優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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海老江 茜葵の告白

「優輝と静海さんも来たところで! パジャマヨシ! 軽めのお菓子と飲み物ヨシ! 男子ナシ!」

「私は重めのお菓子でも構わないよ?」

 

 アキの希望で、雅は姉さんの部屋で寝る事になったので、ここーー僕の部屋には今、僕と姉さんと静海、そしてアキとヒロがいる。

 

 それにしても、男子なし、ね……言いたい事が言えないこんな状況……はぁ……

 

「というわけで!」

「ということで?」

 

 いつもアキがしている返しをしてみる。するとアキは上機嫌でにんまり笑い、

 

「パジャマパーティーの開始です……」

 

何故か静かに、夜会の開催宣言をした。

 

「どうしたのアキちゃん、いきなりテンション下げて」

「んまぁ、その、ね……結構真面目な話をしたいのよ。ほんとにいきなりだけど……良い、かな?」

 

 いつになく真剣な顔でみんなを見回してから、そう切り出す。

 

「ん、かまわないよ」

「同じくだよ」

「好きにするといい」

「瑞希様と優輝様に異議がない以上、わたくしに異論はありません」

「んふふ、ありがと。さっきのお風呂でのお詫びもかねて、あたしのとっておきの秘密を話したげるっ」

 

 少し普段のおちゃらけた雰囲気を出して、場を和ませようとするアキだけど。時折見せる、どこか寂しそうな笑顔で、アキが話し始める。

 

「この事は、双子の子と友達になれて、実家にお泊まりさせてくれるくらいに仲良くなれたら、話したかったんだけどね。だから、昔からの親友のヒロにも……ううん、家族にも話した事ないんだけど」

 

 今の僕らとの関係と状況にピンポイントだった。そんな、かなり限定された状況に現在なった時にのみ話す事とは……内容の予想がつかない。「双子と友達になれたら」が、やっぱり最大のポイントなのだろうけど。

 

「実はあたしの名前、最初は(あかね)だったらしいんだよね 」

 

 ん? どういう意味だろ。

 

「改名したの? というか、最初って?」

「最初も最初、生まれた時だよ。あー、お母さんのお腹にいる時に名付けられたらしいから、正確には生まれる前から、が正確かな?」

「ふむ……なるほどな」

 

 姉さんが意味深に頷く。この顔……どうやら姉さんは、アキが何を話そうとしているのかを大体察したようだ。

 

「姉さん」

「うむ、わかった」

 

 でも、アキに最後まで話させたいから、それ以上は言わせない。

 

「でね。あたしには、妹がいたんだよ……いるはずだったんだよ。その子も、生まれる前に名付けられててね。その子の名前が、(あおい)

 

 茜と葵。アキの名前に使われている二文字……うん、僕も話が見えてきた。

 

「あたし……私達、双子だったんだよね。それでそれで、えっとそれで……でも葵は、妹は、その。あたしが物心ついた時には、ううん、生まれた時には、もう世界にはいなくて」

『…………』

 

 ……予想以上に重い話だった。雅がいたらシリアスブレイクしてた恐れがあるから、そういう意味でも席を外してもらって正解だったかも。

 

「私達、どうも水城ズと同じで、一卵性だったみたいなのよ。だからなんていうか。両親から、アキは本来茜って名前で、葵っていう双子の妹がいるはずだったって話される前から、言いようのない寂しさっていうか、いるはずの人が側にいない違和感っていうかを、ずっと感じてて。だからね、その……あたしが双子と友達になりたかった理由が、それなんだ」

 

 ……そういえば、アキが寂しそうな顔をしている時は、決まって僕ら双子を羨むような事を言っていた気がする。そっか、今の話がその理由なんだ。

 

 多分アキは、仲の良い双子――僕らの様子を側で見て、自分に言い聞かせたかったんじゃないだろうか。もし、葵が隣にいたら、僕らのような仲の良い姉妹になれていたんだ、とか。

 

(……。アキに、何か言ってあげたいな)

 

 親友として。僕はアキに、どんな言葉を送れば良いだろうか。

 

「海老江 茜葵。友として、同じ双子の姉として伝えよう」

 

 最初に口を開いたのは、意外にも姉さんだった。というか。

 

(……なんか、今までアキに話しかけていた時の雰囲気と違う)

 

 今までの姉さんはアキに対して、「優輝の友人だから自分も友人として接する」的なスタンスで会話をしていた。

 

 けど、今の姉さんの雰囲気というか声色は、何というか……対等な位置にいる人物への接し方、な気がする。

 多分、今日この時この話を聞いた瞬間から、姉さんにとってアキは「優輝の友人」から「自分の友人」になったんだと思った。

 

