優輝の日記 〜国立栄陽学園での日常〜   作:繭浮

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静海の秘密

 アキと雅はなんだかんだでいつも以上に食べていたし、ヒロも食欲完全開放していたのか、いつもの2倍以上食べていた気がする。

 

 そんなこんなで。大量にあった食材が8割程お腹の中に(そのうちの4割位はヒロの胃の中)収まったくらいでみんなの手が止まり出し、各自まったりしと過ごしだす。

 ヒロはまだ、残りの食材を自分で焼いて、少しづつ食べ続けてるけど。

 

(……このタイミングなら、良いかな)

 

 実は、前から気になっていたんだけど、なかなか聞き出す機会がなかった事がある。静海に関する事だ。

 

 姉さんから粗方聞いたけど、姉さんは意図的に情報開示をしない癖がある。「具体的に聞かれなかったから、全部は答えなかった」とか、割とよくあるのだ。困った姉です。好きだけど。

 

 さて。国家プロジェクトなのだし、父さんも静海制作に関わっているはず。お酒も入っていつも以上に気分が良くなっている今なら、姉さんがワザと言わなかった事とか、父さんの仕事の内容とか、少し突っ込んだ事を聞いても話してくれるかもしれない。

 

 一応、国家機密について聞き出そうというのだから、周りの目や耳がないか確認する……雅とアキは離れた場所で折りたたみ椅子に座ってまったりしながら雑談していて、ヒロと静海はコンロを陣取って残りの食材をちびちび食べ続けていて。姉さんと母さんと咲さんは、咲さん宅の近くでなにやら真剣な表情で話し合っていて……うん、問題ない。

 

 というわけで。

 

「父さん。静海って、第1級精霊剣、で良いんだよね」

「む? なんだ、瑞希や静海は、等級を伝えていなかったのか」

「一応聞いてはいたけどね。別の人から再確認取りたくて」

 

 普通の人間と変わりなくお話しできる精霊剣だから、最上級なのは最初からわかっていたし、直接本人達からも聞いてはいる。

 

 ただし。第1級精霊剣、とだけ言っていたけど……

 

「なんか気になるって言うか、違和感があるんだよね。完璧主義な姉さんが、神話級精霊剣を誕生させるプロジェクトなのに、妥協で出来た1級を自慢げに僕に披露するかなって」

「ふーむ。瑞希は優輝に対して、はぐらかす事はあっても嘘は絶対に吐かないのは知っているだろう? つまり、少なくとも1級というのは嘘ではない」

「でも、それだけじゃないんでしょ?」

「あぁそうだ」

 

 だよね。姉さんったら意地悪なんだから。

 

「優輝には話すが……一応他言無用だぞ?」

「静海が国家機密どころか、精霊剣だって事すら友達にも話してないよ」

「うむ、そうか。では、そうだな……」

 

 お酒で思考が鈍っているからか、どう話そうかと考える間を置く父さん。

 

「静海には、大きな特徴が2つある。1つは、高度な索敵力だ。静海の核となる神霊石の属性は、瑞希と同じく水属性ではある」

「ではある?」

 

 静海が水属性の剣なのは聞いているけど……

 

「うむ。実は静海には、水を含むすべての属性の精霊石が使用されている」

 

 んー……なんか引っかかる言い方だ。何故5属性ではなく「すべての属性」なのだろう。それに何故、神霊石ではなく「精霊石」なのか。

 

 それはつまり……ということは……んー……

 

「……もしかして」

「うむ、流石優輝だな。静海は、6属性の精霊石で作られている」

 

 精霊属性は、人も精霊剣も1人1種類しか持てない。精霊石を使用して作られる神霊石も、1属性しか付与出来ないと言われているし、現代でも複数付与に成功した例は無い。というか、複数の属性石を使って神霊石を作ろうとしても決して結合しないらしく、絶対に不可能と言われてきた。

 

「かなり特殊な条件が必要なのだが。精霊石の状態なら複数属性を結合する事が可能だと、瑞希は発見したらしい。無論、こんな発想を思い付き、更には実行しようとしたのも成功させたのも、瑞希が初、なのだが……」

「……うん?」

 

 そこまで話して、先を話すのを躊躇うかのように言葉を途切れさせる父さん。

 

