優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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実家の安心感は異常

「それにしても、当然と言えば当然ですけど。鷲王さんと美奈さん、瑞希さんと優輝さんによく似ていますね」

 

 唐突に、ヒロがそんな事を言い出した。

 

「ほう、そうかい?」

「は、はい。髪の色とか顔立ちは、お二人の良いとこ取りな感じでしょうか。瞳の色は、瑞希さんはお母さん、優輝さんはお父さん似ですね。性格的には、瑞希さんはお父さん似、優輝さんはお母さん似かなって思いました」

『ふむ……』

 

 僕ら家族4人、顔を見合わせて確認する。今までたいして気にしてなかったけど……確かに、ヒロが挙げた通りな気がする。

 

 ヒロ、僅かな時間でよく見てるなあ。流石の観察眼。

 

「やはり君は良い目を持っているな。うむ、実に良い友を得られたようだな!」

「ふふっ。私も、3人共気に入ったよ。2人共々、私達ともよろしくね」

 

 ヒロの台詞は、父さん母さん的にクリティカルヒットだったらしい。かなりの上機嫌で、家族にしか見せないような笑顔と声でそう答えた。

 

「はいっ」

「よっよろしくお願いしますっ」

「はい、こちらこそっす」

 

 

 

 

 そんなこんなで家族に友達を紹介し、自室に荷物を置いて……うーんっ!

 

「……やっぱり、自分の部屋、落ち着くー……ひとねむりしたーい……」

 

 ひと月ぶりの我が家と自室に安心し、少しゆっくりしたい気分になった、けど。時間は現在午後4時、もうすぐ日が暮れ始める時間だ。夏の日は長いとはいえ、出来るだけ早めに、遅くとも今日中に雅を咲さんに紹介したいし、夕飯の仕込みの手伝いもしたいし……ともかく、時間は有限だ。

 

 

 

 

「というわけで」

「ということで!」

「守護者珠洲野守様のご自宅っ! ありがてぇ……!」

 

 家では一呼吸程度だけ休憩してゆっくりせず、すぐに行動した。今は雅の台詞通り、咲さんの家の前まで来ていた。

 

 ちなみに、一緒に来たのは雅とアキの2人だ。

 

 姉さんは僕より自分の欲求に素直だ。つまり、僕が一眠りしたいと思ったのなら、双子で思考の方向が似通っている姉さんなら、久々の我が家なのでゆっくり一眠りしたいからと、誘っても来ないだろう。それを解ってるから、誘ってすらいない。

 ヒロは、母さんが手作りマドレーヌを大量に出したらしく、お茶しながら母さんとの雑談に夢中になっていたのでそっとしておいた。

 父さんは、まだ慣れていない男性だとヒロが緊張するだろうから余計なお世話しないでね、と釘を刺したら、姉さんと静海と一緒に引きこもった。

 

 とまあ、そんな訳でこのメンバーなのだ。

 

「雅、一応もう一度言っておくけど。咲さん、顔にはあんまり出さないけど、変に畏まられたり崇められたりするの嫌がるからさ。拝んだり祈ったりとか、やらないでね?」

「ああ、わかってるよ」

「くすっ、それはなによりです。優輝さんも、気遣いありがとうね」

「いえ、別に大した事では……こんにちは咲さん、それとただいまです」

「へ?」

「ん? ……うおっ珠洲野守様!?」

 

 いつの間にか、咲さんが真横にいた。驚きで内心ビクついてはいたけど、2人よりは慣れているからなんとか表には出さずに返答した。

 

 一応咲さんには、学園で出来た友達を紹介したいからと、今日会いに行くと事前に連絡してはいたけど……どうやら、ドッキリさせようと気配を消して玄関付近で待ち伏せしていたらしい。流石におネイさんの母親、娘さんに似てお茶目だ。可愛い。

 

「おひっ。はじめましてっ! 優輝の親友っ! 海老江 茜葵でーす!」

 

 アキは入学日に出会っているから、ついお久しぶりと言いそうになったようだけど、雅には内緒だったから踏み止まったようだ。

 

 猪突猛進気味な所もあるけれど、なんだかんだ気遣いと空気の読める良い子だよね。そんなアキが好き。

 

「お、俺もはじめましてです! 優輝の友達で間崎 雅でっ守護者に憧れて目指していて! ずっと憧れてました!」

 

 逆に雅は、珍しく緊張した様子でワタワタと自己紹介した……アキが言い直したのにも気付かなかったらし、いやまあ、雅は普段でも気付かなかったかな?