 そんな姉さんは、一体アキに何を伝えるつもりなのか。

 

「私と優輝は、最初から仲が良かった訳ではないぞ」

(あー……そう来たか。ていうか姉さん、その話しちゃうんだ)

 

 思った、じゃなかった。姉さんはアキを、間違いなく「友人」に昇格した。

 

『…………。えっ?』

 

 あまりに予想外だったのか、アキヒロ二人共、姉さんが何を言ったかすぐに理解出来なかったようだ。

 

「というかむしろ、私は最初の期間、優輝を嫌いだったな」

「懐かしいね。僕は逆に、あの頃の姉さんの方が好きなくらいだけど。まあ、今の姉さんも大好きだけどね」

「……えっと。冗談、だよね? だって二人は、物凄く仲良しで、お互いを大切にしてて……」

「冗談ではないぞ。あれだな、可愛さ余って憎さ百倍と言う言葉があるが、私の場合はそれが反転した感じだな」

「えーうそー」

「アキちゃん。瑞希さんも優輝さんも、嘘は言ってないと思うな」

 

 ヒロはわりとすぐ信じたようだけど、アキはまだ信じられないとでも言いたげな顔だ。

 

「少し、昔語りをしてやろう。そうだな……幼い頃、優輝とこんな会話をした事がある」

 

 

       ――――――――――

 

 

「お姉ちゃーん」

「擦り寄ってくるな鬱陶しい。私と同じ顔で軟弱そうな笑顔をするな胸糞悪い。そもそも私と同じ顔なのが気持ち悪い」

「えー? 私はお姉ちゃん好きだよ?」

「ちゃんを付けるな、私が弱者のように聞こえる。様にしろ」

「お姉様?」

「頭の「お」も、親しげで不愉快感があるな」

「えー。うーん、じゃあ……姉さん」

「おい、なんで様でなくなっている?」

「だって、双子なのに様付けるのはおかしい気がするし」

「私は大天才だからな。将来偉くなるから、様を付けるのは当然だ」

「じゃあ姉さんも、私を様付けしてよ。私だって、姉さんと双子なら、大天才でしょ?」

「お前は現状、天才と言える程ではないな。秀才なのは認めるが」

「それって言い方変えただけじゃない? なら私も様付け!」

「お前に様付けはしない。私は姉だからな」

「えー、双子でちょっとだけ早く出てきただけじゃない」

「……もう面倒だ。好きに呼べ」

「お姉ちーー」

「姉さんと呼べ」

「はーい姉さん。ふふふっ」

「ふん」

 

 

       ――――――――――

 

 

「……昔の優輝さんの一人称、「私」だったんですね」

「にゅ、そいやそだね」

 

 うっ、あまり突っ込んで欲しくないとこ突かれた。

 

「んー、なんていうか……反抗期前だったから、かな」

「うむ。優輝の一人称「僕」は、反抗期の名残りみたいなものだな。ま、私的に僕っ子は有りだと感じたから変えさせてはいないがな」

「へぇ〜」

 

 うーん……この話題はあまり続けていたくない。うっかり秘密がバレるかもだし。

 

「僕の一人称は今あんまり関係ないよね。話戻そ?」

「まあそうだな。私が優輝に愛情を抱くようになったキッカケだが……まずは優輝から話してもらおうか」

「う……ま、まあ確かにそれを語るのなら、僕の「最初に作った料理」の事を話さないとだね……ちょっと恥ずい」

「おー、聴きたい聴きたいっ!」

「気になります!」

「そんな期待に満ちた顔されると話辛いなあ……えーと……」

 

 

       ――――――――――

 

 

「お母さん、今度私に料理作らせて」

「んー、優輝にはまだ早いかな」

 

 うーん、ダメかー。それじゃあ……

 

「じゃあ、料理のお手伝いさせて」

「ふむ、まあお手伝いなら……ちゃんと私の指示を守れる?」

「うん、守る!」

「ん、良い返事だね。いいよ」

 

 やった!

