせないので、当たり障りのない自己紹介をしてもらった。
人型精霊剣であることは秘密。後は、静海は姉さんのとある計画に必要な重要人物という事にして置いた。あながち嘘でも間違いでもないけど。
「…………。よろしく、です……」
……なんとなく、月影ちゃんの妙な間と視線が気になった。もしかして、月影ちゃんは静海が人間じゃないって気付いたのだろうか。
まあ、月影ちゃんが他人の秘密を言いふらす性格じゃないのは知っているし、計画の具体的内容は流石に分からないだろうから、大きな問題は起きないだろう。
――――――――――
「大体思い出したけど。そういえば、あの時静海がトマトジュース買ってきたのって、姉さんの指示じゃないよね?」
あの時の姉さんは、珍しく心身共に弱っていた(僕が原因な部分もあるけど)から、違うとは思うけど。
「瑞希様より、優輝様に関する情報、優輝様の趣味嗜好の情報は与えられておりました。それに、対人関係を良好にするための知識を照らし合わせ、行動した次第です」
台詞は事務的な感じだけど。それは、相手を気遣う心を持っていないと出来ない行動だ。だから改めて、日頃の感謝も込めて。
「いつもありがとね、静海。大好きだよ」
「……勿体無きお言葉。心に刻み、未来永劫仕え続ける事を、改めてここにお誓い致します」
「こちらこそ。今後とも末永くよろしくね」
何年経っても、静海の声から読み取れる感情は、月影ちゃん以上に判り辛いけれど。言葉にして伝えてくれるから、それが嬉しい。
「うむ。良い」
姉さんはそんな僕らのやり取りを見て、いつものように満足そうに頷いていた。