 

「はい、よろしくお願いします。二人共元気いっぱいで良い子ですね。頑張ってね」

 

 あえて具体的には何を頑張れとは言わず、全てを肯定するかのように、母性の籠った声と微笑みでただ励ます咲さん……素敵。やっぱり咲さんは、僕の理想の人だ。

 

「あーえっと! す、少しの時間でいいんで、戦闘のご指導願えませんか! えーと、良ければその後夕飯とか一緒にどうすか!?」

「雅、緊張してるのはよくわかるけど。なんか後半の部分だけ聞いたら、口説いてるようにも見えるよ」

「え、そうか? あーまぁ、ある意味口説いてるし、間違いじゃないか」

「あらあら。こんなナリだけど、私お婆さんですよ?」

「はぁ。守護者だから、身体は若いっすよね」

「確かにそうだけれど……くすっ、面白い子ね」

 

 もう雅ったら、相変わらずストレートに思ったこと言うなあ……咲さんが満更でもなさそうに少し頬を赤らめてるのを見れたから、ちょっと楽しいけど。

 

「むぅ……」

 

 ……おや。何故かアキが少し不機嫌そう? あれ、もしかしてアキ……

 

「咲様っもう夕方ですけど指導してくれる時間とかあります?」

 

 アキが急かすように、早口で話題を修正する。

 

「ええ、少しの時間なら構いませんよ。ただ、この後首都へ行かないといけないから、夕餉は無理ね」

「っしゃあ! よろしくお願いします!」

 

 ガッツポーズをしてからお辞儀をする。良かったね、雅。

 

 それにしても。また首都行くのかあ。

 

「咲さん、少し前にも首都に行ってましたけど。最近忙しいんですか?」

「そうね……半月ほど前から、魔獣が少し増えてきていてね。10年以内に封印が解ける予測ですから、増える予想はしていましたけど。思ったより活性化し出したのが早いから、警戒レベルを早めに上げる予定なんですよ」

「そうですか……」

 

 魔神が復活する、か。

 

 咲さん曰く、当時の魔神の強さは、今の咲さんと同レベルらしい……魔獣は討伐したことあるけど、当然比較にならない程の強さだろう。魔神と渡り合うなら、最低でも最上級精霊剣と契約してないと、だね。

 

「お、俺、頑張って守護者になります!」

「あたしもがんばりますよー!」

「ええ、期待させていただきますね」

 

 二人は元気良くそう宣言する。

 

「精霊神剣に選ばれるかどうかはともかく。みんな、良い精霊剣と巡り会えると良いね」

「ああ、そうだな。まずは契約しない事にはなぁ」

「だねぇ」

 

 ちなみに。現在この世界で確認されている神話級精霊剣は、計6本。

 

『金剛』『極光』『暁闇(ぎょうあん)

『鋼鉄』『粉砕』『重圧』

 

 この内『金剛』は咲さんが契約中。『極光』は守護者ユーナ、『暁闇』は守護者アスターが契約者だけど、2人と2本は現在禁術でそれぞれ1人づつ魔神を封印中。

 

 そして、残り3本のうち所在が判明しているのは、精霊国が管理している『鋼鉄』と『粉砕』。『重圧』は、現在行方不明中で鋭意捜索中。

 咲さんの話によると、魔神大戦当時、「エリス」という名の守護者候補が契約に挑んで持ち出して以来、エリス共々行方が分からないらしい。

 現在に至るまで国内で有力情報は得られていないので、最近は海外にまで捜査の手を伸ばしているらしい。ので、咲さんは現在世界を飛び回っているため、こうして村に滞在しているのはかなり運が良い方なのだ。

 

(僕や姉さん、学園で出来た友達の中から、新たな守護者は果たして生まれるか否か……)

 

 現在所在が分かっている『鋼鉄』と『粉砕』には、栄陽学園生ならば、二年生の時に触れ合える機会がある。精霊神剣に気に入られるように、自己鍛錬をもっと頑張らないとね。

 

 

 珠洲野守家の家屋に併設されている小さな道場に、咲さんに連れられて入っていく雅とアキを見送る。この道場には、僕らが高校入学するまで毎日のように通って鍛錬していたんだよね……んー。

 

「なんだろこの感じ……ノスタルジー、てヤツなのかな」

 

 入学してからまだ一ヶ月なのに、なんだか懐かしさを感じる。僕が学園に慣れてきたからだろうか。僕も少し、一緒に鍛錬したくなってきた、けど……

 

(あーダメだ。ひと月ぶりの我が家での料理、早く始めたい!)