 

「お母さん、姉さんはホワイトシチューが好きだよ。だからホワイトシチュー作りたい」

「……瑞希の好物を断言するんだ。まあ確かに、ホワイトシチューが好きな気はしてたけど」

 

 お母さんも何となくは気付いてたかー。でも、どれだけ好きなのかはわからないみたい。

 

「それでねー。ホワイトシチューは、姉さんがちょっと好きな料理のひとつなんだけど……それを姉さんの、「一番好き」にしたいなって」

「……へえ。どうしてかな?」

「姉さん、私の事あんまり好きじゃないから。だから、私の作る料理だけでも好きになって欲しいなって」

「あーもう優輝可愛いっ!」

 

 突然ガバッとお母さんに抱きつかれた。ちょっとびっくり。

 

「わっ。えへへ、ありがとお母さん。あ、姉さんには秘密ね?」

「ああ、そうだね。食べた後に言って、ビックリさせちゃおう」

 

 

 

 

 ふむ、今夜はホワイトシチューか。比較的好みの料理だ。うむ、良い気分だ。

 

「あむ……ん!?」

 

 な、なんだこれは……いつもより美味く感じるっ口に運ぶスプーンが止まらない!!

 

「あっ」

 

 と言う間に一皿平らげてしまった……満腹だと頭の回転が鈍るので、いつもはここまで、なのだが……

 

(も、もっと食べたい……くっ)

 

……恥を忍んで、頼む。

 

「お、おかわりをお願いします」

「やった!」

 

 私の台詞に、なぜか優輝が喜びの声を上げる。

 

「……何故お前が喜ぶ。お前が作った訳ではないだろう?」

「お手伝いしたよ?」

「それだけだろう」

「瑞希。味の最終調整は、優輝がやったんだよ」

 

 ……素直に、驚いた。

 

「えへへ。味見しながらねー、姉さんの好きな味はこうだよーって、お母さんに教えたんだよー」

「……つまり。このホワイトシチューは、優輝が私の舌の好みに合わせた、と……」

「ふふっ、そうなるね」

 

 自慢げにそう語る優輝と肯定する母殿を見て、私が抱いた感情は。

 

(尊い)

 

 何故だろう。何故今まで、私は優輝を毛嫌いしていたのだろう。

 

(ああ、そうか……優輝と私は、一卵性双生児だが。容姿が瓜二つなのに私と違う、私のしたくない言動をするから、優輝は私の「不要な部分を写す鏡」だと思っていたのだ)

 

 だが、違う。優輝は、私の好みの味を理解していた。母殿でもまだ辿り着けていなかったにもかかわらず。

 

(つまり優輝は、私の不要な部分ではなく。もう一人の私、「もう一つの可能性を写す者」だ)

 

 そう理解した時から、私は。

 

(愛しい……私自身のように、優輝が)

 

 

       ――――――――――

 

 

「というわけだ。ふふふ……」

「そういう事がありました……」

 

 な、なんだろ……今まで生きてきた中で一番恥ずかしい告白をしている気がする。まるで、自分の恥部を自ら晒しているような……うー恥ずい。

 

「あたしの人生相談的なヤツの助言的な流れで始まったのに、いつのまにか水城ズのノロケ話を聞かされていた件。パジャパっぽくはなったけど」

「あ、あはは……あっそうだ瑞希さん」

「ん?」

「そのお話をして、結局瑞希さんはアキちゃんに何を伝えたかったの?」

「うむ。一卵性の双子だからと言って、必ずしも今の私達のようにラブラブになる訳ではない、という事だ。実際、昔の私は優輝が嫌いだったからな。ゆえに、葵とやらが存在していたとしても、仲が良いかは別問題だ」

「そ、それは……」

 

 アキが言葉に詰まっているから、僕の「アキが双子と友達になりたかった理由の本質」の予想は、合っていたようだ。姉さんも、アキのタラレバに気付いているからこの話をしたみたいだし。

 

(……ここからは、僕が話したいな)

 

 幼い頃の姉さんとの関係を話しながらも考えていた、アキに贈る言葉。

 

 姉さんは、アキへ少し厳しめの助言をした。なら僕は、前向きな助言をする。

 

「アキはさ、いつも元気いっぱいだよね」

「へ? 突然なに?」

「なんでそんなに元気なのかって、不思議に思う時があるくらい元気で明るいよね」

「確かに……最近は慣れちゃったけど。私も、出会ったばかりの頃はそう思ったよ」

 

 僕の台詞に、ヒロが同意する。

 

「ねえアキ、それはなんで?」

「なんでって言われ……ても……」

 

 言葉が尻切れになるアキ。僕の予想通りかな。

 

「そっか……うん、そうだった。初心はそうだったのに、なんで忘れてたかな〜。うん、きっと、水城ズと出会っちゃったからだね。私達の……ううん、あたしの「理想の双子の姉妹」と出会っちゃったから」

「うーん……アキちゃん、自己完結されるとさすがにわかんないよ」

「あーごめんヒロ、置いてきぼりにしちゃって。んみゅ、そだねー説明するなら……」

 