 それは要するに。僕にすら言いにくい事、僕が聞いたら怒りそうな事。

 

 ……1つ、思い当たる。

 

「姉さんの血液、かな」

「……すでに聞き出していたのか。そうだ、静海の神霊石に使われている、全属性で出来ているまったく新たな神霊石を生み出すためには、高い霊力を持った人間の血液が必要だった。しかも、他人の血液が少しでも混ざると必ず失敗するようでな、使われた血液は瑞希の物のみだ」

 

 ……ようやく、気になっていた事が繋がった気がする。精霊剣を作るのに心血を注ぐというのは、精霊剣鍛治士としては当然の事らしいけど。今回姉さんがやった、文字通りの心血――全身全霊で事に当たった上に、自傷して自身の血液を使うまでするのは本当に必要だったのか、どうにも謎だったのだ。

 

 自身でそう結論を出したとはいえ、それは「姉さんならそこまでするだろう」と知っていただけで、一般常識として精霊剣製造に血液を使うなんて情報は、一度も見聞きした事はなかった。

 

「私も鍛冶士ではないからな。神霊石制作のための専門的な事や職人技やらなんやらは、世間に知られている程度だ。ゆえに詳しく説明はできないが……わかっている事は、瑞希にしか思い付かなかったし出来なかったという事と、瑞希の血液を使用しているからか、静海は瑞希以外の者とは一切契約しようとしなかった事。それくらいだな」

「そっか……」

 

 今の話を聞いて、真っ先に思った事は1つ。姉さんはやっぱり、天才の中の天才、自他共に認められる大天才なんだなーって事だ。

 

「そんな訳で、静海には全属性の精霊石が使用されているのだが。それによって静海は、「異常なまでに高い索敵能力」という特殊精霊術を持っている。少し対象に近付けば、そこにいる人物の精霊属性や大体の潜在霊力を測る事が出来、精霊剣に至っては、等級まで正確に言い当てられるらしい。どちらも意識のある状態、つまり起きている時なら、だが」

「それは……凄いけど。個人情報もあったものじゃないね……」

「まあ、あくまで精霊術に関わる部分のみだがな」

「この国に取っては一二を争う重要な個人情報だけどね」

 

 まあ、それはそれとして。

 

「そう言えば、6属性の精霊石ってさらっと言ったけど。無属性なんてよく使えたね」

 

 神霊石に加工する精霊石にも、当然精霊属性は存在する。

 精霊石は、低純度を集めて結合させた人口精霊石でも、発掘された時点で高純度な天然精霊石でも、基本的にすでに属性が付いている。

 

 けど、天然物にはごく稀に、何の属性も付いていない無垢なる精霊石、通称「無属性精霊石」が発見される事があるらしい。

 

 とはいえ無属性石は、発掘されて放置しておくと、放置した場所の環境で多少左右するらしいけど、1日もすれば何らかの属性が付いてしまうものらしい。

 よって無属性石は、通常神霊石作製に使用される事はない、というか、石の鑑定や輸送など含めてそれなりに時間がかかるため、鍛冶士の所に届くまでに属性が付いてしまうので、まず使う事が出来ない。だから、そもそも使うという発想が出てこない。

 

 つまり、無属性石を使用したいなら、最初からその前提で発掘現場に精霊石鑑定の専門家を予め待機させて置く等してから、発掘をする必要がある。

 

 彩光精霊石以上に見つかる事が稀なのが、無属性石だ。それこそ、国が支援しなければ不可能に近い訳で……うーん……

 

「無属性石の希少性だけを考えても、姉さんとんでもない事してるよね……まさしく国家機密だ」

「うむ、そうだな……瑞希もだが、そう考えると私も、我ながら無茶をしたものだ。まあなんにしても、咲殿の口添えがなければ不可能だったろうがな」

 

 父さんの言からして、結構無茶したのかもしれない。姉さんの行動理念を考えれば、色んな人に迷惑もかけたのだろう。

 

 けれど、第一に僕のためだとしても、強力な精霊剣の誕生は、10年以内に復活する魔神とその兆候という、目に見える差し迫った危機への新たな希望となる。

 

 なので、僕からはあまり言うことはない。せいぜい、

 