 

 今は、趣味(料理)への欲求の方が強かった。

 

 

 ということで。すぐに家へ戻った。

 

「ただいまー」

「あれ、早いね……ああ、なるほどね」

 

 母さんが不思議そうに僕の顔を見て、すぐに納得顔になる。僕の表情から理由を察したらしい。

 

「おふぁへひははぃへふぅ」

「「飲み込んでから話しなさい……ぷっ」」

 

 僕と母さんの台詞が見事にシンクロして、思わず吹き出す。ていうか吹き出したタイミングまで同じでさらにおかしく感じた。

 

「ふぁい……っん、こくこく」

 

 そんな状況でもヒロは、マイペースにお茶を含んでマドレーヌを飲み込む。飲食中のヒロはやっぱり神経図太いなあ。可愛い。

 

 ちなみに、多分ヒロは「お帰りなさいです」と言ったのだと思う。

 

「お帰りなさいです、優輝さん」

 

 口を空にしてから言い直すヒロ。当たってた、ちょっと嬉しい。

 

「ヒロはすっかり馴染んでるね。母さんのマドレーヌ、美味しいよね」

「はいとっても!」

「ふふっありがとう。けど……聞いていた以上によく食べるねぇ、ヒロさん」

「美味しいのでー」

 

 ヒロの飾り気のない単純な感想に、ほっこり嬉しくなり、自然と頬が緩む。母さんもほっこり笑顔なので、多分、僕もあんな表情なのだろう。

 

「けど優輝、どうしようか。ヒロさんへと焼いて置いた分、ほとんど食べさせちゃったのだけど。一応、冷凍庫にアイスボックスはあるけれど」

「んー。そろそろ夕飯の仕込み始めたかったんだけど」

「あー、そうだね。うどん生地を寝かせる時間を考えると、そろそろ始めたいね。というかかなり食べさせちゃったけど、ヒロさん夕食べられる?」

「マドレーヌ美味しかったですし、優輝さんのお母さんの手料理なら間違いなく美味しいので! 全然大丈夫です!」

「そ、そうなの?」

「ヒロならほんとに大丈夫だよ」

「まあ、優輝がそう言うなら良いけど」

 

 納得出来ないと言った顔でそう言う母さん。相変わらずの謎ヒロ理論だけど、大盛り料理をペロリと平らげてしまうのを何度も見ているから、それ以外に言えない。

 

 

 

 

「守護者ユーナのおうどんセット、おまちどうさまー」

「お待ち遠様にございます」

『わー』

 

 山菜鶏うどんと狐寿司を乗せたトレーを、それぞれの前に置いていく。ちなみに、ヒロだけ3倍量だ。

 

 母さんは、料理の仕込みを少し手伝って貰っただけで、すでにみんなと一緒に席に着いている。

 母さんは昔の怪我の影響で、あまり長時間の力仕事が出来ない。ので、うどん汁や具の調理は一緒にやったけど、うどんコネやゆでは主に僕が、配膳は僕と、あと静海が手伝ってくれた。

 

 姉さんと父さん? 姉さんはいつもは配膳は手伝ってくれてたけど、今日は静海に指示をしてすぐ席に着いてしまった。

 父さんは料理のセンスが壊滅的だし、家にいない事も多いので、いる時はいつもテーブルで待っている。まあ、テーブル拭くくらいはしてくれるけど。

 

「みんな、席に着いたな。ではいただきます」

『いただきます』

 

 父さんが食事の音頭を取り、夕食開始となった。

 

 

 

 

「お店でもないのに、うどんの麺から手作りするとは思わなかったわー」

「まあ、今回は急遽決めた献立で、家に麺がなかったからなんだけどね」

「とっても美味しかったです!」

「そう言えば雅、咲さんに指導して貰った感想は?」

「感動した!」

「わかる、けどそうじゃなくてね」

 

 食事を終えて、食休みがてらみんなで他愛ない内容の雑談をして。

 

「水城家のお風呂の時間だあー!」

「なんで水城家(うち)を強調したの?」

「私にとって水城ズは! 特別な存在なのだと思いました!」

「う、うん、そっか。ありがと」

 