 言葉を選んでいるのか、目を閉じ頭を揺らし、うんうん唸って考えるアキ。

 

「あたしさ、両親に葵の事説明された時から、ずっとしてきた事があるのよ。「あたし、アキは、茜と葵でアキだから。だから葵の分も精一杯生きよう」ってね。だからあたしは、葵の分を上乗せして元気で明るくいたいのよ! あたしが一人称に「私」を使う時があるのは、それって「葵」の一人称なんだよね。あくまであたしの妄想の「葵」の、だけどね」

 

 んー。相変わらずアキは言葉足らずというか、ちょっと説明が解り辛い。けど、言いたい事の大体は伝わった。そして、やっぱり予想通りかな。

 

 アキは、葵さんの人生を背負って生きている。生きて行くと決めている。元々の性格が明るく元気なのは確かだろうけど、葵さんの分過剰に元気に振る舞っている。

 

 葵さんの分まで、人生を謳歌するために。

 

「えーと。アキの名前の中に葵さんがいるから、アキは茜であり、葵でもある……で合ってる?」

「えっ? ……そう、かな?」

「そうなると……姉さんが、僕を好きになったキッカケの話で言ってたけど。アキは一卵性の双子だから、葵さんはアキのもう一人の自分、「もう一つの可能性」ってことで……ならアキは、ある意味葵さんと同一人物のようなもの、だよね」

「な、なんか哲学的な話になってきたような……要するにどゆこと?」

「アキが葵さんでもあるなら、「もし葵が隣にいたらな」とか考える意味、あんまりないんじゃないかなって。だって、葵さんはアキなんだし。屁理屈かもだけどさ……そう思えば、寂しくはないんじゃないかな?」

「……」

 

 僕の台詞に、呆然とした顔をするアキ。なかなか上手い言葉が出てこなかったけど……これで伝わっただろうか。アキは、何も寂しく思う必要はないって。

 

 この言葉でも足りないなら。

 

「それでも寂しく感じる瞬間があったら、いつでも僕らを遠慮なく頼ってね。葵さんにはなれないけれど、僕らはアキの親友なんだから。ね?」

 

 最後にウインクをして、想いを伝え終える。

 

「っ!!」

 

 それに対して、アキは顔を赤くして目を潤ませた、と思ったら、

 

「……うー! うううー!!」

 

 両目を閉じて涙を流しながら、両手を握りこぶしにして上下にぶんぶん振りながらうーうー言い出した。

 

「夜中にうーうーうるさい黙れ」

「ひどっ!? 溢れる感動にむせび泣いてるだけなのにぃっ!」

「あ、感動の表現だったんだ」

「ふふっ、アキちゃんのうーうー見るの久しぶり。優輝さん、アキちゃんの水城さんズへのフレンドポイントはかなり高得点ですよ!」

「なにそのソシャゲの無料ガチャ引けそうなポイント名」

 

 まあ、僕の言葉で感動して貰えたのなら、僕もとても嬉しいけど。

 

「最高のユウジョウを噛み締めたところで、湿っぽい話題はここまでにしてっ! もっとパジャパっぽい事話そう!」

「お前が始めた話だろう」

「まあまあ姉さん。取り敢えずお菓子と飲み物まだ手をつけてないし、食べよ?」

「マスター、ハーブティーを淹れました。皆様もどうぞ」

「うむ、いただこう」

「ありがと静海さーん、お〜落ち着く香り〜」

「みんな、クッキーもどうぞー」

「これは……シンプルなバニラクッキーですね」

「サクサクうまうま……ところで瑞希さんや、実際のとこ優輝の事、どんな風に好きなのん?」

「ふむ、どんな風に、か。出来るならヒトツになりたいくらいに、だな」

「……おぉう、マジかー」

「ね、姉さん、あんまり誤解を招く言い方しないでよ」

「ふふっ。優輝さんの恥ずかしがる顔、可愛くて好きです」

「おぉヒロ、いつもより積極的じゃない?」

「え、そ、そうかな? で、でもほんとにそう思ったからっ」

「もっもうこれ以上恥ずかしい話禁止!」

「それじゃパジャパっぽくないから却下っ!」

「むー。それならアキはさ……雅の事、どう思ってるのさ」

「へ?」

「なんか今日咲さんと雅のやり取り見てて、アキの反応ちょっと気になったんだけど?」

「エーナンノコトカナー」

 

 ……出だしこそ重めの話題だったけど。こうしてパジャマパーティーの時間は楽しく過ぎていった……まあ、朝鍛錬に響かない程度の時間で切り上げたけど。

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