「あんまり無茶をし過ぎないでね。それと、今後は可能な限り情報を話して欲しいかな」

 

くらいだ。

 

「そうだな……優輝も有力な守護者候補だし、我が子だというのを別にしても信頼出来ると思っているからな。まあ良いだろう。だが、さっきも言ったが、くれぐれも友人に口外しないよう気を付けるんだぞ」

「それはもちろん」

 

 僕が口を滑らせるなんて、魅力的に思った相手につい「可愛い」とか言っちゃうくらいだ……それはそれで自重しないとだけど。

 

「そうそう、情報といえばだが。瑞希によれば、全属性石の結合も特殊精霊術2種も、無属性石がなければ実現不可能だと言っていたな」

「あー……無属性石が必須ならまあ、多少の無茶もしかたない、のかな」

 

 まあ、もう1つの精霊術の効果次第で評価は変わるけど。

 

「それで。もう1つの特徴って?」

「うむ。そのもう1つが、瑞希が本来想定していた静海の特殊精霊術なのだが……というか瑞希に言わせれば、高索敵に関しては、副次的におまけで付いたようなもので、瑞希ですら「使えるようになっていたら嬉しいな」程度に思っていた能力らしい」

 

 姉さんがそう言ったということは、一応高索敵能力を持つ事も、予想の範囲内ではあったらしい。

 

「そうだな……優輝は勉強熱心だからな。すでに完成している精霊剣の等級を上げる方法は、知っているだろうが」

「えっと、後から等級を上げるって事ね」

 

 少し考えるけど、知っているのは1つだけだ。

 

「他の精霊剣を打ち砕いて、精霊剣の精神が消える際にわずかに漏れ出る存在力を取り込む。これを根気よく続けるとレベルアップする、だね」

「正解だ」

 

 ふむ。このことを聞いたって事は、つまり。

 

「静海の特殊精霊術は、「存在力の取り込み」に特化している?」

「うむ、簡単に言えばそうだ。そして特化と言ったが……取り込んだ存在力の吸収率がら恐ろしく高いらしい」

「……具体的には?」

「まず、精霊剣以外からも力を取り込める。普通の食事からもだ」

「……それは。とんでもないね」

 

 完全な人型である静海は、僕らと一緒に食事をしている。人型とはいえ精霊剣なので、大丈夫なのか気になっていたけど。聞いても「問題ありません」としか言わないので、その時は「普通の無機物型と違って自律歩行出来るから、その分エネルギーが必要なのかな」としか思わなかったけど……まさかそんな秘密が。

 

「そして、精霊剣の力を取り込む場合は、食事の比ではない。砕いた剣の存在力のほとんどを喰らって吸収してしまえる」

「……ああ、なるほど」

 

 そんな精霊術を持っているなら、普通は現実的ではない「存在力の取り込みレベルアップ」でも、いずれ神話級に至れるーーいや。

 

 姉さんは僕のためになるなら、出来そうな事はなんでもする。じゃあ、僕の安全を脅かすあらゆる要因を排除したいなら、どうするか。

 

(多分姉さんは、神話級にレベルアップした時点がスタートライン、とか思ってる気がする。静海を神話級に出来た時点で不老になれるしーーそうなったら、静海の特殊精霊術なら、いずれ最強の精霊神剣にーー第1位に至らせる事も、決して不可能じゃない。というか、そこに至るために動いてるんだろうなあ)

 

 水城 瑞希は、水城 優輝が何より第一。理解しているつもりだったけど……どうやら姉さんの僕への想いは、僕が思っていたよりも重いのかもしれない。

 

 その事が、少し怖くもあり、同時に嬉しくもある。

 

(僕だって姉さんの事、大好きなんだから。姉さんが無茶し過ぎて手の届かない場所に行かないように、僕も頑張らないと!)

 

 この強い気持ちがあれば、さっきの魔獣討伐の時も、ダメ出しされなかったかもしれない。

 姉さんが静海を神話級にしようとしているのなら。僕も肩を並べられるように、強力な神話級精霊剣との契約を目指そう。

 

 それは、前からの目標ではあったけど。今後は、単に心身を鍛える以上のーーいや。

 

 そろそろ、それ以外のアプローチを始めようか。

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