 雅とアキが戻って来たのは午後6時頃。夕飯完成まで後約一時間程かかるので先にお風呂入ってもらおうとしたら、二人共咲さんの家でシャワーを借りたらしく、食後で良いと断られていた。

 

「てなわけで。優輝〜実家なんだし、あたしと一緒に入ろ〜?」

 

 ここで来たか……アキはなかなか諦めないね。その挫けない精神自体は好ましく思うけど。

 

「私と入るからお前が入るスペースはないぞ?」

「……ちっ」

「ほう、舌打ちとはいい度胸だ」

 

 なんかアキと姉さんの口喧嘩(じゃれあい)が始まりそうだったから、話題を変える。

 

「姉さんと入るかどうかはともかく。家族以外とは入らないようにって家訓であるからダメなんだよ」

「家訓なんですか……本当に過保護なんですね」

 

 さすがのヒロも、ちょっと呆れ顔になっている。さすがに苦しい言い訳かな。

 

「うむ! という訳で優輝、一緒に入るぞ!」

『え』

 

 唐突な父さんの台詞に、友達3人が固まる。

 

「父さん、さもいつも一緒に入ってる風に言わないで」

「鷲王さん、優輝ももう高校生なんだよ? おふざけは程々にしないと、 し め る よ ?」

「ハハッご冗談が過ぎますね最低のクズ親父殿?」

「優輝以外もう少し歯に絹着せてくれませんかね、さすがに泣きそうです」

 

 母さんと姉さんからの酷い言われように、悲しみに肩を落とす父さん。

 

「父さんの事は置いといて」

「優輝!?」

 

 ちょっと可哀想に思うけど、友達に誤解されたくないので今は放置する。というか誤解を招くような事言い出した父さんが悪い。

 

「話し合っても拉致が明かない気がするから、勝手に決めさせてもらうよ。最初にアキヒロ、次が姉さん母さん、父さんと雅、最後に僕と静海の組み合わせで入ります」

『えー』

 

 僕の独断に、当然不満の声が上がる。姉さんとアキだ。

 

「入らない方が良い?」

「むー、優輝と入りたかっただけなのにー」

「うむ」

「……入りたくないんだね?」

「入ります」

「うむ」

 

 という事が入浴前にあった。申し訳なく感じるけど、秘密は明かせないから仕方ない。

 

 

 

 

「ふー……家のお風呂は落ち着くー……」

 

 アキヒロ組が入ってから、僕の番まで待つ事約1時間半。最後に1人で入るので、気遣いも警戒もしなくて良いから、かなり気が抜ける。

 

 そう、1人だ。静海は精霊剣だから、基本入浴の必要はないらしい。学生寮の部屋でも、たまにシャワーを浴びる程度だ。

 

 じゃあ僕と一緒に入る事になっている静海は、今何をしているのかと言うと。

 

 カタッ

 

「……ん、来たかな」

 

 浴室のガラス戸の向こうで物音がする。それに続いて、脱衣所と廊下を隔てる扉がゆっくり開くような気配。一拍置いて、バッと布が翻る音がわずかに聞こえ、

 

『んにゅ? ってうわビックリしたあああ!!』

『ここより先は、現在通行禁止にございます』

 

 アキの驚きの声と、静海の冷静な声が聞こえてきた。

 

『静海さん監視してたのね! っていうかどこいたの!? 私が開けた時脱衣所に誰もいなかったよ!?』

『茜葵様の気配を感知した場合、天井に張り付き、脱衣所完全侵入後、静かに背後に降り立つように。と、優輝様より指示されておりました』

『むぅ……全部お見通しだったって訳ね』

「全部かどうかはわからないけど。最初に入ったアキは、最後に何しに来たのかな?」

 

 扉越しにそう尋ねてみる。

 

『……最初に入ったから、少し体が冷めちゃったのよ。だから寝る前にも入らせてもらおっかなーとか?』

「僕が入ってるから今はダメ」

『と優輝様は仰られていますので。立入禁止にございます』

『え〜いいじゃん二人共ケチケチッ。ちょっとだけっ先っちょだけだからっ!』

「先っちょって何さ。あんまりワガママ言うと、ビリビリするよ?」

『退かぬ、媚びる、省みぬぅ〜!』

「友達やめよっかなー」

『部屋に戻ってるねー』

「はーい」

 

 流石アキ、引き際は弁えている。




 2月は30日がないので、次回投稿は3月1日です。
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